ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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23:輝く水晶を求めて:戦いは大詰め

「………………!!」

 

「ビームサーベル……!」

「近接モード、ってか?」

 

 第5フェーズに移行し、変わったのは蠍達だけではなく"輝晶点穴(クリスタルメモリー)"も。ここまでの戦いの中で生き残った6匹は、砲身に溜め込んだ月光を射出するのではなく、そのまま砲身を軸に錐状に留めることで必殺の剣とした。

 "月華美神(コードムーン)"の傾きがえらいことになり、戦場が上下に広くなった今、広い面を攻撃する散弾は相対的に効果が薄くなる。それなら撃ち出すのではなく直接ぶち込んでやった方が、得られる結果は大きいと奴らは判断したのだろう。実際足場の悪いこのエリアで奴の巨体との戦いはキツいし、対プレイヤーならその判断は正解であると言える。

 

 ──"禍刃剥命(エンプレスキラー)"の方はどうだ……?

 

 月光を使う攻撃は、通常攻撃が効かない"禍刃剥命"にもバッチリ効いていた。奴は爆発を阻止しようとして失敗し、爆心地の中心に取り残されていたはずだが……これで死んだとも思えない。瞬間移動で逃げたから遠くて見えないのかな?

 とか思っていたが。奴は瓦礫の影から顔を出すと近くに居た蠍の首を両手の二刀で落としていく。鎌の数が減って所々傷付いていることから、無事には済まなかったことは確かなようだ。

 

 私達(プレイヤー)は装備の耐久値が減り、スキルは殆どがリキャストタイム待ち。持ち込んだアイテムもそろそろ枯渇しそうになっている。

 

 水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン)は、もう何百匹もが戦いの犠牲になり屍を辺りに散らした。"月華美神"もフェーズが進む程に身体が傾き、自身の巨体が落ちないよう支えることに必死になっている。

 

 "禍刃剥命"・"輝晶点穴"も、消耗は激しく十全に力を発揮できる状態にはない。

 

 どいつもこいつも満身創痍。最終盤には相応しいと言えるか。この中で誰が生き残るのかと聞かれればそれは私達プレイヤーである。勝つのは私達だとそう断言しておこう。

 

「居合術【力】……草薙ノ太刀!」

出力加算(アッドブースト)、【火砕龍】!」

 

 スキルで刃を強化し、拡張された攻撃範囲で蠍の命を一斉に断つ。360度全方位を取り囲む巨体が一薙ぎで崩れ落ちる様は、まるで引き抜きに失敗したジェンガのよう。入院中義手の操作に慣れるために何度もやっていた頃を思い出すな。

 新たに蠍が補充されたことは、敵戦力の充実と同時にこちらにもメリットがある。「独身貴族(ロンリービート)」の即死確率が、「敵の数が多ければ多い程上昇する」と分かったからだ。実際第4フェーズでは数を減らす程に即死させるのに必要な手数が増えていた。

 

 数が増えれば増える程に、それに比例するように減らしやすさも上がっていく。尻窄みになっていくのはしょうがないとして、序盤の即死確率が高い今の内に「独身貴族」を使い倒して、できる限り蠍の数を減らしていかねば。

 デミ・バンガードを装備し、スキル「縷々閃舞」を発動してヒット判定を嵩増しする。更にほぼ崖になった地形でも動きやすいよう、スキル「トライアルトラバース」も同時に発動。このスキルと私の技術があれば、切り立った崖の最中でも平面と変わらぬ機動力を実現できる。

 

「ほっ、っと……」

 

 僅かに突き出た突起に足を掛け、刃を掛け、上下自在に跳ね回る。蠍もカブトムシも崖に直接掴まれるから、奴らにとっては足場の変化は無いようなもので、四方八方から囲いを作られてしまう。気分は一昔前の主流だった横スクロールゲームだ。

 蠍の方はまだ良い。囲まれても即死で包囲に穴を開けて脱出は容易にできるからだ。問題は"輝晶点穴"の方、奴らは有り余る生命力で"禍刃剥命"の即死攻撃すら耐えてくるせいで、「独身貴族」の効果を持ってしても数を減らすことが難しい。近接特化になった今は、強化された蠍さえ蹴散らされる格闘能力まで備えている。あれを残り6匹全て自爆させないように倒すのは骨が折れるぞ……

 

 ──自爆の条件は多分、一定以下のHPの状態でしばらくの間時間が経つこと。これが正解だとして奴らを始末するには……

 

 自爆しないギリギリのHPまで削り、その後残りを一気に削ることで自爆前に倒す。または自爆シークエンスに移行するまでの間に倒す。このどちらかになるだろうが……どこまで削れれば自爆するのかまでは分からない以上、選べるのは後者。

 水晶に覆われていない腹部を狙って、バフを盛り込んだ一撃をぶつけてやれば、1体ずつ各個撃破していく方でならやれなくもないはずだ。落下死を狙う方法もあるけど、それだと素材がロストするとのことらしいのでそれは最終手段に留める。

 

「……何か、また揺れてない?」

「変だな、まだノルマには全然足りな……ッ!」

 

 ──アンデットの群れ……しかもあの数、100や200じゃ利かないくらい居るぞ!?

