ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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1:人生は一度きり

「やっぱ人多いな、シャンフロブース……」

「大人気ゲームだもん、仕方ないさ」

 

 ジャパン・ゲーミング・エキスポ、日本全国から多くのゲームが集結する一大イベント。そんな祭の参加者の一人として私、龍洞(りゅうどう)八千代(やちよ)は人で溢れ返るあるブースの中に足を運んでいた。

 シャングリラ・フロンティア、『シャンフロ』はサービス開始から1年以上が経った今も尚、ユニークユーザー数が3000万人を超えるという超大作VRMMORPG。私自身は別にプレイしている訳ではないのだが、一緒にエキスポに参加した従姉が大ファンのためそっちに合わせた形である。今回会場に来るに当たって姉さんには『足』を変わってもらっているので、やってないゲームだから行きたくないとは流石に言えないのだ。

 

 ──まぁ、興味は前からあったし……ただ、私の方が避けてただけで。

 

 少し見ただけでもグッズがたくさん置いてある。

 ゲーム内のロケーションを書き起こしたイラスト集だとか、登場するモンスターを模したぬいぐるみやストラップだとか、あとはボールペンとかマグカップみたいなものまで本当にたくさん。私もいくつかデザインの気に入った物を購入した。ちなみにイラスト集の中には、ゲーム内のNPCが描いたものもあったそう。

 

 他にもARで再現されたド迫力のモンスターや、体験版を遊べるコーナーや、自身のプレイ記録から特別なブロマイドを作れたりなんかもする、未プレイの私でも中々……既プレイの従姉はとても楽しめた素晴らしいブースであった。

 その後も他のゲームのブースで目についたグッズを購入したり、体験版をプレイして趣味に合いそうなゲームを購入したり、あの天音永遠が司会を務める新作ゲーム紹介を見物したりと、参加して色々と楽しませてもらった良い1日となった。

 

「いやぁ、楽しかったねぇ」

「本当にねぇ。グッズ買い過ぎたせいでお小遣い枯渇しちゃったけど」

 

 苦しげな言葉の割には、その表情はホクホクとしたものである。好きな物のためにお金を使って素寒貧になったのだからそれはそう。

 私も今日1日だけで5万は使った。色々とブースを回ってお金を落としたことで、『特典』も色々と付いてきた訳だが。その内の一つ、シャンフロで使える新規ユーザー限定『スタートダッシュ・パス』を眺めながら、私はそろそろ自分の興味から目を逸らすのを止める時が来たかと考えていた。

 

「……今まで避けてたけど、こんなの貰っちゃったら始めないと勿体無いよね」

「お、八千代も遂にシャンフロデビュー?だったらようやく一緒にゲームできるじゃん!キャラメイクしたら報告してよね!」

「そんなすぐ一緒にやったら、キャリーみたくなるじゃん。姉さん確か環境最前線のプレイヤーって言ってたでしょ?一緒にやるならせめてある程度は自力で進めないとお互い迷惑になるよ」

「そんなこと言ったって、あんたゲームする時いつも『人生縛り』じゃん!追いつくまで待ってたらユニークみんな取られちゃうわよ!。そもそもMMORPGで人生縛りなんかしてたら、アカウントいくつ作り直しても足りなくなるわよ」

 

 姉さんの言う『人生縛り』とは、簡単に言うならリスポーン禁止という縛りだ。人の命は一つだけであり、人生はたったの一度きり。ならばその命一つで行けるところまで行ってやろうという、死んで覚える攻略を前提にするようなゲームとは、致命的に相性の悪い縛りである。

 死んだらその時点でデータは削除し、また0からやり直し。姉さんの言う通りシャンフロのようなゲームだと、何度キャラロストするか分かったものではないだろう。だとしても曲げるつもりは無いが。

 

 命は生きてこそのもの。

 死んでしまったならそこで終わり。

 

 だからこそ、やるべき事ややりたい事は生きている内にやり尽くさねばならない。私はそのことを身を以て思い知っている。

 

 ──まぁ、リスポーンができるゲームに適応すべきではないとは分かってるけど?自分のポリシーに合ったプレイが一番ノれるじゃん?

