ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
やって来ました第五層。私達が来た時点でまだ第四層が突破されていなかったので、ここが現状の最前線ということになる。
ここまで到達できたのは私たちを含めて25人、ギリギリ2パーティは作れないくらい。どうやら三層のモンスター素材を狩るための居残りや、四層の爆泳魚の爆撃でかなりの数が減ったようだ。
自発的な居残りを含めても、最初に入って来た人数の多さを考えれば中々の損耗だ。これがホラーやスプラッタ映画なら、まだまだ犠牲者が嵩むところではあるけど目下の問題は──
「ロンミンさんって、スキル構成どうなってるんですか!?見せてくださいよ!」
「刀、槍、ハンマー用のスキルと、後は自己バフ系くらいだね。
「もしかして呪いの類い持ってる!?ツチノコさんと似たような傷痕が見えてるけど!あとその右眼だけ金色に光ってるのも関係ある!?」
「同じものだよ、リュカオーンの刻傷。私はアクセサリースロットに5枠分刻まれてる。この右眼はリュカオーンを倒した時、ドロップした素材で作ったアクセサリーだよ、暗視とか迷彩看破とか認識強化とか、眼に関わる効果があって、刻傷付与部位に装備すると効果が強化されたり、そうしないと使えない効果があったりする。あと刻傷の効果で破壊されなくなる。刻傷の付与条件に関してはヘルパーT細胞の配信アーカイブから考察して」
「ってかそれ初期装備だよね?キャラメイクの時に売るかどうか選択できるやつ。ベヒーモスに入れてるってことはレベルも高いはずだけど、装備の更新はしないの?あの配信見たけど素材なら水晶巣崖でたんまり稼いだんでしょ?」
「確かにレア素材ならいっぱいあるけど、それを加工できる職人がいなくてね。今のところ更新が必要な程火力も耐久も不足してないし、同じ装備を使い続けると装備を『真化』させられるそうだから、そっちを狙ってるんだ」
「配信でエンカしてたエクゾーディナリーのスキル内容とか出現条件とか知りたいな、どういう理屈で不世出の存在になってたかとか予想付く?」
「素材のフレーバーテキスト読んでの推察だけど、"
──質問攻めだなぁ……
二層でも少し思ったけど、知りたがりの質問攻めは自分にくると対応がめんどいなぁ……助け舟を出してもらおうにも、サンラクもサイガー0も秋津茜も同じ様に質問攻めにされてるし。特にサンラクなんか抱えてるものが多過ぎて、次から次へと絶え間無く質問者が殺到している。その中にはライブラリ以外のメンバーも混じっていた。
「ちなみに初期装備以外の装備は無いの?」
「あるよ。"
「そういえばサンラク……さんは、もう水晶巣崖のエクゾーディナリー倒したの?」
「え?それならロンミン氏の方だろ?」
「そっちじゃなくて、あの配信で攻略されてたのとは違う方の崖の話だよ」
「その話詳しく聞かせて?」
──ほうほう、何やら興味深い話だな?
