ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「ログインしてからは見れてないから分かんないんだけど、どういう状況なの?」
「スリップダメージ空間の中で、超速の抜刀攻撃と落雷を回避しつつ本体を殴る。そしたらいきなり苦しみ出してさっきの衝撃波撃ってきた」
「オーケー、だいたい分かった」
「でも、今の残りHPどれくらいなんだろ?」
かなり苦しんでいるようだし、継ぎ接ぎの虫がボロボロに崩れてもいる。しかしまだまだ奴が死ぬような様子は無く、崩れた側から新しい虫が中から湧いて身体を作り直していく。息の根を止めるまではもう少し時間が掛かりそうだ。
そもそも、HPに関しては私達の感覚で言っているだけで、実際にどれくらい残っているのかを正確に知る術は無いのだが。流石にあのボロボロの見た目で全然ダメージが無いなんてことは、あり得ないと思いたいが……
「私とヘルTでアタッカーやるよ。兄さ……アクアリエはヘルTのお守りをよろしく」
「オーケー、任せときな」
「よろしくね、お兄様!」
「さて、いこうか……削り切るよ!」
私が前衛に移動、ヘルパーT細胞も引き続き杖術による前衛の立ち回り、アクアリエが先程まで私がやっていたヘルパーT細胞の補助を引き継ぐ。後はまた「テンキヨホウ」を使ってきた時に、さっきのように防いでもらう。
少人数のパーティでは、人数が一人増えることは戦力が一気に上昇することを意味する。それが私達ではダウンした分を含めても届かない、レベル99の頂にいるプレイヤーならば尚のこと。アクアリエは【
「ラ、イシ、ョウ」
「その技にはもう当たらないよ!」
「攻撃がワンパターンなんだよ!」
何度目かとなる「ライショウ」、見飽きる程に見てきたそれをしっかりと全部回避し、二人でスキルを発動し攻撃を加える。
しかしここから追撃はできなかった。左右から私達を狙って放たれた二つの雲が、行く手を遮った上呑み込まんと迫ってきたからだ。
「ニュ、ウドウ、グモ」
「それはしらない」
「ここにきて初見の技使ってくるか普通!?」
「そんな時のための俺だよね……っとお!」
「ありがと、お兄様!」
もう追加は無いと高を括っていた初見の技、それをアクアリエの盾が引き受ける。自慢の防御力でしっかりと受け止めた上で、カウンターの「シールドバッシュ」で雲を弾き飛ばした。
今回は助けてもらえたが、ちゃんと次からは自分で対処できるようにしておかねば。今の一連の流れで"彼岸の徒"の背後が「ニュウドウグモ」の安地ということが分かったし、使ってこられた時はそっちに回り込んでやろう。
「タ、チカ、ゼ」
「その攻撃はもう……見えてる!」
「お見事、ブロウスイング!」
「オ、オオオ、オ……」
私が鉄刀で「タチカゼ」をパリィし、ガラ空きになった懐へ、ヘルパーT細胞の「ブロウスイング」が炸裂する。エンチャントによる補正、無防備状態による補正、クリティカルによる補正が合わさってそのダメージは凄まじいものになる。体長だけでも4、5mは優に超えるだろう巨体を、遂に地面に転がせるレベルで吹っ飛ばした。
転倒の衝撃で、"彼岸の徒"のケンタウロス状の下半身の後脚が崩れ落ちる。もはやバランスを取ることすらも難しいだろうに、"彼岸の徒"は器用に残った二本足で立ち上がり、再び「テンキヨホウ」のモーションに入った。
「テ、ンキヨ、ホ……」
「またくるよ、テンキヨホウ!」
「アクアリエ、よろしく!」
「おう、任せなさい……ッ!?」
「ブブブブブブ……!!」
「あいつ……"
「まだ生きてたんだ!?」
アクアリエが「テンキヨホウ」を防ぐべく強化したシールドを展開し、私達もその中に隠れる。そして凌ぎ切るのを待つ隙間に、"彼岸の徒"に吹き飛ばされた後もしぶとく生きていた"毒震貴族"が突然のエントリーを果たす。
いきなり地面から現れて吹っ飛ばされた報復に来たらしく、"毒震貴族"は私達には見向きもせず真っ直ぐに"彼岸の徒"の元へ向かう。そして大技の最中で無防備な首元に、その鋭く発達した大顎を突き付け噛み千切ってみせたのだ。
「オオ、オ……!!」
「噛み千切ったあ!?」
「テンキヨホウがキャンセルされちゃった……!」
「しかもあれ凄え大ダメージだろ、ラッキー!」
千切られた首元を左腕で抑えながら、受けたダメージに呻く"彼岸の徒"。更に"毒震貴族"はそれだけでは終わらせず、ソニックブームの大乱射で追い討ちをかけていく。
毒による追加ダメージ、振動のスタンによるモーションの硬直、まともな動きを封じられた"彼岸の徒"に対してこのままリベンジを果たすのか──巻き添えにならぬよう見守っていた矢先に、"毒震貴族"は無から創られた『左腕』に掴まれ、そのまま地面に強く叩きつけられた。
「カッ……!!?」
「食べてる……!?」
「これは、マズいことになるかもしれんな……!」
