ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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 おかげさまで、100話に到達致しました。
 完結まではもう暫しお時間をいただきますが、お付き合いいただければ幸いです。


100:深淵の大渦を呑み込め

「アハハッ!いいねぇ、いいねぇ、中々の速度だよ気に入った!」

「………………!!」

 

 三界王装(アルカディア)の切札、『王威解放:三界一身(アルカディアス)』の効果で纏った黒い雷で超スピードを得た私は、その速さでバミューダを翻弄しつつ攻撃を加えていく。

 月華爛漫(ムーンフォース)状態によるステータス三倍化も合わさり凄まじい速度になっているが、魔眼の視覚補正のおかげでそれでも制御できる範疇だ。

 

 指先、足先、視線や身体の向き、あらゆる方向へのちょっとした挙動で己を捩じ切るかの如く過剰な反応を見せるのは面倒だが……それを許容してもお釣りがくる程に強力な力だ。

 

 王威解放時の能力の一つ、『冥雷(アトラ)』。

 あくまで追加能力の一つでしかない上に、過剰挙動だけがコイツの強さという訳ではないのだから恐ろしいものである。

 

「穿て……「撃滅の貫旋(トロール・デスピアス)」!」

「………………!!」

 

 爆裂する槍がバミューダを守る渦を貫き、その顎を勢い良くカチ上げる。

 槍を突き出して伸び切った身体に、隙を刺すように八方からバミューダに操られ鉄砲玉と化した魚達が襲い来る……しかし、その凶弾が私の命に届くことは決して無い。

 

「撃滅完了。マスターには触れさせません」

「流石、いい仕事するじゃん」

 

 私に攻撃がヒットする前に、【再会の約束(ドゥカ・トゥ・ルクス)】を装備したミシロが魚達を駆除するからだ。

 他の装備を併用できなくなるし、主武器の大剣は多数を同時に相手取るには向かないけど、私の周囲だけに範囲を絞って守ることと、本人の技量でその不利をカバーしている。

 

 ──さぁさぁ、ガンガン行こうぜってなあ!

 

 バミューダの直接攻撃以外で、私がダメージを受ける心配はほぼ無い。死のリスクを限りなく小さくできているから、取れる手も少しずつ大胆なものとなっていく。

 周りの渦は強まったが、バミューダの周囲を取り巻く渦の強さは変わっていない。それに対して私はバフスキルを数多く乗っけてステータスが爆盛りになっている。あちらの防御力とこちらの攻撃力の差が縮まったことで、最早通常攻撃でも渦を貫ける程の域にまで達していた。

 

「オラァ!」

「…………!!」

 

 ただ、この状態も長くは続かない。

 この超バフ状態の根幹は『全ステータス三倍化』という、イカれてるとしか言えない強化倍率を誇る絶世奥義:月華爛漫(ミステルミナ・ムーンフォース)ありきのもの。

 

 その効果は最大でも3分しか続かないので、それまでにこの戦いを終わらせたい。

 削りながら状況を整えていき、どデカい一撃をお見舞いしてやるのだ……バミューダの土手っ腹に風穴を開けてやれ。

 

 ──そのためには……あの腕が邪魔だな。

 

 バミューダの両腕、前脚とも言う……かなり大ぶりで甲殻も分厚く、アレを防御に回されるとダメージをかなり減らされてしまいそうだ。

 事前に部位破壊しておくか、防御されても問題ないくらいの威力を出す必要がある。今の時点でもだいぶバフは掛けてあるけど、それ以上となると流石に厳しい……いや、そういえばまだあるな。

 

 ──確か、コイツの効果が……

 

 一旦守勢に回り、バミューダの反撃を凌ぎつつ目当てのスキルの効果を確認する。数が数だけに見つけるまで時間が少し掛かってしまったが、問題無く確認は終えることができた。

 そして、結論……イケるはず。月華爛漫状態の期限である残り約2分が勝負だ。それまでに準備を整えて、最大の一撃をぶちかませ。

 

「不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)……「会者定離(アドマイオーラ)」!」

 

 10分間、モンスターを倒せば倒す程スキルポイントが追加されるスキル「会者定離(アドマイオーラ)」……コイツの真骨頂は、モンスターのキルは必ずしも私がやらなくても良いという点にある。

 自分だけでなく、パーティメンバーが倒したモンスターの分のポイントも加算され、そしてそれらを分け与えることもできる。自分一人だけでは完結しない味方の数だけ強みが増えるスキルなのだ。

 

「ミシロ、周りの掃除よろしく!」

「お任せください、ご主人様(マイマスター)」

 

 ポイント稼ぎは雑魚狩り担当のミシロにそのままやって貰い、私はラストアタックに向けての布石を散りばめていくフェーズに入る。

 欲しいポイント量は……足した分のステータスは基礎値に加算されるそうだから、乗算効果が向上することを考えるとそんなには要らないかな?だいたい……STRに300、AGIに300くらい稼げれば十分だと思う。

 

「その腕貰うぜ、「滅魔の六槍(スピア・オブ・ヘキサゴン)」!」

「………………!!」

 

 ──硬い……けど、壊せない程じゃないな!

