Drei DetonatioN ~鋼の咆哮~   作:日下部慎

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インターミッション1.5
「動物の言葉が分かる?」


 万能戦闘母艦ドライストレーガー。

 この全長2kmにおよぶ超巨大戦艦は、居住区や食堂、医務室などに加えて、研究設備や娯楽室まで備えており、その中はもはやひとつの街と言って過言ではない。

 戦艦は高さもあり、いくつもの階層に分かれているので、1日で艦内を回りきるのは困難なほどの広さがあった。

 その無数にある艦内通路のひとつをさまよい歩く一人の少女がいた。

 

「モコナー!

 ……もう、どこ行ったのよ」

 

 少女の名は龍咲(りゅうざき)(うみ)

 魔神(マシン)セレスを“(まと)って”戦う魔法騎士(マジックナイト)だ。

 そんな彼女が歩く通路の向かいから、カムイが歩いてくる。

 

「こんにちは」

 

「……ああ」

 

 礼儀正しく挨拶をする(うみ)に対して、フードを目深(まぶか)に被ったまま顔をそらしてすれ違おうとするカムイ。

 横を通り過ぎた……とカムイが思った時。

 (うみ)は何を思ったか、カムイの前に回り込んで立ち塞がってきた。

 

「ちょっと、挨拶してるのに目も合わせないなんて失礼じゃない?」

 

「む……」

 

 まさかこんなに真正面から(とが)められるとは思っていなかったカムイは、思わずたじろぐ。

 言葉に詰まるカムイへと、(うみ)はさらに続ける。

 

「あなた、いつも猫背で隠れるみたいに歩いてるけど……何かやましい事をしてるわけじゃないんでしょう? たとえば、スパイをしてるとか」

 

「まさか」

 

「だったら、しゃんとしてなさい。自分に恥ずかしいところがないなら、誰に何を言われようとも胸を張っていればいいのよ。違う?」

 

 (うみ)は自らの言葉を裏付けるように、背筋を伸ばし、堂々とカムイの目を見て言う。

 そんな彼女にカムイは慎重に言葉を選んで答える。

 

「お前の言ってる事は分かる……論理的で正しい。だが……こんな顔が堂々と艦内をうろついていれば、戸惑い、恐れる者もいるだろう」

 

「あら、私が怖がってるように見える?」

 

 そう言う(うみ)は、爬虫人類の特徴が色濃く出ているカムイの顔を正面から見ても、まるで物怖(ものお)じする様子がない。

 

「いや……」

 

 カムイは(うみ)の言葉を否定できなかった。

 そして感嘆する。なんと真っ直ぐな少女だろうか、と。

 とはいえ、カムイとしては彼女の(げん)に同意もできない。

 このドライストレーガーには色々な人物が乗っている。彼女のような者ばかりではないだろう。そう考えると、やはり人前で顔を晒すことには抵抗があった。

 答えに(きゅう)するカムイ。

 それを見て(うみ)は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「ごめんなさい、困らせてしまって。あなたにも事情があるわよね」

 

「……いや、問題があるのは俺の方だ。こちらこそすまない」

 

 そこでようやくカムイは(うみ)の顔をまともに見る。

 彼女はそこらの雑誌のモデルや、テレビに映るアイドルなどと比べても、非常に優れた容姿の持ち主だった。

 怪物を見るような目で見られてきたカムイとは正反対だ。

 だが……とカムイは思う。

 これほどまでに飛び抜けた美貌であれば、「周りと違う」ことで様々な問題や葛藤があったのではないか、と。

 目の前にいる自信に満ちた少女の様子からは、そういった(かげ)りを窺い知ることはできなかったが。

 そんなことを思案するカムイに、(うみ)が尋ねる。

 

「ねえ。あなた、今はヒマしてる?