「内緒話?私にも一枚噛ませてくれよ」
「マブダチの話題、俺が知らん訳にはいかない」
「いや、俺も詳しく知ってる訳じゃあ」
「この【
──む、それなら私も何か対価を出さねば……
「レイジ……さんは、ヘルパーT細胞の奴のファンなの?」
「あ、ああ……アーカイブで見るだけだけど、チャンネル登録はしてるよ。時間が合うなら視聴者参加型企画にお邪魔する時もある」
「それなら、あいつがシャンフロ内でリスナーと一緒にプレイする配信する時に、レイジさんが確実にそのパーティ入れるよう口添えしておくよ。なぁに問題無いさ、私あいつの身内だから」
レイジは「え、いいの!?確かに配信一緒にやってたし仲良さそうだったし……でも……」と悩む素振りを見せているが。私とあいつが互いのネームバリューや実績を都合良く使って、自分の利益を得ようとすることは何も初めてのことじゃない。私が漫画家になってから、あいつが配信を始めてから、こうしたことはお互い何度もやっている。
それにここまで来れているのだから、レイジ自体シャンフロプレイヤーとしては上澄みの方のはず。そういうプレイヤーが、一緒にプレイして攻略を手伝ってくれることを奴は素直に喜ぶ。自らそれを催促するようなことはしないが、奴はキャリーや姫プの類いをされるのは好きなのだ。まぁ一番好きなのはむしろキャリーする側なのだけども。
「良いのかよ、ロンミン氏?いくら身内と言っても自分のために他人を売るのは……」
「確かに、奴に迷惑をかけることにはなるけどね。これに関しては
どうせこれからも奴には迷惑をかけられるし、その分私も奴を都合良く使う。自分の利益のためにお互いを利用し合い、得た利益の分だけ礼を返し受けた迷惑の分だけ振り回す。それが私とヘルパーT細胞……緋刈黎桜の関わり方なのだ。
取り敢えず「本人同士で良いってのなら……」と納得してもらって、その噂のエクゾーディナリーのことを話してもらう。
曰く、誰かさんによって水晶巣崖の素材は独占状態にあるが、自分も利益を得ようと突撃するプレイヤーは後を絶たない。ヘルパーT細胞の例の配信によってその傾向は更に加速した。
曰く、あの配信を参考に数多のプレイヤーが突撃を繰り返したけど全てが返り討ちにあったと。どうやって対処してんだと言われても、頑張って避けて流して同士討ちを誘えとしか……あの配信はイレギュラーな戦いも多かったから、攻略の参考にはし辛いと思うんだけどなぁ。
曰く、どうにかエリアの中腹辺りまで進めたプレイヤーが、そこで周りの蠍を従えて意のままに動かす金色に輝く巨大な蠍を見たと。ただの
その名を『
「サンラク、何か思い当たる節はある?」
「金晶独蠍は普通は他の個体と敵対するけど、こいつはむしろ従えている。だとしたら件のエクゾーディナリーは偏食個体ではない?ゴールデンエイジなんていうくらいなら、むしろ水晶群蠍の方から積極的に身を差し出す君主的な感じか?だとしたら物凄く面倒臭い戦いになりそうだな……」
「生態に詳しい……」
「まぁ、俺と奴らはマブダチだからな」
──
「大概ヤバい発言じゃない?」
「まぁ、あいつらも俺をボールにして球技大会開いてくるしその辺はノーカンよ」
「あんた達、話してるところ悪いけど次の試練が始まるみたいよ」
「あいつは……"
【モンスター
【討伐対象:
【エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されました】
まさか、またあいつと出逢うことになるとは……
アナウンスが思いっ切り伝えてるけど、自分で開きにした女の皮を被り、その腕には二振りの大剣を持ち、鎌の形に纏めた亡霊を周囲に浮かせ、自身は大事そうに生首を抱えている。あの時水晶巣崖でエンカウントしたのと同じ、紛うことなきエクゾーディナリーモンスター"禍刃剥命"であった。
『アレは、死の蓄積によって生まれる人智の死神。我が子達よ……人より出でたモノを人の手によって超えて見せるのです』
「黒死の天霊、まさかちょうど話題に出したところで出逢えるとはな!良かったな皆さん、運が良ければここで
「どんな条件?」
「あいつの落とすアイテムに、
