ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「ふぃー、疲れた疲れた……どういうシミュレートしたらあんな生物出来上がるんだよ。レイ氏の攻撃すらマトモに通らない甲殻とか、何を相手したから必要になったってんだ……」
「流石に、こんな半ばで切札を切る訳にもいきませんでしたからね……」
「甲殻が硬い分、中身の方はだいぶ柔らかかったのが救いだったね。斬った打ったじゃなくて突くのが正解だった訳だ」
「あ、次のステージが見えてきましたよ!」
やって来ました第四層。ここの攻略条件はあるアイテムを入手して象牙に納品すること、今までは必要なら象牙に問いかけることで、ヒントやアドバイスのようなものを貰えたのだが。今回は試練の都合上象牙が来てくれないため助力は受けられない。完全にプレイヤーの力だけで突破する必要がある。
納品するアイテムは、『カンムリタケノコ』というらしい……例によって、先行していたライブラリのプレイヤーから貰った情報だ。彼らもまだ条件は達成できておらず、五層へ進めたプレイヤーは未だにいないとのこと。漸く最前線まで追いつけたということみたいである。
「漸くシュトーレンに追いつけた……あんにゃろういったい何処に居やがるんだ」
「まだ先行組も来たばっかであんま情報無いし、今までのようにはいかな……ん?」
半ば反射的に、サンラクが地面に向けて【STING】の引き金を引く。第三層で使っていた一撃の威力と貫通力に優れたタイプではなく、細かい弾をばら撒く速度と連射性に優れたタイプで。
マシンガンよろしく、タタタタタと小気味良い音を立ててばら撒かれた弾丸が、地面を泳いで近付いてきたそれを貫き命を奪う。何匹か死なずに残ったことで、その全容が見えてきた。
「何でしょう……
「迷彩柄……サンラクさんよく気付けましたね!」
「本当に偶々だったけどな……こんな風景に溶け込む体色されてたら、普通初見じゃ気付けんぞ」
「お手柄だね……ッ!サンラクすぐ離れて!」
四駆八駆の沼荒野のエリアボス、『
ただでさえ保護色で見分け辛い上に、移動に際して大した音も出さず、その上落ち葉や腐葉土を纏い擬態精度を上げる小細工まで完備している。こいつは【
「うおおおぉぉボレェシュウーッ!」
「それは、空中のボールを蹴るやり方では……?」
ドゴオオオオォォ……ン……メキメキ……
「「「「……………………」」」」
──うっへえ……マジかよ、結構太い樹木が一撃でへし折れてら。
私の叫びを聞き、足元で膨れる小魚に気付いたサンラクはすぐさまそいつを蹴り飛ばした。
するとどうだろう。樹木にぶつかった小魚はそこで派手に炸裂し、ぶつかった樹木をメキメキと不吉な音を立ててへし折ってみせた。あの小さな身体の何処にそんな威力を仕込めるってんだ……?
『泥掘りの改良種、
──これ以上をお求めですか、さいですか。
象牙の説明を聞きながら、爆泳魚に囲まれていると気付いた私達はすぐにその場を離脱する。
「4匹程追ってきています……ッ!」
「こいつがどういう条件で爆発するか知っとかないと今後キツくなるな……」
「私、攻撃してみますか!?」
「いや……まずは私がいくよ。これでもVITにはかなりの自信があるんでね……ッ!」
ものは試し、ということで恐らくこの中で一番本体が硬い私が爆泳魚を迎え撃ってみる。向かってきているのは4匹、何処にどいつがいるかは魔眼の力で筒抜け……武器を鉄槍に切り替え、間合いに最も近付いてきた1匹に撃炸貫廻を突き刺した。
──あっ、誘爆……
そしてそれが良くなかった。撃炸貫廻の一撃を食らった爆泳魚は仕留められたが、その衝撃の煽りを受けた残りの3匹までもが一緒に爆発。連鎖する衝撃によって、私達はかなりの距離を吹っ飛ばされることとなってしまうのだった。
仕留めた1匹と誘爆した3匹、計四つの爆発によって遥か後方までぶっ飛ばされた私達。不幸中の幸いというべきかそこは、硬い岩肌の露出した爆泳魚の入ってこれない安全地帯。索敵してみても付近に他のモンスター見えなかったので、取り敢えずあの爆弾をどうにかするべく作戦会議を始める。
「……ごめん。取り敢えず爆泳魚は死ぬ時に爆発するってことは分かったね」
「タケノコ探し、中々難航しそうですね……」
「このまま地雷原を闇雲に探し回るよりは、一旦考察して作戦を立てるべきだな」
「そ、その通り、です……!目的はあくまでカンムリタケノコ、ですから……!」
サイガー0の言う通り、まず大前提として私達の目的はカンムリタケノコ。爆泳魚はあくまでお邪魔モンスターというだけであり、どれだけ倒したところで本来の目的には何一つ掠らない。奴の爆発でないと壊れないオブジェクトがある、とかだと話は全く変わってくるけども……
