浅間山から少し離れた丘の上。
バグの消滅を見届ける、どこか
彼の名はノイバー・フォルツォイク。
この世界を代表する天才科学者である、エヴァ・フォルツォイクの一人息子だ。
そして彼こそが諸葛孔明の言う“協力者”であった。
「あれがドライクロイツ……やはり対策が必要だな」
DBD(次元境界線歪曲現象)によりこの世界に出現したバグの素体を、最初に発見し、調査をしていたのが彼だった。
そこに諸葛孔明が現れ、交渉した結果、彼らは互いに協力する約束を交わした。
秘密裏にバグを完成させる施設として、ノイバーは閉鎖された早乙女研究所の地下に諸葛孔明を案内した。
電子工学史上最大の発明と言われるフォルツォイクロンは、この世界のありとあらゆるコンピュータに内蔵されており、それは早乙女研究所やゲッターロボも例外ではない。
獏やセニアが3日近くもかけて解除した早乙女研究所の厳重なロックも、ノイバーの前には意味を成さなかった。
ノイバーは諸葛孔明に施設を提供した代わりに、アンドロメダ流国の技術提供を受けた。
世界中のコンピュータはノイバーが起動キーを持つ『ハーメルンシステム』により、いつでも彼の意のままにできる状態にある。
しかし今この世界は、フォルツォイクロンを搭載しない外宇宙の勢力や、ジャロウデクやセフィーロなどのある異世界、さらには並行世界から来る正体不明のロボットまでもが入り乱れている。
そのためノイバーは、フォルツォイクロンが入っていないロボットにもハーメルンシステムの影響を及ぼせるよう、改良する必要があった。
そして諸葛孔明からの技術提供で、その
「いい具合にハーメルンシステムの試運転もできた。
母さん……もうすぐだよ。すぐに僕が助け出すからね……」
早乙女研究所の地下からゲッターロボGの群れが現れ、アークを襲ったのは、ノイバーが起動したハーメルンシステムによるものだった。
無事に試運転は成功。あとは改良するだけだ。
「それにしても……諸葛孔明か。
思いのほか律儀な男だったな」
――ノイバーと諸葛孔明。二人の技術交流の間に、こんなやり取りがあった。
「過去の人間を殺すことに、そんなリスクが?」
「うむ。しかし、そうも言っていられぬ!
とりわけゲッターアーク……そしてアークチームの3人は、我が大女王メルドウサとアンドロメダ流国にとって最後の脅威!
たとえどんな危険を冒してでも、きゃつらは消さねばならぬのだ!」
「では僕がやろうか」
「なに、おぬしが?」
「ハーメルンシステムが正常に動くか、試運転をしておきたい。
それとハーメルンシステムで操った機体の戦闘データもね。
アークとやらが現れたら僕がとどめを刺そう。
代わりに君は、戦闘データの収集に協力してもらいたい」
「……ウム……わかった」
……という事だった。
しかしある程度バグが形になった時点で、もはや諸葛孔明がノイバーとの約束を守る意味は薄い。
だからノイバーも期待してはいなかった。
だが諸葛孔明の戦い方は、ここでの約束が常に念頭に置かれていたように、ノイバーの目には見えた。
あるいは、それがなければ結果は違ったかもしれない。
「愚かだ……と何度も敵に言っていたな。
だが、そう言う君こそ愚かだ。
大女王のためにと言うなら、他のすべては
僕は違う。何をしてでも、絶対に母さんを救い出してみせる」
彼の母であるエヴァ・フォルツォイクは、心を持った機械を作ろうとして人体実験を行い、冷凍刑に処された。以来、長く装置の中で眠り続けている。
そんな母を救い、そして母をそんな目に
***
新宇宙正暦100年 xx月 xx日
昨日は忙しかったから今日のぶんとまとめて。
ドライクロイツにまた新しい仲間が入った。
拓馬、カムイ、獏、セニアの4人。
DBDで来た別世界のゲッター乗りと、マサキと同じラ・ギアスから来た女の子だ。
ドライストレーガーが現場についたとき、ゲッターアークに乗ってた3人はみんな重傷で、すぐにドライストレーガーの医療セクションに搬送された。
特に獏はすごく危ない状態だったみたい。その時は外の気温が200℃以上あって操縦席がむき出しになってたから……。
でも次の日には3人そろってドライストレーガーの中を走り回ってたんだよね。ホント、どうなってるんだろう?
