ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「やっと……終わったんだなって……」
「安心したらドッと疲れが……」
夜通しかけた長い戦いが終わり、全身から力が抜けていくような感覚に陥る。街の外でこのままでいるのはとても危険だし、気を抜くのはフォスフォシエに帰ってからだ。と、思っていたが……
「あれ、エイドルトに進めるようになってる」
「変だね、エリアボスはまだ倒してないけど……もしかして"
「……そうだろうね」
「……エイドルトの方に行こっか」
既にエリアボスは倒した扱いになっており、次の街「エイドルト」への通行が許可されていた。私達が近付いたことでポップし、そして"月華美神"の落下に巻き込まれて死んだのだろう。あの超質量に潰されればシミすら残るまい、哀れな……
ボスの顔を見ることすら無く、このまま3人でエイドルトへ向かう。私とアクアリエはインベントリがドロップアイテムでパンパンになり、AGIにデバフが掛かったので、無限容量のチェストリアを持つヘルパーT細胞にアイテムは預かってもらう。
「着いた、エイドルト!」
「ここまで長いような短いような……何だか不思議と感慨深いものがあるね」
「……確かに、夜通しかけた戦いは長かったと言っていいけどさ。ロンミンはシャンフロ始めてからまだ1週間くらいじゃなかったっけ?」
「え、そんな短かったの……?」
実際は最初のアバターから人型の操作練習期間を挟むのでもっと短いのだが。まぁいちいち訂正するようなことではないし口には出さない。
そんなことよりも、私はさっさと今回の戦利品の確認がしたいのだ。アクアリエのために行われた今回の水晶巣崖攻略だが、多数のモンスターとの戦闘もあって大量の副産物が手に入った。貰った称号の中に『
──ふふふ、苦労に見合うだけのものがヘルTのチェストリアに詰まってるんだよなぁ……!
トレデシリオン……日本の単位に直すと100正という普通に生きてたらまず聞くことはない数字。億・兆・京・垓・
アイテムの価値が価値なので、街中PKを警戒して人気の少ない裏路地の喫茶店を選んで入店。ヘルパーT細胞曰く、有事の際は奴の取り巻きが助太刀してくれるそうだが……それでも始めから物騒なことにはならないように祈っておこう。
「よし!それじゃあ今回の戦利品、ご開帳!」
ヘルパーT細胞が掌をパンと重ね合わせ、チェストリアを開いてアイテムを取り出していく。ボトボトと大量に出てきているが、これでも戦利品全体のごく一部なのだから恐ろしい。
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【共通の獲得アイテム・称号】
・水晶巣崖で採れる各種鉱石類
・
・"
・アンデットモンスターの各種素材
・称号『晶界割破』
・
・スキルポイント+20pt
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「わぁ、たくさん」
「無事に自分で採った鉱石を持ち帰れて、良かったよホントに……特にこいつら「ローエンアンヴァ琥珀晶」「ラピステリア星晶体」は、凄く性能の良いアクセサリーの素材になるからね。これなら確実に
「じゃあ、今の内にアクアリエにリュカオーンの素材渡しておくよ。良いアクセサリー作ってね」
「あ、私のもお願いねお兄様!」
宝石匠就職が内定したので、フォスフォシエで約束した『リュカオーン素材のアクセサリー制作』を果たしてもらうために素材を渡す。どんなアクセサリーができるのか今からとても楽しみだ。
「して、本命の
「こいつは俺にも使えて良かったよマジで……」
「どれどれ……わわっ、めちゃ強だよコレ!?」
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【
・このスキルを習得したプレイヤーは、ステータスに特殊ゲージ『ムーンゲージ』が追加される。ムーンゲージは月光を浴びることで充填され、消費することで様々な効果を得られる。ゲージの最大値は100。以下はゲージ消費によって発動する効果。
『
・HP全回復・MP全回復・デバフ削除・破壊部位再生のいずれかから選択して使う。この効果は他の効果によって無効化されない。
『
・収束した月光を指先から射出するレーザー砲。威力はゲージの消費量が多い程上がり、攻撃対象のカルマ値が高い程更に威力が上がる。アンデットなど実態を持たないモンスターにも攻撃可能。
『
