ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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15:輝く水晶を求めて:墓守の継子

 シャンフロのモンスターには、喰纏種(キメラ)と呼ばれる他のモンスターを捕食しその特徴を自身に反映させることのできる特殊個体が存在する。

 

 そのクアッドビートルは、千紫万紅の樹海窟における隠しエリア『秘匿の花園』──の更に先、かつてユニークモンスター「墓守のウェザエモン」が妻の墓を守護していた地『反転の墓標』──その地下深くに蛹として眠っていた。

 

 産まれながらの喰纏種であったそれは、幼虫の頃より主食の土だけでなく、地中の虫や同類、マナを多分に含んだ鉱石類を捕食。通常種のクアッドビートルとは一線を画す巨体を幼虫の時点で実現し、蛹は羽化するその時を待っていた……のだが、ここで一つの予想外があった。

 

 それは、場所。

 

 反転の墓標には月に一度、ウェザエモンを倒さんとする挑戦者がやって来る。ウェザエモンはその度に挑戦者を迎撃し、かつての時代の英雄たる力を以て全てを退けてきた。その戦闘の衝撃は地下で眠る蛹にも強く伝わっていたのだ。

 

 ──あんな風になりたい。

 

 蛹はきっと、そんなことを考えたのだろう。

 

 喰纏種の特性を活かし、蛹内で構築中だった成虫の肉体を変更。振動から学習したウェザエモンの戦闘を再現できる肉体構築を行う。

 

 更に戦闘の余波で散らばったマナを回収し、それらも自身の成長に当てる。全ては己の糧となり得るもの全てを捕食できる力を付けるため……特殊個体故に繁殖ができない喰纏種は、その分の本能が他に回されることが多い。このクアッドビートルの場合は、生殖本能が完全に食欲に置き換わっていた。

 

 やがて、ある3人のプレイヤーによってウェザエモンが永き墓守の役目を終えたその後。雌伏の時間を終えたクアッドビートルもまた地上へ登り立つ。

 

 その名を『クアッドビートル"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"』

 

 英雄に憧れ、英雄にならんとしたモンスター……不世出にも勝る力が牙を剥く。

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□□□□□□

 

 

「タ、チカ、ゼ」

 

 ──疾い!?

 

 "彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"の右腕……肥大化した鋭い鉤爪が大太刀を思わせるそれが腰に構えられる。そして一瞬の溜めを経て解き放たれた。

 どうにか「パリングプロテクト」を間に合わせ防いだが、発生が早過ぎる。しかも受け流した後ろで樹木が盛大に爆ぜたのを見るに、あの腕の長さ以上に当たり判定が長いことは確実だろう。威力も恐らく私でも即死するくらいにはあると見ていい、直撃だけは絶対に阻止する必要があるな。

 

 ──巻き添えになったミミクリー・マンティスが即死してるし……プレイヤーなら余程耐久に振ったタンクじゃないと耐えらんないだろ、アレ。

 

「ロンミン、大丈夫!?」

「何とか……エンチャントよろしく、『力』で!」

 

「ラ、イシ、ョウ」

 

 "彼岸の徒"が右腕を掲げると、今度はどこからともなく無数の落雷が降り注ぐ。またしても周りの虫達が巻き添えになり素材を散らす中、私達はそれに目もくれず回避に神経を集中する。

 数は多いし発生もまた早いが、隙間がそれなりに広く予備動作もあるので避けるのは難しくない。しかし"彼岸の徒"は「ライショウ」の発動中も普通に動いて来るので、雷で移動を制限されながら本体にも注視しなければならないクソゲー状態を強いられるのがとても辛い。

 

「タ、チカ、ゼ」

 

「くっそ、この調子が続くとなるといつか凡ミスして死にそうだな……」

「『生命の神薬』なら、あと3個残ってるけど」

「……だったら私が預かるよ。死にやすいのは私よりもヘルTの方だろ」

「じゃあ、よろしくね!」

 

 ヘルパーT細胞から蘇生アイテムを受け取り、奴が死んだらすぐに使えるようにしておく。自分で持っておくと自分には使うのは難しくなるが、今回も勿論死ぬつもりはない。

 リュカオーン戦では蘇生アイテムのおかげで命を拾うことができたが、縛りで禁止しているのはあくまでリスポーンのみとは言え、流石に最初から頼り切りにするのは違うだろう。今回は私自身は蘇生アイテムを使わずに勝って見せようじゃないか。

