ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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28:ファステイアに眠る神象

「お待たせ、待った?」

「全然。早かったわね」

 

 私がイレベンタルに辿り着いたのは、リアル時間23時くらいのことであった。本来の集合予定時刻が24時だったので、1時間も早く目的地に到着したということになる。しかし姉さん……PN「シュトーレン」はそれよりも更に早く到着していた。

 どうやら私がログインした頃には既にイレベンタルに着いていて、そのまま私が来るまでずっと待ち続けていたらしい。暇なの?

 

「まずはこれ、私からのプレゼントとりk……アクアリエからの預かり物。渡しておくわよ」

「あ、約束のアクセサリー……と、腕輪?」

「格納鍵インベントリア、インベントリ拡張アイテムの中でも最上位の代物よ」

「いや、でも私は……」

 

 刻傷のせいで、アクセサリーは3分で壊れるのでおいそれとは着けられない……と、言おうとしたのだが。どうやら格納鍵インベントリアはスロット一つと引き換えに、無敵の格納空間を手に入れることができるらしい。

 それはつまり、刻傷が付与されたスロットに着けても破壊されることは無いということ。それなら装着を躊躇う理由は無いし、くれると言うのならありがたく頂戴しよう。そして肝心のリュカオーン素材のアクセサリーの性能は如何に?

 

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夜駆ける幻狼の魔眼(ヴォルファント・ヴィル)

 ・このアクセサリーは、持ち主からの譲渡以外で持ち主の手を離れない。

 

 ・装備することで、右眼の色がリュカオーンと同じ色に変わる。

 

 ・装備中、プレイヤーは完全な暗闇や強烈な閃光の中でもハッキリとした視界を確保できる。

 

 ・装備中、プレイヤーは眼に関連するスキルの効果が強化され、リキャストタイムが半減する。

 

『刻傷付与部位装備時』

 ・このアクセサリーは、刻傷付与部位に装備しても時間経過で破壊されない。

 

 ・装備中、プレイヤーは姿を消したり逃走した獲物の姿を捉えることができる。

 

 ・装備中、プレイヤーの見る世界はスローモーションになる。(ONOFF切り替え可、デフォルトOFF)

 

 ・装備中、刻傷の効果が増強される。

 ────────────────────

 

 ──ふむふむ?

 

「視覚の強化……見えないものも見えるようになるしだいたい何でも見切れるようになる、ってか」

「便利だけど、ユニークモンスターの素材使ってる割には地味な感じね」

 

 確かに、奴が使っていた影移動とか分身みたいなド派手な効果は無い。だがそれは言い換えれば堅実に安定した強さを持つということでもある。

 決して潰されることのない、どんな隠蔽も看破する瞳。しかも、「瞬刻視界(モーメントサイト)」以上の認識強化を永続かつオンオフ自由で行えるときた。本当に地味なこと以外はどこを取っても強力な、素晴らしいアクセサリーだと思う。これを作ってくれたアクアリエには次会ったらお礼をしよう。

 

「ところで、コレどうやって受け取ったの?」

「【朋友救助(フレンドワープ)】使ったのよ。アレなら離れてても確実に合流できるし、制限時間もアイテムの受け渡しするだけなら十分だから」

「成る程、そんな裏技が……」

「裏技って程のものじゃないわ。それよりも合流できたことだし行きましょう、モタモタしてるとツチノコさんに先越されかねないから急ぎたいの」

 

 ツチノコ……確か、サンラクっていうプレイヤーのあだ名だったか。ユニークを一人で色々と独占してるという謎多き存在……それに先んじようとしてるってことは、姉さ……シュトーレンの行き先はまだ誰も到達していないユニークということか。

 というか、サンラクという名前は何処かで聞いた覚えがあるんだよな……シャンフロではない、何か別のゲームで会ったことある気がする。全然思い出せないけど何だったかなぁ?