カムイが一人でいる時に話しかけてみたけど、逃げられちゃった。ハチュウ人類? とかいう種族とのハーフらしくって、フードで顔を隠してる。自分の顔を気にしてるみたいだけど……どうにかして、気にしなくていいよって伝えたいな。
セニアはすごくいい子!
異世界の話もちょっとだけ聞けた。なんでも、ラ・ギアスではオリハルコニウム製の飾り物をプロポーズのときに贈るらしい。オリハルコニウムは人の心に反応するから、遠くにいても心が通じ合うように……って。ロマンチックすぎる! ヤバい!
セニアはなんかすごく頭がいいみたいで、ずっと誰かに呼ばれて話してる。本人も楽しそうにしてるからいいけど、もっと話したいなあ。
あとは、DBDがあった早乙女研究所と浅間山についても一応。
早いうちにドライクロイツから近くの自治体に呼びかけてたおかげで、まわりの住民の死者数は今のところの報告では0人。いつものことだけど、艦長と副長の判断はほんとにすごい。
だけど浅間山の森林とか動物たちの被害は大きかったみたい……。
私たちは早乙女研究所を調べるので忙しかった。
まさか閉鎖されたはずの早乙女研究所に、稼働してる地下のブロックがあったなんて。
戦闘中に壊されたゲッターGは自力で地下に戻ってたみたい。こわい。
敵のデータはコピーしてドライストレーガーに持ち帰って、研究所内からは削除して……。
それで地下にあったゲッターロボ、D2だったかな? それを予備としてドライストレーガーに詰め込んで、あとは研究用にゲッター炉心とかのパーツを接収したり……あれって、勝手に持っていっちゃってよかったのかなあ?
全部終わったらメイヴィー主任が研究所内にロックをかけて終了。「まあ意味ないだろうがね」って言ってたけど。
今日の日記はこんなところかな。
あ、そうだ。
他にも誰か研究所にいたらしいんだけど、私たちが行ったときには誰もいなかったんだよね。どこに行ったんだろう?
――以上、万能戦闘母艦ドライストレーガーの艦内オペレーター、ミユウ・インカムスの日記から。
***
浅間山を一人で下山するオラシオ・コジャーソ。
その彼のもとに、ジャロウデク王国の人間が迎えに現れる。
「まったく、こんな所にまで迎えに来させて。
あたしは運送屋じゃないんだけどねぇ」
「なぁ~んという言い草でしょうか!
私はこんなにも身を
ええっとぉ? まぁ……我らがジャロウデク王国のためにぃ?」
その芝居がかったうさんくさい振る舞いに、
「はいはい。それで、その張り切りに見合った収穫はあったのかい、王国開発研究工房長サマ?」
「ンッフフ! 聞きたいですかぁ?」
「いや聞きたくないね」
「それはもう、相当な収穫でしたとも!
ゲッターロボや異世界の兵器の情報を得られただけでなく、ここで得たインスピレーションは
顔をしかめるケルヒルトを意に介さず、オラシオは熱狂的に語り続ける。
「複数の機体と操縦者の力を束ねるゲッターロボの在り方は、いいヒントになりました。これならお蔵入りになっていた
そしてロボットには外観による視覚的効果があるなら、兵器には敵への視覚効果を考えるべき。例えば
ああ、この溢れんばかりのアイデア! 今すぐにでも製作に入りたい……!」
「なら、さっさと乗ってくれないかね。
あたしは今すぐにでも、おたくを放り出して帰りたいよ」
ケルヒルトの
そうして動き出す前に、ふと思い出したように早乙女研究所の方角を振り返る。
「……兵器開発には良心が必要……ね」
それは先ほどまでの芝居がかった口調とは違った、低く、自分の内に向けるような呟き声。
オラシオは深く思案するように目を細めてから……
「……いや、くだらない。そんなもの……俺の仕事には含まれてない」
雑念を払うように頭を振って、その場を後にした。
***
拓馬たちがドライクロイツに加わってから、数日後。
人が少ない時間帯を選んでドライストレーガー内の食堂に足を運ぶカムイと、それに付き合う獏。
そこで二人は妙なものを見つけた。
食堂の入口に張り付くようにして、顔だけ出して中を
「何をしている拓馬」
「うおっ! お前らか……いや別に何も……」