 

「タ、チカ、ゼ」

「遅えよ。もう射程内だぜ」

 

 無数の「ライショウ」と、神速の「タチカゼ」を潜り抜けて懐に潜り、持ち替えた傭兵の双刃で新スキル「無尽連斬」を発動。スタミナの続く限り硬直無しで連続攻撃ができるスキルであり、手数の多い二刀流との相性は抜群。

 異形の虫であっても、甲殻に守られていない腹が弱点なのは変わらないらしい。多少は取り込まれた他の虫で腹を守っているが、無尽連斬の手数を前にその程度は誤差にもならない。このまま攻撃を続けて怯みを更新し、ヘルパーT細胞の高火力攻撃を当てるチャンスを作る……その皮算用は、突如飛来してきた『左腕』によって破られてしまう。

 

「オ、オ、シケ」

 

「ロンミン、大丈夫!?」

「どうにか……投げ技か、今のは……!」

 

 巨体に見合う程度だったはずの左腕、それが予備動作無しで更に巨大化した上に、投げられるまで何をされたかすら分からない程の発生の速さ。「タチカゼ」もヤバかったが、この「オオシケ」は見てからの回避は不可能と考えた方が良い。

 幸いなのは、樹木に叩きつけられて尚も私のHPは3割程度しか減っていない低威力。流石にあんな対処させる気のない技を、即死にしないだけの理性は運営に残っていたようだ。私が近付いてすぐにやってこなかったところから考えるに、一定時間接近しているプレイヤーを遠ざけるための技。ヒットアンドアウェイを意識して立ち回れば、発動そのものを封じることができるはずだ。

 

「カ、サ、イリュウ」

 

「炎の龍……ッ!?」

「樹海で使って良い技じゃねーだろぉ!?」

 

 腰溜めからの居合い、天に掲げてからの落雷に続いて、今度は腕を地面に突き刺して炎の龍を召喚し広く飛び回らせる。

 草花を焼き尽くし樹木を炎上させ、その火勢は龍が消えても弱まるどころかより強みを増し、千紫万紅の樹海窟というエリアを焦土へ変える。何をどう考えても、燃えるものばかりのこのエリアでやって良い技じゃないだろ。ふざけやがって。

 

 攻撃そのものに大した脅威は無い……問題なのは火災が発生してエリアが居るだけで少しずつダメージを受ける灼熱状態になり、しかも踏むと炎上させられるダメージ床までできてしまったことだ。

 体力の多い私はまだ良い、大変なのはHPが初期値の10しかないヘルパーT細胞だ。灼熱状態のフィールドに居ると、プレイヤーは10秒につき1のダメージを受ける。つまりあいつは対策がない限り100秒で必ず死ぬことになるのだ。

 

「ヘルT、体力は!?」

「一応リジェネアクセサリー付けてるけど……あれ30秒毎に1回復だから間に合わないよ!」

 

 ──うーむ……マズイな……

 

「ラ、イシ、ョウ」

 

「わわっ!?」

「話し合う暇も無いな、クソ……!」

 

 守ってばかりの戦況を変えるための話し合いすらままならない"彼岸の徒"の猛攻。「ライショウ」をどうにか全て回避することはできたが、その後の追撃の「タチカゼ」を、奴は近い私ではなくヘルパーT細胞に向けて放った。

 

「あっ……」

「ヘルT!?間に合え、クイックスロー!」

 

 ヘルパーT細胞のアバターが、「タチカゼ」の直撃を受けて爆散する。散らばったポリゴンの欠片の中にすかさず生命の神薬を投げて蘇生させたが、この状況では何度使うことになるか……

 死から復帰したヘルパーT細胞は、すぐに【属性付与(エンチャント)『水』(ウォーター)】を発動し灼熱空間への耐性を付与。ダメージが消える訳ではないが、これで多少は焼死するまでの時間を稼げるようになった。

 

「このままじゃジリ貧だね……どうする?」

「一応、この灼熱空間で奴自身もダメージを受けてるみたいだけど。それで死ぬ前に火が消えるか私達が死ぬかが先だよなぁ……」

「なら一つ、提案があるんだけど」

「聞かせて」

 