 

 滅魔の六槍を直撃させ、バミューダの硬い右腕の甲殻に亀裂を入れる。規模はそう大きくないが、部位破壊が可能ということの証明なので無問題。

 ただ、やっぱり突きで大きな部位を持っていこうとするのは非効率だ。いくら竜滅装備とは言え斬り落とすとかなら兎も角、穿ち千切り取るというのは流石に厳しいだろう。

 

 ならば、戦法を変えるのみ。

 突きで亀裂を入れ、部位破壊の布石は打った……それを崩壊に繋げるために、原始的な槍の使い方に回帰することを決める。

 

「知ってるか?」

「………………!!」

「槍ってのはな、本来こうやって使うんだって……よっとォ!」

「…………!!」

 

 古来の時代では、槍というものは『刺突』武器ではなく、その長さと重さで相手を叩き殺す『鈍器』として使われてきたのだという。

 その名残なのか、打撃系スキルの一部は槍などの長物でも適用することができるのだ。連結に使わず残しておいた、『轟天激震』『飛天烈波』『天頂突貫』などがまさにそれ。

 

 轟天激震が直撃し、バミューダの腕に入っていた亀裂が大きく広がる。その傷を見てモンスター特有の声にならない声を上げたのを聞くに、しっかり脅威として受け取られたようだ。

 これでよりやり易くなる。一度助走距離を取ってもう一度スキルを発動する、今度は「飛天烈波」を腕ではなく胸元へ。

 

「………………!!」

「そうそう、守らざるを得ないよなぁ!」

 

 渦を貫通できる以上、無防備な腹に食らえば大ダメージを食らうことは目に見えている。

 バミューダはそれを防がざるを得ず、腕の厚い甲殻をガンガン削られていく。仕方の無いダメージではあるけども、それも積もり積もれば……

 

「………………!!」

「破壊完了!」

 

 ──さぁ、仕上げといこうか!

 

 最後の一撃、「天頂突貫」の直撃でバミューダの右腕が砕かれ破片が海中を舞う。主人を失った甲殻はそのまま渦に飲まれ、粉微塵となってやがて魔眼にも映らなくなった。

 これで、邪魔は無くなった。一応左腕も同等の甲殻を持ってはいるけれども、隻腕では全てをカバーすることは到底不可能。ミシロのポイント稼ぎも良い感じだし、月華爛漫状態が途切れる前にさっさとラストアタックの用意をしていこう。

 

 ──地面にぶつけて、圧し潰す!

 

 ポイントを必要なステータスに振り分け、各種バフを一斉に発動。これからやる予定の攻撃が最も高威力で実現できる距離に位置取る。

 これ以上の護衛は必要無いので、ミシロを回収しインベントリアの中に避難させる。うっかり置き去りにしちゃったら大変だからね。

 

「さて……サンラクよ、最大速度(スピードホルダー)の称号はもう一回私が貰っていくぜ」

 

 発動するスキルは三つ。「滅魔の六槍」「無慈悲なる一閃」……そして、レベルアップによって変化した速度スキルを八連結することによって生まれたランク8の機動系スキル。

 このスキルは、「臨界速(ブラディオン)」や「光界速(ルクシオン)」のように一度に複数回効果が発動したり、効果時間が継続するようなことは無い。一度発動すれば、発動するのはその後の最初の一(・)歩(・)の(・)み(・)。

 

 しかし、その一歩がもたらす加速はこの世の何よりも……それこそ、光さえも置き去りにしてしまう程に速い。

 この世の何よりも速いと己を定義する、加速系連結スキルの一つの頂点。

 

 その名を──

 

「いくぜ……「新法速(ニュートリノ)」!」

 

【規定速度観測、条件達成】

 

【称号『最大速度(スピードホルダー)』を獲得しました】

 

 この一突きで終わらせる、そんな心意気で踏み込みアステヴァルを突き出す。

 一度は奪い返された最大速度の称号が、たったの一歩で戻ってくる程の超加速。これを避けられるなどまずあり得ない、もしも心配することがあるとするのなら、それはバミューダのHPがこの一撃で削り切れる程度になっているか否かくらい。

 

 だが……何か、嫌な予感がしている。

 特に根拠は無い漠然としたものだが、何故か失敗してしまうような気がしてならないのだ。これまでの戦いから考えれば、バミューダにこの一撃を対処する方法は無いはずなのに……

 

 ──けど、日和ってちゃあ何も始まらねえ!

