ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
配下の
「異常行動です、水晶群蠍の生態を考えればこのような行動は……」
「いつの時代も、どんな種族も。強い王様って奴は決闘がお好きなのさ。どちらかと言うと裏社会の喧嘩を見守る野次馬?それとも金網デスマッチ?」
この辺りを囲む水晶群蠍の役目は、決闘の行方を見守る観客であると同時に、皇帝の御前から逃亡を図る不届き者を始末する処刑人でもある。
実際に、私達が全員この
「ロンミン氏、あんたにこれを渡しとく。あんたなら有効に使えるはずだ」
「双剣……【
「そいつは『壊毒』っていう特殊な毒を扱える武器でな、部位破壊が得意なロンミン氏のスキルとはマッチしてるはずだ」
「ありがとう、なら使わせてもらうよ。でもその前に一つ、やることやっておこうか」
サンラクから預かった武器を一旦しまい、代わりに【傭兵の鉄槍『改十五』】を装備。道中でチャージしたムーンゲージを消費し『
「シュトーレン!」
「はいよ」
「サンラク!」
「おう」
「サイガー0!」
「は、はい……」
「サイナ!」
「はい」
「目標は勝利、ただ一つ!全員無事で、気持ち良く終わらせようぜ!」
「おう!」
槍を掲げ、パーティメンバーに檄を飛ばすことで戦闘中永続のバフを付与するスキル「
「先制パンチだ、ありがたく受け取りな!」
タンク役の二人が前に出て、私が武器を切り替える間にサンラクが銃で先制攻撃を仕掛ける。ベヒーモスでも使っていた貫通力に優れる弾……しかし、"皇金世代"は何の問題も無くそれを防ぎ、弾かれた銃弾が虚しく地面に落ちていった。
銃撃を防いだ尻尾の剣……本来針であるはずのそれは数多の鉱石を取り込んだことで、合金のようになり凄まじい強度を獲得している。今回は防御のために使われたが、本来の用途──攻撃に使われた時の破壊力は想像するまでもないだろう。
「なぁ、サイナよ。あんなヤバいモンスターを倒せる奴は、パバの心無い一言に対してカウンターの肘を入れられる。そう思わないか?」
「疑問:何故、暴力的解決手段を前提としているのか」
「百の言葉を紡ぎ出すより、5本の指を握りしめて一発殴ってやる方が早いからかなァ!」
「言えてるね……乱暴過ぎる思想だけど、ね!」
先制パンチを防ぎ、"皇金世代"はそれまで手に持っていた宝石塔を投げ捨て鋏を展開。どちらかと言うと鎌……いや、カトラスとかそんな感じの広い展開幅だ。あの可動域を自由に操れるとしたら中々厄介な武器になりそうだな。
その脅威は前衛に出た二人がまず受ける、振りかぶられた右鋏を大剣でガードしたサイガー0がそのまま吹っ飛ばされ、パリィを試みたシュトーレンは攻撃の発生が早過ぎてパリィに失敗し、そのまま直撃を受けて地面に叩きつけられてしまう。
「クッ……何て、重い一撃……!」
「ロンミンのバフが無ければ死んでたわね……!」
ガードはできてたサイガー0はともかく、シュトーレンの方も即死は免れたようだ。事前のバフが役立ったようで良かった良かった、しかしタンクの二人には『富飾の恵光』の強化を耐久面に多く割いたはずだが、それでも「即死はしない」くらいのダメージは受けることになるんだな。
おかげで一応の隙はできた、回復の時間を作るためにも今度は私とサンラクで突撃する。狙うは尻尾の大剣──サンラクが『聖剣』と呼ぶそれではなく左の剣鋏。【惨毒蜂双針】の壊毒は私の持つ部位破壊を助けるスキルで強化されるが、"皇金世代"に効いている様子はあまりない。破壊まではかなり地道な作業になりそうだ。
「ロンミン氏、聖剣は狙わなくて良いのか!?」
「"皇金世代"の構えを見るに、奴は右利きと考えられる。ならばその戦闘スタイルにおいて最も重要になるのは、聖剣でも利き腕の右でもなくそれらを活かそうとする左腕の方だ!」
「成る程……ッ!」
「シュトーレン、サイガー0!二人は右の剣鋏への警戒を頼む!左腕は私が壊す、サンラクとサイナは本体の弱点を探ってくれ!」
図らずも私が指揮を取ってるが、皆特に異論も無いようだしこのままやってやろう。
