ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「はい、毒消しポーション」
「サンキュ」
"
戦闘が終わって経験値やアイテム・スキルと色々報酬を貰えたので、早いところ安全な街に入って報酬確認と洒落込みたいが。よく考えたらまだエリアボス戦が残ってるんだよなぁ……奴ら程の強さは無いだろうとは言え、激戦の後で集中力切れてるし右腕無いし面倒なことになりそうだ。
「あ、それなら大丈夫だと思うよ」
「え、何で?」
ヘルパーT細胞は、エリアボスについては何の問題も無いだろうと言う。その理由は今はこの場に居ない兄さ……アクアリエによるもの。
パーティを組んでいるプレイヤー同士は、モンスターの撃破状況が共有されるようになる。だから私は"彼岸の徒"との戦いを引き受け、二人に先に進むよう促すことができた。倒したのは私独りであったとしても、パーティを組んだままならその経験値や報酬は二人にも行き渡るようになるから。
そしてそれは、エリアボスに関しても同様の仕様であるらしいのだ。アクアリエは今は先行してボス戦に挑んでおり、彼がボスを倒せば自動的にパーティを組んでいる私達も、ボスを倒した扱いになりこの樹海窟を通過できるようになる。
千紫万紅の樹海窟ボス、クラウンスパイダーは狭い戦闘エリアに加えて動き辛い足場に豊富なプレイヤー拘束手段を持つ強敵。しかしレベル99に達したプレイヤーであるアクアリエにとっては、ちょっと面倒程度の存在でしかない。戦闘が本職ではないとは言え多少の戦闘力は持っているのだ。
「多分だけど、私達がボスエリアに着く頃にはもう終わってるんじゃないかな?」
「じゃあ、ボスエリアは素通りできる訳か」
その予想通り、クラウンスパイダーは既にアクアリエによって撃破されていた。戦闘には参加していない私とヘルパーT細胞も無事素通りでき、後は短い順路を通ってフォスフォシエへ。衛兵の検問もカルマ値に何の問題も無いので素通り可能。数時間振りにセーブポイントを更新するのだった。
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「やっと、安全な場所で一息吐ける……」
「道中、濃かったもんねぇ」
「あの戦闘の報酬確認しておこうか」
セーブポイントを更新し、取り敢えず近くにあったカフェのような場所に腰を落ち着ける。
やることは"
まずは確定報酬。
・
パーティ・クラン・ギルドに所属していない完全ソロの時にのみ発動できるスキル。
発動すると200秒の間STRとDEXが3倍に上昇し、攻撃全てに弱めの毒属性が付与され状態異常の蓄積が可能となる。更に敵が複数体いる場合は確率で即死させることが可能。具体的な数値は書いていないしそこまで高いものではないだろうが、一瞬で数的不利を帳消しにできるのは魅力的だな。デメリットが無いのも扱いやすくて良いね。
・称号『男一匹』
"毒震貴族"撃破によって得た称号。私とヘルパーT細胞は女だけどそれでも男一匹。
・スキルポイント:20pt
エクゾーディナリーの共通報酬らしい。レベルを上げなくてもステータスを上げられるのは良いね。特に私もヘルパーT細胞も経験値がお互いに貯まり辛くなってるからこういうのは助かる。
ここまでが"毒震貴族"撃破の報酬。エンカウントした時にいなかったアクアリエには、これらの報酬は入っていなかった。倒された時にはいたけども会敵時にはいなかったからそこの違いかな?
