ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「"
私の今の標的、残りの2匹の内1匹は今も崖の上の方で蠍と激闘を繰り広げており。もう1匹は下でアンデットを相手に無双を始めていた。スペックがそもそも段違いだし、月光の力は"
どちらもまだ自爆シークエンスには至っていないところを見るに、2匹ともそこまでHPは減っていないと思っていいだろう。だが相手が強力な崖上の方は、このまま放置していれば近い内に自爆の用意を始めるだろう。蠍と戦ってるから"
「だとしたら、上の方から狙うべきだな」
知らないに自爆されたら困るし、相手が強くて削れるのが早い上の方から倒すことにする。蠍に便乗すれば火力は十分に足りるだろうし、自分がやられないことにさえ気を付ければ、"輝晶点穴"単体なら割とどうにかなる。
「ロンミン、レーザー来るよ!」
「おう!」
相変わらず、行動しようとした時に限って降ってくるレーザーだ。砲台の位置を光から把握して発射される瞬間に位置を移動、若干追尾してくるし暫く持続するので、レーザーが途切れるまで周りのモンスターを多く巻き込むように逃げる。蠍は鳴かないので断末魔は聞こえないが、これで何匹かはフェーズ進行の糧になったはずだ。
レーザーをやり過ごした後、改めてリキャストタイムの終わった「トライアルトラバース」で一気に崖を登り"輝晶点穴"の元へ向かう。近くまで迫ったら登攀に使ったナイフを投げつけて、私の存在を奴らに知らせる。横から不意打ちを決めるのも悪くないのだが、今からやりたいことは正面からやる方がやりやすいと思うのだ。
「ほらよ、こっちだ"
ダメージは小さくても、水晶の隙間を抜けて関節を的確に攻撃したナイフを奴は脅威と判断した。蠍に向けていたヘイトがこちらに移り、月光を束ねて錐のように整形した角を突き出す。あれに突かれてしまえばひとたまりもないだろうが……しかしその角こそが私の狙いである。蠍を引き連れて突撃する"輝晶点穴"に、こちらも迎撃の用意をする。
武器を傭兵の鉄鎚に変更。スキルの準備──いつものハンマー用スキルではなく、相手の攻撃に対し紙一重の回避ができる「セツナノミキリ」を。このスキルが最も真価を発揮する瞬間……相手の攻撃を食らうその瞬間まで引き付け、錐の先が私に触れる寸前というタイミングで発動。刺突の横へ滑るように移動して、「スカイスマッシュ」を自慢の角に向けてフルスイングで撃ち抜いた。
身体の端から加えられた力で、梃子の原理により"輝晶点穴"の身体は大きく持ち上げられ、そのまま自重を支え切れずひっくり返る。四駆八駆の沼荒野で出逢った原種を倒した時に使ったやり方、あの時と違うのは一斉攻撃を仕掛けるのがプレイヤーではなく蠍であるというところか。
水晶に守られていない柔らかい腹部。そこに群がる幾多もの蠍による袋叩き……"禍刃剥命"の即死攻撃にすら耐える生命力を以てしても、流石にどうにもならない暴力がそこにあった。ポリゴンがしっかり消失したのを確認、これで残る"輝晶点穴"はただ1匹を残すのみとなる。
──あいつは何処に行ったかな……お、まだアンデット相手に無双ゲーやってるか。
ここで一つ考えた。さっきは短絡的に思いついて結局やらなかった、自爆させて"輝晶点穴"には勝手に死んでもらうという方法……それを、あの場で実行してやるのはどうかと。
奴の現在地は"月華美神"の端の方、つまり水晶巣崖と奥古来魂の渓谷というエリアの境界とも言える場所に居ることになる。そんな場所で大爆発が巻き起これば……渓谷の土を崩し、落下しまいと必死に掴まっている"月華美神"を揺るがすことができるのではないだろうか。もしもそれができるのならフェーズ進行に必要なノルマを、約400からいくらか短縮できるかもしれない。
「できるかどうか……まずは、試してみるか」
「あれ?ロンミン、何かやるの?」
「危ないから上の方にいときな」
「さては、また爆発させるつもりだね!?」
ヘルパーT細胞は、私のやりたいことを察知して一目散に避難していった。話が早くて助かるのでさっさと準備に取り掛かろう。
必要なのは、"輝晶点穴"に「死なば諸共」と思わせる程度の傷を負わせること。アンデットの波に呑み込まれず蠍の袋叩きに遭わず、自爆シークエンスに入るまで生かさず殺さず守り切る。やり過ぎて殺してしまわないようにご注意を。