 

 私の話を聞いた姉さんは、呆れたように一つ息を吐くとそれならそれでいいと小さく笑った。

 

「ま……所詮はゲームだし?あんたのやりたいようにやればいいわよ。そういうロールプレイも立派な楽しみ方だものね」

「そうそう。姉さんだって、理想のイケメン作って理想の王子様プレイするじゃん」

「黒歴史よ、忘れなさい」

「アッハイ」

 

 表情の抜けた顔の怖さマジヤバい。これ以上揶揄うのはやめておこう……

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□□□□□□

 

 

「ダウンロード完了、っと」

 

 そんなこんなあって。家に着いて姉さんと別れた私は早速、愛用のVRマシンにシャンフロをダウンロードした。ドデカい上に移乗が面倒なチェアタイプだが、その性能はとても重たいことで有名なシャンフロのwikiを問題無く開ける程度。ウン百万円掛けただけの価値は確かにある。

 ここで『スタートダッシュ・パス』のコードを入力すれば、新規特典を保持した状態でゲームを開始できるのだが……それはまだやらない。何故なら人生縛りの初めの一回は、だいたいゲーム性の把握に努めてる間に終わるからだ。それに1アカウントに一回しか使えないパスを適用するのは勿体無い、適用するのは次からで十分だろう。

 

「まずはキャラメイクから……随分と情報量が多いなぁ、これは時間掛かるぞ」

 

 最初の一回はほぼ捨てキャラだけど、無駄に死ぬ気は無いし、キャラメイクだって適当に終わらせたりはしない。しっかり30分程掛けて自分好みのアバターとステータスを調整し、名前と初期装備と初期職業(ジョブ)を決めてゲームを開始する。

 

「人間を操作するタイプのゲームは初めて……さていったいどんな世界が待ってるのかな?」

 

 ──────────

 PN:D8

 LV:1

 JOB:傭兵(ハンマー)

 4000マーニ

 HP(体力):50

 MP(魔力):1

 STM(スタミナ):10

 STR(筋力):10

 DEX(器用):10

 AGI(敏捷):20

 TEC(技術):10

 VIT(耐久):20

 LUC(幸運):10

 スキル

 ・パワースタンプ

 ・ナックルラッシュ

 

 装備

 右:無し

 左:傭兵の鉄鎚

 頭:赤いバンダナ(VIT+2)

 胴:旅人の服(VIT+3)

 腰:旅人のズボン(VIT+3)

 足:旅人の靴(VIT+2)

 アクセサリー:無し

 ──────────

 

「これが最初の街、ファスティア……」

 

 ──本物だ。

 

 それが、最初に抱いた感想だった。

 踏み締める石畳の質感、道を沿うように吹き抜ける風の生暖かさ、無意識に動いた左手で掴んだ右腕の温度感。失って久しい「それ」を私は自覚するまでずっと触り続けていた。

 

「……本当に、ある」

 

 私がずっと『シャンフロ』を……もとい、人間のアバターを操作するゲームを避けてきた理由。現実ならどんなに焦がれても戻ってはこないモノが、確かにそこにあるのだ。

 

 右腕、ある。

 

 右脚、ある。

 

 左脚、ある。

 

 右耳、右眼、無いはずの生身の感覚がある──

 

「痛っづ……」

 

 ──少なくないダメージを受けた。眼球を直で触ったらそりゃそうなるか……

 

 セルフ目潰しから気を取り直し、身体を動かしてみてある程度の操作の感覚を掴む。高性能VRマシンの実力もあって左腕は思うように動かせる、リアルなら到底できないようなモーションも、アバターは中々柔軟なようで普通にできた。

