ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
リアルでの用事を終えて、私はシャンフロにログインし直してフォスフォシエに戻ってきた。削られていた右腕はすっかり元通りになったし、これなら水晶巣崖攻略にも支障は無いな。
用事と言っても大したことはしてないので、集合時間までかなり時間が余っている。せっかく新しい街に来たことだし、時間までアイテムの補充と装備の強化をしておこうかな。スキルポイントを振ってステータスの強化も忘れずに。
「回復ポーション、マナポーション、携帯食料に対アンデット用の聖水……こんなもんかな」
アイテムショップでアイテムを購入。生命線の回復ポーションと携帯食料に加え、奥古来魂の渓谷はアンデットばかりの瘴気に満ちた場所なので、それらを対策する聖水。そしてヘルパーT細胞がMP切れを起こした時のためのマナポーション。
聖水に関しては、用意はしたが私とヘルパーT細胞には無用の物であろう。中盤に差し掛かる程度の進行度のアンデットや瘴気程度が、あらゆる呪いを弾く効果がある、リュカオーンの刻傷に勝てるとはとても思えない。多分この聖水はアクアリエに使ってもらうことになるだろうな。
「遂にここまで来たか……『改十』!」
武器屋で装備を強化。傭兵の鉄刀・鉄槍・鉄鎚をそれぞれ『改十』まで強化、武器倍率が微妙に上昇し耐久力が『改七』時の1.5倍に。ただの初期装備からよくぞここまで強くなったものだ。ただ数が少なくなってきたから、これからはなるべく壊さないように運用していきたいな。
ちなみに、強化に使った素材はクアッドビートルのもの。"
そしてついでに防具も強化してみた。防具も武器と同様に強化することが可能で、最大で15段階の強化が可能。資金との兼ね合いでこちらは【改五】までしか強化できなかったが、防御力は何とこれまでの5倍に!
……それでもまだ、私のステータスVITの方がだいぶ高いんだけどね。死火口湖の道中で手に入れたスキルポイント、かなりVITに注ぎ込んでいたから。こいつらもいつか真化させるつもりだけどいつになるかな、待ち遠しいや。
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PN:ロンミン
LV:36
JOB:傭兵(片手剣)
245400マーニ
HP:400
MP:1
STM:155
STR:100
DEX:100
AGI:250
TEC:100
VIT:180(+50)
LUC:100
スキル
通常
・バンカード・ピアス
・
・乾坤一擲
・草薙ノ太刀
・秘剣【剛力】:LV.1
・秘剣【烈火】:LV.1
・秘剣【雷電】:LV.1
・秘剣【竜巻】:LV.1
・居合術【力】:LV.1
・クエイクスタンプ
・ブロウスイング
・スカイスマッシュ
・フォートレスブレイカー
・縷々閃舞
・一念岩穿
・破壊王:LV.1
・ニトロゲイン
・ハンド・オブ・フォーチュン:LV.7
・クライマックス・ブースト:LV.1
・餓狼の闘志:LV.1
・セツナノミキリ
・クリティカル・フォーカス
・フォーミュラ・ドリフト
・蜻蛉返り
・水渡り
・脱兎ノ如シ
・オーバーアクセル:LV.MAX
・キラーエスケープ:LV.1
・ハイエストジャンパー
・フリットフロート
・トライアルトラバース
・遮那王憑き
・五分蟲魂
・死中に活:LV.MAX
・
・
装備
右:無し
左:傭兵の鉄刀『改十』
頭:赤いバンダナ『改五』(+10)
胴:旅人の服『改五』(+15)
腰:旅人のズボン『改五』(+15)
足:旅人の靴『改五』(+15)
アクセサリー:無し(リュカオーンの刻傷)
アクセサリー:無し(リュカオーンの刻傷)
アクセサリー:無し(リュカオーンの刻傷)
アクセサリー:無し(リュカオーンの刻傷)
アクセサリー:無し(リュカオーンの刻傷)
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「強くなったなぁ」
レベル的にはまだまだ低いが、それでもステータスはめちゃくちゃ高くなった。小さな祝福の効果でスキルポイントが増えているので、レベルアップの遅さを一回の上がり幅の大きさで補える。おかげで実質的なレベルは130くらいはあるだろう。スキルの質と量もだいぶ良くなったものだ。