 

 "輝晶点穴"を始末するべく、動き出そうとしたその時のことであった。何度目かの地震の発生……しかし揺れたのは"月華美神"ではなく、その下にある奥古来魂の渓谷を構成する断層の方。そしてその揺れを起こしたのは、断層からポップし崖を伝って登ってきた無数のアンデットであった。

 奥古来魂の渓谷を構成する二つの断崖、それらの上層は水晶巣崖……"月華美神"の巨体によって蓋をされている状態にあった。フェーズ進行によって"月華美神"の傾きが強くなり、蓋をされていた地表に隙間ができた結果、断崖の中で眠っていたアンデットが覚醒したということなのだろう。ここまできてまた新たな勢力が追加されてしまった。

 

「新手の追加か……でも、アンデットなら」

「数が多過ぎるって!こんなに多いと魔法のリキャストが追い付かないよ!」

「ああ、そっか……」

「ロンミン、助けてー!」

 

 そういえばそうだった。アンデット相手は私なら小さな祝福のおかげで瞬殺できるし、刀が小回りの効きやすいタイプの武器なので、どれだけ数が増えようと大した脅威にはならないが。ヘルパーT細胞の方は違う。

 あいつは高い火力と広い攻撃範囲の魔法で一気に敵を殲滅することが可能だが、それらはリキャストタイムが長く継戦力に欠け、そうでない魔法も攻撃範囲が狭く多数との戦いには向かない。ただでさえ耐久力の一切を切り捨てたステータスビルド、人海戦術に呑まれればひとたまりもないだろう。

 

 蠍は場に出てくる最大数が20匹程度、エクゾーディナリー共は、出てきた分以上には増えないからどうにかなっていたが……今も増え続けているアンデットの群れは、ヘルパーT細胞というプレイヤーにとって最も苦手なタイプの敵なのだ。

 下から迫って来るアンデットを踏みつけにしつつヘルパーT細胞の元へ向かう。トライアルトラバースはとっくに効果切れになったが、大量に湧いて出て来るおかげで足場が広い。特にスキルも必要無くすいすいと進むことができた。

 

「ヘルT、流石にこの数を相手取るのはお前のビルドじゃ厳しいだろ。だからこいつらと"輝晶点穴"は私がどうにかする、お前は"禍刃剥命"の撃破と"月華美神"の攻撃の報告を頼む。やることが増え過ぎて流石にキツいからな……」

「役割分担だね。任せて!独身貴族(ロンリービート)で蠍を倒せるようになったから、あいつらはもう生かしておく意味あんまり無いもんね!」

「絶対、勝って気持ちよく寝るぞ!」

「もちろん!いい夢見よう!」

 

 話し合いはすぐに終わらせ、お互いに決めた成すべきことを成すためにまた走り出す。ヘルパーT細胞が"禍刃剥命"の撃破に集中できるように、奴に張り付かんとする虫を叩くのが私の役目だ。

 まずは迫り上がるアンデット共から。武器を傭兵の鉄鎚に変更しスキルを発動。ニトロゲインと禍血ノ子の鉄板コンビに加えて、空腹かつHPが少ない程効果が上がるバフスキル「餓狼の闘志(ハンガーウルフ)」。これらによって威力を底上げした鉄鎚の最大火力を、アンデットが固まって形成された地面に叩きつけた。

 

「フォートレスブレイカー……加えてもう一つ、クエイクスタンプ!」

 

 二つの攻撃スキルの重ね掛け。聖なる属性が加わった衝撃は地面に深く浸透し、崖登りを目論むアンデットを次から次へと灰に変えていく。ヘルパーT細胞の付近から、奴に群がるアンデットを一掃してやることに成功したのだった。

 刺したらすぐに次を向く。敵と敵と敵が入り乱れるこの戦況で一つの敵にばかり構っていたら、入ってきた横槍にあっさり殺されてしまう。私を覆い隠す巨大な影……上から降ってきた"輝晶点穴"の月光に覆われて輝く身体を迎撃する。

 

