ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「という訳で、強化をお願いしたいのですよ」
「……あなた、ちょっと見てないだけで本当に色々大変なこと起こすわよね」
「ま、ゲームだしそれも愛嬌ってもんじゃね?」
新大陸に上陸し、"
話を聞いた二人は、どうして上陸するだけでそんな大変なことになるんだと呆れていたが……これはしょうがないことだと思うんだ。だって自分自身もこんなことになるなんて思ってなかったんだし。
「まぁ、死んでないならそれで構わないわ。依頼は受けるからまた暫く待ってなさい」
「楽しみにしてなよ」
「ありがとう、二人とも。完成したらすっ飛んでくからすぐに教えてね」
そうして、必要な物を受け取った二人はそれぞれの工房へ戻っていった。
さて、この後はどうしようか……今日のログイン目的は今ので果たしちゃったし、街を見て回ろうにも特に新しく戦力にできるような物はそうそう無いだろうし。
──いや、でも確か……あった!
ふと思い出し、あるアイテムをインベントリアから取り出す。それは少し煤けたような模様の付いた白い結晶……ウェザエモン・天津気との戦いを記録した
あの戦いの終わり際、天津気刹那は私にこう伝えていた……『これを勇魚に渡せ』と。きっとそうすることで何らかのイベントが起きるのだろう、気になるしそれを確かめてみようかな?
「そうと決まれば、思い立ったが吉日ってね」
今日の行き先は決まった。新大陸に浮かぶ第二のバハムート『リヴァイアサン』へ、そしてこの結晶を管理AIたる勇魚に叩き付けてやるのだ……いや流石に野蛮過ぎるなもっと穏便にいこう。
入り方が分からないので、ベヒーモスの時のように先に入ろうとしてる奴の後を着いていき、同じように行動することでリヴァイアサン内に入る。宙に浮かぶ鋼鉄の巨大魚……その中身はまるで、無数の汁に塗れたゴーレムが闊歩する迷路と言った具合であった。
──見た目はあんま強くなさそうだけど……
『初めまして!自己紹介しますねこのリヴァイアサンに於ける電脳統括担当を前任ジュリウス・シャングリラ様より任されました、アンコントロールアーティフィシャルインテリジェンス「勇魚」と申します!この擬似迷宮化したリヴァイアサンを攻略した時、あなたは遙か遠き英知を──』
──声がデケえ!動きがうるせえ!話が長え!
唐突に現れた上に馬鹿デカい声で捲し立てる音声とわちゃわちゃ動く立体映像が五感を襲う。自己紹介された通り、この珍妙なテンションの謎コーデ女こそがリヴァイアサンの管理AI『勇魚』。息吐く間も無く捲し立てられた言葉をどうにか掻い摘み、纏めると……この迷宮化した『レガシーモード』リヴァイアサンのナビゲートをしてくれるらしい。
現在私が立っているこの第一殻層『迎門』を含めた5つの殻層を制覇することで、リヴァイアサンを攻略したということになる。勇魚はそれを目指すプレイヤーに対してある程度の助言をしたり、行き詰まりそうになった時には発破をかけたりしてくれるらしい……要るか、それ?
──ただの賑やかしがそんな要るか……?
「まぁ良いや、攻略の前にこれを渡しとくよ」
『ふむ?クリスタルですか、いったい何の……』
「さぁ?これが何になるのかは知らないけど、天津気刹那からの伝言だからね。確かに渡したよ」
『ッ……!?成る程、これは……!』
どうやったのかは知らないが、クリスタルを調べたらしい勇魚の顔が驚きに染まる。
「そんで、これによって何が変わるんだい?」
『これは……ロンミン様がアンバージャックパスをレベル5にするまでは秘匿させていただきます。これは、それ程に大きな情報の塊なのです』
はぐらかされた……どうやら、色々と知識を得た上でないと活かせない類のものらしい。いったい何が収まっていたのか興味は尽きないが、それを知るためには攻略が必要だ。
それなら、しっかりとリヴァイアサンを制覇して堂々とこの眼に焼き付けてやるとしよう。そうと決めた私はすぐに装備を変更し、
「……残念。流石にそこまでのズルはできないか」
『……えーと、ロンミン様?いったいそれは何をしようとしていたので?』
壁をすり抜けて中心部までショートカットできないかと試してみたが、エラーメッセージが表示され私の伸ばした腕が弾かれる。どうやら検知した異物を弾き出すプログラムでもされているらしい。
まぁ、それならそれで正攻法で進んでいけば良いだけなので構わない。見る限り、この『迎門』の主なギミックは重力だ……派手に吹っ飛ぶ他の挑戦者や、地面や壁を平気な顔して伝い歩くゴーレムを見ていればすぐに分かる。
──そしてそれは、私にとっては何の障害にもならないハズレギミックだ!
