ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
第4フェーズ。蠍の纏う光が銀色になりこれまで一部のみだったステータス強化が全体強化に、更に地形が変化し傾斜ができて動き難さが激増。
それだけではなく、2種類計13匹のエクゾーディナリーの乱入で戦況が混沌化。どこを見回しても敵と即死ギミックばかり、スタミナと集中力が試されるカオスと化していた。
「どわあああああああああ!!」
蠍の鋏を潜り抜ける。
毒液と投石攻撃を躱す。
着地地点に降り注ぐレーザーを、フリットフロートで多段ジャンプして切り抜ける。
蠍が左右の道を塞ぎ、逃げ場を無くしたところで振り下ろされた大剣をセツナノミキリで対処。
「ブロウスイング……!ああもう、多過ぎるよ!」
「今更だろ、そんなのはよ!」
若干ズレた大剣が蠍の一部を圧し潰したのでそこを目掛けて遮那王憑きで一気に離脱、杖の一振りで蠍を吹っ飛ばして安全を確保したヘルパーT細胞と合流したが、すぐに瞬間移動してきた"
"禍刃剥命"を振り切るべく、走り出したところで視界の端に"
──蠍のノルマが加速するのは良いけど、マジでちょっとでも気が抜けたらそこで死ぬなこれ!
降り注ぐ散弾を細かな動きで回避……ええい面倒臭い、「フォーミュラ・ドリフト」を発動しての超鋭角ドリフト軌道で範囲外まで退避する。
散弾の脅威から逃れてもまだ終わらない。こちらを追いかけてくる蠍に、上から降ってきたレーザーと"輝晶点穴"のボディプレスをスキル効果時間の残りに「キラーエスケープ」を合わせて回避。"輝晶点穴"の作った影から出てきた"禍刃剥命"が奴らを掻っ捌いていくのを尻目に、全力疾走して大剣とレーザーのエイムを乱す。
「オオオォォ……!!」
「マジかよ、"
これは大発見かもしれない。月と同等に蠍を強化する"月華美神"の光なら、その出力の高さで通常攻撃が効かない"禍刃剥命"を攻撃できる。原種の記述だけど聖水や聖属性も効かないと書かれていたはずだったが、これなら上手く誘導してやれば"月華美神"撃破直前にきっちり始末できる。
フェーズ進行のために、暫くは生きていてもらって邪魔なだけになる撃破の直前か直後で、始末するというのが理想だったが……"月華美神"の攻撃が通るなら理想通りにいくかもしれない。か細い糸ではあるけれど、クリアへの希望が繋がった。
──ただ現状、問題はスキル!攻撃と鬼ごっこが激化するのに対して、スキルのリキャストタイムが全然追いつけてない!
・セツナノミキリ
・遮那王憑き
・オーバーアクセル
・キラーエスケープ
・フリットフロート
・蜻蛉返り
・脱兎ノ如シ
・フォーミュラ・ドリフト
・ハイエストジャンパー
・トライアルトラバース
私が使える機動力強化スキル、あと
特に単純な強化の「オーバーアクセル」と「遮那王憑き」、急なタイミングでも即座に切り返しができる「フリットフロート」「セツナノミキリ」の使用頻度がヤバい。他のスキルは条件や使用感に癖があったり有効になるタイミングが少ないので、お守りに残しておいてスペアで使うのだが……それすらもリキャスト待ちの時間が増えてきている。
──このままだと、リキャスト待ちのスキルがドンドン増えて……使うべき時に使えず死ぬ!
機動系スキル以外で対応しようにも、蠍の耐久力が上がってノックバックはさせ辛くなってるし、HPを削る「ニトロゲイン」は不用意に使えず、「禍血ノ子」は併用でないとダメージを通せる相手がいないのでデメリットを回避できない。「クライマックス・ブースト」「五分蟲魂」「死中に活」は状態異常とHPが削れている状態じゃないと使えないしこれらも使い時が難しいのだ。
直撃はともかく、掠りダメを貰いやすい環境なのでHPを削り過ぎるのはリスクがデカ過ぎる。せめて何かのスキルが、強化前のリキャストが短くて使いやすい状態で残っていたら良かったのだが……
──ん?あるな、そのスキル……!
