ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「1日稼ぎに費やして、ざっと12億スコア……これだけあれば十分でしょ?」
『スコアノルマが一人当たりだいたい2400万くらいになりますので……過剰も過剰ですね!』
──そっかあ……
あれから丸一日、『戯盤』でスコア稼ぎに終始し私は最終的に12億8千万スコアを稼いだ。勇魚によると、本来の一人当たりのスコアノルマが2400万程度(これくらい有ればほぼ確実にもう一つの必要ポイントのノルマを満たせると言う意味)らしいので、本来の必要量の約4倍のスコアを稼いだということになる……調子に乗り過ぎたなぁ。
まぁ、過剰になった要因としてスコアを稼ぐこと自体はそんなに難しくなかったということもある。装備の都合『目押し』が楽勝なスロット、何時でも好きなマスに止まれるルーレット、飛べるので完クリ余裕のグラビティボード……フィロジオでは私の当てたカードに滅茶苦茶他のプレイヤーが群がってきたことで、オークション的に値段を釣り上げられたのも良かった。
「でも、競機はずっと避けてた」
「……そりゃ、アンタの腕前なら如何様にも結果を操作できるだろうからねぇ。稼ぐことそのものが目的だから分の悪い賭けはしたくなかったんだよ」
「うん……懸命な判断だったと思いますよ」
他のプレイヤーにも賭けさせたり、フィロジオで直接打ち負かしたりして、アトラクション以外でも多くのスコアを稼がせて貰った訳だけども。そんな中でも一つだけ、戦術機をプレイヤーが操作して走るレースの結果を予想する『競機』だけは、絶対に触らないように避けていた。
だって、見てしまったんだ……別ゲーで散々に打ち負かされ、ロボの扱いでコイツに勝てる気はしないと思わされたプレイヤー。ネフィリム・ホロウの絶対女王、ルストの名がジョッキーの名簿に記載されてしまっているのを。
「他のアトラクションと違って、競機はジョッキーの匙加減で順位を操作できちゃうからね。いっぱいスコアを稼がないといけない中で、流石にこれに時間を費やす暇は無いよ」
「でも、そんなに稼いでどうするんですか?第四殻層のボスに挑むにしては随分と過剰な気が……」
「確かに。私達が挑んだ時は5人分で1億3千万くらいのノルマだった」
「難易度の上方修正を食らっちゃってさぁ。一人でフルパ相当のノルマを稼がないといけなかったんだよ……それにしても過剰だって言われたけどね」
私のその言葉に、ルストとモルドの二人は何やら興味深そうな反応を見せる。分かる、分かるぞコイツらの考えてることが……『
「……そう言うことなら、協力する。私達はリヴァイアサンに入り浸り色々と内情に詳しい。集めたスコアを効率良く使わせてやれる」
「あはは……ただの冷やかしにしか聞こえないと思いますけどね。買った物はちゃんとクリア後に元のアイテムとして手に入りますから、ハズレを掴ませることは無いと約束しますよ」
「ふーん……勇魚的にはこれアリなの?」
『実際に戦闘をするのがロンミン様だけでしたら、何も問題はありませんよ!』
──ま、ただの冷やかしじゃないなら構わんか。
ウィズダムガードの仕様的に、良い武器を買う程買い物は最低限で済む代わりに質が高くなり、逆にハズレで済ませようとすると量が嵩張り大量に購入しなければならなくなるのだろう。
攻略だけを考えるなら一長一短だけど……今後のことも考えるなら、このためだけのアイテムにスコアを無駄遣いはあんまりしたくない。無駄遣いを避けようと思うなら、詳しい奴らに買い物を代行して貰うというのは悪くない手段だと思う。
「じゃ、二人に買い物はお願いしようかな。良い物見繕ってくれよ」
「損はさせない。だから面白い物、見せてよ」
「それじゃあ、僕らは行きますね」
「面白そうなことやってるみたいだな」
「俺も仲間に入れてくれよ」
「金を毟られた怨み……!」
「大量のスコアを使って創り上げるウィズダムガード……いったいどんなカードになるんだ……!?」
──色々と混じって来たなぁ……
こうして、ルストとモルドは12億スコアで最強のウィズダムガードを創るべく、意気揚々と買い物に向かった……しかも、話を聞きつけた他の多くのプレイヤーも参戦を表明し出した。
自分が巻き込まれることはないと分かっていて、尚且つ私からスコアを毟り取られた怨みを晴らしてやりたいという狙いもあるのだろう。何十人というプレイヤーが便乗し、更に彼らのスコアまで上乗せしてきて……その結果、予算は12億から更に加算され19億となった。
「アレも買おう、コレも買おう」
「コイツは凄いぞ、値段の3倍のデンジャーポイントを稼げるんだ」
「実際に攻略の世話になってる奴を……」
「おいおい皆よ、出来合いの物を買うだけってのは芸が無いんじゃねえか?」