「ちょっと、どういうこと?」
倒された"毒震貴族"、それを"彼岸の徒"は大口を開いてその身に取り込んでいく。喰纏種の行うという捕食行動、マズいと思い阻止しようと動くにはもう遅かった。
捕食によるHPの回復、エクゾーディナリーという特殊な個体を取り込んだことによる強化。私が想定していたのはそのくらいだったが、アクアリエによると、今の状況はそれよりもっとマズい事態になるかも知れないのだという。
私達にはまだ踏み入る資格の無い『新大陸』、そこには"
何度も何度も挑んでは返り討ちにされ、隠れては発見され、新大陸の開拓は"傷だらけ"に邪魔されまくったせいで遅々として進まなかった。
いい加減この状況を打破しよう……そう考えた攻略クランが討伐隊を組み、作戦を練っていざ憎き怨敵を討ち倒さんと動いたその時のこと。彼らが見たのは我が目を疑う光景であったのだ。
「"傷だらけ"が進化して、"
「モンスターもレベルアップするんだ……」
「そうだね。プレイヤーの見てないところで何かがあって、それでレベルアップしたことが進化の原因だろうって言われてるよ」
「つまりは……そういうこと、なんだね?」
──エクゾーディナリーを取り込んで……"彼岸の徒"が更なる進化を遂げる。
その考えの正しさを示すように、"彼岸の徒"の様子が変化していく。ケンタウロスの様だった下半身が圧縮されてより人型に近くなり、大柄な下半身に合わせて上半身も更に肥大化。"毒震貴族"を取り込んだせいか身体は黄味がかったようになり、奴と同じ六枚三対の翅が背を突き破って現れた。
ボロボロなことは変わらない、むしろ少し小突いただけでも崩れ落ちそうなくらい不安定だ。それでもその不安定な身体が、むしろ先程までよりも強い脅威を持っているということを、ゲーマーとしての勘が知らせてくれていた。
「まぁあるよね、形態変化」
「必要なところだけ残しました、って感じ……」
体長は2mくらいに縮んだだろうか。より人型に近くなったことで、元のクアッドビートルの甲殻の質感もあってより鎧武者の様に見える。まるで本当にそんな鎧を着た武者がいたような……
形態が変わって行動も変化している可能性が高いので、すぐには動かずアクアリエの盾を全面に押し出して様子を伺う。"毒震貴族"を取り込んだなら振動空間を展開しているかも知れないし、それ以外にも使う技が増えているかも知れない。
──さぁ、どうくる……
"彼岸の徒"は、大きさの変わらぬ右腕の太刀状の鉤爪を左手を添えて水平に構えた。早速きた前の形態では見せてこなかった構え、私達3人の緊張感が一気に高まっていく。
「セイテン、タイセイ」
瞬間、「タチカゼ」が舞った。
脅威的な速度の斬撃に対し、これまた脅威的な速度で受けたアクアリエの盾。それら二つは拮抗することすらなく交わり、盾は守る物からただの切れた鉄の塊へと成り下がる。
「はぁ!?こんなに強くなかったでしょ!?」
「中身が圧縮されたことで、その分力も強まってるってことなのかな……?」
理由が何であれ、"彼岸の徒"の技の威力が強まっていることに間違いは無い。防御力的には何でも防げたはずの盾を一太刀で斬り裂く威力、元より被弾即死のヘルパーT細胞はともかく、私とアクアリエにはかなり痛い強化である。
だがこれはチャンスでもある。「ライショウ」と違って「タチカゼ」はモーションが終わるまで次の行動に移れない、一瞬の間ではあるが次の行動まで攻撃できる隙が生まれる。どんなに早くても既に見慣れてしまっている技、単発なら何も怖くは……
「タチカゼ」
──ちょっ……
「タチカゼ」
──まだ!?
「タチカゼ」
──いつまで……ッ!
「タチカゼ」
……単発なら何も怖くはないって、カッコよくキメるつもりだったんだけどなぁ。
リキャストタイム無し、本来あったはずの後隙を潰しての「タチカゼ」高速連打。しかもヘルパーT細胞にもアクアリエにもヘイトを向けず、最初から私だけを集中的に狙ってきているときた。
パリングプロテクトでも怯まない、技の始まりを狙っても崩せない、完璧にスーパーアーマーが掛かっている状態。しかもパリィして気付いたが、鉤爪に触れると毒とスタンを受ける、"毒震貴族"のソニックブームと同じ効果が付与されている。ただでさえ即死なのに、不用意には触れることさえ許されないときた、まったく楽しませてくれる。
「二人は離れてて、巻き込まれないように!」
「わ……分かった!」
「こんなところで死なないでくれよ!」
妨害できるならしてほしかったが、スーパーアーマーがあるのではそうもいくまい。巻き添えになって死なれては困るので、「セイテンタイセイ」の間合いに入らないよう二人には離れていてもらう。
なぜ私を狙ったのかは知らないが、こうなった以上は文句を言うのも遅い。こんな大技なら終わった後は攻撃チャンスのはず、確実に凌ぎ切ってHPを今度こそ削り切ってみせる──!
