ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「サードレマからこんばんは!いつも観てくれているみんなも、今日初めて観に来てくれたみんなも、『リオちゃんネル』の配信へようこそ!」
「今日は前の配信で一緒だった私の再従姉妹、ロンミンと一緒にプレイしていくよ!本当はプライベートでの誘いだったから、配信するつもりは無かったんだけどね?行き先が行き先だし、配信しても良いって許可を貰ったからにはやるしかないよね!きっとたくさんの取れ高が見つかると思うよ!」
「今日攻略していくのはシャンフロプレイヤーならきっとご存じ、あの『水晶巣崖』!これからフォスフォシエでもう一人と合流するんだけど、その人も含めて3人でやっていくよ!」
「あの蠍の津波を乗り越えて、私達は無事に帰って来れるのか……是非観ていってね!」
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:匿名の視聴者さん
マジでか
:匿名の視聴者さん
あそこか……
:匿名の視聴者さん
南無……
:匿名の視聴者さん
ロンミンちゃんの人生終わっちゃう
:匿名の視聴者さん
頑張ってどうか攻略してくれ、蠍難民達の未来がこの配信に懸かっている
:匿名の視聴者さん
第二のツチノコたり得るのか
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「終わった?」
「うん。それじゃあ早速、『千紫万紅の樹海窟』の攻略──といきたかったんだけど。ロンミンはあれからレベルどれだけ上がった?」
「今のレベルは3だね」
「私は10……額面程は弱くないけども、やっぱりこの程度のステータスじゃ心配だよね。一応集合時間にはまだ余裕あるし、ここはレベリングを兼ねてちょっと寄り道していこうかな?『栄古斉衰の死火口湖』での用事、終わらせちゃおう!」
──死火口湖に用があるのは私だけどな……
思っても口には出さない。配信中の主役はチャンネル主であり、司会進行は全てヘルパーT細胞によって行われるからだ。配信することの許可は私も兄さんも出しているんだし、主導権を握るくらいはさせておいた方が良いだろう。発案者だから司会やれと言われても、私にはできないしね。
目的は『焠がる大赤翅』、朽ち果てた英雄の武器に再び火を灯すレイドモンスター。奴にアモルパレントを叩き起こしてもらう道中、登山道に出現するモンスターでレベリング。水晶巣崖に突入するまでに自身の戦力を増強するのが狙いだ。ステータスはともかく、レベルが本当に低いからな。
「行こうか、時間は余裕あると言っても立ち止まってられる程は暇じゃない」
「そうだね。いざ行かん、栄枯斉衰の死火口湖!」
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「なんか……モンスター凄く多くなかった?」
「リュカオーンの刻傷の効果で、格上のモンスターが積極的に喧嘩売りにくるからなぁ……」
どうにか目的地に辿り着いたは良いのだが、その道中は過酷を極めたものであった。
リュカオーンの刻傷の効果により、私達は格下のモンスターからは逃げられ、逆に格上のモンスターからはエンカウント次第、積極的に喧嘩を売られるようになっている。その結果大量のモンスターが登山道中に押し寄せて来たのだ。
私のレベルは3、ヘルパーT細胞のレベルは10なのに対して、栄古斉衰の死火口湖のモンスターの平均レベルは50前後。ほぼ全てのモンスターから喧嘩を売られる状態にあるのだ、私達は。
レベリングの観点から見れば、むしろ都合の良いシチュエーションと言えるのだが。にしたって限度というものが分かっていない、そう言わざるを得ない物量の波状攻撃であった。
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ケース1:マジョリティハウンド
平均レベル65の大型犬の群れ。リーダー個体による統制の取れた連携を繰り出してくる上、それを狙おうとすると手下の犬共が盾になってリーダーがやられるのを防いでくる。ただでさえ獰猛な奴らが刻傷に当てられて更に凶暴性を増しており、防御に徹してもかなり削られた。
