ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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26:ゲームセンターは偶に行くととても楽しい

「結構時間余ったな……どうしよ」

 

 水晶巣崖での激闘を終えた次の日のこと。

 原稿などの作業や家事も含めて、1日のタスクが思っていたよりも早く終わってしまい。私は余った時間をどうするかを考えていた。

 

 シャンフロにログインするのも良いが、ここ最近ログインしてばかりなので、偶には違うことをしようと思っている。VRゲームからは離れて10代女子らしいことを何かしてみようか……いや、今のトレンドとか何も知らんけどさ。

 こちとら学校にも行かず、家で絵を描いてるかゲームしてるかの引き篭もり。外出するとしたらジムに運動しに行くか、親戚に遊びに連れ出されるか取材でどこかへ行くかというくらい。買い物は生協やネットで済ませてるし、基本的にお外とは縁の無い出不精なのが私なのだ。

 

 ──うーん、どうしよっかな……

 

 しばし悩んだ結果、近くのショッピングモールに行くことにした。あそこなら本屋やゲームショップみたいな私でも楽しめるコーナーがあるし、ちょっとした暇潰しには最適だろう。

 それに、あそこには今や絶滅危惧種とも言えるゲームセンターがまだ現存している。行くと決めたらレトロな液晶ゲームとかやりたくなったし、取り敢えずゲーセンには絶対寄ろう。そうと決まれば早速身支度を整えて出発するとしようか。

 

 季節が秋になり肌寒い日も増えてきたけど、それとは関係なく私はいつも長袖と長ズボン、もしくはロングスカート。両手には手袋と眼帯も着けて杖を持っていけば完璧だ。

 本音を言えば、厚着なんてするだけ暑いんだからなるべく着込みたくはないのだけれど。義体はマジで目立つし人目を引くから、好奇の目や無用な同情を引かないように隠す必要があるのだ。

 

 ──車椅子は……そんな遠くないし、今回は別に持ってかなくても良いかな。

 

 遠出するなら車椅子も必須だけど、今回は電車で一駅程度の距離なので普通に歩くことにする。

 義足にアクシデントがあると、物理的に身動き取れなくなるのがお出掛けのネック。しかしあれはデカくて場所を取って邪魔になりやすいし、歩くのも歴としたリハビリだ。そう遠くない距離の場合はなるべく車椅子には頼らないようにしている。

 

「準備良し……行くか!」

 

 鞄と財布も持って準備は完了。久しぶりの仕事以外での外出を楽しみに行くのであった。

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□□□□□□

 

 

「久しぶりに来たけど、やっぱデカいな……また増築されたのかな?」

 

 大型ショッピングモール『セントラル』、できたのは私が産まれるよりも前だが、何度も増築と改築を繰り返して客を掴んで離さない最先端の店揃えを実現しているというやり手のモール。実際に毎年黒字を更新し続けているらしい、この前ニュースでそんなことを言われているのを見た。

 駅から直通の入り口を通り、地下の食品売り場を通り過ぎてエスカレーターで3階へ。惣菜のいい匂いが鼻をくすぐり食欲を湧き立たせてくるので、待つ手間のあるエレベーターよりもすぐに乗れるエスカレーターを選択する。スルーするのは惜しいけど昼飯はもう済ませてあるのだ……

 

「ゲーセンは……場所は変わってないな、ヨシ」

 

 エレベーターを登ってすぐ先、階層マップから目的地が変わっていないことを確認。日曜日ということもあり同年代の若者から家族連れ、腰の曲がった老人まで多くの人でごった返す廊下を歩き、雑多な効果音が響き渡る目的地の一つ『ゲームセンター:オシャンティ』に到着する。

 入り口にあるクレーンゲームの筐体を素通りし、奥にあるゲーム用メダル売り場へ。以前……と言っても1年程前に来た時に獲得、保存しておいたメダルを取り出して使う。あと数日で保存期限が切れていたから良いタイミングだったな。保存してたメダルの枚数は1016枚だった。

 

「VRも良いけど、こういうのも偶にやると楽しいんだよなぁ」

 

