ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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20:輝く水晶を求めて:地上の満月

【モンスター不世出の発見(ディスカバー・エクゾーディナリー)!】

 

【討伐対象:水晶老群蠍(エルダー・クリスタル・スコーピオン)月華美神(コードムーン)"】

 

【エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されます】

 

 ──エクゾーディナリー……?いきなり……!?

 

 突然のアナウンスにしばし呆然としたが、水晶の大地から大量の水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン)が出て来たのを見て、すぐに正気を取り戻しやるべきことを定める。

 今やるべきは、この現れた蠍共を引き連れてエリアの奥まで誘導してやること。ここに居座り続けていれば後から登ってくる2人が着地狩りを受ける恐れがあるので、奴らのヘイトが自分だけに向いている今の内に遠くへ引き離す。

 

 ──しっかし、エグい数だな……皆が返り討ちに遭う理由がこれだけでも分かるわ……

 

 視界に映る分だけでも、既に20匹近くが出現(ポップ)しているのが見えるし、鳴り続ける地響きから判断するにまだまだ湧き続けている。この数が一斉に味方の被害に構わず襲ってくるのなら、そりゃあ抵抗すらできずに圧し潰されるというものだ。

 

「ほらよ、こっち来い!」

 

 遮那王憑きを発動、投げナイフで蠍の視線を誘導して私の方を追って来させる。200越えのAGIとスキルで実現する高い機動力のおかげで、私の移動速度は蠍よりも断然速い。包囲にさえ気を付ければ被弾することは無いだろう。

 しかし気になるのは……アナウンスはされたものの未だにそれらしき姿が見えないエクゾーディナリーモンスターと、水晶群蠍達が纏っている淡い白の光のようなエフェクト。あれが蠍のデフォルト──水晶の光が反射などして、そう見えているだけというのならまだ良いが。仮に何らかのバフを掛けているとしたら面倒なことになるな。ただでさえ高い奴らの性能(スペック)がここから更に強くなる余地があり得る。

 

「ほっ、はっ……なんて数だよ、ホントに……!」

 

 襲い来るは水晶の津波。後ろの蠍が前の蠍を掻き分けて突き進むことで、足の速い個体と追いかける元気のある個体だけが、常に最前線に居座って私の命を狙い鋏を振り下ろすのだ。

 それだけではなく、圧し潰された個体は水晶の瓦礫となって辺りに散らばり、後方の蠍がそれを投げることで長射程の遠距離攻撃を実現する。何で蠍に飛び道具を使う知能があるんだよ……元々頭の良い種族なのか、それとも誰かプレイヤーからそういう戦い方を学習でもしたのか?

 

 ──そういえば、水晶群蠍の素材を安定して供給できるってプレイヤーが居るって話があったな……

 

 未だ「ツチノコさん」という通り名しか分からないプレイヤーが思い浮かぶが、それで出るのは恨み節だけだと思うのでその思考を切り捨てる。

 何でもシャンフロのモンスターには、「野生値」という隠しステータスがあるらしい。一人のプレイヤーから受けた影響を表すそうだが、それなら水晶巣崖を安定して攻略できる「ツチノコさん」は蠍相手にかなりの野生値を稼げるだろう。かの人物を相手取るために学習と強化を繰り返していても、何ら不思議なことではない。

 

「このまま鬼ごっこを続けても、いずれは捕まるし数を減らさんとな……通るか?私の攻撃」

 

 このまま逃げ続けたとしても、数の差とスキルのガス欠でいずれミンチになるのは自明。数を減らして密度を下げる必要があるが、あの硬そうな水晶の甲殻に私の攻撃が通るのだろうか。STRは3桁に突入したとはいえ、初期装備だからな……

 やってみないことには分からない。投げナイフをしまって傭兵の鉄刀を装備、余計な力を抜いて右腰に構えた刀を抜き放つ居合術【力】を、先頭を走る蠍の1匹にぶちかましてやった。

 

「おお、ノックバックデカいな……刃は通らなかったけど、これならイケそうだ」

 

 ──あいつら同士討ちでダメージ追うし、ノックバックで蠍津波に巻き込ませるのが一番かな。

 

 案の定というか、水晶の甲殻は非常に硬く鉄刀の刃はまともに通らなかった。しかし攻撃によるダメージはほぼ無さそうだが、衝撃でノックバックさせ押し返すことは可能なようだ。ぶっ飛ばした個体は追いついて来た後続に轢き潰されるので、こちらから無理に攻撃を仕掛ける必要は無い。