『ええええぇぇ!?そ、それは卑怯というかズルいというか何というか!ギミックをフル無視されちゃあ製作者が泣いちゃいますよ!私ですけど!』
「残念、次のギミックが通じるものであるということを今の内から祈っておくんだな!」
三界王装フル装備状態なら、私は重力の縛りから解き放たれ自由に宙を舞うことができる。四方八方へ滅茶苦茶になっている足場はまるで
本来ならば、この重力がいい加減な空間をゴーレムに対処したり、重力場をワザと暴走させたりして少しずつ迷路のゴールを目指していく……そんな感じの設計なのだろうけども。どうやら、空を飛べる人間の存在は想定されていなかったようだ。
──ま、多分だけどリヴァイアサンって本来は戦術機とか手に入る前に来る所みたいな感じだし、そりゃあ飛行能力なんて想定してないよなぁ。
私はベヒーモスで購入することで今の手持ちである三機の戦術機を手に入れたが、バハムートの出現はリヴァイアサンの方が先らしいしベヒーモスで戦術機を手に入れてからこっち……なんて想定はしていなかったのだろう。もしも出現順が逆だったならその対策もされていたかも知れないね。
まぁ、戦術機は結構嵩張るから割と狭いこの迷路の中では活かせないだろうけどね。ゴーレムと戦っている内にどっかに機体を引っ掛けて、身動きが取れなくなった隙をボコボコにされる姿がありありと思い浮かべられるよ。シュトーレンとアクアリエの仕事に改めて感謝しなくちゃね。
「お……随分とデカいロボ、アレがボスかな?」
『その通り!アレはこの第一殻層『迎門』を守護する最後の門番、その名を「デベロッパー」君です!ロンミン様、この子を正面から討ち果たさなければ第二殻層への道は拓かれませんよ!』
──随分と得意げだなぁ……
ふふん、と鼻を鳴らす勇魚。デベロッパー君とやらの実力に自信があるのだろうが、聞く限り攻略推奨レベル30だというダンジョンに配置されるようなボスの何にそんな期待を寄せてるのだろうか。新人が来るかも知れないベヒーモスならともかく、お前さん新大陸側のバハムートなんだから、来る奴ら軒並みレベル99は最低限あるだろうに。
──あぁ、でもそう言えばベヒーモスもレベル50以上無いと入れない制限あったよなぁ……
と、横道に逸れるのはここまでにしておこう。
ハッキリ言って、リヴァイアサン攻略はあくまで天津気刹那からのプレゼントの中身を確かめるための道中でしかない。色々とギミックを用意してくれた勇魚には悪いが、ちゃちゃっと進ませて貰う……自慢のボスは瞬殺させて貰うよ。
『な、何やらまた凄そうな物を取り出しましたね!今度は何をやらかそうというのですか!』
「
『凄い揺れる』
「そう。まぁ見てなよ……っと!」
インベントリアから蛇槍『金剛牙』を装備し、そのまま同時に取り出した
セットした武器にも多大な負荷を与える凄まじい振動が引き起こされるが、金剛牙は攻撃に使う以外では耐久値を減らさないため負荷を無視できる。そして放つは投擲の鉄板連結スキル「滅魔の六槍」ともう一つ、射的のお供に最適な「
『うそーん……』
「ま、こうなるよねぇ」
別に、
私よりレベルの低いモンスターは、
「さ、次に行こうか」
『うーん、これは最速記録を出されるか……?』
……
…………
………………
その後も順調に攻略は進んだ。
第二殻層『教道』は、えげつない見た目をした肉が蔓延る「ディストピアってこんな感じかぁ」という感想のエリア。
こっちから喧嘩を売らなければ、刻傷も相まって肉達は逃げていくばかりで敵対はしてこない。なので必然的に戦闘になるのはボス……『スペリオルオマージュ・フロストボディ』だけであった。
