ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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3:お使いからユニークへ

 一応身体を動かしてみて、操作が問題無くできていることを確認する。

 思考との齟齬も無くちゃんと身体が動くことを確かめて、私は今度こそ自信を持ってファスティアを歩き回れるようになった。

 

「んじゃ、行きますか」

 

 まだ戦闘エリア『跳梁跋扈の森』には出ない。その前にNPCと会話をしまくって、受注できる依頼を片っ端から解放しておく。このテの依頼は先に進む程受けなくなるからね、今の内にやれるだけやっておこうという訳だ。

 ファスティアを一周して、受注できた依頼の件数は実に36件。多くない?どれも内容は難しくはなさそうだから別にいいけど、まさかこんなにも多いとは思っていなかったので面食らった。これがリアリティを突き詰めたゲームか……

 

「開拓者か。幸運を祈っているぞ」

「ありがとう。行ってくるよ」

 

 門番からの激励を受け、私は初の戦闘エリアへ足を踏み入れた。跳梁跋扈の森はレアエネミー「ヴォーパルバニー」を除けば雑魚ばかりのエリア、流石にここでモンスターに負けて死ぬことは今の私ならありえないはずだ。

 何でも「エクゾーディナリー」とかいう特別なモンスターもいるそうだが、こんな序盤から出てくるものなのだろうか?まぁ出るとしても相当低い確率だろうし、先駆者に狩られてるだろうし、私が気にする必要は当面は無さそうか。今はレアモンスターより依頼内容の達成に集中しよう。

 

「ギャ……ッ!?」

「うん、ゴブリンは弱い」

 

 薬草だったり木の実だったり、依頼を達成するための素材を集めつつモンスターを狩る。ゴブリンやアルミラージなんかは斬りつけ一発で死ぬ程脆いがやはりヴォーパルバニーが強い。常に首を狙ってくるから、クリティカルで私の高めに振ったHPでも油断ならん火力を出してくる。

 それでも狙いがあからさまなので対処は容易、レアドロップ【致命の包丁(ヴォーパル・チョッパー)】が4本も手に入るくらいには乱獲してやることができた。本命の副産物としては十二分な収穫だろう。

 

「まぁ、ありがとうございます。少ないですが報酬の1000マーニです」

「いえいえ、これもお仕事ですから」

 

「わー、きれーなお花!取ってきてくれてありがとう、ロンミンおねーちゃん!」

「なーに、良いってことよ」

 

 最序盤ということで、36の依頼はどれも簡単に達成することができた。達成する度にNPCの対応が柔らかくなってる気がするのだが、これが信頼値が上がったということなのだろうか?マスクデータは現状がはっきり分からんのが困る。他にも大量にあるらしいから管理が面倒そうだ……

 簡単だけど数は多かったので、それなりに時間は掛かり既に日が沈む頃になっている。始めたのは昼だったのに随分長くやっているようだ。流石に次の目的地に向かうとするか。

 

「次は……エリアボスの前にこっちかな」

 

 お金と集めた素材で武器を強化し、次の行き先は第二の街『セカンディル』に向かうためのエリアボス討伐……ではなく、ファスティアから見て東に聳える大きな山。

 攻略wikiで調べた情報によると、あの山はアイテムも無ければモンスターも居ない、ただそこにあるだけのエリアらしい。しかし本当にそれは今も同じなのだろうか?シャンフロではよくあるという無言アップデートで、この山にも何かしらのイベントが追加されている可能性はあるのでは?もしもあるのならそれは私が第一発見者だ、ユニークではないとしても探す価値はある。第一発見者……とても響きの良い言葉だとは思わないか?

 

「……何も無いな」

 

 くまなく山の中を探してみたが、歩けど歩けどモンスターの痕跡一つ見つからない。探し回っている内にエリア端の断崖まで来てしまった。

 断崖の先は見渡す限りの大海原、何か島だの船だのが見つからないかと期待したが……やはり特にこれといったものは見当たらない。やっぱり何も無いかと探索を諦めて戻ろうとしたその時、私は遂に一つの違和感を発見する。

 

「何か……崖に刺さってる?剣か、アレ?」

 

 断崖の下の方に見える不自然な出っ張り、地形の凹凸というよりは、何かが刺さっているような……そんな違和感のある形状。

 確かめに行きたいが、この高さから落ちたらどんな装備でも一環の終わり。好奇心を理性で抑えて慎重にイケるかどうかを思案する。

 

 ──飛び降りてから、あの出っ張りを掴んで……スキルを使って崖登りすればイケるか?

 

 短剣スキルの一つ、剣を崖や大型のモンスターに刺して上へと登る「エッジクライム」で崖登りをすることは可能。問題はあの出っ張りの位置から登り切るまでスタミナが保つかだが、レベルアップ時のスキルポイントをスタミナに振り、現時点で最高のスタミナにしておくことで対応する。これでも足りないならもう死ぬしか無いじゃない。

 武器を【傭兵の双刃『改二』】に変更、エッジクライムを発動可能にして一旦深呼吸。覚悟を決めて断崖を飛び降りる。さぁ、果たしてあの出っ張りの正体は何者か、鬼が出るか蛇が出るか。正体判明の瞬間はすぐそこまで迫っている──

 

「やっぱり、剣だったか!」

 

 ──その正体は、やはりというか剣であった。

 

 初期装備の一つ【傭兵の直剣】と比較しても、デザインに大差無い普通の……いや、剣のデザインのトレンドなんて知らんけど。とにかく大したことは無さそうな普通の剣。それが柄を握り崖から引き抜いた上で抱いた正直な感想であった。

