ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「そういえばさ、シュトーレンってAGIどのくらいなんだ?水晶巣崖は機動力特化とかヘイト切り系のスキルが無いとマジで無理ゲーだぞ」
「初期値よ。でも安心して良いわよ、機動力はトップスピードだけで語るものではないから」
「……そうかい、それならプレイヤー初の『古匠』になったっていう実力見せてもらうぜ」
「ええ、期待してちょうだい」
──安心できんよ、あそこじゃあ……
奥古来魂の渓谷から水晶巣崖へ続く崖を登る間、サンラクからシュトーレンに質問がされる。水晶巣崖の攻略には、蠍の波状攻撃を避け続けることができる速度が重要視される。それができるだけのステータスやスキルはちゃんと持っているのか、と。
思えば、私達はシュトーレンのビルドや戦闘スタイルを殆ど知らない。辛うじて分かるのはハンマーがメイン武器であることと、生産職故に戦闘に能力を振り切ってはいないということくらい。それでもベヒーモス第四層で、あのエリアのボスをほぼ単騎で倒しただけの実力はあるだろう。
「ところで、サンラク……さん。何故……ベヒーモスの攻略を中断してまで、水晶巣崖に?」
「同意:オルケストラ攻略の手掛かりを得るよりも優先される理由は薄いかと」
「いや、そこは割とどうでも良い。
「オルケストラ……確か、サイナちゃん……その征服人形がキーになってるんだったわよね」
オルケストラ……確か、『冥響』の名を持つユニークモンスターの一角だったか。私がシャンフロを始める前の時点で既に討伐済みって聞いてるし、再戦可能な奴なんだな。それなら焦って情報収集に躍起になる必要も無いか。
挑もうと思えばいつでも挑める奴と、チャンスを逃して先を越されれば挑戦は絶望的な奴。それなら後者が優先されるのは当たり前だ、加えてそれ自体に思い入れが強いとしたら尚更。私がサンラクの立場でも同じ優先度になるかな?
「では、作戦内容を説明する!ゼロから情報を集めて"
「…………………………」
「そう呆れた顔をするなよ、サイナ。この戦いでお前の葛藤に終止符を打ってやるからよ」
「見えてきたよ、頂上だ」
さぁ、戦闘開始である。
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……
…………
………………
「だああぁああァ!?」
「相変わらず、凄い数だねこれは……!」
──"
挟撃、多重包囲、状況に応じた戦力投入。ただでさえレベル100オーバーの化物が戦術を組んで向かってくる脅威は、まさに地獄と言う他無い。
先日の"月華美神"戦。あの時はエクゾーディナリーによって、段階的にスペックを上げられていく単体性能の暴威があった。しかしその分個々の力に任せる能力頼りな部分があり、同士討ちの誘発をさせやすい利点があった……だが、こちらはそういった強化こそないものの、規律の取れた動きで同士討ちすることなく的確に行動してくる。
私の知っている蠍の波状攻撃が、水晶の津波とするなら……こいつらは一列に並んだ水晶のブルドーザーってところかな。
みんなで仲良く一等賞、なんてガラでもあるまいによくもまぁ行儀良く並べるものだ。目の前まで迫る一団を飛び越え、奥から迫る第二陣を踏み付けて更に大きく跳躍、一先ずやり過ごしたが第三波が近付いてきてるのが音で分かった。
「また新手が来たか……ッ!」
「報告:第三波を確認」
「キリが無いッ……ですね……!」
「レイ氏!シュトーレン!アンタらは少しでも攻撃の手を緩めたらすぐに呑み込まれる、そのまま攻撃は続けていてくれ!」
「サンラク、あなたは!?」
「俺は……見えた、あのトサカをぶっ壊す!」
──トサカ……アレか!