"皇金世代"の武器は剣鋏と聖剣、通常種が使ってくる毒をこいつは使ってこない。単純な物理攻撃だけでの戦闘なら、攻撃手段を減らしてやることは被弾の減少・隙の増加など大きな利益がある。
……
…………
………………
何度か攻撃を誘発させて、どんな行動をとってくるのかを確認したが……どうやら"皇金世代"の攻撃は大きく4パターンに分かれるようだ。
・剣鋏での攻撃
剣鋏の畳み方でパターンが変化する。超近距離では剣鋏を畳んでのパンチ、近距離では90度程開いて鎌のようにして薙ぎ払い、中距離なら180度開いて思いっ切り振り回す。
・噛みつき
サンラク曰く、本来なら水晶群蠍では食べられないという宝石の塊をおやつ感覚で噛み砕く強靭な顎による攻撃。口が届くくらい近くにでも居ない限りは使ってはこない。
・体当たり
変則的な移動で距離を取ってからの突進、上空に飛び上がってからのボディプレス、側面への回り込みを咎めるその場タックルなど。モーションが小さく当たり判定も大きくかなり厄介。
・聖剣での攻撃
食らえば即死。大型の刃故に振り回す隙は大きいのだが、"皇金世代"自身そのことを自覚しているようで中々使ってこない。逆に言えば奴に「今なら攻撃を当てられる」と思わせることで、聖剣の振り回しを誘発させることもできる。
──大きく分ければこんな感じ。一番厄介なのは体当たりかな、発生が早いわ範囲広いわ持続長いわで避け難いことこの上無いし、範囲の広さのせいで狙われてない奴まで巻き添えになりかねない!
剣鋏も同じくらいヤバい。アレをただの腕じゃなくてしっかり刃物として振り回している、野生動物にはあり得ない動き。手首のように捻ることでガードをすり抜けることもできるし、聖剣の一撃に繋がるための崩しとしても使ってくる。
まるで、そう……人間の凄腕の剣士と戦っているような感じの立ち回りをしてくるのだ。複数の剣を巧みに使い戦うのは『剣聖』に通じるそうだが、もしかしたらプレイヤーの動きを参考に、AIがプログラムされているのかもしれないな。
「ロンミン氏、そっちの進捗どうだ!?」
「まだヒビが入ったくらい!単純に強度が高い!」
飛んできた質問に答える。さっきから私はジャブを連発してから左腕を攻撃している訳だが、惨毒蜂双針の壊毒、「超汎用解体技術」や「ブロークン・シェル」の破壊効果があるにも関わらず、未だに少しヒビが入った程度と苦戦を強いられていた。
通常種のように回復をしてこないし、このまま続ければどこかで壊せるのは確実──しかしそうなるまで惨毒蜂双針が保たない可能性が高い。この武器そんなに耐久力が高くないのだ、『
「いいよロンミン氏、そいつは部位破壊のために貸したんだ、遠慮無く使っちゃってくれ!」
「……そういうことなら、遠慮なく!」
躊躇していたが、持ち主のお墨付きがあるならそんな必要もあるまい。耐久力回復に使っていたゲージをここからは性能強化に使い、消耗は度外視して剣鋏の破壊に注力する。
スキル「百閃の剣」と「撃炸貫廻」を同時に発動し剣鋏を突く。攻撃する度にヒット数が増えていく百閃の剣の効果が、撃炸貫廻の炸裂による追加攻撃で発動し爆発的に手数を増やす。これだけでは破壊まではまだ足りない──だが、目的はここで破壊し切ることではなくヒビを広げることだ。
「そんだけぐちゃぐちゃになれば……当然、衝撃には滅法弱くなるよなぁ!?」
耐久がギリギリ保った惨毒蜂双針をしまい、武器を【傭兵の鉄鎚『改十五』】に変更。確実に攻撃できるようヘイトが他の奴らに向くのを待ち、その瞬間を逃さず「ゲイルスイング」を剣鋏にぶつけ思いっ切り振り抜いてやった。
モグラ叩きの要領で押し込まれた"皇金世代"の左腕は、攻撃に抵抗したばかりに剣鋏から連鎖的に崩れていく。ヒビを集中させず広げたのは剣鋏だけでなく左腕ごと破壊するため、武器だけを潰しても腕が残っているのなら、できることはそれ程減らないからというのもあるが……もう一つ。
「エクゾーディナリーとは言え同じ蠍……なら、弱点だって同じなんじゃないか?」
──もう一発、受け取りな!
