ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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2:改めて、リベンジ

「あんな間抜けな死に方ある?」

 

 ログアウトしたことで、意識がゲームから現実に引き戻される。電灯の光が目に入るのを手で防ぎながら、今回の死因について考える。

 まぁ考えるまでもなく自滅だ。いくら人型のアバターの操作に慣れてないとは言え、三度も自傷すればそりゃあ死ぬというものだ。というか最初のセルフ目潰しが本当に余計だったな……あれさえ無ければ、まだHPに余裕はあっただろうに。エリア攻略に向かうのに気を取られて、回復を怠ったのも不味かった。そして……

 

「思ってたよりも、大丈夫だな……」

 

 胸に手を当てて己の心に聞いてみる。心音に変わりはなく身体も火照ってはいない、五体満足のアバターと今の自分を見比べても、思っていたよりメンタルダメージを受けていない自分に気付いた。

 

 ──もう、大丈夫。

 

 私は人体のいくらかを義体に置き換えている。昔ちょっと色々あって、そうしないと生きていくことが難しかったのだ。ちなみに生身の部位が残っているのは左上半身と一部臓器のみ、生身と義体の比率はだいたい3:7くらい。人間というよりはサイボーグとかアンドロイドとかだろと言われても否定はできない。

 この身体にコンプレックスがある訳ではない……しかし。アバターを操作するという形で生身を体験できるVRゲームをプレイすれば、五体満足でいられるゲーム内とリアルのギャップで、7割が機械に置き換わったこの身体を、苦に思うようになるかもしれない。それをずっと恐れていた。

 

「この身体で、色々頑張ってきたもんなぁ」

 

 リアルでは、私は義体でも問題無く日常生活を送れるように様々な訓練をしている。生身の衰えを防ぐためのリハビリ運動はもちろん、障がい者のスポーツクラブに参加して孤立を防いだり、ADLを維持するために、普段の買い物や料理をはじめとする家事も一人でこなしている。

 全ては自分自身がこの身体を誇りに思い、前を向けるようになるため。まだまだ全てを一人でやるのは難しいが……例えば遠出などする時は、必ず介助者に付いてもらえるようにしている。例えばエキスポに行った時の姉さんのように。

 

 その甲斐はあったということなのだろう。シャンフロの特別高性能なアバターを動かしても、感動こそすれ劣等感のようなものは浮かばなかった。

 それはそれ、これはこれ。どうしても結びつきがちなリアルとゲームを、きっちり切り離して考えられているということだ。もう、人型アバターを使うゲームを避ける理由は無くなった。

 

「とは言え、シャンフロの操作は生身に忠実過ぎて逆に慣れるまでが大変そうだな……もう少し感度の甘いゲームで人型の練習するか」

 

 いきなりシャンフロは敷居が高かったか。

 まずは適当なゲームで練習し、人型に慣れてから改めてシャンフロにログインしよう。そうと決めた私は早速、DLショップのあなたへのおすすめからゲームを何本か見繕うのだった。

 

 

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「龍宮院富嶽、討ち取ったりィ!」

 

 一本目、『龍宮院富嶽全面協力!VR剣道教室・極』を完全クリア。

 

 最後に戦える龍宮院富嶽を模したトレースAIの裏ボスがバカみたいに強く、それはそれは苦戦を強いられた。ゲームオーバーが一本負け扱いで死亡ではなかったので、人生縛りをする必要が無かったから何度も挑み6回目の挑戦でようやく倒したが……もし人生縛りを適用してたら、めちゃくちゃ時間を掛けることになっていただろう。

 富嶽流とは違うが、リハビリの一環で武術を修めていたおかげでどうにか抗うことができた。義体も含めた身体の動かし方を、武術を通して学んでいたのだが。その教えが若干反応の鈍い本作のアバターと絶妙に噛み合ったおかげで、最終的に真正面から打ち倒すことを可能とした。

 

 あくまでAIとは言え、相手はリアル・サムライとまで謳われた現代最強の剣士。それに勝利できた達成感にはえも言われぬものがある。きっと今の私は相当気色悪い顔をしているに違いない。