サンラクが何かに狙いを定め、突撃していく様をハイアーザントップで跳躍し上から観察。すると不自然に周りの蠍に守られている、『♯』みたいな形の水晶を生やした水晶群蠍を見つけた。
迫り来るサンラクに気付いたそいつは、自ら立ち向かうのではなく周りの蠍を使い迎撃を行う。しかし相手は水晶巣崖攻略の第一人者たる男、僅かな数での反撃など歯牙にも掛けず、両手に備えた二振りの片手剣で水晶を粉々に打ち砕いて見せたのだ。
「水晶群蠍が、止まった……!?」
「今の奴が、指揮をしてたってことなのかしら」
「どっちかって言うと、"皇金世代"の指示を周りに伝える中継地点って感じだな」
「流石、この乱戦の中でよく気付けたね」
"皇金世代"……水晶巣崖に蠍を統率する個体が現れたことで、奴らは規律を得た。それはこの戦いが始まってから嫌という程思い知ったが、同時に違和感も感じていた。
──そう、『どうやって』蠍を率いているのか。
辺りを見回す限り、"皇金世代"らしき金晶独蠍はどこにも確認できない。つまり"皇金世代"はこの戦場の近くには居ないということ。しかし盤面を見ずに戦況を動かすなど、そんなことはどんな天才軍師にだって不可能である。ならば戦況を把握する方法を奴は持っているはずだ。
そして、事前のライブラリへの聞き込みやベヒーモス第七層での情報収集の中で、明らかになっていた『変な形をした水晶群蠍』の情報……水晶老群蠍や金晶独蠍という変異個体がいる中で、わざわざそんな表現が為されるのだ。ならばその個体は攻略に於いて重要な鍵となる、故に注意深く探していたから見つけられた……以上、サンラク談でした。
「報告:停止した個体は全体の二割五分」
「普通に25%って言えよ、つまりはあと3体か」
「1体はさっき跳んだ時に見つけた、そいつは私が請け負うよ」
「なら、もう1体はレイ氏とシュトーレンに……残りの1体はサイナ、お前に任せて良いか?」
さっき倒した奴と私が視認した奴の配置から、蠍の中継役は北東・北西・南東・南西にそれぞれ配置されていると予想された。今倒されたのが南東の中継役なので、残りは3匹。
私は自分で見つけた北東の奴を、サイガー0とシュトーレンの二人で北西の奴を、サンラクの征服人形であるサイナが南西の奴を、それぞれ倒しに行って残りの蠍も機能停止に追い込む。NPCは一度でもやられると二度と復活できないそうだし、この死地に大したサポートも無く送り込むのは不安だが。できると言うのなら信用して任せよう。
「それじゃあ私は行く、しっかり頼むよ!」
「任せなさい、きっちり始末しておくわ」
「……私達も、行き、ましょう」
「よっしゃ、全員散開!」
行動開始。加速スキルを全開にして最高速度で目的地まで駆け抜けていく。パーティを組んでいても単独で行動しているなら「
こちらの蠍軍は、さっきまでの奴らとは戦法に明確に違いがあった。南東の蠍軍は一糸乱れぬ整列による隙間の無い突撃が
──チィ……中々厄介なやり方でくるなぁ!
面倒なのは、投げ物を投げてくるこいつらの内殆どは私に当てようとしてきていないこと。当たればラッキー程度のかなり大味なエイムの中に、確実に狙ってくる攻撃が時折混じってくるのだ。
狙ってこない攻撃は四方八方、しかし私の周辺に安全地帯を潰すようにばら撒かれ、逃げ場を失ったところで本命の狙撃が飛んでくる。あくまで投石であり"月華美神"のようなレーザーじゃないので、防御は可能なのが幸いであった。
「ヌルい……強化も何も無い一般蠍くらいで、私を止められると思うなよ!」
どんなに面倒な行動も、何度も繰り返してくれるなら慣れることはできる。なまじ統制が取れているだけにこいつらには『怖さ』が無い、一個体の犠牲を度外視した無数の特攻こそが蠍の脅威、安全策が命取りになるのだということを教えてやろう。
投擲の雨霰には少しずつ慣れてきて、段々と回避が安定してくるようになった。狙撃もタイミングを合わせてパリィすればノーダメで凌げるし、奴らの引き撃ちより私の接近の方が速い。このまま中継役の所まで近付いて始末する……というところで、一部の蠍が投擲を止めて、上へ上へと積み重なっていき簡易的な防壁を作り出した。
──自己犠牲は健在か……でも!