 ヒマなら一緒にモコナを探してくれない?」

 

 突然そう聞かれたカムイは、すぐに答えられなかった。

 特に決まった予定があるわけではないので、ヒマといえばヒマではある。今はシャア・アズナブル――この艦ではクワトロ・バジーナと呼ばれている男――を探して歩いているところだった。しかしそれも今すぐ話す必要があるわけでもない。

 

「ヒマ……と言えばそうだが、しかし……」

 

 いろいろ考えて答えにまごつくカムイ。

 それを見る(うみ)は最初こそにこやかな笑顔だったが、カムイが答えを変えるたび、徐々に眉根を寄せて不機嫌な様子になっていき……

 

「あーもう!」

 

 (ごう)()やした(うみ)は、カムイの腕を掴む。

 

「ほら、行くわよ!」

 

 そう言ってカムイを引っ張って通路を歩き出した。

 

「お、おい……!」

 

 カムイが文句をつけても(うみ)は止まらない。

 こうしてカムイは恐れを知らぬ少女の手によって、モコナ探しの旅へ強引に連れて行かれたのだった。

 

 

***

 

 

 ……その頃、ドライストレーガー内のデジタル学習スペースにて。

 数人が集まってコンピュータについての談義が行われていた。

 参加しているのは若い方の神隼人(じんはやと)、獏、セニアに、グリッドマンのサポートをしている謎の人物サムライ・キャリバー。そして魔法騎士(マジックナイト)のひとり、鳳凰寺(ほうおうじ)(ふう)の5人だ。

 

「えっ!? 隼人お前、ドライストレーガーにハッキングしたのか!?」

 

 驚きの声をあげる獏に対して、隼人はニヒルな笑みをもって回答に代えた。

 そんな隼人にセニアが疑問を投げる。

 

「隼人の世界も、フォルツォイクロンはなかったのよね?」

 

「ああ、その点は流石に少し手こずったがな。だが問題はそんなコトじゃない――ドライストレーガーの中枢部は完全にブラックボックス化していて、この俺にも理解が及ばない代物だった」

 

「ほー、お前がそこまで言うとはな」

 

 プライドの高い隼人が素直に「無理だ」と口にするというのは、余程のことだと察せられた。

 しかしそう思われるのが気に入らないのだろう、隼人は自分が無理だと判断した理由を語る。

 

「ハッキングは俺の専門というワケじゃない、俺の好奇心を満たす手段のひとつに過ぎん。そして、おそらくだが――この艦の中枢システムは、地球圏の技術に由来したモノではあるまい」

 

 その隼人の分析に(ふう)が反応する。

 

「異星人の技術が使用されている、ということでしょうか?」

 

 隼人は頷く。

 

「ああ。ウルガルやポセイダル軍とも違う……より高度な文明によるモノだろう。ソレが何かは(わか)らんが……」

 

 隼人はあれこれ言ったが、つまるところ何も分からないという事だった。

 

「謎ですわね……」

 

 全員が難しい顔をして会話が止まる。

 そこで隼人は話の流れを戻した。

 

「中枢システム以外の部分……火器管制システムやシミュレータールームといった乗組員(クルー)に直接関わるような末端のシステムは完全に把握した。バックドアを仕掛けたから、いつでも秒で侵入可能だ」

 

「えっ、ホント!?」

 

 そこに強く反応したのはセニアだ。バックドアがあると聞いて分かりやすく目を輝かせている。

 

「知りたいか? 教えてやらんコトもないが――」

 

「いいの!? ありがと隼人!」

 

「俺も興味あるぜ。どうやって入りゃいいんだ?」

 

 隼人に詰め寄るセニアと獏。

 そこに(ふう)も続く。

 

「もしよろしければ、わたくしにも教えていただけますでしょうか」

 

 いかにも優等生という出で立ちの(ふう)がハッキングの話に乗ってくるのは、その場にいる者にとっては意外だった。

 

(ふう)、あなたもハッキングに興味があるの?」

 

「たしかエンジニア志望で、キャリバーさんに教わってたよな」

 

 獏に話を振られて、ここまでほとんど発言していなかったキャリバーが口を開く。

 

「あ、ああ……彼女は飲み込みが早い。優秀な生徒だ」

 

 と、たどたどしく語るキャリバー。

 (ふう)は魔法騎士になる前までは偏差値が高いことで有名な私立学校に通っており、自分が将来就く職業にはシステムエンジニアを考えていた。

 質問してきたセニアと獏に向けて(ふう)は頷くと、自分の考えを語る。

 

「ええ。ですが、こんなご時世ですから……色々やれるようになった方がいいと思いまして。大切な人を守るために、後悔のない選択をしたいですから」

 