 

「準備はできてるからいいよ。それで行き先はどこなの?ここからなら『無果落耀の古城骸』とか?」

「違うわ。行き先は──」

 

 ──ファスティア、よ。

 

 

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 という訳で、やって来ましたのは初ログイン以来の第一の街ファステイア。シュトーレンはテレポートのスクロールを使って、私は「起晶転結(クリスタルメモリー)」の力を使ってそれぞれファストラしてきたけど。いったいここで何をするつもりだというのだろう。

 急ぎ足で忙しなく動く背中に着いていくと、途中でシュトーレンの背中がビクンと跳ねた。そして急ぎ足が更に速くなる……どうやら、目の前で何かをしようとしている、人形と兎を連れた半裸の鳥頭が関係しているようだ。

 

「ちょっと、そこのサンラクさん!」

「何だ……うおぉっ、近っ!?」

「ちょっといいかしら……どうやら私と同じことをしようとしていたようだけど、ここはどうか譲って貰えないかしら?」

「……あ、アンタも()()、手に入れてるんだな」

 

 二人の手に握られていたのは同じアイテム。形としては拳銃が近いが、銃口が存在しないために弾を撃ち出すことは叶わない謎の設計……コレを使って何かをしようとしていたのか。

 そしてツチノコ……サンラクは、話から察するに既にこれを使ったことがあるようだ。私がまだ行ったことの無い新大陸での出来事だろうが、いったいこれが何になるというのだろう?どうやら譲ってもらえたみたいだし聞いてみるか。

 

「で、結局何するのさ?私はまだ何も聞いてないんだけど」

「そうね……ロンミン、あなたはこの先にあるものが何か知ってる?」

「山と断崖でしょ。モンスターも居なければアイテムも無い……いや、こいつがあったや。これ以外は本当に何も無かった妙なエリアだったよ」

「えぇ……あそこにアイテムあったの……?まぁ、良いわ。アレはね、私達の『故郷』なのよ」

 

 インベントリから取り出したアモルパレントを見せると、シュトーレンは「どうして見つかるまで探さなかったんだろう」みたいな後悔の表情になる。いや、そんなん知らんし……

 気を取り直して説明。新規のプレイヤーはキャラメイクを終えた後、ファステイアのどこかまたは跳梁跋扈の森の何処かでスポーンする。ゲーム的には当たり前の事象、だが世界観的に言えばそれはどういうことなのだろうか。

 

 プレイヤーはNPCのように、元からこの世界に存在する訳ではない。ならばそれらは何処から現れそして風と共に消えていくのだろうか。その答えがここ──ファステイアにある。

 カチリ、とシュトーレンは手に持っていた銃のようなものの引き金を引いた。すると"月華美神(コードムーン)"の時のような地鳴りが何処からか響き、目の前の森が燃え上がるように揺らめき消えていく。

 

「何これ……何が起こってるの!?」

「呼び起こしたんだよ。このファステイアに眠るバハムート……『ベヒーモス』をな」

「ベヒーモス……」

「そろそろ全容が見えてくるぜ、瞬き厳禁だ」

 

 私の疑問に答えたのは、()()を呼び起こす機会を譲って事を見守っていたサンラクであった。装備から私を初心者(ニュービー)であると判断したのか、態度にどこか親切心のようなものが感じられる。ヘルパーT細胞のリスナーなら私のことを知ってるだろうが、つまりは彼は違うということ。しっかし、声もやっぱり聞き覚えがあると思うんだよなぁ……本当にどこで会ったんだろうか?

 それはさておき、偽りの山が姿を消して現れたのは全長何kmはあろうかという、象を模したような巨大な飛行船であった。よく見ると地面に鎮座しているのではなく、ブースターのようなもので若干浮遊している……恐らく、あの巨体を支えられる程の地面などそう無いからだろう。

 

 ──人よ、我が子よ。()()()()()()()()()

 

『長く、長く……されど思い返してみれば、随分と短くも感じます』

 

『嗚呼、いじらしくも勇敢な我が子達。遂に私を見つけ出すに至ったのですね……この恒星間飛行(バハムート)級アーコロジーシップ「ベヒーモス」を』

 

 プオオオォォオオオオオオオン!!!!!