 習得こそしたものの、型だけで実践はできなかった技の数々を使えたことも嬉しい。正直言ってゲームとして見ればそこまで面白くはないが、それでもこの達成感は良いものだと自信を持って言える。このゲームは良作であった。

 

「だいぶ動きが合うようになったな……次!」

 

 

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『思えば長い旅だったわ……けど』

「寝言言ってんじゃねぇ!くたばれクソアマ!」

 

 二本目のクソゲー、『フェアリア・クロニクル・オンライン〜妖精姫の祈り〜』を完全クリア。

 

 あなたへのおすすめに並んでいたので取り敢えず選んでみたのだが、物凄い地雷だった。

 味方はクソバカ、敵は理不尽。ちょっとした挙動ですぐにバグるし、ロードは高性能VRチェアを以てしても亀の歩み。身体を動かせたなら間違い無くチェアの蓋を蹴り上げていただろう。

 

 そして何より、このゲームの最もクソな部分はメインヒロインの存在そのもの。行く先々でトラブルを起こし無用な被害を生み、少しでも機嫌を損ねれば進行を拒否しストーリーを停滞させる。やらかした事には何のお咎めも無く、都合の悪い事は全て邪神のせい。クリア後エンドロール中のクソアマを好きにボコれる3分間はまるで、散々節制した後のチートデイのようであった……

 光るところはあった、中盤で孤島に置き去りにされたサブヒロインちゃんみたいに、魅力あるキャラは確かに存在していたんだ……孤島に置き去りにされた後二度と会えなくなったけど。多少のプラスを加味してもマイナス1000点、そんな私史上最悪のクソゲーでしたとさ、ちゃんちゃん。アンストする操作の躊躇い無くできることよ。

 

「二度とやるかよ、へっ!」

 

 

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「あれ、もう終わり……?」

 

 三本目のクソゲー、『ベルセルク・オンライン・パッション』を完全クリア。

 

 これもおすすめにあったからダウンロードしたのだが、割とあっさり終わってしまった。まさかたった2回のリトライでクリアできるとは。

 調べてみると本作、通称『便秘』はパッケージ版とダウンロード版で性質が全く異なっており難易度も全然違うらしい。パッケージ版の方が多方面に発生するバグのせいで、ダウンロード版と比べて難易度が物凄く高くなっているそうだ。

 

 物足りない難易度だったし、動画サイトで見たバグだらけの対人戦面白そうだったし、パッケージ版を買い直そうかとも思ったが流石に止めた。

 そもそもの目的は、シャンフロのアバター操作に慣れるための練習である。バグの無いシャンフロでは役に立たない経験しか積めないだろうし、別に対人ガチ勢になる訳でもない。今回はご縁が無かったのだと燻る好奇心を慰め、未練を断ち切る。この気持ちはまたいつか叶えよう……

 

「いつか、パケ版も触ってみるかな」

 

 

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「それなりに動きにも慣れてきたし、そろそろリベンジといこうか?」

 

 3本のソフトをクリアし、リアルとの齟齬を起こさない程度には人型の操作に慣れた。正直言ってVR剣道教室以外は、クソゲーとヌルゲーでそこまで役に立ったとは思えないのだが……

 まぁシャンフロを再び起動したとしても、あの時のような醜態を晒すことはもう無いだろう。安全なはずの街中で自滅した上に、それを不特定多数に見られる程恥ずかしい事はそうそう無い。次のアバターでは同じ轍は踏まんぞ、絶対に。

 

「……戒めも込めて、まだ2周目だけどスタートダッシュ・パス使っちゃうか」

 

 今度はそう簡単には死んでやらん。長生きするという決意表明の意も込めて、死んだら無用の長物になるスタートダッシュ・パスを使うことに決めた。置物にしてても同じく宝の持ち腐れだしね。

 

 パスを使うことで手に入る特典は

 ・初期所持金の増額

 ・全ての初期装備と、序盤のお役立ちアイテムがたくさん詰まった「収納鍵チェストリア」の取得

 ・パス適用時限定の特殊な出身『特質者』を選択可能

 ・見た目の選択肢が増加する

 といったもの。

 