防壁となった蠍が一斉に威嚇する……私はそれを無視して踵を返し、蠍が集まって手薄になった場へ一気に走り込んだ。何故ならその防壁を越えた先に目標は居ないと知っているから。
先の跳躍で目標を視認してからというもの、私はずっと【
「私に小細工は通じない……水晶群蠍よ、勉強代はお前の命だ!」
中継役の蠍は脆い、サンラクが倒した個体によってそのことは既に分かっている。私のステータスとスキル構成なら、恐らく刀の一振り・槍の一刺しで十分に撃破できるはずだ。
しかし、当たり前だが水晶群蠍だってそう簡単に死んでくれる訳がない。地面に擬態していた伏兵が一斉に姿を現し、徒党を組んで中継役を守る盾を形成する──その隙間を、抜けていく。
「そう来ることは、分かってんだよ!」
擬態を解き、壁を作るまでは僅かでも時間を掛けなければならない。そう来ることさえ分かっているなら、壁ができるまでのタイムラグを突きすり抜けることは何も難しくない。何せ蠍共は防壁造りを優先して攻撃の手が疎かになるのだから。
中継役の目前まで来れば、もう奴を守る盾も壁ももうどこにも存在しない。ヒット数を上昇させる「
「今更……バニラのお前ら程度に苦戦するようじゃ"月華美神"は倒せてないんだよ!」
護衛は全滅させた。コンボが継続している内に追撃を仕掛ける──全力で後退する中継役に、最大火力で「秘剣【一片舞】」をぶち込んだ。
過剰気味の火力によって、中継役の蠍は横薙ぎに砕かれ破片を撒き散らし斃れた。それにより部下の蠍も行動を停止……これで、この辺りの水晶群蠍も無力化することに成功したのだった。
「後は……残りの二つがどうなってるかだね」
……
…………
………………
…………
……
「チィ……デコイが居ないから数がキツいわね」
「それでも……かなり、進めました」
北西の蠍軍を無力化しに行ったサイガー0とシュトーレンの二人は、360度を全周的に包囲した上で攻撃に移る敵戦術に、少なからず苦戦を強いられていた。
元より耐久と火力にポイントを割き、AGIはそこまで高くないこの二人。サンラクのような物量の暴力に対抗できる速さと慣れ、ロンミンのようなスキルに頼らない防御力と生存力、そのどちらも待ち合わせていない両名ではあるが……それでもその足は着実に、目標に向けて近付いていた。
「道を作ります……「剣神断覇」!」
「こじ開けるわよ、『
持ち前の耐久力で被ダメージを抑え、攻撃の隙にサイガー0が反撃で陣形を崩す。そうしてできた亀裂を起点に、シュトーレンの一撃で進むべき道を作り出す。多少崩したところで蠍はすぐにその地点を他の蠍で修復する……それをさせないために必要な瞬発力を、シュトーレンは武器で確保していた。
プレイヤー初の古匠、シュトーレンによって製作された初めての
「見えてきたわね……レイ、周りの掃除を!」
「はい……「アポカリプス」!」
中継役を守る蠍が薙ぎ払われ、目標がただ1匹孤立するその瞬間を見逃さず、シュトーレンの鉄鎚が振り下ろされその命を砕き割る。
これにて北西の蠍も機能停止……先にサンラクによって沈黙した南東、ロンミンによって破壊された北東、そしてサイナとサンラクによって撃破された南西も合わせ、パーティは全ての蠍軍を機能停止に追い込むことに成功したのだった。
「数が多い分しんどかったけど……統制が取れてる分、逆にやりやすかったわね」
「今までのような……自分諸共、みたいな怖さがありませんでしたからね……おかげで、私達だけでも大丈夫でしたが……」
「あの二人もそろそろ終わってるでしょうし、さっさと合流しましょう」
「そう、ですね……」
……
…………
………………
「おし、全員無事のようで何より」
「後は"皇金世代"本体だけね」
「頑張り、ましょう……!」
「お目当ての奴はもっと奥の方に居るみたいだね」
全員……と言ってもそれはプレイヤーだけで、サイナはかなり損傷していたが。何とか誰一人欠けることなく合流することができた。NPCがズタボロなのは心配だけど、どうやら回復ポーションで治るらしい……人形でも治せるんだ。
何やら不調そうだったのも、今では少し吹っ切れたみたいになってるし心配は無さそうだ。という訳で回復とスキルのリキャストを待ってから、私の眼が捉えた"皇金世代"の居場所へ向かう。水晶老群蠍の通常種の亡骸を均して造られた、大量の水晶群蠍が見守るコロシアムへ。
【モンスター
【討伐対象:
【参加人数:5人】
【エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されます】
──さぁ、ここからが本番だね。