しかし、私が手下の犬を請け負っている隙を突いたヘルパーT細胞の魔法でリーダーを倒せてからは簡単だった。統制者がいなくなれば力があるだけの烏合の衆、レベル差があっても闇雲や捨て身には何の怖さも脅威も無い。最終的に一匹一匹丁寧に分断して全員始末してやった。
「最初からレベル差がおかしいって」
「合計レベル、何倍差あったんだろうね?」
ケース2:エスケイプ・ゴート
あまりにも臆病過ぎて、逃げ切るために追っ手を殺すという選択に至った灰色の山羊。頭から伸びるご立派な二本角の一撃は、樹木を貫通してそのまま薙ぎ倒す程の超火力。これで敵の喉を突いて首を潰すのが奴の必勝パターンらしいが……自分が食らったところは想像したくない。
角での攻撃は確かに脅威だったが、それ以外の攻撃はぶっちゃけ大したことなかった。突進を誘発してはカウンターを入れつつ、樹木に誘導して動きが止まったところに魔法をブッパ。図体の大きさに見合うだけのタフネスはあったけど、攻撃パターンが少ないので作業的に倒すことができた。
「串刺し期待してたのにってコメントきてた」
「自分で確かめろって返しときな」
ケース3:ヴォーパルバニー
跳梁跋扈の森の包丁持ち、四駆八駆の沼荒野の長杖持ちに続き、このエリアに出てくるのは薙刀持ちの個体であった。
エリアが変わったことで兎そのもののレベルも上がって強くなっている上に、フェイントを攻撃の中に混ぜてきたり足を狙って動きを封じにきたりと立ち回りも上手くなっている。しかしあくまで本命が首であることは変わっていなかったので、首狙いの一撃にカウンターを合わせることで撃破した。
「薙刀、落ちなかったね」
「しゃーない、レアドロップだし」
ケース4:スパルタンロウ
脚が異常に発達した雀の群れ。刃物同等の斬れ味を誇るそれで一斉に襲い掛かることで、目の前の障害物や外敵を細切れに粉砕してくる厄介者。HPはクリティカル一発で沈む程に低いが、いかんせん数が多過ぎて苦戦を強いられた。
エンチャント無しでは脚に当たると攻撃を弾かれてしまうので、私はあまり役立たなかった。その分ヘルパーT細胞の魔法が抜群の効果を発揮し、雀の群れは全て奴によって焼き払われた。視界を埋め尽くす程の茶色の塊が一気に黒と灰色に染まり散っていくのは、観ていて一種の爽快感があったな……
「わっ、経験値がすっごい!」
「あれだけの数、一羽一羽はそれなりでも集まれば大量の経験値になるか」
ケース5:トキシックイーグル
武器の届かない高高度からの毒糞爆撃、魔法の狙いを定めさせない不規則軌道、樹木が邪魔で回避も反撃もままならず、一方的にう○こを浴びせられ続ける屈辱と言ったら……あれはできるのなら絶滅させるべき真なる害悪だ、断言してやる。
ひたすら解毒と回復を続けて耐久し、高度を下げたタイミングを逃さず各個撃破。攻撃を当てさせないタイプの害悪はHPは低い、その傾向に奴も合致していたのが幸いだった……うう、毒は解除できてもう○この匂いが染み付いて取れない……!
「あいつら、ほんと、マジでよ……」
「私の一張羅がぁ……」
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本当に……本当に色々あったが、それでも私達は勝ち抜き火口まで辿り着いた。後は大赤翅に会ってエネルギーを注入してもらうだけ、そうしたら帰りはヘルパーT細胞が持ってたスクロールで、サードレマまで帰ればいい。
深く進む程に熱気を増す火口、モンスターもおらず快適に進めたその最深部にそいつは居た。巨大な翅を閉じ微動だにせず佇む赤い蝶……レイドモンスター『焠がる大赤翅』は。掲示板で赤いブロッコリーみたいって書き込みがあったけど、確かにそう見えなくもない、かな……?
「さて、来たは良いけどどうやってアモルパレントに火を点ければいいんだろうか」
「私の前のデータでも、
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:匿名の視聴者さん
近付いて武器を掲げたら熱風起こしてくれるよ、命と引き換えになるけど目的は果たせる
:匿名の視聴者さん
でもロンミンちゃん人生縛りしてるから、生き残れる方法じゃないとダメなんだよね
:匿名の視聴者さん
大赤翅の近くまで投げてみたら?あいつの極大スリップダメージも離れてたら避けれるでしょ
:匿名の視聴者さん
黎桜ちゃんが武器預かって特攻したら?