カムイと獏が食堂の中を見ると、そこでは竜馬、隼人、弁慶の初代ゲッターチームがテーブルを囲んで食事をしていた。
獏は呆れた顔で拓馬に言う。
「拓馬お前、まだオヤジさんと話せてないのか」
「うっ」
「そうなのか」
そう、この数日間で顔を合わせる機会は何度もあったにもかかわらず、拓馬はいまだに竜馬へ話しかけられないでいた。
「いや、だってよ……別に話すこともないっていうか……そもそも流竜馬なんだが、俺のオヤジの流竜馬じゃないわけでよ……」
「クネクネすんな気持ち悪い!」
「ば、バカ野郎! クネクネなんぞしとらんわい!」
言い合いを始める拓馬と獏の横で、カムイは思案する。
拓馬らしからぬ優柔不断はともかく、確かに「自分たちの世界の人間と同一人物ではあるが、違う人生を歩んできた別世界の人物」というのは、だいぶ複雑な話だった。
「そうだな……あの流竜馬は、敷島博士から聞いていた話とも少し印象が違っている。名前が同じだからといって、別世界の人間を同一人物だと考えるべきではないのだろうな」
とカムイは言ったが、だからといって別人だとも思えないのが、また話をややこしくしていた。
実際、竜馬を赤の他人とは思えない拓馬は、このような不審者じみた行為に走っている。
「…………」
どうするか、とカムイは考える。
そうこうしている間に初代ゲッターチームは食事を終え、食堂を出てくる。
それを察知して反射的に獏の後ろに隠れる拓馬。
通り過ぎていく竜馬、隼人、弁慶の3人……
――その時、カムイと隼人の目が合った。
「……!」
そこでカムイが口を開く。
「突然だが小便がしたくなった。獏、付き合え」
「ん? お、おう」
本当に突然すぎるカムイの言葉に、戸惑いながらも頷く獏。
そこに隼人も続く。
「俺と弁慶はションベンしてくる。ちょっとそこで待ってろ、竜馬」
「おい、お前ら――」
竜馬が何かを言おうとするのを無視して、隼人と弁慶、カムイと獏の4人は早足でその場を離れる。
そして曲がり角を曲がると、顔だけ出して竜馬と拓馬の様子を覗き見る。
その中で隼人は意地悪そうに口の端を吊り上げて言う。
「この数日間、竜馬のやつも意識して避けてたからな。どんな受け答えするのか、見ものだぜ」
「さっきも食堂の外から見られてるの気にしてたからな」
楽しげに笑う隼人や弁慶に対して、カムイと獏は心配そうな顔で見守っている。
竜馬と拓馬に目を向けながら、獏はカムイに言った。
「しかしヒドイなカムイ、今の小芝居は。拓馬以下の演技力だったぞ」
「なにっ」
カムイは愕然とする。
そんな4人が隠れて見ている通路の曲がり角を、竜馬は苦々しい顔で睨みつけていた。
「ちっ、あいつら余計な事しやがって……」
その場に残された拓馬と竜馬の二人は、互いに目を合わせることもなく、気まずい様子で押し黙る。
……沈黙。
見ている4人も呆れるくらいに無言の時間が続いた後……ついに意を決して、拓馬が口を開いた。
「……オヤジ」
「おい! その呼び方はやめろ!」
拓馬とこの世界の竜馬とでは、10歳程度しか年齢が離れていない。そんな相手に親父と呼ばれることには違和感があったし、何より面と向かって「オヤジ」などと言われると、竜馬は言いようのない焦燥感に襲われてたまらなかった。
全身のむずがゆさに抵抗するように、竜馬は大きな声を発する。
「言っておくが、俺は弱い奴を自分の息子とは認めねえ! 『俺の息子なら強くなれ』……それしか父親から教わらなかったからな。俺を親父と呼びたいんだったら、俺よりも強くなってみせろ」
「……! おう!」
それは突き放すような言い方だったが、しかし今後の交流を否定するものではなかった。
あまりにも不器用な激励の言葉。
しかしその意は、しっかりと拓馬に伝わっていた。
そんな二人のやり取りに隼人が呆れた声を漏らす。
「やれやれ。まあ今のあいつじゃ、こんなところか」
そうして隼人は二人の前に出ていきながら、言う。
「なら稽古をつけてやらんとな」
「隼人てめえ、後で覚えてろよ」
何食わぬ顔で戻ってきた隼人を睨みつける竜馬。
それを隼人は心底
「よし、今から行くか。この時間ならシミュレータルームは空いてるだろう」