「ヘルT、一旦パーティ登録切るぞ」
「……ああ、そういうこと?それなら私もパーティ外れておくべきだよね!」
飛来する"禍刃剥命"の鎌を跳ね除け、近くにいた"輝晶点穴"に命中させる。プレイヤーなら即死させる刃が斬り裂いたにも関わらず、水晶のカブトムシはピンピンとしていた。モンスターの生命力だと即死はさせ切れないのだろうか?蠍津波をハイエストジャンパーで跳び越しながら、月光砲をマシンガンのように乱射する"輝晶点穴"を見る。
そして一つのアイデアが思い浮かんだ。条件を満たせないので思考から除外していたが、条件さえ満たしていれば切り札たり得る奥義。ソロであることそれのみを条件に、プレイヤーに多大な恩恵を与える
──ちィ、登録切りたいのに蠍共とカブトムシが邪魔過ぎるぞ!
パーティリーダーであるアクアリエの方からパーティを解除してくれるのが一番早いのだが。生憎死んでいてこの場にいないので、自分から離れるしかないのだがそれをする隙が無い。
一先ず、メニュー画面の操作ができるくらい余裕のある状況を作らなければ。ノールックでの画面操作は他ゲーでも役立つ技能だったので、私も習得はしている。今の手持ちは槍なので右手は一応空いているけれど、利き腕でない方の手でノールック操作は流石に精度的に難しい。リアルなら義手なので余裕でできるんだけどな……
「とにかく、落ち着ける場所は……」
「あるよ、蠍もカブトムシも居ないトコ!」
ヘルパーT細胞の提案は、「マジで言ってんのかこいつは……」と思うものであったが、しかし試す価値はありそうな提案でもあった。
"月華美神"の大剣の上に乗る。そこには蠍もカブトムシも居なければ、"禍刃剥命"も有効打を与えられる存在を警戒して近付かない。レーザーは変わらず注意する必要があるだろうけども、乗れるのなら確かに安全性の高いスポットだ。
しかし、スポット自体は比較的安全でもそこに行くまでに大きなリスクを抱える必要がある。大剣の上になれる瞬間……つまり、"月華美神"の大剣が振り下ろされるタイミング。それは、鬼ごっこへの対応に追われて、こちらの足が止まっているまたは鈍っているタイミングなのだから。
失敗即ち死。大剣に紙よりも薄く潰されるか蠍に挽肉にされるかの二つに一つ、それが嫌なら一発で成功させる以外に道は無い。まずはワザと逃げ足を緩めて"月華美神"にエイムを定めさせて、二門のレーザーから先に撃たせる。選択肢を狭めて大剣を確実に使わせるための措置だ。
「セツナノミキリ!」
「
もちろん待ち時間の間にも、蠍と霊とカブトムシの対処は行わなければならない。足を止めた途端にこれ幸いと瞬間移動してきた"禍刃剥命"を避けてポーションをぶっかけて追い払い、蠍とカブトムシの突撃はレーザーを撃たれる瞬間に合わせ、セツナノミキリでその場を離脱することで対処。奴らにだけ高出力の砲撃を味わってもらう。
突撃には参加せず、裏から遠距離攻撃を続ける蠍とカブトムシには、ヘルパーT細胞から弱点属性である雷攻撃を加算状態でプレゼント。削れていた蠍はこれで何匹か斃れ、更に"輝晶点穴"の内1匹もこれで倒すことができていた。"禍刃剥命"の攻撃を食らっていた個体だろうか?
「レーザー来るぞ!」
「大丈夫!セツナノミキリ……!」
レーザーを回避。私は普通に避けてヘルパーT細胞の方はセツナノミキリを使って避ける、これで次のレーザーまでは時間ができた、"月華美神"が攻撃するには大剣を使わなければならない。その瞬間を狙ってしっかりその上に飛び乗ってやる。
獲物を探してゆらゆら揺れ動く大剣、それに狙いを定めさせるべく足を緩めた上で、ヘイトをこちらに向けるため「乾坤一擲」で傭兵の鉄槍を大剣の根元に向けて投げつけた。ダメージは出ていないのだろうが、目論見通り奴のヘイトはこちらに向いた。流せば次のチャンスは遠い、確実に決める。
「セツナノミキリ、ハイエストジャンパー……!」
「こっちも、ムーンジャンパー!」
──まだ、まだ……こ、こ!