 まず座ったのは、入れたメダルの枚数だけ強くなる恐竜を操作して戦うヤツ。その分敵も強くなるのでぶっちゃけ、戦力差はどんだけメダルを入れようと変わらないのだが。勝った時に貰えるメダルの枚数はかなり変わるので、メダルはなるべく最大枚数使うことを勧める。まぁ……どのメダルゲームにも言えることだと思うけども。

 基本的なシステムはじゃんけん。これを通すことでダメージを与えられる「噛みつき」、噛みつきを防いでダメージを無くせる「守る」、守るを貫通できるが噛みつきには負ける「体当たり」の三つのコマンドから1つを選び、先に相手に5ダメージを与えたら勝利。メダルを獲得できる。因みにあいこだとダメージはお互いに発生しない。

 

「最初は噛みつきか、なら『交互』パターンかな」

 

 CPUはランダムではなく、特定のパターンに沿ってコマンドを選択する。同じ手を負けるまで出し続け、負けたらまた違う手を負けるまで出し続ける『連続』パターン。噛みつき→守る→体当たりと順番に手を変える『交互』パターン。自分が前のターンに負けた手に勝つ手を出す『リベンジ』パターンなどなど。分かっているだけでも20近くのパターンがあるらしい。私も全てを知っている訳ではないが……

 どんなパターンで来るかを少ないターンで予測、対策することで高い確率でメダルを稼げる。最大枚数でプレイしてもリターンは正直ショボいが、低リスクで稼ぐにはもってこいの筐体である。そしてここだけの話、CPUの初手が「噛みつき」だとパターンが上の3つのどれかに固定されるらしい。知っていると稼ぎがより楽になるぞ。

 

「取り敢えず、もう1000枚くらい稼ぐか!」

 

 効率は良くないし突き詰めれば作業だけど、パターンを少ないターン数で見切るのは結構楽しい。

 久しぶりということもありかなり熱中し、私は手持ちが倍になるまで居座り続けたのだった……

 

「次は……これにしよっかな」

 

 次に選んだのはスロットのようなもの。高速で回転する絵柄を3枚揃えろという、昔から根強い人気を誇るヤツなのだが……私が座ることにしたこの台は、多くのプレイヤーが挑んでは散った曰く付きの台となっているのだ。

 その理由は、スロットの回転速度。回転している間は、肉眼ではどんな絵柄があるのか見分けが付かないというのが一つ。そしてもう一つがこの手のゲームにありがちな、「スロットを回した時点でもう何に止まるかは決まっている」というランダムもクソも無い仕様ではなく。しっかり目押しで任意の絵柄に止められるようになっているということ。

 

 ──つまり、この暴力的回転を見極めることができなければ当たりはあり得ないってこと……

 

 ふざけたことを抜かすなと言いたくなるようなクソゲーだが、私にはこのクソゲーを「確実に攻略できてしまう」手段がある。厳しい店なら出禁処置にされることもあるだろう、「取り外しのできない外部ツール」を使った手段が。

 眼帯を外し、右の義眼を曝け出す……うおおぉぉ眩しいィッ!視界がうるさいッ!……とまぁ、このように。私の右の眼窩に埋め込まれた義眼はとても性能が良く、動体視力に関しては通常の眼球では実現できないレベルを得ることができる。どれくらい凄いかというと、このめちゃ速スロットの回転も余裕で見切り目押しができるくらい。

 

「うん……前と変わってないなコレ。右眼だけなら余裕でイケる、けど……」

 

 左の瞼を閉じながら、右の義眼だけでバンバン目押しを成功させていく。左右で視力(スペック)に差があるので両眼を開いていると激しく酔うのだ。なので普段は眼帯を着けているし、外している時は左の瞼は閉じて右だけで見る。

 普通に作り直してもらいたいけど、製作者がもう()()()ので新規での製作はできず、定期的にメンテナンスして機能を維持するに留まっている。張り切って良いものを作ったと言っていたけど、それよりマトモに使えるのが欲しかったな……ゲームならともかく実生活に浪漫は要らん。

 

「左眼でもやるっきゃないよね!」

 

 眼帯を着け直し、今度は左眼の方で目押しにチャレンジしてみる。ハイテクによって制御された右眼よりはどうしても、生身の左眼は動体視力(スペック)では劣ってしまう……だがそれは、左眼で目押しができない理由にはならないのだ!