その声で出てくるカムイ、獏、弁慶。
隼人の前に出たカムイは、複雑な顔で口を開く。
「神さん……」
その表情から何を言いたいのかを察した隼人は、
「悪いが、お前の世界の神隼人に興味はない。どうせ、どこに行っても俺は俺だろう」
その言葉にカムイはハッとしたような表情を浮かべ……そして笑った。
「フ……ええ、そうですね」
そうして6人揃ってシミュレータルームに向かう。
……と思いきや、ここで突然、隼人が別方向の通路の先へと言葉を投げた。
「丁度いい、そこで見てるお前らもだ!」
「ゲェッ!」
曲がり角の先から漏れる声。
そーっと顔を出してくるのは3人の少年たち。
別の世界からやって来た、まだ年若い頃の竜馬、隼人、弁慶だった。
そう、この世界に元から存在している初代ゲッターチームの他に、別世界からやってきた同姓同名の3人がドライクロイツの中にはいるのだ。
若い彼らは、大人の隼人に見つかったことに驚き、騒ぎだす。
「ウソだろ! おい竜馬、なんでバレてんだよ!?」
「し、知らねェ! 俺のせいじゃねェだろ!?」
「クッ……気紛れでお前らに付き合ったのが間違いだった」
などと言い争う彼らを、大人の神隼人が引き連れていく。
……そうした無秩序で慌ただしい中で一人、穏やかに微笑む獏の姿があった。
そんな獏に弁慶が話しかける。
「どうした、ずいぶん嬉しそうだな」
「いや、なんつーか……よかったな、って」
「竜馬と拓馬の話か?」
獏は頷く。
「ええ。拓馬は母親からオヤジさんの話を聞かされてて、自分が流竜馬の息子であることをずっと誇りにしてたんすよ。……でも生まれてから一度も会ったことのない父親だから……」
「……なるほど、そりゃ不安になるわな。本当に聞いてた通りの父親なのか……もし会ったとして、自分は父親に認められるのか……」
弁慶自身、血の繋がらない娘がいる。
親と子の有り様についても、これまでにさんざん悩んできた。
だからこそ拓馬の葛藤にも強く共感できた。
弁慶の相槌に獏も頷き返して、言う。
「あの流竜馬は自分の父親の流竜馬とは違う。拓馬もそれは分かっちゃいるけど……それでも血の繋がりを感じているみたいで、ずっと気にしてたんすよ」
「そうだな。竜馬も同じように感じてるようだ。俺の目から見ても、あの二人はとても他人には思えん」
竜馬と拓馬は親子と言うには歳が近すぎるし、外見もそれほど似ているわけではない。
しかし弁慶が目をやった先では、まるで竜馬が二人に増えたかのように、雄々しく力強い背中がふたつ並んでいた。
弁慶の隣で獏もそれを見る。
その獏の瞳は既に弁慶が指摘した通りに嬉しそうで、そして優しげだった。
「……実は俺、心配してたんすよ」
「心配?」
「拓馬は殺された母親の復讐を終えたから、もうやる事がない。あいつは態度には出さないが……俺は長い付き合いだから、拓馬が虚しさを抱えてるのが分かってた。けど俺には何も言えることがなくて……」
「…………」
獏が内に抱えた思いを言葉にするのを、弁慶は口を挟まずに聞く。
「だが今の拓馬は、心の底からイキイキしてる。あの流竜馬のおかげで、拓馬に新しい目標ができた。それが本当によかった」
そう言って腕を組み、拓馬たちを眺める獏。
それを見た弁慶は感じたことを口にする。
「なんつーか、お前さん……まるで拓馬の兄貴みたいだな」
その言葉が予想外だった獏はわずかに目を見張るが、すぐに嬉しそうに笑った。
「へへ。あいつとはガキの頃からの付き合いっすからね。最近また、ちょいと小難しいのも増えましたが」
「……そうか。いいチームだな、お前らは」
……と、そんな獏と弁慶に、振り返った竜馬が大声で呼びかける。
「何してるお前ら! さっさと来い!」
おうと答えて、二人は仲間のもとへと駆け出していった。
【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・『魔装機神LOE』ではプレイヤーが選ぶ選択肢によっては、マサキはオリハルコニウムで作った小物がプロポーズの贈り物とは知らずに、オリハルコニウム製のペンダントを女性にプレゼントしてしまう。