ではそのカンムリタケノコは、いったい何処を探せば手に入るのだろうか?始めに象牙から提示された例を示す画像をスクショしたものを表示しながら考えてみる。よく見るとこのタケノコ、地面ではなくその上の
「カンムリ、冠……つまり何かのモンスターの頭上に生えている、ということでしょうか?」
「採取アイテムではなく、モンスターのドロップアイテムってことか」
ということは、このエリアには爆泳魚以外にボスモンスターがいる可能性が高い。あいつは枯葉や腐葉土を撒き散らしこそすれ、タケノコのドロップなんて影も形も無かったからね。
ボスモンスターが居るとして、少なくとも私の視界範囲には居ないので探し回る必要がある……でもそうするならやはり、爆泳魚を無駄に爆発させないよう対策は必須になるだろう。奴について分かることを増やすべく検証を開始する。
「ああああああああぁぁぁぁ!!!!」
しーん……
「音は違う、か……」
「完全に無視、ですね……」
爆泳魚は大きな音に反応している、という訳ではないようだ。4人での行動だし落ち葉や枯れ枝を踏めば小さくない音が鳴るし、そういうのに反応しているかと思ったが……
足跡のみに反応するのかとも考え、その検証もサイガー0が岩肌から出てやってみたけども。奴らは何一つ反応せず、彼女の……ゲーム内だと彼か、彼の手が触れる距離まで近付いたにも関わらず、自爆どころか攻撃や逃走の構えすら見せなかった。これならもう音は違うと考えていいだろう。
「次は振動だな。レイ氏、このまま頼んます」
「はい、任されました……!」
反応条件は音では無い。ならば次に試してみるのは歩行に際して発生する地面の振動。アバターの体格が最も大きいサイガー0に、このまま歩いたり走ったりして振動を起こしてもらう。
そういえばこいつ、R.C.Sでの性転換で華奢な女アバターになってなかったっけ?いつの間に男に戻ってたんだ……と思ったけど、どうやらユニークモンスターの討伐報酬に、『聖杯』という性転換できるアイテムがあるらしい。三層での戦闘時に体格が欲しくなったから使用したとのことだ。
──ユニークモンスター……まだリュカオーンにしか会ったこと無いけど、残ってる奴らに出逢えるのはいつのことになるんだかねぇ。
「振動にも、反応しませんね……」
「これも違うと見ていいだろうな」
「ハンマーとかで地面を叩けば、もっとデカい振動起こせるんじゃない?サイガー0、何か打撃武器を持ってるなら使ってみて」
「分かりました……では、【兎風『叢雲』】を使ってみま……ッ!?」
歩いたり走ったりする程度の振動では、爆泳魚は何の反応も示さない。そこでもっと強い振動を起こしてみるよう提案し、それに応じたサイガー0が武器を取り出すと、爆泳魚共はそれを合図としたかのように一斉に彼目掛けて突貫を開始した。
サイガー0が慌てて武器をしまうと、スン……と爆泳魚は途端に落ち着きまた回遊を始める。どうやら武器に反応している……?それを確かめるべく私も岩肌を出て、今度はサイガー0と同時に武器を取り出してみる。すると結果は……
「両方に集まってるけど、比重はレイ氏の方に若干多く偏ってる感じだな……」
「武器の強さによる差、でしょうか?」
「いや、これは……恐らくだが爆泳魚基準での『危険度』の差なんだと思う」
「ほう、その心は?」
サンラクの立てた仮説は、「爆泳魚は一定以上に『危険度』の高いプレイヤーを狙う」というもの。私よりサイガー0の方に多く行ったのは、危険度がそちらの方が高かったから……とのことだ。
彼がそう考えたきっかけは、三層でのマクスウェル8ー1との戦いの時。ブレス攻撃にディレイを掛けてスキルの終わり際を狙ったり、こちらが対処し難いと感じた行動を延々擦ったり、事あるごとに後退して距離を取ろうとしたりと、「頭が良い」というよりは「人間臭い」動きが多かったと戦闘中ぼんやりと考えていたらしい。
「ここの生物は純粋な野生動物ではなく、象牙のシミュレートによって生み出された生物だ。人の手が掛かった環境で育ったからか……こいつらの思考ルーチンは何処か人間に近いところがあるんだよ」
「成る程……確かに、普通のモンスターならすぐに逃げ出す刻傷にも何の反応も無いしね。人間は武器がなければ大した脅威じゃない、それを知っているからこそ、丸腰のプレイヤーをわざわざ排除しようとはしないし……」
「逆に武装すれば、それまでの態度をガラリと変えて襲い掛かってくる……という訳ですね」
「つまり、武器を装備していなければ安全に動けるってことですか?」
それは違う。