流石にまたボス戦スキップは勇魚が可哀想だったので、コイツとは普通に戦ってみたが……剥き出しの肉だけあってとても柔らかく、
ボス撃破後は、ここの肉はリヴァイアサン内の安全地帯で調理して食べられるとのことだったので、試しに食べてみた。この時にボスの肉を調理したステーキを食べたことで、称号『
第三殻層『戯盤』は、カジノのような様々な遊戯が集まったエリアであった。ここのアトラクションを一つ達成することでクリア扱いとなるらしい。
まぁ、うん……事前に勇魚から『ゲームが成り立たなくなっちゃうからその飛行装備は禁止です!』と三界王装を縛られた時点で察してはいたよ。そうすることで、簡単にクリアできるアトラクションがあるってことはね。
──なので……
『何でまだ飛べるんですかぁ!?』
「おいおい、いったい誰が飛行効果を持つ装備が一つだけだなんて言ったんだい?」
そのアトラクションを狙い撃ちし、
狼狽えてる勇魚は可哀想だが、これに関しちゃズルできる余地を残してる方が悪いと思うんだ。他のアトラクションも仕様的に談合、イカサマ何でもありの無法地帯みたいだしね……
『ムムム……!ここまでは楽勝で攻略されてしまいましたけどね!この第四殻層『機舎』はそう簡単にはいきませんよ!』
「へぇ、随分と自信があるんだね?」
『ええ!本来ならばその時になって初めてお知らせするのですが、特別に今伝えておきましょう!この第四殻層のボスを務めるモンスターは、他ならぬロンミン様の手で造り上げるものなのです!』
「私の手で?」
こうして、速攻で辿り着いた第四殻層『機舎』であるが。勇魚の説明を聞くに、確かにこれまでとは違い一筋縄ではいかなそうな場所らしい。
この第四殻層『機舎』は、神代の様々な兵器などが並ぶアイテムショップとでも言うべき場所。ここでリヴァイアサン内の通貨である『スコア』を使い決められたノルマ分買い物をして、それらを組み合わせて出来上がるボスモンスター『ウィズダムガード』を倒す……そんな流れ。
当然、ここまでほぼ最速のペースで駆け上がってきた私はスコアは殆ど持っていない。
なので稼いでこないといけないのだが……ここで勇魚が私を狙い撃ちして仕様の変更を宣言した。本来ならば一人分のノルマで良いところを、パーティの最大人数である『15人分』のスコアを消費しなければ、ウィズダムガードが発生しないようにしたと抜かしやがったのである。
「一筋縄ではいかないって、そんな直接的な時間稼ぎしてまで言うことかなぁ」
『言ってることが格好悪いことは認めますがね!ですが、これまでのように速攻できないことは確かでしょう?しっかり稼いで貰いますよ!』
──ま、良いか。
天津気刹那の贈り物に関してお預けを食らうのはいただけないが、最強のモンスターと戦えと言うのなら乗ってやろうじゃないか。しっかりとスコアを稼いで、そのウィズダムガードとやらを最強の状態に仕上げてやろう。
となると……稼ぎがしやすいのは『戯盤』だな。賭けで増やすだけでなく、他のプレイヤーからも巻き上げればより手早くスコアを増やせる。巻き込んでしまう他のプレイヤー達には悪いけど、たくさん毟り取らせて貰うよ、ふふふ……
「ふぅ……さ、やりますか!」
プレイヤー達が和気藹々……?とアトラクションを楽しむ空間が追い剥ぎから逃げ惑う地獄の空間に変わるまで、そう時間は掛からなかった。
有り金全て毟り取られ、競機のジョッキーとして借金返済に追われることとなったとあるプレイヤーは語る……『鬼が……鬼が出たんだ』と。