・消費したゲージ1につき、任意のステータスを1上昇させる(上限合計100)。この効果は自身のパーティメンバーにも適用でき、上限値は一人ずつ独立して計算される。
『
・ゲージを消費して、武器・防具・アクセサリーの性能強化または耐久値回復を行う。この効果が付与された装備は、戦闘終了まで耐久値が0になっても破壊されない。
『
・ムーンゲージMAXの時のみ使用可能。発動中はゲージ充填不可。
・発動時、リキャストタイム中の自身のスキル・魔法を全て使用可能状態にし、更に自身の全ステータスを+200%する。
・発動中、『
・効果時間は最大300秒で、3秒につきムーンゲージが1減少する。また、効果終了後から168時間の間ムーンゲージを充填できなくなる。
『絶世秘技・
『絶世秘技・
・『
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──何だこれ……つっよ。
ムーンという単語がゲシュタルト崩壊を起こしそうなテキストだが、その中身は苦労してあの化物蠍を倒した甲斐があったと思わせるぶっ壊れ。これだけで回復もバフも遠距離火力も何でも熟せる上、高火力な切札まで備えた完全スキルだ。
敢えて短所を上げるとするなら。月夜にしかゲージの充填ができないところと、必殺技の途中切り上げができないというところくらい。特にこれと言ったデメリットすら存在しない、"
「驚いたな……実際に使ってみないことには詳しいことは分からないけど、テキストを読む限りは間違いなくぶっ壊れスキルだ」
「頑張った甲斐があるってもんだね!」
「ホントに……それじゃあ次にいってみよう」
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【ロンミン、ヘルパーT細胞の共通獲得アイテム・称号】
・
・"
・"
・武器【
・一式装備【
・称号『愛スルガ故ニ』
・称号『我ラ大地ノ申シ子』
・称号『
・称号『
・
・
・スキルポイント+40pt
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「こっちはもっとたくさん!」
「これもう使い切れないんじゃないか?」
凄い量の報酬に、改めて確認し息を呑む。素材と称号はそうとして他を見ていくと……
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【
・大鎌カテゴリの武器。
・霊や魔法生命体など、肉体を持たないモンスターにも攻撃可能。
・この武器でプレイヤー・NPC・モンスターをキルする度、使用者のステータスを戦闘中限定で上昇させる、特殊なスキルポイントを獲得する。
・この武器の使用者のレベルー対象のレベル%の確率で即死効果を付与する。
・耐久値をプレイヤーのHPと共有しており、プレイヤーが死ぬと一時的に消失する。消失後はプレイヤーのリスポーンから24時間後に、インベントリ内で復活する。
・この武器の装備中、敵からの攻撃以外で受けるダメージが倍増する。
・必要ステータス『DEX80』『TEC80』
【
・一式でのみ装備可能な女性専用全身装備。
・この装備は、これを装備する直前まで着けていた装備を破壊した上で装着され、破壊された装備の性能を引き継ぐ。
・この装備の耐久値は減らない。
・この装備はプレイヤーの死亡以外で外せず、プレイヤーの死亡後インベントリ内に収納される。
・これを装備中のプレイヤーは、常に全ステータスに下降補正が掛かる。
・これを装備中のプレイヤーは、この装備の効果以外でHP・MPを回復できなくなる。
・これを装備中のプレイヤーは、あらゆる状態異常を無効化する。
・これを装備中のプレイヤーがプレイヤー・NPC・モンスターをキルした時、プレイヤーのHPとMPをトドメで与えたダメージ分回復する。また、同じ数値分この装備のVITが上昇する。
・これを装備中のプレイヤーが死亡した時、一度だけHPを全回復して復活する。この時プレイヤーに掛かっていた効果は全て消失する。
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「"
「私にとってもヘルTにとっても、確定で死を免れられるってのは本当にありがたいからね。ていうか
武器の方は被弾以外のダメージが倍増するというデメリットを持つものの、即死効果やキルする度に上がるステータスなど、群体系のモンスターを相手取るのに向いた一品となっている。鎌というカテゴリから考えると、一番相性が良いのは植物系のモンスターだろうか?
