ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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14:輝く水晶を求めて:不世出の翅

「ロンミン、準備はもう良い?」

「いいよ、そろそろ行こうか」

「いざ行かん、『千紫万紅の樹海窟』!」

「それ、毎回やるの?」

 

 栄古斉衰の死火口湖での寄り道を終えて、私達は改めてフォスフォシエに向かうべく『千紫万紅の樹海窟』攻略を開始した。寄り道で多くのモンスターを倒したことで、私のレベルは3→15、ヘルパーT細胞のレベルは10→24に上がった。上昇量は小さいけど、スキルポイントはお互い大量に貰えているので問題は無い。

 貰ったポイントでステータスを上げ、増えたスキルを特技剪定所で整えて、目的を果たすに十分と言える状態は整った。あとはさっさと樹海窟を抜けてフォスフォシエに辿り着き、兄さんと合流して彼が宝石匠になれる時間を稼ぐだけ。私達の目的はあくまで水晶巣崖の希少な鉱石であり、無理に蠍を倒したりする必要は無いのだ。

 

「少し急いだ方がいいね、もう20時を過ぎてる」

「だったら近道する?」

「……案内できんの?」

「まっかせなさい!これでもデータ作り直すまではトッププレイヤーの一人だったんだから!」

 

 ──お前だから心配なんだが……

 

 口には出さなかったが、黎桜には配信者としてはとても都合の良い『取れ高になるような出来事』が向こうの方からやって来るという、アクシデントに見舞われやすい体質がある。

 待ち合わせ時間が迫っているからといって、ここで安易に近道を選ぼうものならどうなるか……リアルでもこいつのハプニング体質には、何度も巻き込まれたものだ。マジで勘弁してほしかった。

 

「……その近道だと、どれくらい時短できる?」

「えーっと、普通に整備されてる通り道を使った時が早くて1時間くらいだから……近道を使ったなら20分くらいに短縮できるよ!正規ルートと違って真っ直ぐ突っ切るだけだからね!」

 

 ──1時間が20分になるか……なら、アクシデントを加味しても結果的に時短になるか?

 

「……じゃあ、案内は任せたよ」

「まっかせなさーい!」

 

 色々と可能性を考慮した結果、私はヘルパーT細胞を信じて近道を行くことに決めた。

 正規ルートを通ったところで、イレギュラーは発生するかもしれないし、普通に急いでも1時間近く掛かるなら遅刻があり得てしまう。ならば心配でも信じて進むべきだろう……いや、やっぱり何が起きるか不安は消えない……

 

 ──頼むから、何も起きないでくれよ……

 

 そう、心中で願うばかりであった。

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□□□□□□

 

 

「しっかし、見渡す限り虫ばっかりだね」

「そういうエリアだからね。虫が苦手な人には絶対攻略できないと思うよ、エリアボスなんて人を捕食できるでっかい蜘蛛だし」

 

 ──おかしいな、順調だぞ?

 

 千紫万紅の樹海窟は、文字通り樹木と草花で満たされた虫と節足動物の楽園となるエリア。かつて先駆者としてここを攻略したことのあるヘルパーT細胞のモンスター解説を聞きながら、正規ルートを外れた道なき道を進んでいく。

 既に歩き始めて10分は経ったが、ここまでの警戒が全く無駄なものだったと思える程に、びっくりするくらい何もトラブルが起きない。迷子にもなってないし、刻傷に誘われたモンスターの襲撃を受けてもない。せいぜいが道中の邪魔になってたハナカマキリを追っ払ったくらいだ。

 

 ──いや、良いことだけどさ……

 

 何も無いのが一番。それはそうなのだが何度も巻き込まれた身としては納得がいかず、どうしても何かあることを想定してしまう。

 このままいけば、フォスフォシエまで何事も無く余裕を持って辿り着ける……兄さんを待つ間、新たな街で買い物をする余裕すらあるだろう。是非ともそうなってほしいものだが……最後までどうなるかは分からない、ヘルパーT細胞を信用はしても油断はしないように気を付けよう。

 

「ストレージパピヨンの蜜袋は売ると結構良いお値段になるんだけど、持ってるとクアッドビートルから狙われやすくなるのが難点なんだよね。それさえ無ければ良い序盤の金策になるんだけど」

「これからもっと効率の良い金策スポットに行くんだから、そこでがっぽり稼げばいいじゃん」

「成功すればだけど、それもそうだね……ん?何か近付いてきてる……ッ!?」

「ヘルT!?……敵襲か!」

 