「……あいつも確かに鎌を落とすけど、その名前は
私の言葉でサンラクの眼が点になる。覆面で顔が隠れてるから、実際に今どういう表情をしてるのかは分からないけども。まぁ解説したことが間違ってると知ったら恥ずかしくなるよね。
他の条件については、戦闘後に話してもらうとして今は"禍刃剥命"との戦いに集中だ。奴の攻撃は即死の見本市みたいになってるし、今回はヘイトを分散できるデコイもいない。下手に立ち回れば全滅もあり得るから慎重にいく必要がある。
「黒死の天霊……あいつ、力押しが通じないから苦手なのよね。そのエクゾーディナリーとか何をしてくるか分かったもんじゃないわ」
「"禍刃剥命"……確か、ロンミン君はあのモンスターとの交戦経験があったね。ここは君をリーダーに推しても良いだろうか?」
「オーケー、取り敢えず何をされても基本的に即死するから奴の動向には常に気を配ること。どう動いてくるかは影の動きから各自で判断して、攻撃手段は強い聖属性かもしくは回復だね」
「マイナスを0に戻すのは原種と一緒か、ならそこまで苦戦することはなさそうだな」
だが、"禍刃剥命"はそれだけでは倒せない。
奴を倒すには、回復アイテムでマイナスのHPを0に戻したり、"月華美神"の月光撃レベルの強い聖属性攻撃で浄化したりした後、あの大量の鎌と被っている皮を破壊する必要がある。奴は復讐を果たして尚も尽きることのない、怨みと憎しみで動くモンスター……元を絶ってやらぬ限りは、いつまでも憎悪を抱えて動き続けるのだ。
「オオオオオォォ…………!!」
「何だこれ……霧……?」
「触れるとエグいデバフとスリップダメージ食らうぞ、絶対に触るな!」
「私には効果が無い……刻傷持ちならレジストできる程度の呪いだ、サンラクと私でどうにかするから自分の命優先で立ち回って!」
「っしゃ、やるか!」
"禍刃剥命"が雄叫びを上げ、同時に広範囲に黒い霧状の物質を撒き散らす。何だよそれ水晶巣崖じゃそんな攻撃してこなかったじゃんアレか?私とヘルパーT細胞には効かないし、無駄だから使わなかったとかそういう感じなのか?
刻傷を持たないプレイヤーがこれに触れると、どうやら大量の重いデバフを受ける上に、更にスリップダメージまであるらしい。スキルの方の説明にあった『
まぁでも、効かない攻撃なんかしたところで何もしてないのと変わらない。霧を散布している隙に加速スキルで接近し、ありったけの回復アイテムをマイナスのHPにご馳走してやる。私の回復ポーションの物量とサンラクの回復ポーションの質、二つの回復であっという間に"禍刃剥命"のHPを0まで引き上げることに成功した。
回復に怯む隙は逃さない。"
「後はサンラク、よろしく!」
「おうよ、こいつを剥がして……ぶっ壊す!」
サンラクがガッチリ"禍刃剥命"をホールドし、そのまま皮を引っ剥がす。大剣を握る邪魔な腕は自身の二刀で斬り離し、そのまま皮を投げてマントのようなアクセサリーを装着。
「燃えちまいな……【
掲げられし腕より迸る雷が、悪姫霊の皮を燃やし尽くし瞬く間に灰に変える。これで撃破条件は全て達成──怨みの元を断たれた"禍刃剥命"は、離れたサンラクの方を向くと「……アリガトウ」と言葉を遺して消えて逝くのだった。
【モンスター
【討伐対象:
【エクゾーディナリーモンスターが撃破されました】
【参加プレイヤー全員が称号『愛スルガ故ニ』を獲得しました】
【参加プレイヤー全員が
「……私達、居ただけなのに報酬貰えるのね」
「特例でパーティ扱いされているのだろう」
「スキルや称号以外にも……アイテムが色々とインベントリに入っていますね」
「わぁ、この鎌すっごい強そうです!」
これにて完了。全員が第六層へ進出する権利と、"禍刃剥命"の討伐報酬を得る。
トドメを刺したサンラクだが、"禍刃剥命"が奴の武器に取り憑くことはなかった。どうやらそれにはまた別で条件があるようだが……もう倒した相手の検証よりは攻略が先だ。名残惜しさはこの層に置いて私達は次の層へ進むのだった。
「
「しゃーない、次逢うことがあったら試してみな」
"
ただし、最初の一人が憑依に成功した時点で後続の成功率はほぼ0にまで下がる。