 これなら、携帯食料と武器の耐久力が保つ限りは問題無く時間稼ぎを続けられそうだ。ヘルパーT細胞も追い付いて来てくれたなら、ヘイトも分散させられるしより安定するだろう。アクアリエの採掘が安全にできるようになるし、同じ見た目の蠍ばかりで姿の見えないエクゾーディナリーへの対応に意識を割く余裕もできるはずだ。

 

 ──この辺りに散らばりまくった蠍素材も、是非回収してほしいしな。

 

 こうして逃げ回っているだけでも、フレンドリーファイアで死んだ蠍の素材が数多く散らばる。是非とも回収したいところではあるが、そこまで余裕は無いしインベントリにも空きが無い。この量を持って帰れるのは、3人の中では無限容量のチェストリアを持つヘルパーT細胞だけだ。あいつにはさっさと登頂してもらわないと困るな。

 

「うおっ、先回りまでしてくるのかよ……ッ!」

 

 考え事をしていると、背後ではなく目の前に水晶群蠍の1匹が現れる。セツナノミキリで攻撃を躱して津波の渦中に加えてやったが、いったいどこから現れたのか。前方からは蠍のポップする地響きのような音は聞こえて来ないし、表に出ている奴らは全員私の背後にいるはずだが……

 答えはすぐに見つかった。あいつら地面から突き出た巨大水晶を伝って、そこから飛び降りて私の眼前に着地してきていたのだ。上を見やるとちょうど更に1匹が跳んで来るところだったので、遮那王憑きで奥へ跳んで避ける。上空からのダイナミックエントリーは不発し、哀れ蠍は津波に巻き込まれて水晶の欠片となって散っていった。

 

「キリが無い……どんだけいるんだコイツら!」

 

 尻尾を斬り落としてやったり、後ろから仲間に轢き潰されたり、投げた水晶を弾き返して頭を砕いてやったりと、色々あって水晶群蠍は数十匹程数えるのが面倒になるくらい倒せた。その殆どは自爆とフレンドリーファイアで、私が直接手を下した蠍は数匹程度だけども……

 かなりの数が斃れたはずだが、次から次へと湧き出てくる蠍は留まることを知らず。そして何十匹目かの蠍が潰れ新しい蠍が出てきた時、それが今までの蠍とは違うことに気付く。

 

 ──赤い光……それに、如何にも上位個体っぽい金色の蠍まで出てきやがった……!

 

 白い光を纏った蠍だったのが、ここからは赤い光を纏った蠍だけが出てくるようになった。その上どう考えてもレアモンスターだろうという金色のより攻撃的デザインの蠍まで現れ、ここから状況が更なる混沌へ向かうことが予想できる。ご丁寧に金蠍の方も赤い光をバッチリ纏ってやがるし……

 金蠍は早速ちょっかいを掛けてきたが、単発の引っ掻き攻撃くらいなら怖くはない。左方から迫ってきていた蠍を踏みつけ跳躍、回避しつつ開けた場所に移動して新しい逃げ道を確保。身代わりにした蠍は金蠍の爪を受け、スイッチが入った金蠍に全身をズタズタに引き裂かれていた。怖っ!

 

【レアモンスター・エンカウント】

 

【『金晶独蠍(ゴールディ・スコーピオン)』LV.150】

 

【参加人数:3人】

 

【戦闘を開始します】

 

「やっぱり、レアモンスターか……」

 

 一際違う見た目に周りよりも高いレベル、やはりと言うか金蠍はレアモンスターであった。水晶群蠍と比べるとより刺々しく鋭い甲殻に、機動力を重視したのか隙間の広い関節。そして、周りの蠍にすら襲い掛かる獰猛さと、あらゆる面で攻撃的な個体に仕上がっていることが分かる。

 私の攻撃が殆ど通らない水晶の甲殻を容易く引き裂く鋭い爪と尻尾の針で、周りを巻き込みながら戦う厄介な敵。赤い光を纏ってどう変わったのかも知りたいところではあるが、それを悠長に考察させてくれるような相手ではない。

 

 ──ん……?今のは、地震か……?