 あって困らない大金、最初から最後まで絶対に腐らない無限のインベントリア、HPとMP以外のステータスに若干の補正をかける出身、拘る奴はとことん拘る見た目の選択肢増加。序盤の攻略を捗らせてさっさと前線に追い付けということか。

 

「サービス開始から1年以上経ってるとは言え、ユートピア社も気前が良いねぇ」

 

 二度目のキャラメイクに入る。

 前回はファンタジー世界にマッチするような金髪美少女風のメイクをしたが、今回はより自分の好みに合わせてみよう。リアルなら人の髪型や色に特に拘りは無いのだが、ゲームなら銀髪とか赤髪のロングヘアが好みなのだ。

 

 今回は赤……というより、よりイメージしている人に近い緋色にする。パスのおかげで色の幅が広がっているおかげで、前回はそもそも選択肢に存在しなかった色も使うことができる。髪も長くしてイメージに近い髪型を選んで……顔もモデルを想像しながらそれに近付けていく。納得のいく面構えになるまで40分は掛かった。

 できあがったアバターを見て、何だか懐かしいような気分に浸る。モデルにした人……かつて色々とお世話になった憧れのお姉さん。生身を殆ど失った私のリハビリに付き合ってくれた、恩人であり武の師匠のような人。もう二度と会うことは無いだろうけど、あの人のことは決して忘れることは無い。

 

「いけない、涙出てきた……」

 

 懐かしさに浸るのもそこそこに、涙を拭って次は装備や職業などの初期設定だ。

 まずは出身。パスの特典で『特質者』というデメリット無しの便利な出身を選べるが、私はスタイル上HPを多く確保したいタイプである。『特質者』は確かに有能だろうが、HPには補正が掛からないので選ばない。

 

「HP上昇、MP下降の『生還者』にしよう」

 

 次は職業。一回目ではハンマー使いの傭兵を初期職業に設定したが、練習して上手く動けるようになった今なら小回りが効く方が使いやすいか。

 どちらにせよ選ぶのは傭兵だ。覚えられるスキルが雑多になる代わりに、さまざまな武器を扱えるこの職業は人生縛りだと、対応力を高く取れるという点でとても都合が良い。その中でも関連スキルを覚えやすくなる得意武器をどれにするかだが……少し悩んだ末に片手剣に決めた。

 

「刀とかバスタードソードとかも範囲内らしいし、これが一番対応範囲広いよね」

 

 初期装備は武器を「傭兵の鉄刀」に変えた以外は一回目と同じ。見た目以外に特に違いがある訳じゃないのでここは適当でいい。変えたくなったらチェストリアから取り出せばいいんだしね。

 ステータスはHP>AGI≧VITの順で振り、残りは初期値に。アバターのステータスはとにかく硬く速くを意識、火力はスキルや武器性能で補う。大事なのは生きること、火力を高めて戦闘時間を短くすることで、結果的に生き残れるという考え方もあるけれども。私は持久戦や長期戦の方が得意なのでこういうやり方にしている。

 

「これでよし、と……それじゃあ、やりますか」

 

 再びファスティアへ。今度こそは絶対に死なんと気持ち新たにシャンフロ世界へ降り立った。

 

 ──────────

 PN:ロンミン

 LV:1

 JOB:傭兵(片手剣)

 1000000マーニ

 HP:50

 MP:1

 STM:10

 STR:10

 DEX:10

 AGI:20

 TEC:10

 VIT:20(10)

 LUC:10

 スキル

 ・スピンスラッシュ

 ・ナックルラッシュ

 

 装備

 右:無し

 左:傭兵の鉄刀

 頭:赤いバンダナ(VIT+2)

 胴:旅人の服(VIT+3)

 腰:旅人のズボン(VIT+3)

 足:旅人の靴(VIT+2)

 アクセサリー:収納鍵チェストリア

 ──────────

 

「さぁ、リベンジだ!」

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