 残念ながら、人の身体は何かを失えばその分残った部位の性能が良くなるなんてことは無い。しかし鍛えれば鍛えるだけ、鍛えた部位は強くなるということは健常者でも身障者でも変わらない。失ったものを補えるようリハビリを続け、生身を鍛え培ってきた私の眼力は……人類の天井に達している!

 

「1列目……『冠』」

 

 まずは1列目。数十種類ある絵柄の中で最も数が少なく揃えた時の得点が高い『冠』を射止める。

 

「2列目……よし、『冠』!」

 

 2列目も成功。それも最も成功時の倍率が高い真ん中揃えの構え。あと一つ『冠』をスロットの真ん中に置ければ成功が確定する。

 

「3列目……!」

 

 人間の眼で認識できるのは、240fpsが限界とされている。

 私の眼もそれくらいの速さを認識できるが、それでも尚このスロットは速い。だからと言って焦っては何も始まらない、冷静に……しっかりと止めるべき絵柄を見極めるのだ。幸いなことに『冠』は1つのスロットに1枚しか絵柄が無いので、他と混同する可能性を気にせずそれだけを狙える。

 

「──────────こ、こォ!」

 

 ──当たった……ッ!

 

 結果は成功を収め、メダル払い出し口から、投入した枚数に当たりの倍率を「掛けた」枚数のメダルが排出される。

 入れた枚数が最大数の10枚。『冠』のビンゴで12倍、真ん中横一列ビンゴで3倍。更に残機ボーナス……当たりまでに残せた挑戦回数、4回分が上乗せされ更に4倍。合計1440枚のメダルを獲得することに成功するのだった。

 

「でも、これ……」

 

 ──恐竜のヤツを継続すれば、余裕で稼げる分のメダル量……

 

 頭をブンブン振り、せっかくの大当たりに水を差すような思考を打ち切る。今は人類の限界を試してきやがるこのクソゲーを、正攻法で攻略してやれたことを素直に喜んでおかねば。困難を乗り越えて出す大当たりは脳を幸せにしてくれるぞ……

 

 ──おっといけない。ここから先は沼だ。

 

 これ以上は脳汁が出なさそうなので、メダルゲームはこの辺で終わりにしておこう。さっきは素通りしたけど、クレーンゲームにいい感じのサプライがあったからそれを取っていこうかな。シャンフロのモンスター、「アルミラージ」を再現したどデカいクッション。

 そんなことを思い、クレーンゲームの筐体が立ち並ぶ入り口付近へやって来たのだが。私のお目当ての筐体には先客……高校生くらいと思しき吊り目の男の子が、鬼の形相でアルミラージクッションを睨みつけながらアームを動かしていた。恐らく、もうかなりの額を溶かしているのだろう……クレーンゲームはハマると抜け出せなくなるの凄く分かる。

 

 ──分かる分かる。たくさんお金入れたんだし絶対に取るって気持ちになるよなぁ……

 

「くっそ……全然取れねぇ、どうなってんだよ!」

「おっと」

 

 苛立ちが募り過ぎたか、握った拳を振り上げたのを見て私は即座にその手を抑え凶行を防いだ。ダメだぞ青少年、苛つく気持ちは分かるけど当たるならせめて自分の物にしな。

 

台パン(それ)はダメだろ。ゲームは楽しく遊ぶもの……イラつくくらいなら離れた方がいい」

「何しやがっ……スマン」

 

 一瞬こちらに矛先が向きかけたが、すぐに少年は落ち着きを取り戻した。うん……やっぱりイラつくなら離れるべきだよ、我慢し続けるのは精神衛生に本当に良くないと分かる豹変振りだ。

 

「どれどれ……何だ、あと少しじゃん。これなら2回はあればほぼ確で取れるよ」

「な、もうコイツに2000円も使ってんだぞ!?今更そんな……」

「まぁ見てなって。代わってくれる?」

「……あ、ああ」

 