 右側や脚はまだ少し慣れないこともあり、左腕と比べると動きが少しぎこちない。それでも大したラグは無いのでじきに慣れる……そんなことを考えていたら、思いっきり転けて顔面を強打した。またしても少なくないダメージを負った。50あったHPが16にまで下がってる……次、同じようなことがあったらHP全損するぞ、これ。

 

「おいおいアンタ、大丈夫かい?」

「大丈夫だ、問題無い……」

 

 顔に付いた埃を払いながら立ち上がる。話しかけられた声の方は振り返ると、そこに立っていたのは私と同じような簡素な服に身を包んだ中年男。頭上に名前が表示されていないのを見るに、こいつはNPCなのだろう。恐らく新規プレイヤーを案内するチュートリアル用のキャラか。

 男と軽く会話を交わすと、自然な流れでファスティアを案内してもらえることになった。開拓者には必須の武器屋や道具屋、セーブポイントになる宿屋に他プレイヤーとの交流場所だったり、依頼をしてくる訳アリNPCが出没する飯屋。私が初期職業に選んだ『傭兵』に対して依頼を斡旋してくれる傭兵ギルド、シャンフロにおける重要要素であるスキルに関連する特技剪定所(スキルガーデナー)などなど。

 

「んで、ここがファスティアの関所だ。ここを出て『跳梁跋扈の森』を抜けることで、次の街『セカンディル』に辿り着ける。開拓者は皆すぐセカンディルに行くし、お前さんもそうなるだろ」

「オーケー、色々ありがとう。参考になったよ」

「おう、また困ったことがあったら相談しな。なるべく助けになってやるからよ」

「その時はまたよろしくね。バイバイ」

 

 チュートリアルを終え、男と別れた私はすぐに道具屋に向かってアイテムを購入した。虫や小動物を捕らえてアイテム扱いにできる虫取り網、鉱床から鉱石を採掘できて緊急時の武器にもなるツルハシ、回復用のポーションやSTMを回復する食糧などを所持金の許す限り買い漁った。

 最初の街でありながら品揃えは侮れず、店の中で色々と吟味している内に雨が降り出していた。さっきまではギリギリ晴れと言えなくもなかったが、アイテム選びに結構な時間を掛けていたらしい。雨が降っていると道が泥濘むとか、滑りやすくなるとかそういう効果もあるのだろうか?

 

「シャンフロエンジンの物理演算は半端無いらしいし、そういうところも拘ってるのかな?」

 

 何はともあれ、道具も買い揃えたことだし次はエリア攻略だ。どんな世界が待っているのか今からワクワクが止まらない。

 何でも、シャンフロではプレイヤーの行動次第で千差万別のユニークシナリオが現れるらしい。私のプレイならいったいどうなるだろうか、他のプレイヤーとはどう変わるのだろうか。そんなの気にならない訳が無いだろう。

 

「よーし行くぞ、跳梁跋扈の、も……」

 

 エリア攻略に向けての最初の一歩。踏みしめたその足は雨に濡れた石畳を滑り空を舞う。

 

「あっ……」

 

 足が高く跳ね上がり、関節の動きに従って上半身は地面に挨拶を仕掛けんとする。またしても頭部強打となればHP全損は必至。故に残った右足はその運命を回避すべく、崩れたバランスを立て直そうと懸命に跳ね右へ左へ進み──

 

「あばアッ!?」

 

 ──道具屋の柱に側頭部をフルスイング。頸椎が悲鳴を上げると共に憐れ、D8のHPは0/50を示し無情にも死亡を確定させるのだった。

 

「ちく、しょうめ……!」

 

 ──つ、次は、こうはいかんぞ……ッ!

 

 ゲームオーバー。

 コンティニューかログアウトを選ぶ画面からログアウトを選択し、私の初シャンフロは僅か20分で終了となるのだった。

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