 ヘルパーT細胞の提案は、私と奴の役割を変更するというものであった。今の私が前衛、奴が後衛という状態を反転させ、私が後衛、ヘルパーT細胞が前衛になるというもの。

 灼熱空間は広く、範囲外に出ようと思えば魔法の射程でも届かなくなってしまう。更に"彼岸の徒"は遠距離攻撃や範囲攻撃手段も豊富で、私がタンクとして守り切ることも難しい。ならば自分は守られるのではなく攻める側に回るべきだと。

 

 確かに、奴の高いSTRなら私よりも高い物理ダメージを叩き出せる……しかし、接近する分敵の攻撃に被弾するリスクはより大きくなる。ただでさえ擦り傷でも死にかねないのに、そんなリスクを背負って大丈夫なのだろうか。

 

「当たらなければ何とやら、だよ。被弾しなければダメージはスリップダメージだけで、条件は今までと変わらないし……それに、私は人生縛りをしてる訳じゃないもの。死んでもサードレマでリスポーンするだけなんだから、その時はまた頑張って先に行ったロンミンに追いついてみせるよ」

「そっか……なら、回復と援護は任せな。サードレマのショップで買った投げナイフと回復ポーションがある、これでお前は死なせない」

「頼もしいね!それじゃあ、交代だよ!」

「おう、しっかり火力出してくれよ!」

 

 意見は纏まった。「ライショウ」による落雷の雨を避けながら立ち位置を交換し、私は武器をインベントリにしまい投げナイフを取り出す。所詮はアイテムなので攻撃力は頼りないが、後方支援としてはこれでも十分使える範囲内だ。

 ヘルパーT細胞のHPは10、水のエンチャントで耐性を得ているので、灼熱空間で受けるダメージは15秒毎に1に変更。更にアクセサリーの効果で30秒毎に1回復するので、5分以内にポーションを当てることで死亡までの時間をリセットでき、失敗は二度までならリカバリー可能。この条件下で"彼岸の徒"倒すだけの火力を出す。

 

 ──大丈夫、私達ならやれる……!

 

 あれでもトッププレイヤーの一人だった女、実力はしっかりあるのだ。ステータス的にも私より高いし今はあいつを信じる、それだけだ。私は私でやるべきことをやろう。

 

「あまり接近時間が長いと投げがくるぞ!見てからの回避はまず無理だから、そもそも出させないように適当に離れて!」

「ロンミンがぶっ飛ばされてたアレだね!確かに私ならあれでも死んじゃうもんね……!」

 

 ヘルパーT細胞の杖術で、少しずつ"彼岸の徒"のHPを削っていく。双剣の傭兵の双刃より手数では劣るものの、本人の高いSTRと武器の攻撃性能でカバーし、的確に弱点の腹部を叩くことで私よりも数段大きなダメージを出す。

 ほぼ毎回のようにくる「ライショウ」もしっかりと回避し、「タチカゼ」は溜めのモーション中に肘を叩くことで動きを崩し、技そのものをキャンセルさせることで対策。「オオシケ」も適宜距離を取ることで発生を防ぎ、「カサイリュウ」は自爆するからかあれ以降使ってこなくなったし、これ以上他の技が増える様子も無い。ヘルパーT細胞の集中力が続く限りは、このまま上手くいけそうだ。

 

「タ、チカ、ゼ」

「ロンミン、よろしく!」

「おうよ、受け取りな蟲野郎!」

「ナイスシュート!」

 

 回復ポーションを適宜投げてヘルパーT細胞を回復してやり、奴が攻撃の直後などでパリィが間に合わない時は、ナイフを投げて私が「タチカゼ」の妨害を行う。「クイックスロー」の補正があれば私のSTRでも問題無く阻止できるのが助かる。

 そしてヘルパーT細胞の集中力が切れてきて動きのキレが鈍ってきたら、役割を交代し集中力が戻るまで前衛を担う。このサイクルを繰り返して少しずつ少しずつ、"彼岸の徒"を削っていく。かつてのリュカオーン戦を思い出す牛歩作戦だが、あの時以上にこちらのレベルは高くなっているので、その時が来るまで当時程の時間は掛からなかった。

 

「キ、キキキ、キキ、キ……」

 

「何だ、苦しみ出したぞ」

「くっ付いてる周りの虫が剥がれかけてる、そろそろ限界が近いんだとおも、う……」

 

 HPをかなり削ったことで、肉体の維持ができなくなったのか"彼岸の徒"を構成する虫達がどんどん剥がれていく。

 肉の隙間から漏れ出る煙と、頻繁にかつ勝手に起こる怯みモーションが、奴の命はもう保たないということを物語っている。このまま自壊し切って戦闘はもう終わりだ、乱入によって先送りになっていたエクゾーディナリーの報酬も、これで貰えるようになるだろう……その楽観的な考えを覆す音が、奴の身体から鳴り響く。

 

「テ、ンキヨ、ホ、ウ」

 

 ──は、負けイベ?ここまでやって?