大剣がヒットする寸前に、セツナノミキリでギリギリのところを突いて回避。そのまま引き戻される前に大剣の背に向けて、砕け散った瓦礫の雨を跳ね除けながら飛び乗った。
一発成功。ヘルパーT細胞もしっかり着いて来れているので、これで両者共に「独身貴族」の用意を安全に行える。この場所の数少ない脅威であるレーザーはまだチャージ中なので無視できる。
──パーティ登録、解除……これでヨシ!
同時に武器を新たに取り出す。投げつけた鉄槍の代わりに鉄刀、そしてもう一振り……"
こいつはあくまで「武器としても使える素材」であり、性能は初期装備を使った方がまだ強いというレベルの産廃ぶり。はっきり言って実践投入なんてバカのやること……しかし、「独身貴族」の効果時間中に限ってはこいつにも使い道があるのだ。
「これが、不世出の蜂より受け継ぎし奥義!」
「
「そしてこっちも……縷々閃舞!」
二刀流時に発動できる、攻撃のヒット判定を増幅させるスキル「縷々閃舞」を発動。左手に傭兵の鉄刀と右手にデミ・バンガードの二刀流で、一番近くに居た蠍の1匹を斬りつけた。
「……!!?」
「こんだけ数がいれば、そりゃあ発動するよね!」
斬りつけられた蠍は、その甲殻に少しのダメージも負うことはなかっただろう。にも関わらず私の刃は蠍の命をしっかりと奪っていった。
その理由が「独身貴族」の最後の効果。敵が複数体いる場合確率で即死させることができる。水晶群蠍のような群れを作る生物や、小さな生き物が集まって大きな一つになる群体生物には、「独身貴族」は途方も無い強さを発揮する。群れを追い出され孤独に生きた蜂の力と怨みは伊達ではない。水晶をどうこうする火力に乏しい私にとっては、確率次第だがフェーズ進行の強い助けとなってくれる。
そして、この即死効果を補助するのがヒット判定を増やして即死判定を傘増しする「縷々閃舞」。例え一回一回の確率が低かったとしても、判定回数を増やせば即死を引く確率はその分上がる。確率が下振れたとしても、普通に攻撃して倒す手間を考えれば楽なものだ。
縷々閃舞を使うには二刀流が必要なので、武器として使うつもりは無かったデミ・バンガードを引っ張り出すことになってしまった。奴との戦いがあったおかげでこの戦法が取れるけど、奴との戦いが無ければ傭兵の双刃が破壊されてないから、普通にこの戦法は取れてたんだよな……いやよそう。あの寄り道も今のためには必要な道程だったのだ、そうだと言ったらそうなのだ。
「さぁ、どんどん減らしてけ!」
「ロンミン、すっごいたくさん倒してる……負けてられないね、出力加算、【雷鐘】!」
斬る、斬る、斬る、斬る。
目の前に立ち塞がる蠍、左右からこちらの行く手を阻む蠍、離れたところから瓦礫を投げつつ毒液を噴射する蠍、地上に気を取られている隙を突こうと上空から不意打ちを仕掛ける蠍。
躱しては斬り、防いでは斬り、凌いでは斬る。何度でも何度だって、即死判定が成功するまでスキルの効果時間が続く限り試行を繰り返す。堅牢強固を誇る水晶が砕け散るその瞬間のために、動体視力と反射神経を人生で最も酷使してやる。
鋏を避ける。蠍を斬る。
レーザーを避ける。蠍を斬る。
大剣を避ける。"輝晶点穴"を巻き込み砕く。
蠍を斬る。即死しなかったので"禍刃剥命"の攻撃の身代わりにする。
蠍を斬る。即死しなかった分が"輝晶点穴"の月光砲で粉々にされる。
毒液を避ける。蠍を斬る。
投石を避ける。蠍を斬る。
「……長い!」
「これで、何匹、倒したのかな……」
その問いには誰も答えてはくれない。自分が倒した分だけならともかく、同士討ちやMvMで勝手に死んだ奴らまでいちいち数えてられないからだ。
とは言え、まだ全部合わせても200にはいってない程度だろうという予測は付く。フェーズが進むごとに前のフェーズのだいたい倍の撃破数を要求してきているので、第3フェーズが約100匹の撃破で進んだなら次に必要な撃破数は200近く。第5フェーズにはまだ移行していないので、そこまでの数を倒してはいないと言える。