:匿名の視聴者さん
地面を掘って熱風を避けるとか
:匿名の視聴者さん
エンチャントに熱耐性あるんじゃない?あれに効果あるのかは知らんけど
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「ふむ……一番簡単なのは私が武器を預かってから特攻することかな?」
「けど、それだとデスペナ貰うからなぁ……二人とも生存を狙うなら、武器だけ奴の近くに投げてみるのが良いと思う。ヘルT、お前何か投擲に補正あるスキルとか持ってる?」
「持ってないね。一応ステータス的には十分届くと思うけど……ミスった時が悲惨だから怖いかも」
「なら、自分でやるか……私のステータスだと届かない可能性あるけどイケるかな……?」
黎桜のリスナーから貰った情報を元に、アモルパレントに火を灯す作戦を組み立てる。手っ取り早いのはヘルパーT細胞の特攻だけど、この後も攻略が残ってるからデスペナが痛いので無し。
作戦はこうだ。まず現在地である火口入り口に私達が入れる大きさの穴を掘り、大赤翅の熱波攻撃が当たらない安置を作る。次に私が投擲の威力・飛距離・命中精度に補正を掛ける「クイックスロー」でアモルパレントをぶん投げ、大赤翅の目の前まで近付けて認識・熱のチャージをしてもらう。後は熱波をやり過ごしてから、アモルパレントを回収しスクロールでサードレマに帰還する。
・投げる時に大赤翅が熱波を撃ってこないか?
・地面掘ったくらいで熱を防げるの?
・回収に近付いた時に攻撃されない?
・プレイヤーが近くにいる必要があるんじゃ?
正直言って、色々と穴が多過ぎる作戦だと自分でも思う……それでも成功させる、熱そのものを無効化できる手段が無い以上、生きて帰るにはやり過ごす以外の方法が無いのだから。
とにかく熱源からは距離を離し、直撃を避けて熱によるダメージを減らす。ヘルパーT細胞のエンチャントで熱耐性と自動回復、そして膂力強化を増やしてもらい準備は万全に整った。投擲のコントロールはスキルがやるから心配無し、あとは結果を大赤翅に任せるのみ──!
「いくぞ……クイックスロー!」
「投げたら早く戻って!焼ける前に!」
スキルの補助を受けた左腕によって放たれたアモルパレントは、ほぼ直線様の放物線を描きながら大赤翅の寸前に勢いよく突き刺さる。投げた瞬間全力で退避したのでその瞬間を見てはいないが……背中に響く熱と衝撃波が、目論見が成功したことを如実に物語っていた。
ステータスを確認すると、140もあったHPが16まで減っていた……今の時点でできる熱対策は全部やったが、それでもこうなるとは流石はレイドモンスターと言ったところか。仮に今後挑むことになるとして、正攻法はまず無理だろうな。無駄に突貫して蒸発させられるのがオチだ。
「イケたかな……?」
「見た感じは大丈夫そうだけど……回収してくる」
大赤翅に意識を向けないよう気を付けながら、アモルパレントを回収する。掴んですぐにインベントリにしまって猛ダッシュ、待っていたヘルパーT細胞がスクロールを起動しサードレマへ。
転移の光が消え、耳に響く街の喧騒を聞き設定したセーブポイントに戻ってきたことを確認する。私達はどうにか生きて死火口湖から戻ってくることに成功したのだった。
「良かった、生きてる……」
「樹海窟行く前に、ちょっと休もうか……」
【朽ち灯りしアモルパレント】
再起への炎を宿した英雄の武器。
未だ本来の力へは程遠く、武器として使用することは難しいが、剣に宿った真なる炎は恩愛の剣に二つの道を照らし示す。
──成功だ……やったあ。
「アンバージャックパス、レベル5……一番乗りって良い言葉よね」