「
どいつもこいつも無尽蔵だが、近付く奴らを片っ端から蹴散らしていけば、ある程度新手が来るまでの時間稼ぎはできる。その邪魔の入らない時間で上の1匹にやったように、鉄鎚でひっくり返して腹を攻撃してHPを削っていく。こいつは即死効果が発動しても死なないから安心して手数を出そう。
「もう増えてきたか……ほら、起きな!」
「…………!!」
新手が近付いてきたら、"輝晶点穴"をもう一度ひっくり返して腹を隠してやる。そして反撃に注意しながらまた蠍とアンデットを掃除し、居なくなったらまたひっくり返して殴る。これで残り1割くらいまでは削れただろうか、そろそろ自爆シークエンスを開始する頃合いだ。
叩き起こしてやると、今度は反撃が来ず"輝晶点穴"は棒立ちのまま天を仰ぎ見る。最期に人生……いや蟲生の振り返りでもしているのだろうか、まぁ自爆してくれるなら何でも良い。さっき爆ぜた奴も直前にこうやって棒立ちになってたしね。
こうなってから、月光が身体から漏れ出したらそこが全力で退避するタイミング。この辺りからダメージがほぼ通らなくなり爆発が確定する……しかし"月華美神"の大剣ならば、もしかしたら爆破前に倒せてしまうかもしれない。レーザーが効かなくとも物理攻撃なら効くし、奴は必ず試すはず。
その予想通り、"月華美神"の大剣が月光を収束させる"輝晶点穴"に狙いを定め振り下ろされる。倒せようと倒せまいと、"輝晶点穴"の全滅は確定しているのでマイナスは無いが……プレイヤーに都合の良い展開になってくれるなら、それは"月華美神"自身の攻撃で、爆発以上の衝撃を起こして勝手に崖から滑り落ちてくれることだろう。
──一応、落下には備えとくか……
都合の良い「もしも」に備えて、いつでもフリットフロートを使う準備は整えておく。フェーズ進行の大幅なスキップ……さぁ、できるかできないか。
──どっちだ……!?
流れに巻き込まれないよう距離を取り、"輝晶点穴"の最期を見守る。"月華美神"によって打ち砕かれてしまうのか、それとも無事……いやそもそも自爆する時点で無事ではないか。何事も無く爆発まで漕ぎ着けることができるのか。
これでもかと溜め込まれた"輝晶点穴"の月光が解き放たれたのと、"月華美神"の大剣がそれを斬ったのは同時のことであった。その結果……爆発によって穿たれた面に大剣が触れ、ダルマ落としの如く"月華美神"の身体を撃ち抜く。落下こそしなかったが傾きは更に凄まじいものとなった。
「わわわ……コレもう崖ですらないじゃん!内角が完全に鈍角になっちゃってるよ!」
「これでも耐えられるのか……!敵ながらすっごい根性見せてくるな!」
斜面の角度が入れ替わり、完全に私達の居る内側は鈍角になったが、"月華美神"はそれでも尚崖際にしがみ付き転落を阻止する。自分が落ちれば乗っている生命全てが巻き添えになる、その自覚がありありと感じられた。まぁ……こいつが気にしているのは蠍の命だけだろうけども。
足場と呼べるようなものはほぼ無くなり、まるで雲梯棒を掴んでいるような状態になる。一応踏める水晶はあるのだが、面がツルツルなので不用意に踏むと滑り落ちて死ぬ。STRとSTMに任せて斜面に掴まるのが確実な方法だ。
モンスターの勢力も変わった。崖登りを敢行するアンデットは、掴まる場所が激減したことで殆どが落下死して居なくなり。蠍も今の衝撃で表に出ていた分が一掃され、無傷の新しい個体がまた水晶を破ってゾロゾロと現れる。"禍刃剥命""輝晶点穴"は全滅したのでもうそっちには悩まされない。
ずっと狙いを着けてきていた"月華美神"の砲台と大剣も、まだ見えてこそいるものの照準を定めることを放棄している。落ちないようしがみつくのに必死で、こちらに攻撃を仕掛けるだけの余裕が無いということだろう。即ち……このシチュエーションは蠍に集中する絶好のチャンス。
「ヘルT、全力で叩き落とすぞ!」
「うん、あと少しだね!」
あと何匹倒せば良いのかは分からないが、地形変化の影響で蠍の討伐はやりやすくなった。少し斜面から足を突き離してやればもう、支えとなるものは何処にもない……そう、ノックバックを活かして渓谷の底まで突き落とすのだ。
武器は鉄槍に変更。「
ここからまた、長い戦いが始まるのだ……
「バンカード・ピアスゥ!」
「【雷鐘】!【火砕龍】!