「なるほどなぁ……」

 

 本来ならば中学校に通っているような年齢の少女とは思えぬ立派な心がけに、獏も感心して唸る。

 そんな雰囲気の中で隼人に視線が集まる。

 

「……分かった、教えてやる」

 

 何かを言いたそうにしていた隼人だったが、なし崩し的にそのまま教えることになった。

 ……そうして数分後。

 隼人による説明が終わったところで、獏はふと思いついた疑問をキャリバーに尋ねた。

 

「そういやあ、キャリバーさんの専門って何なんすか」

 

「お、俺は……特に何が専門というわけじゃないが……」

 

 そこに横から(ふう)が言葉を挟む。

 

「お話をお聞きしている感じでは、仮想現実(バーチャルリアリティ)にお詳しいご様子でしたけれど」

 

 その言葉に隼人がピクリと反応を示し、獏が口を開く。

 

「バーチャルっていうと、隼人は仮想世界で生まれたって聞いたが」

 

 獏が言った通り、ここにいる若い神隼人(じんはやと)……そして彼のチームメンバーである流竜馬(ながれりょうま)車弁慶(くるまべんけい)は、「並行世界の地球でコンピュータによって作られた仮想世界」という若干ややこしい場所から、DBDでこの世界にやってきた。

 こうして話しているぶんには普通の人間と何も変わるところがないので、にわかに信じがたい話ではあるが、こればかりは当人の言葉を信じる他なかった。

 隼人は獏の言葉を肯定しつつ問う。

 

「そうだな。――だが、仮想世界とは何だ?」

 

「うん? 何だって改めて言われると……」

 

 思案する獏の答えを待たずに、隼人は言葉を続ける。

 

「俺の考えでは、仮想世界もひとつの世界だ。現実と仮想世界を厳密に区別するコトはできない。実際に俺はこうして現実世界に出てきたワケだが……何も違いを感じていない」

 

 その隼人の発言をキャリバーも支持する。

 

「お……俺も同じ考えだ。そもそも……Virtual realityは一般的に“仮想現実”と訳されるが、Virtualの意味は“架空”や“虚構”などではない」

 

「え? そうだったのか?」

 

「あ、ああ……むしろその逆……『実体はないが本質を持つもの』の事だ。コンピュータ上に“本物の世界”として構築されたものを、バーチャルワールドと呼ぶ」

 

「誤訳ということでしたら、呼び方を変えた方がよろしいでしょうか?」

 

「い、いや……ややこしくなるから、今のままでいいだろう」

 

 そんな話に意外な感想を出してきたのはセニアだった。

 

「へえ~、気がつかなかったわ。あたしは翻訳の魔法がかかってるから、そういうニュアンスってよく分からないのよね」

 

「それもそれでスゴイな、ラ・ギアスって所は……」

 

「似たような異世界でも、日本語が通じるセフィーロとは違いますわね」

 

 地球上では多くの異なる言語が混在しているが、地底世界ラ・ギアスに召喚される際には翻訳の魔術がかけられるため、問題なく意思疎通ができる。それはラ・ギアスの人間が地上に出てくる際も同じだ。

 言語の話はともかくとして、獏は仮想世界に話を戻す。

 

「しかし現実と仮想世界が変わらない、ってのは感覚的にも分かるんだよな。ドライストレーガーの戦闘シミュレーションをやった時には、たまげたぜ」

 

 ドライストレーガー艦内では過去に戦った敵との仮想戦闘を行うことができる。

 そこではロボットだけでなく、敵機に乗るパイロットまで完全に再現されていた。

 獏の感想にセニアも同意する。

 

「ああ……あれは驚いたわね。普通に敵と自然に会話できるし、倒したら断末魔まで残してくるんだもの。現実との違いが分からなくなるわ」

 

 そうしたセニアの言葉を受けて、隼人がさらに話を進める。

 

「そう、高度化した仮想世界は現実と区別ができない。俺は仮想世界から現実世界に来たが……今の俺たちが“現実”と認識しているこの世界も、何者かの手で創られた仮想世界である可能性は否定できない。その場合、この“現実世界”を創った創造主からすれば……ふたつの世界に大した違いはないハズだ」

 