もう一つの理由、それは破壊痕……即ち部位破壊によって作り出した「弱点部位」を、元々の弱点であろう水晶内の本体に近付けるため。私がこれまで戦ってきた蠍も、硬い水晶に守られている本体は大きな弱点であった。ヘルパーT細胞の【雷鐘】のような水晶を素通りできる攻撃では、ほぼ一撃で倒せていたことからそれは分かる。
エクゾーディナリーとは言え、奴の種族があくまで金晶独蠍であることには変わりない。それなら中身が弱点であることは通常種と同じのはず……後はこの仮説を「
「ふっ……飛べ!」
「…………………………ッ!!?」
──成功だ。爆散した左腕の根本を通して本体を突き通した「茜光差す穂先」は、体内で何かしらと反応したのか強い光と爆発を巻き起こしその勢いで"皇金世代"の巨体を遥か後方へ吹っ飛ばす。
これは良いダメージになったに違いない、奴の動きの鈍さからもそれは察せられる。ならば復帰される前に追撃を仕掛けたいところだが、かなり遠くに飛んでいったし復帰前に追いつけるのは……
「私が行くわ──『
「呼応:最大の打撃火力を発動します」
……いた。シュトーレンが武器のエネルギー噴射による高速機動で急接近し、"皇金世代"の立ちあがろうとする脚を叩き潰す。それにより復帰は失敗し、再度の試みも追いついたサンラクの居合斬りとサイガー0の「アポカリプス」で阻止。
その間に私も追いつきハメ技に加わる。サイナの用意する大火力を確実に当てる、そのための時間を稼ぐ目的のハメ技。火力は今は二の次にしてその時が来るまでひたすらに粘り続けるのだ。
「要請認証:再征服計画に基いた契約者の接敵レベルから、征服人形エルマ=317へのクラスⅧ武装【
「ブチかませ、サイナッ!」
放たれた超巨大な杭が、これまた特大の轟音と衝撃波を伴って"皇金世代"の胴体へ直撃する。肉体を侵し壊す壊毒にあれだけ耐えて見せた奴の黄金の水晶殻が、杭とぶつかり合ってギャリギャリと聴くに堪えない音を出しながら砕けていく。
──これは、特大のダメージになるぞ……!
これだけで倒せはしないだろうが、それでもかなりのHPを今の一撃で削れたはずだ。杭の食い込んだ部分も新たに弱点となるし、攻撃できる箇所が増えたこともこちらに対する追い風となる。
「皆、どんどん追撃してやりな!」
「このまま……倒し切り、ます……!」
「素材欲しいし、右の剣鋏と聖剣も壊すぞ!」
「サイナ、あなたも加わって……ッ!?」
4人で畳み掛けようとし、シュトーレンがサイナを呼んだその瞬間。"皇金世代"は聖剣の腹を地面に強く叩き付け、その反動で大技の後で隙を晒しているサイナの元へ迫って行った。
「飛んだ……あんなに、高く……!?」
「……追いつくにはエネルギーが足りないわ」
「サイナッ!クソ……間に合えッ!」
「『
サンラクがアクセサリーとスキルを全開にした超高速移動で救出に向かうのを、私も【撃滅の灼光】で援護する。征服人形はインベントリアにしまえるが恐らく驚いて止まった時間のせいで、それをやろうとしても間に合わない。だからこそサンラクは駆け出したのだが……あれでは恐らく、共倒れするのがオチだろう。
だから私は、『撃滅の灼光』を"皇金世代"の尻を目掛けて撃ち放った。ノックバックで推進力をむしろ強化させることで、サイナを狙った聖剣の一撃を外させるために。剣鋏の一撃はそれでも食らってしまうだろうけど、そっちならスキル次第で即死だけは耐えられる。実際にサンラクは何らかのパリィスキルで左腕を犠牲にサイナを守り切った。
「マ、
「まったく、油断も隙もありゃしねえ……何はともあれ無事で良かったぜ」
「しかし、契約者は今の攻防で左腕を損傷してしまいました。これ以上の戦闘は……」
「心配すんな!奴と同条件になっただけだし俺達には頼れる仲間が居るだろ!それに俺は片腕の剣術だってそこそこできるんだ、このくらいじゃあハンデにだってなりゃあしねえさ!」
──無事なようで何よりだね。
左腕と一緒に箍も消し飛ばされたか、サンラクのテンションが物凄く上がっている。あれならパフォーマンスの低下を心配する必要も無いか……そこのサイガー0さん、君の内心がサンラクカッコいいで満たされてるのは分かるけど、プレイを止めるのはやめてくれよな?
「仕切り直しね。第二ラウンドといきましょう」
「その通り、次は右の剣鋏を破壊するよ!」
まだまだ戦いは始まったばかり……さぁ、ここからも集中力を切らさずにいこう。
「
『