 順番の交代を了承させ、100円を2枚投入して2回分の挑戦権を得る。少年や騒ぎを嗅ぎつけた野次馬が見守る中、私の挑戦が始まった。

 クッション系を取る時のコツは、景品の中心ではなく少しズレた地点を狙うこと。クッションは柔らかい素材なせいで、持ち上げた時中身が垂れ下がって動かすとアームからずり落ちていく。なのでその性質を活かし、重心が落とし口に向かうように落として少しずつ近付けていくのだ。一発で取ろうとか考えてたらドツボにハマる。

 

「おお……だいぶ近付いたな」

「次で取るよ」

 

 一度目で落とし口に掛かるくらい近付け、二度目でしっかりと落とす。宣言通り、2回の挑戦でアルミラージクッションゲットである。景品を取り出すと野次馬からまばらに拍手が聞こえてきた。

 

「はいこれ。欲しかったんでしょ?」

「……い、いいのかよ?あんたが取ったのに」

「まだまだあるしそっちを取るよ。その子は君が大事に使ってやってくれ」

「……ありがとう」

 

 そこから「貰ってばかりじゃなく、お礼をさせて欲しい」という話になったが、どうやら少年の方はそろそろ帰らないとマズいらしく。話の続きはまた後日ということになった。

 スケジュールを合わせられるよう、Eメールの方で連絡先を交換しておく。Eメールなのは普段使いのやつだと、誤爆してしまった時の親族達の茶化しが果てしなくウザいからだ。

 

「重ねてありがとう……アドレスの登録先にも書かれてるけど、「天音久遠」だ。このクッションは大切に使わせてもらうよ……それじゃあ、また」

「私は「龍洞八千代」だよ。それじゃあ次はメールでね、()()()

「ッ……!あ、ああ!」

「バイバイ」

 

 天音久遠……天音か……顔立ち的に多分、()()の弟とかだよな……

 直近だとエキスポで見た、『絶対に視界に入れたくない顔』を思い出す。顔立ちのそれっぽさを見るに久遠君は多分その血縁なのだろうが、それっぽいだけで本人じゃない。そう言い聞かせて苦い過去を思い出しささくれ立った心を落ち着かせる。

 

 ──そう、これはデートの誘いだ……ん?

 

 ────────────────────

 瑞樹:八千代、今日はシャンフロにログインできるかしら?できるなら一緒にダンジョン攻略に行きましょう。あと、水晶巣崖攻略おめでとう

 ────────────────────

 

「瑞樹姉さんから……攻略の誘い?」

 

 冷静になるよう努めていると、スマホから連絡が来たことを知らせる通知が響いた。届いたメッセージは姉さんからのシャンフロの誘い、今の姉さんは確か新大陸とやらに居たはずだが……旧大陸にいつの間にか戻って来たいたのかな?

 

 ────────────────────

 八千代:いいけど、何処にいつ集合?

 

 瑞樹:私は今フィフティシアに居るの。八千代はあの配信から動いてなければ、そのままエイドルトかしら?それなら中間地点のイレベンタルに集合ということにしたいのだけど

 

 八千代:それでいいよ。時間は……今外にいるからログインまで少しかかるし22時以降がいいな

 

 瑞樹:それなら24時にしましょう。私は明日の講義が午後からだから徹夜できるわ、場合によっては朝まで付き合ってもらうわよ

 

 八千代:うへぇ……

 

 瑞樹:それじゃあ、24時にイレベンタルでね。事故にはしっかり気を付けて帰るのよ

 ────────────────────

 

「押しが強いなぁ……」

 

 急遽決まってしまった夜の予定。しかし姉さんのいう攻略したいダンジョンとは何なのだろうか、もしかしたらユニーク関連かもしれない。

 姉さんはシャンフロじゃ鍛冶職だそうだし、私の装備新調も姉さんならできるかもしれない。会いに行く価値は十分にある、遅れたら怖いしさっさとログインして向かうことにしよっと。

 

「……帰るか」

 

 まだまだ帰るつもりは無かったが、予定を切り上げて私はなる早で帰路に着くのだった。




 八千代はかつてプレイしていたゲームで、何度も「∞B」(そのゲームでの天音永遠のPN)の被害を受けていた。最終的に撃退できたが、今でも彼女のことは「敵」として扱っている。
 リアルでは、同じ出版社の所属ということもありお互いに顔と名前は知っている。(部門が違うので会うことは少ない。機会があったとしても八千代の方が避ける)
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