「
「出力加算【ファイアーボール】!」
「………………!!」
「………………!!」
「………………!!」
「………………!!」
「ど、ドンドン数が増えてくよぉ!?」
「狼狽えるな、確実に突き落とせ!」
「えーい、【マジックエッジ】!」
「ハンド・オブ・フォーチュン!」
「ハァ、ハァ……やーっと登ってこれた!二人ともお待たあああああぁぁァ……」
「アクアリエー!?」
「二度あることは三度あるー!」
「…………………!!」
「…………………!!」
「また増えた!」
「えーい、纏めて掛かってこい!」
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あれから、どれだけの時間が経っただろうか……遂にその時がやってきた。
「わわっ、揺れてる……!」
「遂にきたか……"月華美神"が落ちるぞ!」
「これは……俺らも巻き添えになるタイプ!?」
「みんな、備えろ!」
"月華美神"が震える……即ち、長い長い第5フェーズがようやく終わったということ。水晶巣崖という一つのエリアを担う巨体を支えていた崖が重みに耐え切れず崩壊、ズズズズ……と凄まじい轟音を鳴らして渓谷の底へ滑り落ちていく。
当然、上に乗っていた私達は奴の落下死の道連れにされる。人生縛りをしてる私以外の二人は巻き添えになろうとも、着けている装備を落とすくらいで大した被害は出ないが……せっかくここまで生きて辿り着いたのだ、最後までがむしゃらに足掻いて生き残ってやろうじゃないか。
「ヘルT、アクアリエ!こっちへ!」
「分かった、すぐ行く!」
「くそ、動き辛い……!」
「最後まで生き残るよ、こっから跳ぶ!」
下へ下へと落ちていく中、突出した水晶の一つに3人で急いで集合。ヘルパーT細胞の杖以外の装備を解除してもらい、身軽になった2人を私が背負い今発動できるバフスキルを全開放。
「タイミング合わせて……ここだ、遮那王憑き+ハイエストジャンパーッ!」
「うお、めっちゃ跳ぶ!」
「ううう、空気抵抗強過ぎ……!」
「しっかり掴まってな!」
極限までステータスを高め、フォーミュラ・ドリフトで一気に水晶を滑り加速。ギリギリのところまで来てから、遮那王憑きとハイエストジャンパーで飛び立つ。目指すは渓谷の向かい側、私達が登らなかったもう一つの崖。"月華美神"の落下で距離が縮まったことを生かし、向こう岸まで避難するのが私の狙いであった。
だが届かない。縮まったとは言え流石に二つの崖を隔てる距離はとても遠く、今の私が出せる最高の機動力を以てしても届かない。例え荷物が無かったとしても結果は同じだろうが……諦めずにまだまだ飛距離を伸ばしていく。
「フリット、フロートォ……!」
「出力加算、【火砕龍】!」
──くっそ、あともう少しなのに……!
フリットフロートによる二段ジャンプ、ヘルパーT細胞の魔法撃ち出しの反動で、更に飛距離を稼いだがそれでもあと20m程足りない。地面に落ちたら落下ダメージを貰うことになる、そうなれば3人仲良く地面のシミとなるだろう。
そうなったら食い縛りすら発動せず、アバターの完全破損による即死となってしまう。ちくしょうめあと少し、あと少しなのに……
「大丈夫……届かない分は俺が稼ぐ!」
「お兄様!?何か策があるの!?」
「アクアリエ、何するつもり!?」
「こいつを使う……"
我に秘策ありとアクアリエが装備したのは、彼専用の"彼岸の徒"撃破報酬である手甲。
規格外武装:大盾型【フォートレッド】を装備するための前提となる装備という立ち位置だが、それ単体でも利用するに足る効果がある。
「周囲の空気を吸い込み、内部で収束させ砲弾として撃ち出すことができる擬似「
収束した空気が撃ち出され、その反作用で私は必要十分な加速を得る。減速し地面に向けて落下しかけていたのを持ち直し、ぐんぐんぐんぐんと崖に近付いていき……崖肌に触れるところでトライアルトラバースを発動。跳んでる間にリキャストの終わったバフも総動員し、全速力で登り詰める。
早く、早く、倒れた"月華美神"の姿勢次第では相当高い所に居ないとそのまま巻き込まれる。遮二無二手足を動かしての全力登攀は、大地を揺るがす轟音が響き、伝わる振動で動きを強制的に止められるまで続いた。そして音が凪いでから振り返ったそこで見たのは……
「わぁ、綺麗な日の出……」
「凄いな、瘴気が完全に晴らされてら」
「これはスクショ撮っとこ!」
「……やあっと、終わったか」
……瘴気が晴れた奥古来魂の渓谷で見る、新たな1日の始まりを告げる昇る朝日であった。
【モンスター
【討伐対象:
【討伐対象:
【討伐対象:FM'sクリサリス"
【エクゾーディナリーモンスターが撃破されました】
【称号『晶界割破』を獲得しました】
【称号『愛スルガ故ニ』を獲得しました】
【称号『我ラ大地ノ申シ子』を獲得しました】
【条件を満たしたプレイヤーが称号『
【条件を満たしたプレイヤーが称号『
【条件を満たしたプレイヤーが称号『怨ミノ先』を獲得しました】
【
【
【
「……勝った!」
【晶界割破】
"
【愛スルガ故ニ】
"
【我ラ大地ノ申シ子】
"
【
一回の戦闘で50以上レベルアップした時に貰える称号。
【
一度に合計で100正マーニ以上の価値があるアイテムを手に入れた時に貰える称号。
【怨ミノ先】
"禍刃剥命"に対して怨みの終焉を突きつけたプレイヤーが貰える称号。
もうお金には困らない。