 こんなののために命を懸けたのか……と少し落胆する気持ちもあったが、まだステータスを確認した訳じゃないので実は業物という線もあり得る。いやそうであることを祈ろう、でないと一歩間違えたらゲームオーバー一直線の賭けに出た意味が無い。

 

「ん……?ウィンドウ、なん、で……ッ!?」

 

【ロンミンは永久に紡がれし想いに触れた】

 

【ユニークシナリオ『小さな矜持』を開始します】

 

「こ、こんないきなりは無いだろーッ!?」

 

 世界がブラックアウトする。崖登りをするはずだった身体は寄り掛かる壁を失い投げ出され、底があるのかも分からない黒の中に落ちていく。情けなくジタバタして、叫んで……ようやく地に足が着いた頃には、私はセピア色の街の中に居た。

 ユニークシナリオ。ゲーム側のシステムや導線に従う既定路線のシナリオではなく、プレイヤーが自分の意思で行うロールプレイの結果によって現れる文字通りの特別(ユニーク)なシナリオ。恐らくあの剣を手にしたことでフラグが立ったのだろう、その内の一つが唐突にも私の前に現れたのだ。

 

「どこだ、ここ……?」

 

 いったいどこに飛ばされてしまったのか、これが分からない。少なくとも、ファスティアに戻された訳ではないことは確かだが……分かっていることは何かとの戦闘があることくらいだ。

 あちこちに散らばっていく武装した男達、それとは逆方向に逃げ惑う老人、女、子ども。これで何も無いという方が嘘だろう。いったい何が起こるのかを確かめるべく男達と同じ方向へ行くと、そこにはあまりにもグロテスクな光景が広がっていた。

 

「何だアレ……青い、波……?」

 

 青、青、青。セピア色のこの世界の中でも明らかな異彩を放つ「青」の波が、建物を呑み込みながら男達を轢き潰していく。彼らの抵抗などまるで無意味とでも言うかのような、あまりにも一方的で直視に堪えない地獄絵図。

 

 ──アレをどうにかしろってのか……?無理だろ今のレベルまだ14だぞ、私より断然強そうな奴らが簡単に蹂躙されてるってのに……

 

 あの青をどうこうするのは多分無理。眼前の戦いにもならない蹂躙劇を見てそう判断するが、同時に私はもう一つ見つけてしまった。

 小さな子ども。足を挫いているようで道の真ん中に突っ伏したまま動かず、恐怖によるものだろう涙と鼻水をぐちゃぐちゃに流している。周りに大人がいないところを見るに、恐らく元々独りか置いていかれたかのどちらか……多分後者だ。

 

 きっとあの子は助からない。武装した大の男達ですら一方的にやられる暴虐を前にして、力も無い動けもしない小さい子どもなど、無力という言葉すら生温い。子どもに迫り来る青を見ながら私は助けられない歯痒さに奥歯を噛み締めた。

 あの子どもにリソースを割くよりも、あの青に対抗することにリソースを割く方が有意義だ。悲しいことだが力の差があり過ぎる、これはもう仕方のないことだと諦めてもらうしか──

 

「たすけて……」

「……ッ!「パワースイング」!」

 

 ──そんなこと、できる訳がない。他の誰かならともかく、私がその願いを無視することだけは絶対にあってはならない。

 

 全速力で青と子どもの間に割り込み、武器を【傭兵の鉄鎚】に持ち替えてスキル「パワースイング」を繰り出す。直撃させるのではなくスイングの風圧だけを当てるように、直接触れれば建物のように武器を呑み込まれてしまうだろうから。

 風で青が散った一瞬の隙を突き、私は子どもを背負って道を逆走する。逃げる人々の行き先が一致しているということは、その先に避難場所が存在しているということ。取り敢えずはそこまで連れていけば大丈夫のはずだ。

 

「大丈夫だよ。必ず、助けるから」

「……うん!」

 

 所詮はゲームだ。無視したところでNPCが一人消えるだけ、リアルには何の影響も及ぼさない。

 それでも、ゲームだ。ゲーマーたる者がゲーム側からの要求を無視してどうする、それを求められているなら応えてこそのゲーマーだろう。あの子だけじゃなく逃げ惑う人々全員、このロンミンが助けてやるという気概を持つのだ。背負った子どもを励ましながら私はその決意を固めた。

 

「この子よろしく!足を怪我してるみたいだから手当もお願い!」

「わ、分かった……しかしアンタは」

「私はあの青いのと戦いながら、逃げ遅れてる人達をここまで避難させる!任せときな、このロンミンが全員無事に送り届けてやるからさ!」

「ッ……武運を祈る!」

 

 避難場所となっていたのは、街の中心部にあった一際巨大な建物。王宮か何かだろう。そこを守っていた衛兵に子どもを預け、衛兵からの激励を受けながら再び戦闘エリアに戻った。そういえばファスティアを出る時もこんな感じだったな……

 メニューを確認すると、受注中のシナリオの詳細を見れる画面の情報が増えていた。どうやら必要なのはあの青いのに勝つことではなく、非戦闘員の命を守り抜くことのようだ。戦って打ち勝てと言われなくて本当に良かったとホッとする。いや、NPCを守り抜くのも簡単なことじゃないが。それでもあんなのに正面から挑むよりは断然マシだ。

 

 ユニークシナリオ『小さな矜持』

 クリア条件

 ・シナリオ開始から15分以上が経過する

 ・生存している非戦闘NPCの避難を完遂する

 

「やってやる……!報酬は良いもん頼むぜ!」

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