これだけのステータスなら、きっと水晶巣崖の蠍にも負けないという自信がある。しかし相手は幾多ものプレイヤーを返り討ちにした強敵、決して油断してはならない相手。自分もアクアリエも死なせないよう気を引き締めていかなくてはね。
「お待たせー。ロンミンは早かったね」
「私はそんなやること無かったからね」
ヘルパーT細胞も集合時間にきっちり間に合い、改めて3人で奥古来魂の渓谷へ向かう。水晶巣崖までもう少し……また前座で強いモンスターが出てきても対応できるよう、万全に準備を整えてからフォスフォシエを出るのだった。
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「ここが、奥古来魂の渓谷か……」
「いつ見ても恐ろ恐ろしい所だね」
フォスフォシエを出てすぐ感じた、絡みついてくるようなどんよりとした空気感。刻傷が作用してすぐに解消されたということは、これがエリアボスの出すという瘴気か。実際に刻傷を持つ私とヘルパーT細胞の周りだけは、瘴気の影響が消えて清浄とも言えるくらい綺麗な空間になっている。
エリア自体も、水晶巣崖以外は寄り道も無い一本道だそうだし快適に進めそうなのは助かる。後は高レベルモンスターがどれだけ居るかか、ヘルパーT細胞のレベルである40以上のモンスターは、私達に積極的に襲い掛かるようになる。その数次第で渓谷攻略の難易度は大きく変わるだろう。
──私には小さな祝福の聖属性があるから、アンデット相手なら苦戦はしないと思うけど。
「これはアクアリエに渡しとくよ。一応聖水は買っておいたけど、私には必要なさそうだ」
「ありがとう。それじゃあ取り敢えずは渓谷の真ん中辺りまで進もうか。あの辺が一番上に登りやすい地形になってるからね」
「よーし!いざ行かん、奥古来魂の渓谷!」
「やっぱそれやるんだね」
という訳で攻略開始。ちょくちょくゾンビやスケルトンといったアンデットが出てくるが、こいつらはレベルが低いようですぐに逃げていく。数が集まれば、強気になって襲って来るのもいるようだけど群れないモンスターなら関係無い。
他にはゴーストや蜘蛛、人面が付いた動物などがいたけれど戦いにはならなかった。普通なら瘴気対策にリソースを取られるから、モンスター自体の強さは控えめになっているということかな?今の時点だと千紫万紅の樹海窟以上に平和だし。
「あれは……ワイバーンゾンビ!」
「向かってきてるな、戦闘になるぞ」
「なら、ここは私に任せてもらおうか!」
「よろしく!」
強さ控えめとは言え、やはりそれなりに強いモンスターも存在している。一度死んでから蘇った身体の所々が腐り落ちたワイバーンゾンビ、それが3体同時に襲撃を仕掛けて来たのだ。
ここは私一人で対応する。今まであまり恩恵が無かった小さな祝福の聖属性付与効果、それがどれ程のものであるか試す良い機会だ。ついでにレベルアップと剪定で生まれた、新たなスキル達の試し撃ちの的にもなってもらおう。
「いくぜ、傭兵の鉄刀『改十』!」
刀を腰に構え余計な力を抜く。スキル剪定により生まれた新たなスキルの一つ、「居合術【力】」を発動するモーションである。その効果は抜刀攻撃に威力補正と破壊属性を追加するもの、まだLV.1なので威力は低いが、そこは他のスキルを組み合わせることで補える。
「食らってみな……「秘剣【竜巻】」!」
「ギャアアアアアァァッ……!!?」
「ギイィ!!」
「ガアア!!?」
「おお、大ダメージ!」
「多段ヒットか、良いスキルじゃん」
──あっ、死んだ。
新スキルの一つ、「秘剣【竜巻】」はヒットした対象に数秒間斬撃ダメージを与え続ける。発生箇所は全身の中からランダム、威力は元となる攻撃の発生速度に依存する。攻撃の速さにはAGIだけでなくTECも関わるので、十全に扱おうと思うとかなり育成コストが掛かりそうだ。試してみた限り今の時点でもだいぶ強力なスキルのようだが。
居合術【力】により、強化された抜刀攻撃に乗せられた秘剣【竜巻】。小さな祝福の聖属性と居合術【力】の破壊属性でアンデットへの特攻が加わったその一撃は、ワイバーンゾンビの腐った肉体をミキサーに掛けたように引き裂き、スプリンクラーのように撒き散らしていく。【竜巻】が消える頃には奴の身体は骨の欠片すら残っていなかった。
──あと2匹、しっかり殺す!