防具の方は、ステータスデバフや回復縛りの代わりに状態異常無効と蘇生ができるというもの。こちらもキルの度に性能が上がるし回復もできるので、虐殺……無双プレイに向いた一品だ。魅力的なんだけど着けている装備を破壊して装備という都合上、今はちょっと使えない。武器と同じく旅人シリーズも真化させたいし、死ななきゃ外せないってのは人生縛り的にマジで困るからな……
「……次はスキルを見ていくか」
「
倒したエクゾーディナリーは3種類、つまり貰えたスキルも3種類。「
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【
・同性のプレイヤー・NPC・モンスターに与えるダメージが凄く上昇する。
・異性のプレイヤー・NPC・モンスターにダメージを与えた時、確率で即死する。
『
・発動後、200秒間プレイヤーの全ステータスを100%上昇させ、如何なる死亡条件を無視する無敵状態を付与する。効果終了後、プレイヤーは死亡し周囲に『
『
半径50mの円の範囲に展開されるフィールド。範囲内のあらゆる生命は、1秒につき最大HPの10%のダメージを受ける。この効果でHPが0になった時、プレイヤーは死亡する。この死亡判定は如何なる手段でも覆せない。展開時間はプレイヤーの『
【
・このスキルを修得したプレイヤーのインベントリにアイテム『
『
・スキル修得者のインベントリに自動で追加されるアイテム。このアイテムを消費することで「一度でもセーブをしたことがある街・エリア」にテレポートが可能となる。「
・最大所持数3個。1個消費する度24時間後に新しく1個インベントリに追加される。
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「同性特効、異性即死、そして自爆確定の自己バフ効果か……置き土産まで遺していくとなると使い方誤ったら大惨事になるね」
「これってつまり、ファストトラベルだよね!1日3回までしか使えないけど、シャンフロじゃそもそものファストラ手段が少ないから、ある意味じゃあこの中でも一番の大当たりだよ!」
これで、私とヘルパーT細胞が共通して獲得したアイテムなどは全部。ここからは私達がそれぞれ個別で獲得したアイテムの確認に移る。とは言っても手に入れた「アイテム」は、そんなに数は無いのだけれど。
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【ヘルパーT細胞の個別獲得品】
・
倒された「
【ロンミンの個別獲得品】
・アクセサリー:『
羽化した「FM'sクリサリス"
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「……お前、マジ?」
「マジだよ。ほら見て、この人がヨハンナさん」
「……」
「……こうして見ると、あの
ヘルパーT細胞が致命の長杖を出すと、そこから陽炎のように姿が揺らめく女性が現れた。アクアリエの言う通り、彼女こそが黒死の天霊の元となった人物ということなのだろう。儚げな感じの美……少女ではないから美女ってところか。
何ができるのかと聞いてみたところ、ヨハンナはヘルパーT細胞に何かしらの魔法を掛ける。その効果はMPの増量と即死のダメージ無効とのこと、魔法使い且つ紙耐久のヘルパーT細胞には非常に噛み合った内容である。あとは喋れないのか無口なだけなのかは知らないが、話しかけても「会話」はしてくれない。コミュニケーションは面倒そうだな。
「それで、ロンミンのヤツはどんな感じなの?」
「性能は良さそう。装備の見た目は……あのカブトムシをそのままレインコートにしたって感じ。環境効果無効とかこれ一つでめっちゃVIT上がるとか効果は強いんだけど、いかんせん刻傷があるせいで3分しか保たないのがなぁ……」