 

 ハッキリとしない感情に囚われ、本懐を果たせないのではこれまでの努力が水の泡になってしまう。

 それに、既にスキルは発動しているので今更取り止めることなどできない。私がすべきことは自分のここまでの下準備を信じて、勢いを緩めず突撃すること……それだけだ。

 

 避けようの無い一撃が、炸裂する──

 

「──────────ハァ……!?」

 

 ──コイツ、逸らし……ッ!?

 

 これまで攻撃の威力を散らし、受け止めやすくする『守り』の技として使われていた渦。

 バミューダはここにきて、渦の使い道を進化させてきたのだ……威力を散らして『受け止める』のではなく、攻撃そのものを渦の流れに乗せて自分に命中させないよう『受け流す』ものへと。

 

 ──ここにきて弾丸(たま)滑り修得、ってか……!?

 

 本来は、バミューダにぶち当たって勢いそのままに奴を地面とサンドして圧し殺すつもりだった攻撃が虚しく空を薙ぎ、地面へと吸い込まれていく。

 激突すれば確実に死ねている程の速度だが、これで私が死ぬことはまず無い……三界王装の効果で地面を泳げるようになっているので、そのまますり抜けることができるからだ。

 

 目下の問題は、方向転換をどうするかである。

 一応、機動スキル連打で無理やり向きを補正してやることはできなくは……いや、無理だろう。多分この速度には対応し切れない。

 

 ──どうする……?

 

 このまま当てもなく直進を続ければ、魔眼の視力でもバミューダを見失ってしまう。すぐに見つけられれば、回復される前に第二ラウンドを始められるだろうが……流石に、かなりの傷を負わせているし逃げるか、他のモンスターにやられるかのどちらかにはなっているだろう。

 この機を逃せば、再び海の竜を見つけ出さなければならなくなる可能性は高い。そうならないためにも私は頭をフル回転してアイデアを巡らせ……そして一つの実現できそうな案を閃いた。

 

「ミシロ、聞こえるかい?」

『肯定(はい):通信は問題無く可能です、ご主人様(マイマスター)』

「良かった、ならさ……」

 

 インベントリアの中にいるミシロに考えた作戦の内容を説明し、実践して貰えるようにする。

 失敗すれば彼女は確実に死んでしまうだろう、危険な作戦だが……ミシロはそれをすんなりと呑み込んでインベントリアから出て来た。その手に私が指示した通り、アモルパレントを持って。

 

「いくよ、覚悟はできてるかい!?」

「はい、いつでもどうぞ」

 

 試せる機会は一度きり。失敗すればミシロを殺してしまう危険な賭け……それでも、バミューダを確実に屠るために実行する。

 臆せば腕が鈍り、ミシロの振るうアモルパレントとのタイミングがズレてしまう。だから、私は躊躇いなくアステヴァルを彼女に向けて突き出した──

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 バミューダは辺りを見回していた。

 先程まで戦っていた強敵は、土壇場で編み出した己の奥義によって地の底に消え、それに付き従っていた人形の気配も既に感じられない。

 

 すぐにこの場から逃げると決めた。

 あくまで敵を遠ざけただけで、死んだかどうかを確かめる術はバミューダには無い。もしもあの敵がまだ生きていて、逆襲に来るとしたら今の傷付いた自分では抵抗は難しいだろう。バミューダは生まれたばかりの竜ではあるが、そういった分析は本能的にできている。

 

 この場を離れ、安全な場所で傷を癒す。

 そして完全復活し、戦いの中で新たに花開いた力を振るい世界に恐怖を齎すのだ。

 

 バミューダ……その名が示すは逃れ得ぬ螺旋。

 全てを呑み引き裂く、深き淵たる己の名を。肉持つ恐怖の具現として、この世に生まれ落ちた使命を果たす──

 

「させるかよ」

「………………!!?」

 

 ──ことは、もうできない。

 

 忌々しい覚えのある声に振り返ると、そこにはやはりと言うべきか奴が居た。

 その手に握られた黄金の槍には今にも弾けて辺り一帯を焼き尽くしかねない程のエネルギーが漲り、その眼は逃げようとする脚を止めないバミューダを真っ直ぐに見据えている。

 

「………………!!」

 

 コレから逃げるのは、無理だ。

 バミューダはあの槍の一撃を受けた場合の己の末路を悟り、逃走ではなく回避を選択する。先の一撃と同じように、渦で絡め取り受け流さんと。

 