「カサイリュウ」
──これは大丈夫……けど、しっかり距離取らないと直撃しなくても熱でダメージを受けるな。オーバーアクセルで素早く離れて……
「ハイフブキ」
「コンボ技ァ!?」
「ロンミン、すぐに離れて!」
カサイリュウで放たれた炎の竜は、そのまま空中で渦を巻き灰の雨を降らせる。コンボ技のようだが発動まで時間があるおかげで回避が間に合う、オーバーアクセル様々だな。
初見の技だけど、当たっても碌なことにならないだろうことだけは分かるので全力で避ける。直接触れたり吸い込んだりしなければ、範囲の決まっているこの技は無力化できる──
「ニュウドウグモ」
「こっ、の……八艘跳びィ!」
──ボスが着地狩りなんてしてんじゃねえ!
ハイフブキの範囲から逃れたその眼前にせまるニュウドウグモを、八艘跳びにより強化されたジャンプ力でどうにか避ける。
すかさず方向転換して背中を斬りつけるが、それは「オオシケ」によって防がれてしまう。武器だけを掴んでぶっ飛ばすなんて、どうしてそんな芸当がたかがモンスターにできるんだか……何かサムライ的なキャラがいて、そいつを参考にしているのか?
「ライショウ」
「っと……結局これが、一番厄介だな!」
即死級の火力、早い発生、でも一番厄介なのは落雷に移動ルートを制限されること。リキャストタイム無しで技を連発してくるようになった今なら尚更キツい。何せ次に出す技次第では即死が不可避となってしまうのだから。
そうならないためにも、常に「次」に備えてスキルを温存しつつなるべく広い場所に避難する。落雷自体を避けることは難しくない、とにかく追撃に対して細心の注意を払って見極めるのだ。
「さぁ、次は何が……」
「セイテンタイセイ、ルテ……ケヲ、テ、シュ……ナス」
──金縛り……ッ!?
セイテンタイセイが始まってから、避け続けてかれこれ1分近くは経っただろうか。遂に直接プレイヤーの動きを封じてくるという、どういう原理でやってんだと言いたくなる暴挙に出てきた。最初は振動空間のスタンかと思ったが、それとは違い効果時間が長く上半身は普通に動く。
つまり、次の一撃は避けるのではなく迎え撃てということなのだろう。どんな技が来るかは知らないが来るなら来い、何が来ようと弾き返してやる。
「──ワレ、リュウヲモタツ」
「……さぁ、来な!」
──テン、セイ!!
「ッ………………!」
「ロンミン!?」
──右腕を、やられた。
直前に鉄刀を「オオシケ」で投げ捨てられていたので代わりに装備した傭兵の双刃、これのおかげでどうにか命を拾うことができた。
あの「テンセイ」をパリィしようと「パリングプロテクト」を発動させたのはいいが、成功するタイミングのはずだったスキルは何故か不発。軌道は胴体から逸らせたので死は免れたが、代償として傭兵の双刃と右腕を失ってしまった。
──利き腕は無事……だけどやっぱり、隻腕だと重心取り辛いんだよな。
「二人とも、先にフォスフォシエに行ってて。必ずコイツを倒して合流するから」
「……!信じるよ?」
「大丈夫……なんだよね?」
「当然。生きてまた会おう」
"彼岸の徒"が私をターゲッティングしている以上は、二人がここにいる意味は薄い。スーパーアーマーのせいで横からの妨害もできないし、私が勝ちさえすれば、パーティを組んでいる二人にも撃破報酬はしっかり入るし。
セイテンタイセイの間に、"彼岸の徒"の肉体の崩壊もかなり進んできている。テンキヨホウを撃ってきた時のことを考えると、コイツの大技はHPの残量が、一定のラインを下回った時に撃ってくるようになっていると予想できる。それならこのセイテンタイセイはラストスパート……奴ももう虫の息のはずなのだ。虫だけに。
「さて……これで一対一。泣いても笑っても待った無し、私が生きるかお前が死ぬかだ!」
「オ、オオオ……セイテン、タイセイ……!!」
──どっちも同じだろって?やだなぁ、そういう決意表明ですよ。
セイテンタイセイ攻略、恐らく"彼岸の徒"撃破における必須条件。ならば、最期の一太刀まで防ぎ切ってフィナーレといこうではないか。
転がっていた傭兵の鉄刀を拾い上げ、初手「タチカゼ」を受け流す。右腕は失った、サポートも受けられない、それでも十分。この左腕と命が残っているなら、いつまでだって戦える。
「彼岸へ送り返してやるよ、蟲野郎!」
「タチ……カゼ!!」