 月光に覆われた身体は、元々攻撃手段として使っているものということで触ればダメージを受ける。それも接触中は常にダメージを受け続けるスリップダメージをだ。

 なのであまり近付き過ぎないことが攻略の上では大事になるのだが、敵の数が多過ぎてそんな悠長なことをしている余裕は無い。なので取れる手段はダメージを無視してゴリ押し。武器を鉄刀に切り替えて私の方からも奴に跳び掛かっていく。

 

「秘剣【剛力】……加えてバンカード・ピアス!」

 

 水晶に覆われていない腹部なら、私の攻撃でもしっかりとダメージが通る。狙う部位は頭と胴を繋ぐ関節……そこから斜めに、脳天を貫く軌道で鉄刀を押し込んでやる。ハイエストジャンパーによる強化ジャンプで推進力を確保、上方向限定での絶大な速度を確保した鋒を狙い通りに貫いた。

 斬撃のダメージを上げる「秘剣【剛力】」に、貫通力を強化し多段ヒットさせる「バンカード・ピアス」の合わせ技。貫いた瞬間から「日差しの穂先(スピアオブサンレイズ)」も追加し、摩擦熱で内部へのダメージを更に加速させる。月光にジリジリと焼かれて私の方も少なくないダメージを受けるが……HPに特化した私のステータスなら命が尽きる前に必ず奴を倒せる。

 

 ──いけ、いけ!いけェ!

 

 どうにか削り切った。ポリゴンの破片となって霧散する"輝晶点穴"から意識を外し、襲撃の好機と見て群がる蠍共を踏みつけ、蹴り落としながら次の"輝晶点穴"の元へ向かう。

 残りは5匹……手持ちの回復ポーションが残り2個で、さっきの"輝晶点穴"を倒すまでに受けたスリップダメージが320。掠りなどでの小ダメージや横槍を考慮して、HPはなるべく高く保っておきたいので全快の状態で戦いたい。しかしそれをやるにはポーションの数が明らかに足りていない。

 

「ロンミン、レーザーが狙ってるよ!」

「うおっ……危なッ!?」

 

 油断も隙もありゃしない……考え事をしているとやっぱり他のことが疎かになりやすい。ただでさえ私の方がタスク量が多いし、警戒をヘルパーT細胞の方に任せて正解だったな。

 "月華美神"のレーザーを避けつつ、周りの蠍を巻き込んでついでに排除。心なしかレーザーの持続時間が長くなってる気がする……その分より多くを巻き込めるから、なるべく活用しよう。でも"輝晶点穴"はレーザーを吸収するから、そっちには当てないように気を付けて。

 

 ──あと5匹……1本しか無いポーションでどうやって全滅させる……?

 

 今の回復に使ったので、残りは1本。1本につき1匹では到底足りないから工夫が必要だ。複数匹を同時に倒せる工夫が、何か……

 

 ──よし、自爆させるか!

 

 ……我ながら、雑な結論を出したな。時間的にそろそろ夜が明けて来る頃だし、休憩を挟んだとはいえプレイし通しなので疲れているのだろう。

 落ち着け落ち着け……疲れている時こそ、大きく息を吸い込んで脳に酸素を回せ。自爆作戦は"輝晶点穴"に確実に死んでもらえるのが利点だが、月光を使う攻撃なので他の"輝晶点穴"を巻き込んで倒すことはできないし、爆発の範囲が広過ぎて自爆させた後逃げ切れなくなる可能性が高い。やるならせめて下の方で……登って来るアンデットをクッションにして、爆破範囲を抑えてからだ。

 

「それと……おーい、こっちこっち!」

 

 ──"輝晶点穴"を自爆させる前に、まずは他の方法も試しておかないとな。

 

「オーバーアクセル……」

 

「オーライ、オーライ……!」

 

「ギリギリまで引き付けて……!」

 

「ここ!蜻蛉返りィ!」

 

 上空で揺らめく"月華美神"の大剣に、身振り手振りで関心を引き寄せこちらにヘイトを向ける。狙いが定まったことを確かめてから、2匹固まっていた"輝晶点穴"の元へ全速力で近付き、大剣の振り下ろしで纏めて砕かせてやった。その上で自分は元いた場所へ戻る時にAGIが上がる「蜻蛉返り」で即座に退散し被害を免れる。

 硬い水晶の甲殻も、それ以上の硬度と質量の前にはひとたまりもない。自爆シークエンスに移行させる前に2匹も倒せる最高の結果だ。アドリブだけど上手くいって本当に良かった。ポーションを消費せずに済んだ上で残りは3匹。背後から飛散する瓦礫がバチバチ当たって痛いが、HPにはまだかなりの余裕がある。

 

「あと3匹……どこに居る!?」

 

 残りの行方を追う。

 

 1匹は私のすぐ近く。

 1匹は上の方で蠍相手に大暴れ。

 

 もう1匹は……マズい、ヘルパーT細胞の方にヘイトが向いてやがる!