確かに丸腰でいれば爆泳魚は無力化できる……しかしそれは、カンムリタケノコを素手で採る必要があることを意味する。タケノコがボスドロップであるという仮定が正しければ、我々はボスに素手で挑まなければならないということになるのだ。
しかもサンラクの仮説通り、人間的な思考で爆泳魚が動いているとするなら。武器以外の脅威……攻撃用アイテムやスキル・魔法にも、奴らは反応して襲い掛かってくるだろう。
ボスのスペック次第にもなるけど……妨害上等で武器を振るうか、ちまちま素手で削り切るか。どちらでいくか選ぶ必要がある。
「さて、どっちの方法を取る?」
「ボスがどんな奴かにもよるな……」
「ここで安易に決めるのは、危険かと……」
「このエリアのボス……樹海というよりは竹に侵食された森って感じですし、竹に関係のある何か……パンダとかだと思います!」
一理ある……あってたとしてどんなパンダかという問題もあるけど、頭の隅に置いておくだけでも考察のし易さは上がるだろう。秋津茜のリアルラックや閃き力の高さは旅狼のお墨付きだそうだし、信じていると良いことありそうだ。
方向性はボスとエンカウントしてから決めよう。そう方向性を決定した私達は、非武装のまま山頂を目指して歩いてみることにした。山頂を目的地にしたのは「冠って名前に入ってるくらいだし、頂上に住んでるんじゃない?」という仮定からである。安易な考えだとは思うが、それでも行動しないことには何も始まらな、い……
「待って、みんな……何かが近付いて来てる」
「ッ……ボスか!?」
「こちらを狙ってる……ということですか……!」
「分からない、けど警戒は怠らないで!」
動き出そうとしたその時、魔眼が高速でこちらに近付いてくる何かを捉えた。爆泳魚ではない、ならば話題のこのエリアのボスか……?見えるシルエット的には、角の生えた無数の触手を持つ二足歩行の大型生物ということしか分からないが……その動きには何処か違和感がある。
──こいつは……後退、してるのか。
身体は私達の方へ動き近付いているが、触手や腕の向かう先はその反対の方向。そこを疑問に思い脚を注視してみたがやはり、あの大型生物は後ろ歩きのように移動しているということが分かった。
いくらベヒーモス産の生物がトンチキな生態をしているとはいえ、普段から後ろ歩きで生きるような生物が産まれることは無い……と思う。ならばこいつは何故後ろ歩きをしているのか、それは──前方に脅威があるから以外に無いだろう。
「飛んできた……こっちに落ちてくる、避けて!」
「は、はい!」
「うおっ、でっか!」
「竹の生えた……熊……?」
飛んできた……というより、何かに飛ばされてきたその生物が私達の前に落下する。全身から竹を生やし、頭上に立派な黒光りするタケノコを生やした巨大な熊……象牙曰く『ドミネイト・グリズリー』の瀕死体である。
こいつは既に他のプレイヤーと戦い、そして負けてここまでぶっ飛ばされてきたのだろう。ぐちゃぐちゃに砕けた牙や爪と、モザイクに覆われた腹部がその戦闘の激しさを物語っている。ここまで重傷なら素手でも介錯に十分そうだが……どうやら、その必要すらも無いみたいだ。
「
「ブモッ…………………………!!」
自ら吹き飛ばしたドミネイト・グリズリ──ー長いので竹熊に追い付き、振り下ろされた追撃の鉄鎚が竹熊の腹部にクリティカル。オーバーキルとすら言える破壊力で、その命を爆砕した。
ポリゴンとなって霧散する竹熊には目も呉れず、下手人──シュトーレンはこちらへ振り向く。その姿はまるで、ホラー映画に出てくる対処不可能の殺人鬼のようで……「次はお前だ」とでも宣言されたかのように、私達は身を竦めるのだった。
「ロンミンも追いついたのね、良かったわ。新マップにテンション上がって、置いてっちゃったことはごめんなさいね」
「イヤ、イイケドサ……」
「あなたも追いついたことだし、ここからは一緒に攻略していきましょう!」
「いいから!いいから早く武器しまって!」
──そんなヤバそうな武器、いつまでも出してないで早くしまって!爆泳魚は強力な装備に反応して寄ってくるから大変なことに……あーッ!
もう遅い。シュトーレンが武器をしまうまでの間にやって来た爆泳魚の数……67。
強力な武器の脅威に引き寄せられた爆泳魚と、そいつらの引き起こす連鎖爆破。せっかくボスがドロップしたカンムリタケノコをロストしないよう、私達はどこまでも続く脅威から、全力で走って象牙の元まで逃げ去るのであった……慌ただしくなったが特に何もせず進めるようになったので、これで良しということにしよう……そうったらそうなのだ。
「だからって、爆発オチなんてサイテー!」
「んなこと言ってる場合かーッ!キビキビ走らんと爆死すんぞ、気合いでスタミナ保たせろーッ!」
実質何もしないまま四層突破。君達