ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「第二層は筆記テスト、ね……」
「資料が見れるそうなので……解けないことは無いと思いますが……」
「も、文字が多くて混乱しそうです!」
「先に行ったライブラリの人達が、問題の纏めしてくれてるそうだからそっちを頼ろう」
第二層へやってきた私達に立ち塞がるのは、二層の資料を活用しての『筆記テスト』であった。全50問で合格ラインは80点、つまり40問以上正答すれば合格ということになる。
4人それぞれ、渡された答案用紙を見比べてみると幾つか問題が違う部分があった。どうやら人によってテストの中身は違うようだ……だが、共通項もあることから『事前に用意されたいくつかの問題の中からランダムで50問が選ばれる』ということが分かる。
サイガー0と秋津茜は地道に、サンラクは自身の
それなら、私は先人達の知恵と努力に乗っかってしまおうかな。考察クラン【ライブラリ】の面々が出題内容の収集や分析をしていたので、彼らに頭を下げてその明晰な頭脳を貸してもらった。ただ答えを教えてもらうのではなく、要点やヒントをかい摘んでこちらの理解を促すやり方。まるで家庭教師に付いてもらっているようで大変やりやすかった。
「こうもスルスル進むとは……ソロプレイがバカらしくなる効率の良さだねぇ……」
「情報収集と、それを元にした分析・考察がウチの得意分野だからねぇ。これくらいは……ね?」
ライブラリの手厚いサポートを受け、余裕の満点合格で第二層を突破することに成功する。サンラク達も同様にライブラリの力を借り、彼らもまた余裕の満点合格で突破。
こういう座学系は、頭の良い奴が居ると物凄く効率的に進むということを思い知った階層であった。ライブラリってみんなこうなの?とメンバーの一人に聞いてみたけど、『別にその辺の入団条件がある訳じゃないし、全員のリアル学歴を知ってるという訳でもないけど……確かに、傾向上そういう"頭の良い奴"は多いね』とのことだった。
──成る程……リーダーが強いから、集まる仲間も学歴強強勢が集まると……こういうの何て言うんだっけ?『類は友を呼ぶ』か。
何はともあれ、先に進めるようになった。
ライブラリの面々は二層の資料を読破していくと言う心算のようで、三層には進まないとのこと。なので協力へのお礼としてフレンド交換と、検証がしたい時の協力の約束をして、彼らとは別れ私達は第三層に向けて歩を進めるのだった。
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第三層に進む傍ら、サンラクら3人と他愛の無い雑談をする。その内容は彼らが揃って所属しているクラン『旅狼』への勧誘。
シャンフロをやっているとよく耳にするが、彼らは数多くのユニークを独占しているらしい。初めて討伐されたユニークモンスター『墓守のウェザエモン』をはじめ、【兎の国からの招待】を起点とする『不滅のヴァイスアッシュ』に関わるシナリオ、他にも多数のユニークを少人数で抱えていると。
──まぁ、小規模クランならアド確保のためにもそれくらいは普通にやるか。
しかし、ヘルパーT細胞の配信によってその優位性の幾つかは失われようとしている。特に発生する瞬間をバッチリ映された兎関連のシナリオや、攻略の一部始終を映された蠍関連のアドバンテージは、そう遠くない内に消えると見ているとのこと。
これ以上の情報流出を防ぎたい旅狼としては、私を身内に加えることでクランのルールに縛り、情報アドを維持したい狙いがあるのだろう。私だけを縛っても、配信者のヘルパーT細胞が野放しなら意味は無いと思うのだが……奴のリスナーは最近の配信の影響で500万が見えてきているし、その中の再現を狙うシャンフロプレイヤーだけでも、相当数がいるはずだ。
──既得権益を維持するより、新しい利益を狙いに行った方が良いと思うよ……私もあいつも、まだ辿り着けてない新大陸のコンテンツとか。
「うーん……それもそうか。兎御殿もこれから新しいプレイヤーが増えてくるんだろうな……」