・称号『いつの日か見た夢』
"彼岸の徒"撃破によって得た称号。あいつの撃破確定報酬はこれだけだった……
「エクゾーディナリースキルかぁ……強そうな内容だったし俺も欲しかったなぁ」
「しゃーない」
「エンカウントの時は居なかったもんね」
続いてはドロップ報酬。
・エンパイア・ビーの素材各種
・クアッドビートルの素材各種
通常種を倒しても手に入る汎用素材達。正直言って労力には見合わない程度の物だ、通常種のドロップなら喜ばしかったんだけどな……
・"毒震貴族"の天斬薄翅
・"毒震貴族"の激震大翅
・"毒震貴族"の樹壊顎刃
・"毒震貴族"の激毒袋
・"彼岸の徒"の機装甲殻
・"彼岸の徒"の無双勇角
・"彼岸の徒"の彼岸葬爪
・"彼岸の徒"の喰纏魂晶
二種それぞれの専用素材。フレーバーテキストから読み取るに激震大翅と喰纏魂晶がこの中だと最高レアの素材のようだが、"彼岸の徒"に関してはもっとレアな素材がある。
これらで装備を作成したら、きっと相当良い物ができるに違いない。ここまでの道のりで初期武器も刀と槍とハンマーだけになってしまったけど、真化させる日がとても楽しみになってきた。
・規格外エーテルリアクター(破損)
規格外戦術機とやらを動かすために必要なエネルギー源……とのことだが、肝心の規格外戦術機はどうやって手に入れればいいのだろうか。そんなの聞いたこともないし、たとえ見つけても通常規格では使えないってことだし……修復したとて規格外戦術機とやらが無い現状は無用の長物である。
・晴天流奥義書(破損)
解読することで、晴天流という武術の技をスキルとして使用可能になるアイテム……なのだが、これもまた破損してしまっている。テキストを読む限りこの状態でも使えはするようだが、その場合は覚えられるスキルに抜けができるとのこと。今は解読する手段も無いし修理してから使いたいので、これも今は無用の長物である。
「……今は使えないのが多いな」
「この素材達も、フォスフォシエ程度の進行度じゃ扱える職人に会えるか怪しいもんねぇ」
「生産職プレイヤーに託すか、もう少し……せめてイレベンタルくらいまではいかないと、この素材で装備を作るってのは多分無理だろ。アクセサリーなら俺が作ってやれるけど」
「アクセサリー……刻傷あるから付けれない」
──しっかし、どうしてあんな生き物生き物した奴からこんなハイテク品がドロップするんだろう?
エーテルリアクターに晴天流奥義書、どちらも神代の技術を使う代物だ。つい最近生まれたばかりの"彼岸の徒"から出てくるのは、どう考えてもおかしいと思うのだが……奴が「墓守のウェザエモン」なるモンスターを目指していたことが、これらのドロップに関係しているのだろうか。ウェザエモンは神代の戦士だったそうだし……
今は使えない物のことは置いておこう。アクセサリーだって刻傷のせいで使えないし……いや、正確には使えるけど累計3分で爆散する。たった3分のために、希少な素材をアクセサリーに加工するのはどう考えても割に合わない──
「──そうだ、リュカオーンの素材!」
「え?」
「出自を同じとする素材で作ったアクセサリーなら刻傷とも干渉せず装備できるんじゃない!?」
「じゃあ、俺が
試すことが一つできたところで、続いては私達それぞれが手に入れた個別の報酬。
アクアリエ
・規格外武装:大盾型【フォートレッド】
規格外エーテルリアクターを使用して稼働させることのできる規格外武装の一つ。使用には下記の規格外特殊強化装甲を装備する必要があり、セットで運用することが前提となっている。使えさえすれば強力な盾なのだろうが、やはりエーテルリアクターが破損している今の時点では使用不可能。
・規格外特殊強化装甲【大兜】
フォートレッドを運用するために装備する必要のある手甲型の武装。アクセサリー枠で装備することが可能であり、現在の装備構成を崩すことなく規格外武装の運用ができる。こっちはエーテルリアクターが必要無く、破損もしていないため今の時点でも装備することができる。
「良かった、使える物があって……」
「フォートレッドが今は使えないとしても、大兜だけでもだいぶ強そうなテキストだね」