「傭兵の鉄槍『改十』……次はお前だ!」
「ギャッ!!?」
武器を変更し、ワイバーンゾンビの片方を掴んでぐるぐるとぶん回す。十分に勢いを付けたところで新スキルの一つ「乾坤一擲」を発動。空を覆い隠す瘴気をぶち抜く勢いで、思いっきり天高くまでぶん投げてやった。お空の旅は楽しいか?それがお前の見ることのできる最期の景色だ。
勢いを落とし自由落下していくワイバーンゾンビの背中に向け、スキルを用意して待ち構える。HPを最大値の2割分削り、STRとAGIを強化する「ニトロゲイン」と、そして変化したことで自傷ダメージでもデメリット回避ができるようになり、かつ効果量も増量した「
「「バンカード・ピアス」……ッ!そしておかわりもう一丁「
グローイング・ピアスから進化し、貫通力と持続時間が向上した「バンカード・ピアス」に加え、摩擦力を強化し突き攻撃に熱による追加ダメージを付与する「日差しの穂先」を合わせる。
狙いは背中。肉が腐食して中身が露出しているそこが一番の弱点であるなら、体内への攻撃は刺突武器である槍の得意分野。ワイバーンゾンビの落下速度に合わせて、きっちりとスキルの乗った一撃をタイミング良くぶつけてやる。
「蒸発しちゃった……」
「アンデットに強過ぎだろ……」
槍の威力、聖属性によるアンデット特攻、熱による追加ダメージ、高所落下によるダメージ、弱点部位に様々な要素によるダメージが重なり、ワイバーンゾンビは【竜巻】を食らった1匹目よりも大きく爆砕され跡形も無く消え去った。いやこれは……爆砕したというよりは、ヘルパーT細胞の言う通り蒸発だなこれ。塵や灰すら残ってない。
「ギャギャギャギャ……!!」
「あ、逃げた」
「ほっとけ。群れて気が大きくなってただけで、単体なら私達よりレベル低いんだろ」
3体目が逃げていったのを見送り、私達は行軍を再開した。アクアリエの言う登りやすい地形まではもう少し掛かるとのこと、もう一回か二回くらいはモンスターとの戦闘があるかな?
なんて思っていたけど、さっきの戦闘の影響なのか群れてるモンスターにも襲われなくなった。多少数を増やした程度では勝てないと学習したのか、本当にどこからも攻撃が来ない。寄り道をしなくていいから助かるけど、何も無いというのもそれはそれで味気無くてつまらないというか……うーん、心が二つある。これが、ダブスタ……
「ここだね。この辺りは崖に足場にできる隙間や突起がたくさんあって登りやすくなってるんだ」
「へー……前のデータで水晶巣崖チャレンジはしたことあるけど、ここからならもっと簡単にチャレンジできてたんだなぁ」
「取り敢えず私が先行して登るよ。私は初見だからどんなもんか分からんし、雰囲気だけでも把握しとかないとやりにくいからね。イケそうなら蠍の誘導もそのままやっとくから」
「オーケイ。気を付けてな」
渓谷の頂上、そこが今回の目的地「水晶巣崖」となっている。かなり高い位置にあるようだが私のステータスとスキルを合わせれば、登頂にはそう時間は掛からないはずだ。取り敢えず噂の蠍がどんなものか確かめてくるとしよう。
跳躍力を強化するスキル「遮那王憑き」と「ハイエストジャンパー」を発動。一気に瘴気部分を突き抜けてチラホラと水晶が点在するようになった崖の中腹に足を掛ける。
「続けてトライアルトラバース……発動!」
短剣使用時、登攀に補正を掛ける「トライアルトラバース」で残り半分を駆け登る。傭兵の双刃を破壊されたので短剣は持っていないのだが、投げナイフでも代用可能だったので、双刃の代わりにそれでスキルを使用している。
重力に逆らえば逆らう程に、トライアルトラバースは効果を発揮し負荷を軽減してくれる。今の私は側から見れば、ほぼ垂直の崖をまるで普通に地面を走っているかのように登っていると見えるだろう。
虫やクリーチャーをアバターとして操作するゲームなら、木登りや崖登りは持ってて当然の技能。そんなのばっかりプレイしてきた私にも、その技能は備わっている。操作するアバターが人間に変わったところで何も問題は無いのだ。
ジャンプ一回で半分は登れたこともあり、登頂はかなり早く達成することができた。8合目くらいまで来た頃には、ほぼ見えなくなっていた土の地面は完全に消え去り水晶に置き換わっている。辺り一面見渡す限り水晶の地平、その名に偽り無しの美しいとさえ言える光景に、思わず「おお……」と感嘆の声を漏らした。
「綺麗なロケーションだな……着地したら1枚スクショ撮っとこ、う……?」
【モンスター
【討伐対象:『
【エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されます】
──……はい?