「しょうがないことだよ、配信者は面白さを追って人と違うことを積極的にやるからね。シャンフロのシステム上、ユニークシナリオってのはそういう奴の元にこそやってくるそうだし」
誘ってくれるのは嬉しいけど、ソロじゃないと便利スキルの「
クランには入らないけど、一緒に遊ぶくらいならいつでもオーケーであると伝えておく。一応3人とフレンド登録だけはしておき、ちょうどそのタイミングで第三層に到達するのだった。
「見たくない『顔』って、ペンシルゴンのことだよなぁ多分……あいついったい何やらかしたんだ……?」
「リアルの方で、知り合いのようですし……きっと、そこで何かあったんだと思います……」
「お、今度はまた毛色が違うね」
「うわぁ、室内なのに草原が広がってます!」
第三層での試験は、この再現環境の生物をどれでもいいので1匹討伐すること。本来はこういうのはリヴァイアサンの領分らしいのだが、象牙の趣味が高じて作られたのだそう。生態系丸ごとシミュレートかぁ……ゲームになってたら買うな、うん。
環境生物がどんなものか、辺りを見回してみるといろんな姿の生物が確認できる。先に辿り着いた奴らが既に戦闘を始めてることもあり、魔法やスキルのエフェクト、爆音などで物凄くカオスな光景が繰り広げられていた。だがシュトーレンの姿はどこにも見えない……あんにゃろうめ、いったいどこまで進んでんだよまったくもう。
『シミュレートの結果、できたのは外には絶対に出せない危険生物でしたが……あなた達ならば突破できると信じていますよ』
「マッドサイエンティストめ……」
「既に何人か戦ってますけど、加勢するか別のモンスターを狙うかどっちが良いんでしょう?」
「さっさと八層まで行かにゃならんからな、ここはそろそろ終わりそうな奴を狙う……!」
「ハイエナ……ッ!」
──さっさと終わりそうな奴、か……
加勢すると言っても、戦い始めたばかりか苦戦している集団ばかりだし、そこに割り込んだところで大した時短は見込めないだろう。自分の持つ装備やスキルの内容から、相性が良さそうなモンスターを探し出してそいつを倒す。それが理想だけどできるのかなぁ……あんな、自然界ではおおよそ産まれないだろうキメラを相手に。
しかしまぁ、他の3人はともかく私にとって相性の良いモンスターは絞りやすい。条件は私よりもレベルが低いこと、雄であること、複数のモンスターが纏まった群体型であること。それぞれの条件で即死効果が発動するので、面倒な相手でも確率が上振れれば瞬殺できる。条件に複数当てはまるような奴なら尚更簡単だ。
──【
「
──さて、と……や り ま す か! ! !
右手に【
攻撃を仕掛けるのは、『ソクラテス3ー4』という名の謎生物。でっかいバスタオルに豚の足を生やして、背中にフジツボみたいな卵を大量に乗せたという感じの、集合体恐怖症が泡を吹いて倒れそうな気色悪いモンスター。"
コイツを標的に選んだのは、『タオル豚』の部分と『フジツボ卵』の部分が、それぞれ個別の判定を持っている……つまり、名前は同じでも別のモンスターという扱いになっていたからだ。
敵が多ければ多い程「独身貴族」は、弱ければ弱い程【剥命の惨鎌】は、雄であれば「佳人薄命」はそれぞれより強く即死効果を発揮する。こいつが雄かどうかは見ただけでは分からんけど……少なくとも条件の内二つは満たしている。
「くたばれ!」
「プギイイイィィ!!?」
百閃の剣は、追撃の度にヒット数が倍々ゲーム的に上昇し最大一撃100ヒットになるスキル。それはそれとして、タオル豚の方のソクラテス3ー4は一撃で即死判定が出て死亡した。ヒット数を増やして確率を上げるのが狙いなのに、一発で死なれるのもそれはそれで困るな……
タオル豚は倒したが、象牙はまだクリア判定を出してはくれない。ソクラテス3ー4はフジツボ卵も含めて殲滅する必要があるということか。それなら独身貴族の効果が続く内に終わらせてしまおう、そう思った矢先に卵がブルブルと震えだし……そして炸裂し無数のタオル豚が新たに孵化した。
──何で豚が卵から孵るんだよ、カモノハシじゃあるまいし、おめー哺乳類の自覚はあんのか?