「実験室のフラスコの中に作られたフラスコ……か。面白い話だ」

 

 それは会話している5人とは別の人物の声。

 突然の声に全員が振り返る。

 そこには腕を組んで部屋の壁にもたれかかった、ギリアム・イェーガーの姿があった。

 隼人が低い声でその名を呼ぶ。

 

「ギリアム……いたのか」

 

「フ……」

 

「フッ」

 

 隼人とギリアム。

 両者は互いにクールでニヒルな笑みをこぼす。

 そしてギリアムは何か話に絡むでもなく、そのまま5人に背を向け、部屋を去っていった。

 ……いったい何だったのか。隼人を除いた4人は、よく分からないといった顔で呆然としている。

 

「……おふたりは、波長が合うのでしょうか?」

 

「たしかに似てるかもな。クールに見せかけて、すぐ熱くなって突っ込むところが」

 

「…………」

 

 獏の評価を耳にした隼人は心外だと言わんばかりの渋面(じゅうめん)をするが、さりとて口を開いて否定することもなかった。

 微妙な沈黙が広がった部屋に、セニアの声が響く。

 

「あっ、もうこんな時間!」

 

 時計を目にしたセニアが驚いた顔で両手をパンと叩いた。

 

「どうした、何か予定でもあったのか」

 

「アーシスと打ち合わせがあったのよ! こっちでもデュカキスを造りたくて交渉してたんだけどね。資材や設置場所を詳しく話し合いたい、って」

 

「アーシス……?」

 

「メイヴィー主任の助手をされている方ですわね」

 

「ああ、あの人か」

 

 ロボットのパイロットはほとんど関わることのない人物なので、(ふう)にそう言われて獏はようやく思い出した。

 そうしてセニアは慌てて駆け出していき……それと入れ替わるような形で、二人の人物が部屋に顔を出した。

 (うみ)とカムイだ。

 

「あら、(うみ)さんとカムイさん。珍しい組み合わせですわね」

 

 中にいる人物が入れ替わったことで、室内の空気もガラリと変わる。

 

「丁度いい。この辺にしておくか」

 

 隼人の言葉に全員が自然と頷き、デジタル学習スペースに(つど)った一同は解散することになった。

 

 

***

 

 

 (うみ)がモコナを探していることを(ふう)と獏に話すと、二人も同行を申し出た。

 (うみ)、カムイ、(ふう)、獏の4人はとりとめのない話をしながら通路を歩く。

 そうした中で獏は(うみ)に尋ねた。

 

「モコナって、あのモコモコした謎の生き物だよな。こんなふうにいなくなるのは、よくあることなのか?」

 

「ええ。モコナさんが姿を消すのは、珍しくありませんわね」

 

「戦いが始まると、気付いたらいなくなってるのよね。終わったらすぐに現れるけど。どこに行ってるのやら」

 

 まったくもう、と腕を組んで頬を膨らませる(うみ)

 そんな彼女にカムイは問う。

 

「それなら勝手に戻ってくるんじゃないのか」

 

「わたくしもそう思うのですけれど……」

 

 (ふう)(うみ)をちらりと見る。

 その無言の問いかけに(うみ)が答える。

 

「だって、ドライストレーガーはこんなに広いのよ? 迷子になってるかもしれないし……どこかに挟まって身動きがとれなくなってるかもしれないし、それに……」

 

 あれこれと理由を出していく(うみ)

 その様子はどこか焦って言い訳を並べ立てているようで、カムイは怪訝な顔をする。

 そんなカムイに答えるように(ふう)はにこやかな笑顔で告げる。

 

「心配されているんです。(うみ)さんは面倒見のいい方ですから」

 

「べ、べつに心配してるわけじゃ……!」

 

 それを聞いた獏はカムイと(うみ)を見比べて、納得したように頷く。

 

「ナルホドな」

 

「なにを見ている、獏」

 

「いや、べつに。しかし確かにドライストレーガーは広すぎる。こうやって歩き回って探すのは無理があるんじゃねえか」

 

「そうですわね。何かいい方法があればいいのですけど」

 

 たとえ別れて手分けしたとしても、見つける頃には日が暮れてしまう可能性があった。

 4人はうーんと頭を悩ませる。

 

「獏、予知能力で分からないか?」

 