 

 技の宣言と共に放たれたのは超範囲の衝撃波。

 その名を「テンキヨホウ」というらしいそれは触れる草花を消滅させながら、じりじりとしかし退避も難しい速度で私達に迫る。私より"彼岸の徒"の近くにいたヘルパーT細胞は対応する間も無く直撃して蒸発、投げ込んだ生命の神薬も衝撃波の壁に阻まれて爆散してしまった。

 

 ──衝撃波はパリィできない、食い縛りで耐えてから回復する!?いや間に合わないか、その前にスリップダメージで死ぬ!

 

 何か、何か方法は無いか。「テンキヨホウ」を生き延びてかつ、ヘルパーT細胞を蘇生させることのできる起死回生の方法は。

 何を考慮しても、思い浮かばない。今の私の手持ちのアイテムとスキルでは、自分一人生き延びるのはともかくとして、ヘルパーT細胞をデスポーンさせない方法を取ることができない。

 

 あいつに人生縛りは無いと言っても、デスポーンすれば私が勝っても戦闘報酬は貰えなくなる。エクゾーディナリーの報酬も、レアモンスターの希少な素材も何も無く、ただ時間とアイテムを浪費させられただけになってしまう。

 所詮はゲームだ。徒労感は出るしモチベーションも萎えるだろうが、またチャレンジすれば良いのだと簡単に言うことはできる。だが今回の攻略にあいつを誘ったのは私であり、私にはあいつに同行するに足るだけの価値を齎す必要がある。ここであいつを死なせてしまっては、私はただ奴の時間を無駄に使っただけになる──そんなのは御免だ。

 

「一か八か、試してみるか……!」

 

 武器を傭兵の鉄鎚に持ち替え、スキル「クエイクスタンプ」の用意をする。地面に攻撃して穴を開けそこから「テンキヨホウ」を抜ける作戦。

 衝撃波が地下にまで影響しているなら絶対に失敗する作戦だが、やってみないことには分からない。絶対に成功させてみせると意気込んで鉄鎚を振り下ろす、その瞬間のことだった──

 

「ロンミン、そのスキルストップ!」

「え……?」

 

 ──鉄鎚を振り上げた私の前に、聴き覚えのある男の声をした女が割り込み。その両手に構えた盾で「テンキヨホウ」を防ぎ切ってみせたのだ。

 

「【魔法障壁(マジックシールド)】……間に合ってよかった。二人とも俺を除け者にして、ずいぶん楽しそうじゃん」

「……力也兄さん、だよね?」

「はっ、助かったぁ……あれ、お兄様?」

「黎桜ちゃんも、相変わらず変な名前だね」

 

 女の頭上に表示されたPN……事前に兄さんから聞いていた「アクアリエ」という名前。私を助けたのは力也兄さんだったのだ。

 いきなりのエントリーに驚きながらも、確認とヘルパーT細胞の蘇生は忘れない。蘇生猶予は迫っていたので呆けていたらやり損ねるところだった。

 

「配信見てたよ。これは約束の時間に間に合いそうにないなって思ったから、こっちの方から会いにいくことにしたんだ。せっかくのレアモンスター、俺も一枚噛ませてもらうよ!」

「……もちろん、頼りにしてるよ!」




 "彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"は言うなれば劣化ウェザエモン。
 反転の墓標でのウェザエモンの戦いぶりをラーニングし自身に落とし込んでいるが、一部の技は再現(灰吹雪など)できず、その上肉体構成の都合で再現し切れていない技(入道雲など)も多くある。しかし逆に、オリジナルウェザエモンより性能の良い技(大時化など)も存在する。
 晴天大征は()()できない。できるようになるには再現度をもう少し上げる必要がある。
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