──独身貴族の効果も切れたし、リキャストタイムが終わるまで待たないとな……
独身貴族は思いの外効果的だったが、フェーズ進行の前に効果切れになってしまった。あれが有ると無いでは天地の差なので、再発動ができるようになるまで耐久する。リキャストタイムは120秒とこのテのスキルにしては短い、ソロプレイを強いられる以外何もデメリットが無い本当に良いスキルだ。
「おや、"輝晶点穴"の様子が……?」
「どっかで聞いたことあるセリフだね」
蠍と"禍刃剥命"から逃げ回る中、"輝晶点穴"共の様子がおかしいことに気付く。さっきから動きが大人しい上に、チャージした月光を撃ち放たずにずっと溜め込み続けているのだ。
ヘルパーT細胞の【雷鐘】や"月華美神"の大剣とレーザー、"禍刃剥命"や「独身貴族」の即死攻撃などによって、12匹居た"輝晶点穴"もいつの間にか7匹にまで減っている。おかしくなっているのはその内の1匹だが、それ以外のも妙に大人しいところは同じ……
──んん……?もしかしてあいつ……
「ヘルT……全力で遠くまで逃げるぞ、あいつ自爆するつもりだ!」
「自爆!?」
溜め込んだ月光が砲身ではなく、"輝晶点穴"の全身に結集し強い光を放っている。それに気付いた時点で嫌な予感はしていたのだが……奴が翅を広げ飛び上がった時私は疑念を確信に変えた。奴は最も多くを巻き込める範囲で自爆するつもりだと。
"月華美神"、"禍刃剥命"もそれに気付いたようで、攻撃の矛先を私達から自爆を目論む"輝晶点穴"に変更し抑え込まんとする。しかし月光の影響を受けてか、"禍刃剥命"は刃を通せず見ていることしかできなくなり、"月華美神"のレーザーも爆薬として吸収されてしまう。
最早爆発まで一刻の猶予も無い。この瞬間だけは全員の意思が一致し、プレイヤーもモンスターも我先にと駆け出していくのだった。
ちゅどおおおおおおおん……………
「おおおおフォーミュラ・ドリフトォ!」
「アクセルッ!グレートエスケープ!とにかく早く動かないと爆死しちゃうううううぅぅ!!」
水晶の爆ぜる音、衝撃が地面を掘り起こし全てを蹴散らしていく音が背中越しに聞こえる。その様子を振り返ることなく私達は一心不乱に走る、決して爆発に追い付かれてしまわないように、大火力に焼かれ消し炭となってしまわないように。
スキルが切れたらまた新しいスキルを継ぎ足して速度を維持する。「独身貴族」のおかげで殆どのスキルがリキャストタイムを終えているので、ある分のスキルはほぼ再使用が可能。やがて爆音が鳴り止み辺りに静寂が蔓延するまでの間、実に1分程を私達は逃走に費やしたのだった。
「……」
「……」
最早言葉も出ない。息を整えて消費したSTMを回復させつつ、ようやく後ろを振り返り爆心地の惨状を見やる。あれだけたくさんあった水晶は跡形も無く消え去り、僅かな土や何かが燃えた後の燃え滓だけがその場に残り、"月華美神"のものであろう水晶の平面が露出していた。
辺りを見回すと、どうにか爆発から逃げ延びた蠍やカブトムシが円形に散らばっている。中には殆ど水晶が剥げてボロボロになってなった個体も居て、逃走の必死さがよく伝わってきた。私の隣に居た個体もボロボロになっていたので、STM切れで動きが鈍くなっている今の内に殺しておいた。水晶が剥げているおかげで攻撃が普通に通るのだ。
──あっ、地震……
どうやら今の1匹で、フェーズ進行のトリガーが引かれたらしい。生き残った蠍、新たに補充された蠍、それぞれの纏う光の色が「銀」から「金」に変化し更なる強化が施される。
"月華美神"の傾きは更に強くなり、垂直と言っても過言ではないレベルに。ここまで来たならもう最終フェーズだと分かる、"月華美神"を倒す方法は奴を支える大地を崩し、その巨体を渓谷下まで落下させて自重で押し潰すこと。垂直レベルまで傾いたならもう次は無いだろう。
──あと少し、出せる手札は全て出す。
「
次回、最終第5フェーズ