買う予定の商品を入れるための棚にして、ボス戦のフィールドでもある『買い物カゴ』に次々とアイテムが投入されていく。
安くて性能が良い物、値段は相当高いがその分折り紙付きの高性能な物、更にはプレイヤーが丹精込めて自作した兵器に至るまで……インベントリアに入れるみたいな感じで、実際にそこにアイテムが積み重なっているという訳ではないが。もしも実物が全てその場にあるのなら、いったいどれ程高い山ができあがるだろうかという量のアイテムが、買い物カゴを満たしていくのだった。
「うへぇ、改めて見ると本当に凄い量だなぁ……」
──これが全部合体して、一つのモンスターになるのかぁ……
買い物カゴに入ったアイテムの数を見て、その余りの物量に改めてため息を溢す。
スクロールしても、スクロールしても中々最下段まで辿り着かない豊富な種類……これらが自分に牙を剥いて来るのだと思うと、今から気分が重くなるのも仕方ないだろう。
今回は私個人を狙い撃ちにした仕様変更を勇魚が施しやがったために事前の説明があったが……これなら説明無しで不意打ちを喰らった方が、まだ精神的には余裕あったんじゃないかなぁ。
まぁ、愚痴るのはこの辺にしてそろそろボス戦を始めるとしようか。やると決めたからには、ワクワクした顔を隠しもしないあの野郎共に自分達の集めたアイテムがどんなボスになるかを、そしてそれが私によって討ち倒される様を見ていって貰うぞ……途中退場なんて許さんからなぁ?
「さて、やるか……勇魚、よろしく」
『かしこまりました!それでは……ウィズダムガード生成、開始致します!』
「始まるか」
「がんばれー」
「面白いモン見せてくれよー!」
ガコン、と大きな音が鳴り強い振動と共に買い物カゴが動き出す。浮上している……のではない、構造的にこれは中心部へ向けて『落ちている』と言うのが正しいだろう。
そのままグングンと勢い良く加速していく買い物カゴはやがて第五殻層の手前まで辿り着き、そして同時に購入した商品が一斉にインベントリアを飛び出して実体化……それぞれが一つの大きな何かと成るように繋ぎ合わさっていく。
『スコアポイント19億6870万3205、デンジャーポイントジャスト60億……!さぁ、今こそ武器を取り挑みなさい!叡智へと至る扉を守護する番人を討ち果たし、扉を開くのです!』
『ウィズダムガード:タイプアトラス……これ程の物が出来上がるのを見るのは私も初めてですよ!』
『ウィズダムガード生成に協力した皆様は、今し方配布致しましたウィンドウにて戦いの様子を観戦することができます!応援、アドバイス、野次、何でもご自由にどうぞ!』
──余計なことを言うなァ!
『それでは……ロンミン様、健闘を祈ります!』
「………………!!」
「チィ……デカい癖に速いな……!」
勇魚の合図と共に動き出すウィズダムガード:タイプアトラス……名前長えな、普通にアトラスとだけ呼ぶことにしようか。
見た目としては、体長およそ30mくらいと以前に戦ったオーバードレス・ゴーレム"
小手調べ、とばかりに放たれた右腕のパンチを回避してアモルパレントを装備し反撃。高密度の金属に触れる鈍い音が響き、アトラスを構成するパーツの一部が弾け飛ぶ。
今ので何万スコアくらいのパーツをぶっ壊したことになるのかな……などと考えていると、アトラスの体表から放たれる電気が弾け飛んだパーツを引き寄せ再結合・修復されていく。数秒も経たぬ頃にはもう、何処を攻撃したかも分からなくなるくらい完璧に元の形にもどってしまっていた。
──自己再生持ちか、厄介な……
こういう自己再生能力持ちのモンスターには、大きく分けて2つのタイプがある。
まず、HP満タンの時以外は常に再生能力が発動し続けているリジェネ型。常に再生が追いつかないくらいの火力を出す必要があり、それができなければ勝ち筋の一つもハナから無い理不尽なヤツだ。
次に、何らかの条件を満たすことでドカンと大きく回復するギミック型。この手のヤツはギミックを解けているか次第……解けているなら回復なんて意に介さずボコボコにできるけど、解けていないなら延々とイタチごっこをさせられてしまう。
恐らく、このアトラスに関しては双方の要素を複合的に持っているのだろう。何せ、コイツは様々なパーツの集合体……今し方見せられた自己修復や引き寄せなど、それぞれのギミックが重なり合うことで相乗的に効果を高めることを実現している。
コイツがあくまでゴーレムであるということを考えると、身体の何処かにあるはずだ……己を構成するパーツの持つそれぞれの能力、それらを制御している中核となるパーツが。再生能力をどうにか遇らいながらコアを見つけ出し破壊する……それが、アトラスの攻略法ということになるのだろう。
──とは言え、コレは……!