 

 赤い光の蠍に襲われて分かったことは、白い光の個体よりAGIが強化されているということ。まだ私の方が速い程度ではあるけど、これより更に速くなれるとしたら本当にマズい。ただでさえ先回りや不意打ちをされやすくなるのに、逃げ足でも負けたら本気で成す術が無くなってしまう。

 それよりも気になったのは、蠍を避けて着地した時に感じた違和感の方であった。リアルでも時折感じることがある慣れた感覚……地面の微弱な揺れ、即ち地震の発生である。

 

「今のがマジの地震ならマズいかもな……」

 

 揺れを感じたのが気のせいなら良いのだが。水晶巣崖は崖の上に大量の水晶が重なってできたエリア故に地震によって崩落する恐れがある。そうなってしまえば、高度的に落下ダメージによる死は免れないしシャンフロの高いリアリティを考えると、水晶巣崖というエリアの消滅すら考えられる。いや流石にゲームだし、そこまでのことにはならないか……そうならない保証も無いけれども。そうなったらもう採掘どころの話じゃないし、気のせいか偶々であることを祈っておこう。

 鉄槍に武器を持ち替え、バンカード・ピアスで金蠍の飛び掛かりをキャンセル。津波に呑まれても逆に力で押し返して、何度も襲い掛かるこいつを私も何度だって送り返す。延々と続くイタチごっこにそろそろ集中力が切れてきそうだ、辛い。

 

「ぐっへ……!しくった……」

 

 後衛蠍の投擲を避け損ね、右肩に水晶の直撃を食らってしまう。考えることが多くなってきたり集中が切れてくると、必ず一回はこういう事態に陥ってしまうのが私の悪い癖だ。金蠍の追撃をセツナノミキリで回避してポーションを服用。掠りなども含めて削れていたHPを回復しておく。

 幸いなことに、残りHPは318/400とそこまで削れてはいない。元が357/400だったので食らったダメージは40程度……問題はダメージ量ではなく、動きが崩れた私を見てこれ幸いと包囲に動いた蠍共の立ち回り。

 

 ──クソ、囲まれたか……!

 

 360度、どこを見回しても蠍だらけの景色に心の中で舌打ちする。こいつらの包囲網の何がタチ悪いかって、平面だけでなく上空まできっちり抑えられていることだ。地面は硬過ぎて掘れないしそもそも蠍がスポーンする場所、上下左右360度逃げ場がマジでどこにも無い。

 活路は自力で切り拓けということだ。武器を傭兵の鉄鎚に持ち替え、「ニトロゲイン」「禍血ノ子」で強化された「ブロウスイング」をぶん回す。大事なのは攻撃そのものではなく風圧、狂える大群青を押し戻した時のように強烈な風を起こすことで蠍を吹き飛ばし包囲網に風穴を開ける。

 

 ──まだ足りない、か!なら今度は……!

 

 中心から逸れることはできたが、まだまだ包囲網は分厚く抜け出すことは叶わない。だからと言ってこのまま手を拱いていれば、すぐに蠍共は包囲網を敷き直しまた囲まれてしまうだろう。ならばこちらも何度だって破るのみ。

 バフの効果が続いているうちに、今度は「クエイクスタンプ」を発動する……のだが、そこに更なる一手間を加える。wikiを読んで知ったことだがハンマーなどの打撃武器の攻撃は、「振り抜く」「叩きつける」などの動作をするその時に、初めてダメージ判定が出るそうだ。

 

 活用すれば、インパクトのタイミングを意図的に遅らせてより多くを巻き込むことも可能だ。そして巻き込んだ物体は、武器と接しているならそれまで含めてスキルの効果対象にできる。

 まずは、ブロウスイングのように鉄鎚を横薙ぎに振り一番近くの蠍に当てる。そのままぐるぐるぐるぐると回転しより多くの蠍を巻き込み、STRの許す限界まで重量を増加。大量の蠍を加えて攻撃範囲と威力を激増させた「巻き込みクエイクスタンプ」を金蠍に向けて振り下ろした。

 

「よし……ッ!風穴開けた!」

 

 大事なのはダメージではなく、包囲網を抜けて安全性を確保すること。金蠍にどれだけダメージを与えられたかは気になったが、その確認よりも先に衝撃波によって蠍が吹き飛び、陣形の崩れた部分へと逃げ足を速める「オーバーアクセル」「キラーエスケープ」で一気に飛び込む。

 早く、早く。もたもたしていると奴らはすぐに包囲網を敷き直す、そうなったらリキャストタイムが終わるまで耐久しなければならない。何としてでもその前に脱出するのだ。

 

出力加算(アッドブースト)、【雷鐘】!」

「ヘルT!遅いぞこの野郎、アクアリエは!?」

「もう採掘始めてる!」

「オーケイ!このまま2人で蠍を引き付けるぞ!」

 