「ま、そう来るよなぁ」

「………………!!」

「けど、その技には弱点がある」

「…………!!?」

 

 渦による防御態勢を取ったバミューダを見て、ロンミンはそうくることは分かっていたと、ニヤリと不敵に笑みを浮かべた。

 確かに、あの渦による受け流し性能は凄まじいものがある。先の一撃は絶対に決まるものだと信じて疑っていなかったし、まさか防ぐでもなく避けるでもなく受け流されるとはと驚いた。

 

 しかし、所詮は付け焼き刃だ。ああもあからさまなら、寧ろ対策できない方がおかしい……ロンミンは既に、対処法をミシロに託してある。

 

「認証許可……クラスⅧ武装【爆圧噴射式杭撃機(ベクタード・スラスターパイル)】転送完了。即座使用致します」

 

 かつての戦いで、絢爛たる皇帝の堅牢な甲殻さえも砕いた極大の一撃がバミューダの脇腹を貫く。どんな強力な一撃であろうと受け流すはずの渦は、この一撃に対し何の反応も示さなかった。

 これこそ、受け流しの弱点。要はプレイヤーの使うカウンタースキルと同じ……しっかりと効果を発動させるには、渦を発動させた面で攻撃を受けなければならない。効果の及ばない面に回り込まれた時点で、この技は強みのほぼ全てを失うのだ。

 

「………………!!」

「これがタイマンなら、取れなかった手だけど……お生憎様、ちゃんと仲間がいるもんでね」

 

 AIというのはどうしても直情的になりがちだ。目の前にある二つの脅威に対し、Aの方が危険だと分かっていても、既に己を蝕んでいるBの方をどうしても優先してしまう。

 つまり、本命の前にデコイとなる攻撃を用意しておくだけで、バミューダの受け流しは容易く瓦解させることができるのだ。

 

「一度は肩透かしを食らったけど……今度こそ、これでチェックメイトだぜ、バミューダ!」

「………………!!」

 

 そして、バミューダは一度展開してしまった渦の別方向への再展開は瞬時には行えない。

 即ち……この一撃を避ける手段はもう、何も無いということになる。

 

「年貢の納め時だ、大人しくくたばりなァ!」

「………………!!」

 

 ミシロのパイルバンカーの方にヘイトを向け渦を移動させてしまったせいで、ガラ空きとなった腹部に膨大なエネルギーを纏って七色に輝くアステヴァルの鋒が突き刺さる。

 爆裂、爆発、閃光……あらゆる衝撃がバミューダの命を抉り、貫き、突き通す。ロンミンの突撃は腹部から尻尾の先までを貫通し、長い長いトンネルを作り……岩場に激突して漸く止まった。

 

「カッコ付かねえなぁ……でも」

 

 装備に付いた粉塵を払い、ロンミンはバミューダの方を見やりアステヴァルを肩に構える。そして、バミューダの最期に敬意を込めて高らかに勝ち鬨を上げるのであった。

 

「これで、私達の勝利だ!」

 

 その言葉と同時に、バミューダの肉体はポリゴンの欠片となって雲散霧消する。

 王を失い、無法地帯となった深海に新生した次なる王にして恐怖司りし真竜、バミューダ。彼の短き生の終わりは、何とも儚いものであった。

 

【竜の討滅は果たされた】

 

【『移ろわざるモノ(バミューダ)』、撃破!】

 

【称号『螺旋の終着点』を獲得しました】

 

【称号『竜滅ぼす輝き』を獲得しました】

 

【称号『星空の槍』を獲得しました】




【真竜の宝証:『移ろわざるモノ(バミューダ)』】
[カテゴリ]
・アイテム
[効果]
・移ろわざるモノ(バミューダ)を撃破した証。竜滅装備(バスターアームド)でない装備に使用することで、それを竜滅装備(バスターアームド)に変化させる

 真なる竜種とは肉持つ恐怖の概念(カタチ)。知らぬこと、立ちはだかることを恐れというならば……理解し、乗り越えた先にあるものはあなたの力となる。
 人はそれを繰り返し前に進んできた。
 ならば真なる竜種、肉持つ恐怖を討ち滅ぼしたあなたは、彼の理解者なのだ。

 世は常に移ろい、同じものなど何一つとして無いかのように姿を変えていく。
 しかし、そんな世界にも決して変わらぬものが確かに在る。
 夜は明け、朝が来る。雨は止み、空は晴れ渡る。親が子を育て、子は育ち大人となる。同じように巡っているように見えても、時は確かに前に進んでいるのだ。
 螺旋は同じ道に留まらない。我が名は常に、尊き営みの中に在る。




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