「あのなぁ……この艦に乗ってる他の予知能力者と違って、俺の予知は本当に軽いもんで……お……?」

 

 そう言う途中で、何かを感じて立ち止まる獏。

 

「どうした獏。ビンビン来たか?」

 

「ビンビンっつーか、ガンガン来てるっつーか……」

 

 獏は顔をしかめる。

 彼の予知能力が発動する時は自然に映像が浮かび上がる感じになるのだが、今は何処(どこ)かから無理やり頭の中に映像を押しつけられるような感覚がしている。こんな事は獏には初めてだった。

 

(けて……助けて……)

 

 さらに獏の脳内に響いてくる、何者かの声。

 

「……あっちだ」

 

 獏が先導し、4人は通路を走っていく。

 

 

***

 

 

 現在、ドライストレーガー艦内には多くの空き部屋が存在する。

 そのうちのひとつ、物置として使われている小部屋の中の――ダンボールの中に、それはいた。

 

「ン……ンニャ……」

 

 それは黒猫。マサキの使い魔(ファミリア)であるクロ。

 そして寝ているクロに捕まっているモコナだった。

 モコナはクロの拘束から逃れるべく必死に手足をジタバタさせているが、モコナが離れそうになると、クロは無意識のまま前足でぎゅっと抱き寄せて離さない。

 心地良いまどろみの中、軽く喉をころころと鳴らしながら、クロはふわふわしたモコナの体に顔をすり寄せる。

 

「あらあらあら、これは……」

 

「か、か、かっ……かわいいーーーーーーーーーっ!!」

 

 ダンボールの中を覗き込んだ少女は大興奮。

 その騒ぎで目覚めるクロ。

 クロは慌てて立ち上がって辺りを見回し、脱出に成功したモコナは獏の手に捕まった。

 状況を把握したクロは恥じらいを誤魔化(ごまか)すように尋ねる。

 

「ニャ、ニャにをしに来たのかしら? こんニャところに4人も揃って」

 

 クロを囲んできゃっきゃと言い合う少女ふたりに代わって、カムイが答える。

 

「昼寝の邪魔をしてすまないな。俺たちが探していたのは、そっちの……」

 

 と言っている途中で、モコナは獏の手から抜け出し、部屋の外に駆け出していった。

 

「あっ! ちょっとモコナ、待ちなさい!」

 

 脱走に気付いて追いかける(うみ)

 カムイはやれやれといったふうに頭を振ると、獏と(ふう)、それとクロと一緒にその後を追った。

 

 

***

 

 

 ドライストレーガーの格納庫の隅に設けられている運動スペース。

 そこではよく格闘の試合や訓練などが行われており、多くの人が集まっていることが多い。

 しかし今そのスペースを利用しているのは、2人と1匹だけ。

 拓馬とシロ。そして魔法騎士(マジックナイト)のひとり、獅堂(しどう)(ひかる)だ。

 拓馬と(ひかる)は向かい合って対峙している。

 

「…………」

 

「…………」

 

 (ひかる)は竹刀を上段に構え、対する拓馬は何も手にしておらず構えてもいない。ただ両手をだらんと下げ、膝を曲げて中腰になっている。

 互いに真剣な表情。周囲に走る緊張感。

 じり……と(ひかる)の足先がわずかに前に出る。

 

「――――!」

 

 次の瞬間、

 

「面ぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーん!!!」

 

 声と同時にパシィーンと響き渡る竹刀の乾いた音。

 (ひかる)の竹刀は拓馬の額に当たっており、その真上では拓馬の両手が合掌するように重なっていた。

 すぐ傍で見ていたシロがジャッジを下す。

 

「一本! 白刃取り勝負……5対4で(ひかる)の勝ちだニャ!」

 

「やったーーーーーーー!!」

 

「くっそぉぉぉーーーー!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 喜んで飛び跳ねる(ひかる)。床を叩いて悔しがる拓馬。

 そんな中へ、走ってきたモコナが飛び込んでいく。

 

「ぷぅぅぅーー!」

 

「わっ、モコナ!?」

 

 (ひかる)はその闖入者(ちんにゅうしゃ)を慌ててキャッチした。

 そこへモコナを追ってきた4人と1匹が姿を見せる。

 悔しさにうなだれる拓馬を見て、カムイが声をかけた。

 