 

 高らかに響く駆動音と、ファステイアの全てに語りかけるような声色。目を背けるにはあまりに大きな神の象……『ベヒーモス』は、慈愛に満ちた言葉で開拓者(プレイヤー)達を迎え入れた。

 

『私の名は「象牙」。神代の賢人達より子宮と揺籠を預かりしアーティフィシャルインテリジェンスにして、開拓者の門出を見守り、その帰還を待つ門番……さぁ、()()()()()は終わりです我が子達よ。次はお勉強の時間ですよ』

 

 

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「えーっと、どうもサンラクさん。ウチの姉貴分に新マップ解放の手柄を譲っていただいて」

「あー……ロンミンさん。別に称号とか一番手限定のアイテムがある訳でもなし、礼は要らないよ」

 

 ベヒーモスに突撃していく野次馬を尻目に、サンラクとの初顔合わせをする。ちなみにシュトーレンは私を置いてさっさと突撃していった……あんにゃろうちょっとくらい待てんのかい。

 あと、ベヒーモスへの入室には何か制限があるようで、入れなかった奴らが私達を遠巻きに眺めながら会話に聞き耳を立てている。「ツチノコ……」だの「水晶巣崖……」だの、ボソボソと話している声が聞こえてくる。

 

「水晶……あ!もしかしてアンタ、水晶巣崖の攻略配信に出てたプレイヤーか!」

「サンラク……さんもアレ見てたんだ?もしかしてアイツのファンとか?」

「いや、そういう訳じゃないけども……知り合いから『俺の稼ぎ場が荒らされてる』ってメッセージが届いてな。それ経由で見たんだ」

「噂は聞いてるよ。これまであの蠍共を攻略できてた唯一のプレイヤーだって」

 

 水晶巣崖の第一人者として、やはりあの配信はしっかり確認していたらしい。まぁ最大同接250万に加えて、アーカイブの再生回数が既に1億に到達して尚も増えてる大バズだったそうだからね。シャンフロのアクティブプレイヤーの25%が見てたと考えれば、サンラクがその中に入ってたとしても何もおかしくはないか。

 その後も色々話をした。お互いに持ってるリュカオーンの刻傷のことだったり、私が手に入れた"月華美神"素材の取引ができないかだったり、どうして未だに初期装備から変えてないのかとか、そこから派生してお互いのキャラビルド論だったり。環境の最前線を往くトッププレイヤーだけあって、今の私じゃ知り得ない情報もたくさんあった。

 

「"月華美神"の素材はなぁ……私の取り分なら売ったり物々交換しても構わないんだけど、売るにしても相場が分からないからね。取引に応じるとしても取り敢えずNPCに話を持ちかけて、詳しく価値を把握してからになるかな」

「うーん、残念……じゃあ価値が分かったら連絡してもらえるか?NPCよりも、高く買い取ることを約束するぜ」

「オーケイ。それならまずはベヒーモスに……」

「あの、取り敢えず中に入りませんか……?」

 

 ──うおっ、近っ!

 

 さっきのシュトーレンに詰め寄られてたサンラクみたいなことに私もなった。脈動する生肉のような鎧を纏った大男のアバターで、頭上には『サイガー0』というプレイヤーネームが……

 んん……?サイガー?0?斎賀?玲?ああ、そういうことね……私が想い人に唾付けてると思って牽制しようとしてる訳だ。普段は他人に興味示さない癖にこういう時だけ一丁前なんだから……

 

「……ベヒーモス、攻略しちゃおっか。周りがビビってるからその圧しまいな?『レイ』」

「……ここでは『0』です」

「知り合い?」

「どっちかと言えば『100』の方かな」

 

 女の嫉妬は怖いし、新しい出会いに交流を深めるのはこの辺にしておこう。コミュニケーションはこの辺で切り上げて、私とサンラク、そして彼に合流してきたサイガー0ともう一人、『秋津茜』の4人でベヒーモス内部へ突入するのだった。




 遂に原作キャラとの邂逅。原作ではベヒーモス解放は平日夜の出来事でしたが、今作では二次創作故のユニバースの違いで休日夜の出来事に。原作より少し前倒しになりました。
 八千代は百の親戚、即ち玲や京都の()とも親戚。ただソリが合わないためあまり仲は良くない。
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