「ずっと守りに徹したたからこその報酬かな?」
ヘルパーT細胞
・魔法秘伝書【
"彼岸の徒"が使用していた技の一つを、正式に使えるようになる魔法秘伝書。あの範囲と威力をプレイヤーでも使えるとするなら、特に複数体のモンスターを同時に相手する時に役立つだろう。ヘルパーT細胞はマジックエッジとファイアーボール以外の攻撃魔法を持ってなかったから、攻撃手段が増えるのはあいつにとっては大きいはずだ。
・魔法秘伝書【
火砕龍と同じく、"彼岸の徒"の技を魔法として使えるようになる秘伝書だ。火砕龍からのコンボでしか使えない汎用性の低い魔法だが、効果は広範囲に火属性ダメージと、窒息による継続ダメージ付与ととても強力なものになっている。対人よりかは対モンスターで輝く魔法と言えるだろう。
・魔法秘伝書【
"彼岸の徒"の技の中なら、出されて一番辛かった技を使えるようになる秘伝書。プレイヤーが使うと落雷の威力や数、発生位置を任意である程度コントロールできるようになる。消費MPは重いが制御さえ上手くできるなら、雷属性が効かない相手以外はこれ一本でもどうにかなるレベルの強力魔法だ。
「凄い、強力な魔法がたくさん!」
「今すぐにでも使える有能じゃん、ヤバ」
「これは、ヘルTが魔法使いだからこういう報酬になったってことなのかな?」
ロンミン
・覇憧葬爪【デミ・バンガード】
"彼岸の徒"の千切れた腕。アイテムとしてのカテゴリは片手剣のようだが……これをそのまま使うのはビジュアル的にちょっと嫌だな。武器としての性能は控えめに言ってカス、強化前の無印傭兵の鉄刀の方がまだマシと呼べるくらい。入手したての英雄武器みたいにボロボロだし、仕方ないけど……素材として見るなら"彼岸の徒"の素材の中では最も格が高いようだし、いつか鉄刀の真化素材として使うことにしよう、そうしよう。
・称号『兵が夢の痕』
セイテンタイセイを突破したプレイヤーにのみ贈られる称号とのこと。
「私はこれだけか……」
「一番頑張ったのに、一番しょっぱいね」
「まだ分からんぞ、そのアイテムを素材にして強化した武器がぶっ壊れになるかも知れん」
「それができる奴が居ねえんだよなぁ……」
報酬の確認はこれで終わり。あとは細かいところだと、私のレベルが15→36に、ヘルパーT細胞のレベルが24→40に上がっている。元よりカンストのアクアリエはそのままだが、100レベルオーバーのモンスターを倒したことで、上限突破可能となるサインであるExtendが付いた。
スキルポイントを割り振って、水晶巣崖に行きたいところではあったが、ここでヘルパーT細胞の方から一旦休憩にしないかと提案が出る。このまま水晶巣崖攻略まで映すとなると、一つの動画の中での取れ高が多くなり過ぎるので、配信を一度終わらせて枠を取り直したいとのことだった。
「良いんじゃない?前座でカロリー摂りすぎて疲れてるでしょ、一度ログアウトして1時間後くらいにもう一度このお店に集合しよう」
「ありがとうお兄様、それじゃあまた1時間後に会おうね!配信に来てくれたみんなもありがとう!また遊びに来てね、それじゃあお疲れ様でした!」
「悪いねアクアリエ、あんたのための集まりなのにまたしても待たせることになって」
「良いってことよ。ロンミンも一旦ログアウトしといた方がいいよ、ログインし直したらその削られた右腕治った状態で戻れるから」
──え、そんな方法で良いの?
了承を得るや否や、サッとログアウトとして消えていったヘルパーT細胞を見送ると、私もアクアリエからログアウトを勧められる。セイテンタイセイで失った右腕、水晶巣崖の前にどうにかして治せないかと思っていたが、まさかそんな簡単な方法で治せるとは……
それなら私もログアウトしておこう。ここまでの道のりは寄り道も含めて、全て高カロリーな中身だったので疲れているのは私も同じ。休憩できるのは助かるし、お言葉に甘えて私もフォスフォシエを抜けてリアルに戻るのだった。
──水飲んでトイレ行って、ラムネがあったはずだからあれも食べておこっと。
あまり長い時間ログインし過ぎると起こるリアルでの弊害。それらの対策をしっかりと済ませてからもう一度フォスフォシエに戻るのだった。