「弾幕の密度エグくね?」
「俺なら1秒保たずに死ねるわ」
「よく生きてられるよな、アイツ……」
──攻撃が、苛烈過ぎる!
アトラスの身体を構成する神代の武装ユニット、それらから放たれる分厚い弾幕にアモルパレントでは対処し切れなくなる。ジャストガードを発生させればその効果中はアモルパレントを構えている面への攻撃に対しては無敵になれるが、あくまで面への対応しかできない上にジャスガからジャスガへの以降には一瞬とは言え隙間があり、多段的な攻撃にはどうしても対応し切れないのだ。
仕方無く、私は怨蛇の大盾を取り出して盾による防御で身を守ることにした。
「大盾でも防ぎ切れてない……マズそうだね」
「いや……ちゃんと観察すれば、突破口は見える」
──あぁ!?そんなの見てる余裕は……ッ!
観戦するルストとモルドの呑気な話し声に少し苛立ちを募らせるが思い留まる。ルストの話振りからするに、どうやら奴はアトラスの弾幕に『穴』を見出しているみたいだ。
そりゃあ、側から眺めてるだけのお前らは細部まで見渡す余裕があるんだろうけどよ!実際に戦ってる私からしたら、相手の観察なんてできる程余裕のある盤面じゃないんだよなぁ!
「……ま、見なきゃ解らんってのも正論か」
そう、余裕が無いとは言え分からないものを分からないままにしていては何も進まない。ここは多少のリスクを負ってでも観察の時間を作るべき……そのためにすべきことは、コレだ!
「オラ、ぶち抜けろ!」
武器をアモルパレントからアステヴァルに切り替えて、すかさず放つ「
直後に修復が始まり、アステヴァルで付けた傷はすぐに元通りになってしまうが……その間は修復に集中するようで弾幕が甘くなり、距離を取って遠くから観察する余裕を作ることができた。
──ははぁん?成る程、ね……!
近くで防御に集中している時は見えなかったが、こうして余裕を持つと案外見やすいものだ。
弾幕の射出地点、厚い場所と薄い場所、弾の性状に射出間隔……コレだけ『観る』ことができたならもう迷う必要は無いはずだ……私には、夜の帝王の眼が憑いているのだから。
「何だ、急に動きが良くなってきたぞ!?」
「あの弾幕を見切ってるってのか……!?」
「ロンミンさん、どうやら『見えた』みたいだね」
「……あれくらい、私でもできる」
外野が騒がしいが、それで私の集中力が途切れることは無い。観察に回ったことで把握した密度と間隔を意識して立ち回り、被弾を盾で抑えられる最低限に留めながら再び接近していく。
狙うべき場所は……「
馬鹿みたいに弾幕の雨霰を押し付けてくれやがったおかげで、良い感じにチャージができた……今なら最高に高威力な「
だが、意図を察してかアトラスも銃口をこちらに向け直した上で、胴体部に仕込まれた巨大な砲門のチャージを開始する。弾幕で威力を弱めて砲撃で押し返すという魂胆なのだろうが……もう、遅い!
「
「盾風幡叛」だけでなく、「偉風導動」も同時に発動してアトラスの準備が終わる前に怨蛇の大盾を胴体めがけて投げつけた。
それまでに盾が引き受けたダメージを投擲威力に変換する「
攻撃に風属性を追加する「
「盾風幡叛」が「偉風導動」の風の勢いを強め、弾幕の壁を蹴散らして熱を溜め込んだ砲門ごとアトラスの胴体を深く抉り込んだ。
投擲の衝撃に加えて、溜め込んだ熱が行き場を求めて飛散し激しい爆発を引き起こす。堪らず倒れ伏すアトラスであったが……やはりと言うべきか、すぐに修復を終え体勢を立て直してきた。20億近いスコアを支払っただけのことはある……やはり、そう簡単には終わらないようだ。
「けど、傷は深かったみたいだね」
確かに、アトラスは受けた傷を修復し元に戻っている……しかし、一目見ただけでも完全に元通りになった訳ではないということが分かる。
明らかに、小さくなっている。与えたダメージが思いの外大きかったからなのか、それとも中核の修復は端側のように簡単にはいかないからなのか、この場で断言することはできない。それでも、攻略の糸口が見つかったのは大きな進展だ。
「最後まで、貫き通す」
アトラスの中核を突き崩す……修復が追いつかなくなるまで、何度でも。
攻撃に使ったことで耐久値を大きく消耗した怨蛇の大盾を回収しインベントリアにしまう。代わりにディアナとアルテミスに装備を変え、再び放たれる弾幕と対峙する……少し小さくなった分、ハッキリと違いが分かる程弾幕が薄くなっている。
決着の時は、そう遠くない。
そう確信し、私は気合を入れ直すのであった。
話数が進む程1話あたりの文字数が増えていくのは何故なのだろう