 

「ヘルT、"輝晶点穴"が来てる!」

「そっちも、レーザー危ないよ!」

 

 ──ううおあぁ!?

 

 カサカサと崖を這いずって、ヘルパーT細胞の元へ忍び寄る"輝晶点穴"の1匹。奴の邪魔はさせまいとすぐに向かおうとしたが、目の前にレーザーが降ってきたことで出足を挫かれてしまう。慌てて警戒が疎かになってた、忠告を聞いて止まってなかったら消し炭になってたな……アンデット共を狙って撃たれたレーザーだったか。

 ホッとしてる場合じゃない。足止めを食らってしまったせいで、もう邪魔しに行くには絶対に間に合わなくなってしまった。"輝晶点穴"のスリップダメージは私でもかなりの痛手を負う、紙耐久の奴が食らえば5秒と保たないだろう。だがヘルパーT細胞は私の方を見ると笑顔でウィンクを返し、曲芸的立ち回りでピンチを切り抜けてみせたのだ。

 

「【マジックエッジ】!」

 

 "輝晶点穴"の方を向き、マジックエッジで足場の水晶を砕いて動きを鈍らせ。ノールックのまま背後の"禍刃剥命"に自動回復(リジェネ)を与え、継続ダメージで怯ませて行動を阻止。エクゾーディナリー2体の動きを止め、前後の安全を同時に確保。

 

「ムーンジャンパー……使わせてもらうよ!」

 

 下から上がってきた蠍を踏みつけにし、同時にムーンジャンパーを発動して跳躍。頭上に陣取って雷鐘で群がる蠍を一掃。フリーになったところで"輝晶点穴"の脳天へ致命の長杖(ヴォーパル・スタッフ)を振り下ろした。

 

「ブロウスイング……落ちなさい!」

 

 ヘルパーT細胞の耐久力で、"輝晶点穴"に肉薄できる時間はほんの一時。ならばその一時の間に決めてしまえばいいのだと、その横っ面にブロウスイングを叩きつけ、崖登りをキメるアンデットらと共に瘴気の下へ叩き落とした。

 それだけでは終わらない。振り切った杖をその勢いのまま"禍刃剥命"……ではなく、奴の影が掴む悪霊を固めた鎌に向け、魔法を放つ。

 

加算詠唱(アッド・スペル)……出力加算(アッドブースト)【マジックエッジ】!」

 

 強化された魔力の刃が、亡霊の鎌を砕く。リジェネに侵されながらその光景を見る"禍刃剥命"、ヘルパーT細胞はその隙を突き、奴が被る女の開きを思いっきり引き剥がした。

 

「"禍刃剥命(エンプレスキラー)"、八つ当たりの時間は終わりだよ」

「ア、アア、……ア…………………………」

 

 ──"禍刃剥命"が、消えた……

 

 剥がした皮を見せつけ、ヘルパーT細胞は目の前でそれを燃やし灰に変えた。

 その行動がトリガーだったようで、"禍刃剥命"はか細い悲鳴を残しゆっくりと消えていく。漆黒の影が少しずつ色を失っていく中、腕からこぼれ落ちた誰かの首を拾い差し出す。"禍刃剥命"は消えた腕で首を抱き、やがて完全に消失した。

 

「…………………………アリガトウ」

「成仏しなよ、お姉さん」

 

 憎しみを募らせていたものが壊れ、"禍刃剥命"は消え去った。だが余韻に浸っている暇は無く棒立ちのヘルパーT細胞を、アンデットと蠍が四方八方から襲い掛かる。

 まだ終わってないことは本人も分かってはいるのだろうが、何故こんな鉄火場で油断できるのだろうかこれが分からない。とりあえずクエイクスタンプでアンデットを吹き飛ばし、開いた風穴からヘルパーT細胞を引き摺って救出してやる。

 

「まったくお前は……せっかくカッコいいトコ見せたと思えばすぐこれだ」

「あ、ありがと……ゴメンネ」

 

 とは言え、"禍刃剥命"を倒すという役目をヘルパーT細胞はきっちり果たしてくれた。

 私の方も"輝晶点穴"の残りはあと2匹、あいつにダメ出しした分しっかり働かねば。第5フェーズはまだまだ半ば……推定400匹近くの蠍を討伐しなければならないのだから。

 

「引き続き、レーザーの警戒よろしく!」

「分かった、そっちも気を付けてね!」

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