 何かが近付いて来る異音、それを察知して姿勢を下げたヘルパーT細胞の頭上を目にも留まらぬ高速で何者かが駆け抜けていった。少しでも気付くのが遅れていれば、奴の首は胴体と泣き別れしサードレマへ強制送還されていただろう。

 

「こいつ、エンパイア・ビーか……!?」

「なんかデカくない……!?クイーンでもこんなに大きくはならなかったはずだよ!?」

 

 獲物を仕留め損なったことを確認し、下手人は私達にその素顔を晒す。黄色と黒の警戒色で纏まったその身体は女王よりも更に大きく、首元を守る体毛はマフラーを思わせる程に長い。エンパイア・ビー本来の武器である尻尾の針は見当たらないが、その代わりか異常に大きく発達した顎が、カチカチとこちらを威嚇する音を鳴らしていた。

 しかし、それら以上に目を惹くのはその背中……残像が見える程に忙しなく早く動く奴の翅。あまりの超振動で周囲の空気が歪み、奴の周りは空間が捻じ曲がったようになってしまっていた。

 

 まさに異常個体……二つ名持ちとかよく似たレアモンスターの類かと思ったが、メッセージウィンドウがその間違いを指摘する。

 エクゾーディナリーモンスター……約1週間前のアップデートによって追加された、それまで世界のどこかに潜んでいた不世出のモンスター。その内の1体が私達に牙を突き立てに来たのだ。

 

【モンスター不世出の発見!】

 

【討伐対象:エンパイア・ビー・セクスタ"毒震貴族(ロンリービート)"】

 

【エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されます】

 

 ──ここで来るかよ!

 

「エクゾーディナリー……逢えるのはまだ先だと思ってたけど、こうも早く逢えるか!」

「これはもう、やるしかないよね!」

 

 ──────────

 :匿名の視聴者さん

 おおおおおおお!!

 

 :匿名の視聴者さん

 エクゾーディナリー初めて見た

 

 :匿名の視聴者さん

 セクスタって何する蜂だったっけ?

 

 :匿名の視聴者さん

 がんばえー

 

 :匿名の視聴者さん

 水晶巣崖の前座が豪華過ぎない?

 

 :匿名の視聴者さん ¥5000

 是非勝ってくれ、応援してるよ

 ──────────

 

「さて、どうやって攻めるかな」

「虫だし、取り敢えず火ィ点けてみる?」

 

 どのように攻めていくか作戦会議、出た案はとても単純だがすぐに採用された。古来より虫は火に弱いと相場が決まっているものだ。

 

「ブブブブブブ……!!」

 

「うおっ、ソニックブームか!」

「ロンミン、防御よろしく!」

 

 先手は"毒震貴族(ロンリービート)"、ただでさえ忙しなく動く翅を更に加速させ、押し出された空気を斬撃に変えて四方八方へ射出していく。正確にこちらを狙って来るものもあれば、特に狙いは付けずただ飛ばしているものもあり密度も高く回避が難しい。

 かといって、受けようにも物理攻撃ではないためパリィができずそのまま食らってしまう。ダメージは低いが毒と短時間のスタンの追加効果があり、食らうと一瞬硬直させられる。針の代わりに空気の振動に載せて毒を運んでいるようだ。

 

 解毒薬はあるが、流石にこの手数では何度も被弾しては使うを繰り返すことになるだろう。私のHPはレベルアップで200を越えたし、毒が回り切るまではかなりの時間が掛かる。ここは毒は治さず放置してHPの回復にだけ注意しよう。

 

「面倒臭え……ヘルT、絶対食らうなよ!」

「大丈夫、何受けても一撃だから!」

 

 ──何も、大丈夫じゃねえんだよなぁ……

 

 ツッコミは胸の内にしまって、今度はこちらから"毒震貴族"に攻撃を仕掛ける。ヘルパーT細胞からの【属性付与(エンチャント)『火』(ファイア)】を受け、傭兵の鉄刀の刃に火を灯し斬り掛かる……が、"毒震貴族"は刃が届く前に持ち前の速さで距離を取り、更に高度を上げてこちらの攻撃が当たらない位置に移動。高みから歪んだ目付きでこちらを見下ろしてくる。

 

「てめーはトキシックイーグルの同類かぁ!」

「だったら私が……【ファイアーボール】!」

 