「何をしているんだ、お前らは」

 

「何って、(ひかる)の剣を俺が白刃取りできるかの勝負だよ」

 

「で、負けたのか」

 

「う、うるせい! 竹刀じゃなくて真剣だったら勝っとるわい!」

 

 拓馬のとんでもない言い訳に、(ふう)がなるほどと同意する。

 

「確かに、真剣でしたら竹刀よりも振りが遅くなりますし、白刃取りの成功率は上がりそうですわね」

 

「いやダメでしょ真剣なんて! なに言ってるのよ(ふう)も!」

 

 すかさず(うみ)がツッコミを入れる。

 しかしそこへ獏が予想外の異を唱えた。

 

「拓馬なら大丈夫じゃないか? よくゴロツキの短刀(ドス)を腹から生やして戻ってくるしな。少しくらい頭をかち割られても平気だろ」

 

 その言葉にくらくらと目眩(めまい)を覚える(うみ)

 

「ああ……この中で常識があるのは私しかいないのね……」

 

「待て、俺をこいつらと一緒にするな」

 

 そうして、やいのやいのと騒ぎ始める一同。

 その中でカムイは目の端に意外な人物が映ったことに気がついた。

 

「ん? あれは……」

 

 格納庫の奥で隠れるようにサンドイッチを頬張りながら、こちらを遠巻きに眺めるクワトロ・バジーナだ。

 

「こんなところにいたのか……」

 

 カムイがクワトロを見つけている一方で、他の面々は白刃取り勝負の内容で盛り上がっていた。

 

「なかなか見応えがあって面白かったニャ」

 

 シロがそう語ると、(ひかる)は皆に向かって告げた。

 

「私、動物の言ってることがだいたい分かるんだ!」

 

 ほんとかと獏が()くと、(ひかる)は純真な笑顔を向けて答える。

 

「うん! 今のシロはね、見応えがあって面白かったニャって言ってたよ!」

 

「ん……?」

 

 怪訝(けげん)な顔で首をひねる獏。

 周囲に微妙な空気が流れる。どうやら、何かが噛み合っていない。

 

「えーと……」

 

 (うみ)は困った顔をしながら、(さと)すように(ひかる)に告げた。

 

「あのね、(ひかる)……シロとクロは言葉を喋れる猫なのよ?」

 

 それに(ふう)も続く。

 

「ラ・ギアスの使い魔(ファミリア)はそういうものらしいですわね」

 

「え」

 

 大きく口を開けて、心底びっくりしたという表情で顔を見合わせる(ひかる)とシロ。

 そんな1人と1匹を見て、クロが呟いた。

 

「気付いてニャかったのね……」




【挿絵について】
使用している挿絵は、ほいみん氏(https://x.com/frosted_hoim_in)に描いて頂きました。

【知らなくてもいいけど知るともっと面白いかもしれない話】
・設定上、SDF-1マクロスの全長は1.2kmで、ドライストレーガーはそれよりも遥かに大きい。

・「日本バーチャルリアリティ学会」のホームページには、Virtual Realityを「仮想現実」と訳するのは誤訳であると書かれている。

・鳳凰寺風の特技はコンピュータプログラムで、将来なりたい職業はシステムエンジニア。また、「頭がよくて有名な私立学校」に通っていることが原作の1話で明かされている。

・『SSSS.GRIDMAN』作中で、キャリバーはわずか数秒でジャンク(パソコン)の最適化を終わらせている。しかしそれ以外に彼ら新世紀中学生がPCスキルを披露する場面はないので、どの程度のコンピュータ知識を持っているのかは不明。

・「実験室のフラスコ」はギリアム・イェーガーが『ヒーロー戦記』で言及した言葉。彼は自分たちのいる世界が何者かに作られた存在であることを認識していた。

・獅堂光の特技は「動物と話せる」ことで、モコナやクレフの召喚した精獣の言葉をおおむね理解している。(翻訳の精度は場面によって異なる)

・獅堂光は幼稚園児の頃に、剣道家の父親を剣で負かしている。それにより父親は修行の旅へと出て行き、光が中学生になった今でも一度も家に帰ってきていない。
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