「あーもう、気色悪いなぁ……さっさと全滅させて終わらせてやるか!」
剥命の惨鎌をしまい、傭兵の鉄刀一本だけでこいつらは相手をしてやる。即死の三段重ねは確かに確率は高いんだけど、大鎌は片手で振り回すにはちょっと大き過ぎた……
新たに孵化したタオル豚の数は、目視できるだけでだいたい200匹くらいか。視界内に居ない奴のことまでは【夜駆ける幻狼の魔眼】でも認識できないけど、戦闘していれば視点は目まぐるしく動くしその過程で見つけられるだろう。逃げても隠れても立ち向かっても、全員ここで始末する。
「百閃の剣……2ヒット目ェ!」
「プギッ……!!?」
攻撃する度にヒット数は増えていくが、それを1匹だけに当てるのは勿体無い。なので秘剣【波斬】などの刀の攻撃範囲を拡張するスキルを使い、より多くをいっぺんに巻き込んで斬る。
即死はせずとも、何十回もヒットする連撃を食らえばひとたまりも無い。試験用の倒されることが前提のモンスター、それも群体で1匹1匹のスペックはそれ程でもないなら尚更だ。百閃の剣が最大効果を発揮する頃には、既に孵化したタオル豚の3分の2くらいは討伐が終わっていた。
「秘剣……【竜巻】!」
「プッ……!!」
「ブゴオオオォォ!!」
「無、駄……だッ!」
もちろん、ソクラテス3ー4も無抵抗でただ殺されるなんてことはない。タオルを絞るように身体を丸めて鋭利な槍と化しての突進、地面を強く踏み鳴らして振動による拘束、反芻するために溜めていたのだろう草の塊を吐き出しての遠距離攻撃、薄く細長い身体を活かした巻き付きなど割と多彩な手段で抵抗を仕掛けてくる。
しかしそのどれも
──確か、こいつらの名前についてる数字はシミュのシーズンとその時の順位だったか。数の暴力を活かせない烏合の衆っぷりが、こいつらが覇権を取れなかった要因なんだろうなぁ……
次があるなら、水晶群蠍のコンビネーションの匠振りを参考に連携するといい。そんなことを考えながら、残った最後の1匹にトドメの一太刀を入れるのだった。
「「秘剣【一片舞】」……好条件を揃えるのが結構面倒だけど、その分良い火力だったな」
トドメに使ったスキル、「秘剣【一片舞】」は連撃の締めとして使うことで、火力が大幅に向上するフィニッシュ用スキル。スキルを発動するまでにどれだけ途切れなく攻撃できていたかによって、一撃の威力が変わるため手数がとても重要になる。
ちなみに、百閃の剣や秘剣【竜巻】などのヒット数を増やす効果も連撃として扱われる。とても相性が良いのでなるべく併用してあげよう。
『おめでとうございます、ロンミン。まさかソクラテス3ー4の数の暴力を、一人で全て倒し切ってしまうとは驚きましたよ』
「多対一は得意分野さ」
『このまま第三階層へ移動しますか?』
「いや……サンラク達はちょっと苦戦してるみたいだし、手伝ってからにしようかな」
バランスボールに四肢を生やしたみたいな竜、イソギンチャクで作ったスカートみたいな奴、全身を装甲で固めたケルベロスと、人数や相手の違いこそあれど手間取っていることには変わりない。置いていくのも失礼だし、ここは手伝いにいくとしよう。
「手伝うよ、攻略情報はある?」
「割合ダメージ食らうフィールド展開、超絶ホーミングしてくるミサイル、当たり判定がめちゃくちゃ歪なパンチとキック、3Wayで飛んでくるブレスはディレイかけてくるから超避け辛い!」
「ありがとう、さっさと終わらせて次に行こう!」
「助かる!」
そうして約1時間に渡る激闘の末、最終的にサンラクの【STING】という遺機装の一撃でバランスボールドラゴン……マクスウェル8ー1が倒れ、この場の全員が進行の権利を得るのであった。
ソクラテス3ー4も、攻撃準備中の味方を隠したりなどの連携はできる。しかし【夜駆ける幻狼の魔眼】にはそう言った小細工は全部筒抜けになるのであまり意味は無かった。