 高空からのソニックブーム弾幕の隙間を縫い、ヘルパーT細胞の【ファイアーボール】が炸裂……することなく振動空間に阻まれて消えた。

 空気を押し出し空間が歪む程の羽ばたきによってできたあの空間は、空気が無く真空に近い状態になっているということなのだろう。いくら魔法の火でも燃えるものが無ければ消えてしまう、脅威への対策はしてあるということか。

 

「火はダメか……なら、物理が良いね」

「他の属性エンチャントないの?」

「あるけど……ダメージ増加に直接繋がるものじゃないから、ここは『力』が一番だよ!」

「オーケイ、そのデッカい顎で地べたを舐めさせてやるよ蟲野郎……!」

 

 属性付与(エンチャント)『力』(パワー)を貰い、STRを強化して蟲野郎に跳び掛かる私。レベルアップによって増えたり進化したスキルの中には、跳躍力強化や空中での機動力強化といった「空中戦をしろ」と言われているようなスキルがやたら多い。トキシックイーグルとかいうクソ害鳥のせいだろう、そうに違いない。

 だがその経験が今回は役に立つ。まずは8回だけ跳躍力を強化する「八艘跳び」、更にスタミナを大きく消費する代わりにAGIが大きく上昇する「オーバーアクセルLV:4」を起動。攻撃が届く訳が無いと高所から余裕そうに見下ろすその顔を、驚愕で染め上げてやる。

 

「ギギ……!!」

「自分と同じトコまで跳べる開拓者は初めてか!?なら、しっかり身体で覚えるんだなァ!」

 

 こちらが接近した分、"毒震貴族"は距離を離そうと試みるがそんなことはさせない。武器を傭兵の鉄槍に持ち替え、射程外に逃げようとするその空きっ腹に「グローイング・ピアス」をぶち込む。振動空間に入ったことで一瞬スタンしたが、攻撃は無事間に合わせることができていた。

 無防備な状態だったが故にダメージは絶大、翅の動きが弱まり振動空間が一瞬消えた。大きなダメージを与えて怯ませると、その間は振動空間を作れるだけの羽ばたきができなくなるようだ。あの空間も触れるとソニックブーム同様、毒とスタンを受けるので無くなってくれるのは非常にありがたい。

 

「ギ……ギギギギィ……!!」

「遅かったか、間に合うと思ったんだけどな……」

 

 振動空間が消えたのを見て、咄嗟に放つ魔法を【ファイアーボール】に切り替えたヘルパーT細胞だったが、ヒットする前に怯みモーションが終わって振動空間が復活したことで防がれてしまう。

 当てられれば大ダメージだっただろうが、即席の連携ではタイミングが合わなかった。ならば同じことをもう一度行う──今度はタイミングもしっかり合わせられるように攻撃してやる。

 

「ヘルT、もっかいやるから準備しとけ!」

「了解!」

 

 空中での高い機動力を得た私だが、飛べるようになった訳ではないのでいつかは落ちる。そうなったらスキルリキャストが終わるまでは"毒震貴族"に制空権を奪われる訳だが、空中での二段ジャンプを可能とする「フリットフロート」は、落下のタイミングを先送りにし更なる追撃を可能とする!

 

「ハンド・オブ・フォーチュン……堕ちろ!」

出力加算(アッドブースト)、【ファイアーボール】!」

 

 ダメージ計算をSTRではなくLUCで行うようにする「ハンド・オブ・フォーチュン」は、STRよりLUCが高いプレイヤー……つまり私が使うことでその真価を発揮する。

 怯みモーションの発生に足るダメージを与え、すかさずヘルパーT細胞が追撃。ご丁寧に加算詠唱(アッド・スペル)まで済ませてくれていたので、追加効果でダメージは更に加速した。エクゾーディナリーと言えども元はエンパイア・ビー、流石にここからまだ戦闘を続けられるようなHPは残っていないはず。墜落したらきっちりトドメを刺してやろう。

 

「ヘルT、エンチャントお願い……?」

「ま、まだ何かあるの……?」

 

 特大の火球が直撃し、火ダルマになって地に堕ちた"毒震貴族"。トドメを刺すべく武器を鉄刀に持ち替えて追撃の用意をするが、私は小さく地面が揺れていることに気付きその足を止めた。どうやらヘルパーT細胞も気付いているようだ。

 "毒震貴族"の仕業ではない。奴にはもうそんな力は残されていない……ならば必然的に、この振動は新手がやって来たことを現す。"毒震貴族"が案外簡単に沈められたと思ったが、私達に喧嘩を売りに来た蟲野郎はあいつだけではなかったか。

 

「……は?」

「……む、し……?」

 

 ──────────

 :匿名の視聴者さん

 ええ……

 

 :匿名の視聴者さん

 虫の姿か?これが……?