「レ、レベルキャップ解放したら6枠目以降のスロットも解放されるようになるから……」
「それなら、新大陸目指さないとだね」
せっかく性能も良いし、見た目も水晶を布のように加工して作ったレインコートという感じでかなりカッコいいのだが……問題は、これが胴装備ではなくアクセサリーであること。リュカオーンの刻傷があるせいで、アクセサリーは180秒の間しか装備できないから勿体無くて使えないのだ。
一応、アクセサリースロットはレベル20ごとに1つ解放されるようになっている。私は既に5枠分無理やり空けられているけど、レベルキャップを解放すれば6枠目以降が空くようになるので、こいつを着けるとしたら新大陸到達が必須となる。目標ができたということにしておこう。
「アイテム類はこのくらいかな……後は一気にレベルカンストまで持っていけた、大量の経験値!」
「Extendも付いたし、今レベルキャップ解放したらどのくらいまで上がるかな?」
「2人は確か、経験値の取得量が減ってるんだったよね。ならそれが無い俺は、解放すれば150までイケるくらいには溜まったんじゃないかな?」
「一気に上げ過ぎるのも、スキル習得し辛くなるからちょっと困るけどね」
めぼしいアイテムの確認は終わり、次は経験値とそれに伴い入った大量のスキルポイント。元よりカンストのアクアリアはともかく、私はレベル36から99Extendに。ヘルパーT細胞はレベル40から99Extendに、お互い『
スキルポイントの獲得量は、私が63レベル分の上昇量と、エクゾーディナリー3種の討伐ボーナスを合わせて1320ポイント。ヘルパーT細胞が59レベル分の上昇量と、同じくエクゾーディナリー3種の討伐ボーナスを合わせて768ポイント。超強化を超えた超強化である。このポイントをステータスに振れば、それだけで大抵のプレイヤーを上回るステータスとなるだろう。
「いやぁ、大満足だねぇ……」
「まったく、苦労した甲斐があったってもんだ」
「リアルはもう朝だもんなぁ……ログアウトしたらすぐ寝ないと明日にまで響きそうだ」
「土日でホントに良かったねぇ。次の日が学校だと思うとこんな徹夜とかできないもん」
学生の2人は明日が休みで良かったと共感し合えているが、自営業の私は時間の縛りが緩いのでその話には参加できない。
学校……私も、この身体でなければ普通に通えてたんだけどな。拘束時間が長過ぎるしユニバーサルデザインの校舎になってる学校、概念が提唱されてだいぶ経った今でも少ないんだよね。私も青春というものを体感してみたかったよ……
「よし、やることも終わったし解散しよう!今日はみんなお疲れ様でした!」
「そうだね。ふあぁ……次は、アクセサリーが完成した時にでも集まろっか」
「最高の物を作っておくよ。2人とも今日は本当にありがとう、体調崩さないようにログアウトとしたらしっかり睡眠を取るんだぞ、特にロンミン、お前は体調崩しやすいんだからな」
「分かってるよ。それじゃあ、また今度ね」
「ああ、お疲れ」
「私は配信終えてから落ちるよ。お疲れ様ー」
別れを済ませログアウトする。随分と久しぶりに感じる我が家の景色を見て意識を切り替え、水分補給とトイレを済ませてベッドに入った。じっとりと汗もかいてるからシャワーも浴びたいけど、風呂はマジでめんどくさいし起きてからでいいや……
困難を乗り越え、多大な達成感を得た後の睡眠はぐっすり眠れることで私の中で有名だ。きっといい夢を観れるだろう、起きたら仕事もあるししっかり疲れを取らないと……何てことを考えている内に、意識は深く沈んでいくのだった。
「すやぁ……」
八千代の嫌いなものは爪切りと風呂。
理由は義手だと細かい動きが苦手なことと、危険度が高過ぎるため。