 全力疾走する私を追いかける横の蠍、それらが突如落とされた雷によって焼き払われる。崖を登り切ったヘルパーT細胞が加勢に来てくれたのだ。水晶のボディは電気をよく通すようで、同士討ちで削れていた個体はそのまま死亡する。

 聞けば、私が蠍を引き付けておいたことで崖際には蠍がおらず、安全に採掘ができる状況になっているらしい。後はこのまま採掘が終わるまで時間を稼ぎつつアクアリエに安全に離脱してもらい、エクゾーディナリーを討伐する。本目標は鉱石なのでエクゾーディナリーは無視して構わないのだが。流石にゲーマーとしては無視はできない。ヘルパーT細胞の方も同じ気持ちだろう。

 

「エクゾーディナリー……"月華美神(コードムーン)"って出てたけどどこにいるんだろ……」

「こいつらが全員そう……とか?」

「確かに、私の知ってる水晶群蠍はこんなオーラ纏ってなかったけど……流石に違うと思う。水晶老群蠍ってすっごい大きかったし」

「てことは、こいつらは"月華美神(コードムーン)"の影響を受けた個体って感じか……ん?」

 

 ──何かが引っかかる……何だ?

 

 今の会話の中で、私の中にある情報の歯車が噛み合いそうになる感覚があった。

 いったい何が反応したのか……光を纏って強化された水晶群蠍と金晶独蠍?戦闘中時折感じる振動?未だ姿の見えないエクゾーディナリー?めちゃくちゃデカいという水晶老群蠍?

 

 ──デカい蠍のエクゾーディナリー……?

 

「……ヘルT、水晶老群蠍ってどんなモンスターか教えてくれ」

「おーい2人とも!必要な鉱石は十分に集まったから俺は一旦フォスフォシエに戻る!すぐにまた加勢するからそれまで生き残っておいてくれよー!」

「あ、お兄様もう終わったんだ」

「そこまでの量は要らなかったのかな?」

 

 歯車が噛み合いそうな予感があったが、それはアクアリエの叫びでキャンセルされる。宝石匠(ジュエラー)就職に必要な鉱石は集まったらしい、思ってたよりもだいぶ早いが、これで本目標は達成……

 

「それじゃあ2人とも、またaッ」

「お、お兄様ァー!?」

 

 ……とはならなかった。水晶巣崖を離脱しようとするアクアリエを、何処からか飛んできたレーザーが蒸発させたのだ。飛び散った装備とアイテムが、辛うじてそこに先程まで確かにプレイヤーが居たのだということを示している。

 マズいことになった。アクアリエがやられてせっかく集めた鉱石が飛散したのもそうだが、同時に新手がいくつも現れた。青い光を纏った水晶群蠍と、纏う光が赤から青に変化した金晶独蠍……そしてアクアリエを葬ったレーザーを撃ったのだろう()()()()()に、山を刃の形に削りましたと言わんばかりの()()()()()が一振り。

 

「フェーズ制、か」

 

 強化した蠍だけでなく、"月華美神(コードムーン)"自身も攻撃に加わるここからが本番か。

 まったく楽しませてくれる。ここまでしてくれるからには最期まで付き合ってやるのが礼儀だろう、震える水晶の大地……"月華美神"の背に鉄刀の刃を突き立て、決意を新たにするのだった。

 

「絶対勝つ!やるぞ、ヘルT!」

「もっちろん!」




 "月華美神(コードムーン)"との戦いは、全5フェーズから成るフェーズ制。
 現在は第3フェーズ。"月華美神"の影響を受けた水晶群蠍・金晶独蠍を一定数倒す(自滅でも可)ことで進行する。

第1フェーズ
・水晶群蠍のみが登場。"月華美神"が齎す白い光を纏いSTR・TECが強化されている。

第2フェーズ
・金晶独蠍が登場。"月華美神"が齎す光の色が赤に変わりSTM・AGIが強化される。

第3フェーズ←イマココ
・"月華美神"が戦闘に直接参加するようになる。齎す光の色が青に変わり、HP・VITが強化される。

第4フェーズ
・地形が大きく変化する。齎す光の色が銀に変わり全ステータスが強化される。確率であるモンスターが乱入し、無差別に辺りに攻撃を仕掛ける。

第5フェーズ
・地形が更に大きく変化する。齎す光の色が金に変わり全ステータスが大幅に強化される。ここを乗り越えると晴れて"月華美神"撃破となる。
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