 

 :匿名の視聴者さん

 ケンタウロスやんけ

 

 :匿名の視聴者さん

 キモいキモいキモいキモいマジ無理

 

 :匿名の視聴者さん

 喰纏種ってやつか……?

 

 :匿名の視聴者さん

 サムライケンタウロスかぁ

 ──────────

 

 ──クアッドビートル……だよな……?

 

 地面を迫り上げ、横たわる"毒震貴族"を天高く弾き飛ばして現れたのは。

 クアッドビートルと思しき虫を中心に、数多くの虫型モンスターを継ぎ接いで作った、鎧武者姿のケンタウロス……といった容貌の虫であった。アナウンスが無いのを見るにエクゾーディナリーではないようだが、クアッドビートルというのはこんな姿を取れるモンスターなのか?知識が無いから何も確かなことが分からんのが困る……

 

「分かるのは……敵対してるってことくらいだな」

「時間が押してるのに、面白そうなのはこんな時にばっかり出てくるんだから……!」

 

 "毒震貴族"と同じだ、こうして出逢ってしまった以上は見逃すなどあり得ない。レアモンスターを前にして逃げ出すようでは、そんなのゲームをプレイしている甲斐が無いじゃないか。

 待ち合わせに遅れないようにするためにも、こいつも迅速に倒す必要があるが……表示された名前とレベルを見る限り、兄さんに会ったらまず遅刻を詫びるところから始めなきゃいけなさそうだ。こいつは間違いなく、この千紫万紅の樹海窟というエリアには釣り合わないくらい……強い。

 

【レアモンスター・エンカウント】

 

【『クアッドビートル"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"』LV:175】

 

【参加人数:2人】

 

【戦闘を開始します】

 

「……やっぱり、おめーといると暇しないな」

「……それ、褒めてるの?」




オリモンスター紹介.1
エンパイア・ビー・セクスタ"毒震貴族(ロンリービート)
概要
 エンパイア・ビー種の雄個体である「セクスタ」は、普段は巣の中でクイーンやガーターに守られて繁殖期まで何をするでもなくぬくぬくと暮らす。そして時期が来てクイーンとの交尾を終えると用済みとなり、巣から追い出され単独で生きることを強いられるようになる。
 殆どのセクスタは、巣から追い出された後死因は様々だが大抵1〜2日程で死ぬ。しかしごく稀にだが現れるサバイバル能力に優れた個体は生き延び冬を越すことができ、その後他のクイーンの巣にも行かず単独のままその生涯を終える。故に"毒震貴族(ロンリービート)"は不世出なのである。


振動空間
 空間を歪ませる程の超速の羽ばたきで、自身の周りを真空に近い状態にする。空間内は酸素がほぼ無いため弱点である火属性の攻撃をヒットする前に無効化することができる。
 また、「セクスタ」は毒針が存在しないため毒を撒く時は全身の関節から行う。そのため振動空間内は散布された毒で満たされており、侵入するだけで毒と空気の震えによるスタンを受ける。

ソニックブーム
 振動空間を一時的に拡張し、空間範囲外にいる敵にもダメージを与える。毒とスタンを撒き散らすことが目的であるため、ソニックブームそのものの威力はかなり抑えめ。
 かなりの厚い弾幕を展開する上、受けると確定で毒状態になるため、最大HPの低いプレイヤーは苦戦を強いられることになるだろう。ソニックブームを受けたプレイヤーは"毒震貴族(ロンリービート)"のヘイトが増大する。

噛みつき
 サバイバルの中で発達した顎による攻撃。特に追加効果は無いがその分威力が高い……が、元がエンパイア・ビーなのであまり強くない。一応単純火力では最強の攻撃。

エクゾーディナリースキル『独身貴族(ロンリービート)
使用条件
・クラン・ギルド・パーティに所属していない
効果
発動から200秒間以下の効果が発動する
・STR・DEX+200%
・スキル使用・回避行動でのスタミナ消費量減少
・物理攻撃に毒属性付与
・敵が複数の時確率で即死
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