ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「うおわああぁ俺ばっか狙ってんじゃねぇーッ!」
片腕を失ってからも勇ましく"
その間もサンラクを守って反撃を入れたり、サイナの高火力武装をぶち込んでやったりと、定期的にダメージを入れてはいるのだが……依然として奴の黄金の甲殻に翳りは無く、右腕の剣鋏を漸く破壊できたというところであった。左腕と比べて何かやけに硬かったな……利き腕だからか?
──このゲーム、時間制限がほぼ無いのが良いところであり悪いところだよね!
少しずつ戦闘は終わりに向け進んではいるが、まだまだ"皇金世代"が倒れる気配はしない。現在時刻は午前2時を回ったところだろうか、このままのペースで行くなら、本当に夜明けまで掛かるかもしれないな。
「クッ……回避を優先、武装を放棄します」
「今度はこっちか……けど、甘い!」
「今度は……ロンミンと、サイナさんが狙われることが増えてきましたね……」
「両腕ぶっ壊した奴と、超兵器で特大ダメージ出してくる奴だもの。そりゃあ優先して狙うわよ」
私の破壊属性と、サイナの兵器の火力で少しずつ聖剣にヒビを入れていく。私の護衛にはシュトーレンが、サイナの護衛にはサンラクとサイガー0が付きながら、"皇金世代"の攻撃の隙を突き何十何百と攻撃を繰り返していった。
繰り返すことで"皇金世代"もこちらの狙いが聖剣の破壊であることに流石に気付き、特にサイナの攻撃は対処されることが増えてくる──15分に一回しか超兵器は使えないにも関わらず、もう三連続で回避されてしまっている。動きもタックルを主体としたものになって厄介になっており、あと一息が中々貫けない状況となっていた。
「両腕を失って……それでも強いじゃないか」
「それでこそマブダチだぜ!」
──そうだね、
自由度の高い両腕の剣鋏を失って尚、巨大な質量を活かしたタックルは脅威だ。蠍特有のジャカジャカとした動きで側面に回り込み、そっと触れるようなソフトタッチで吹っ飛ばす。大きさ的に戦車と触れ合うようなもんだしそりゃ吹っ飛ぶわ。
さて、どうしたものか……通常時一番ヘイトを稼いでいるのは私、兵器を展開した時だけはサイナが一番ヘイトを稼ぐ。その差を利用して"皇金世代"の行動が間に合わなくなるよう誘導したり、サンラクの質量兵器で足止めしたり、シュトーレンやサイガー0が転ばせたりと、色々小細工を仕掛けるも既にそのどれも対応されている。
あと一撃、あと一撃だけでもあのパイルバンカーを当てることができれば、それで聖剣の破壊が叶うかもしれないのだが……あと一撃が遠い。
サイナが兵器を展開しても、"皇金世代"に対応に行かせないだけのヘイトを稼ぐ方法……実戦だとまだ試したことが無いのが不安だけど、『アレ』を試してみようかな……?
「こっからターボを掛ける、聖剣ぶっ壊すよ!」
「しかしながら、ロンミン。攻撃を当てる難易度は時間に比例して上がっていきます」
「分かってるよ。だったらステキ兵器よりも何よりも輝いて、皇帝陛下の眼を奪ってやるさ!」
──さぁ初使用だ、『
内に溜め込んだ月の光が滲み出て、私の身体が淡い金色に光り輝く。
・回復の『
・レーザーの『
・バフの『
・武器強化の『
これら4種の通常技をゲージ消費無しで使えるようになり、リキャスト待ちのスキルも全て使用可能な状態になる。ステータスは元の3倍になり、更にこの状態でのみ使える必殺技も完備。ただでさえ平時のヘイトNo.1の私が更に強くなるのだ、これを無視することは"皇金世代"には不可能だろう。
「すっげえキラキラしてんな……」
「イルミネーション、みたいです……」
──不名誉な例えやめてくんない?
見た目は不評でも、その強さは本物だぞ。今はこの場の誰よりも私のステータスが高いのだから。
耐久力がもうギリギリなので、壊さないようにインベントリアにしまっていた【
「皇帝陛下、しっかり追いついて来なよ!」
私の攻撃はあくまで時間稼ぎ──だけど、別に私が聖剣をぶっ壊しても構わないだろう?奴の対応力的にそろそろ刃が届くようになってくる頃だが、同時にサイナの兵器の準備も終わる。今のステータスなら聖剣の攻撃も一発は耐えられるだろうし、もしもの時はわざと攻撃を受けてでもパイルバンカーを撃つまでの時間を稼いでやろう。
「『
「…………………………!!」
円を描く黄金の光を追っていた"皇金世代"、しかし兵器の準備が完了したところを見ると、すぐにターゲットを切り替えサイナの元へ走っていく。まだまだヘイト稼ぎが足りなかったか、クソ!
「絶世秘技……『
──効果が薄い!威力が足りてないぞコレ!
少しでも足止めすべく、ゲージを消費する必殺技を発動するも"皇金世代"は構わず走る。凝縮された月光を武器に纏って威力・射程を強化した縦斬りがこの技『絶世秘技・
「其はあり得ざる槍、断章積み編みて紡がれし非実在の輝き!」
だが、ここでサンラクが動いた。残った右手に握り締めた雑種の剣から迸る炎を纏い、巨大な槍としてその鋒を"皇金世代"へ向ける。
"皇金世代"は動いた。より自分に近い脅威を退けるべくサンラクに向けて突進──それをサンラクは
「いっけえサイナ、ぶちカマせェ!」
「……了解:これも、勇気と言うのでしょう。『爆圧噴射式杭撃機』発射」
サンラクはただ回避したのではなく、着地地点を"皇金世代"の上にすることで、「振り落としモーション」を発生させていた。攻撃としての暴れ回りと頭上の異物を振り落とすための暴れ回りでは同じモーションでも威力が違う、後者ならばサンラクの紙耐久でもある程度はたえられる。
危険な攻撃に身を晒し続けるよりは、ダメージを負うとは言えこちらの方が確実。そう判断したからこそこの特攻をサンラクは選んだのだ、聖剣破壊、成功させてやらなきゃ女が廃るというもの。さぁ、やってしまいなさい、サイナさんよ。
「実行:尾部の破壊」
サンラクを振り落とすべく暴れ回る"皇金世代"の尻尾に杭が突き刺さる。迎撃する訳でも防御する訳でもない無防備な状態で食らう一撃、クリティカルで入ったダメージは、それまでに入れていたヒビを更に広げ崩壊を加速させる──
──いけ、壊れろ!
しかし、その願いは届かない。"皇金世代"は振り落としを一時中断し聖剣の杭が刺さった部分を地面に叩きつけて杭を砕き割り、最後の武器を破壊されることを無理やりにでも阻止して見せたのだ。
その判断力、流石のAIと言わざるを得ない……だがそのために見せた隙は致命的なものだ。これを見逃す程私達はトロくはないぞ、皇帝陛下!
「剣神断覇!」
「轟天激震!」
「
「海割ノ太刀……絶世秘技・『
──その聖剣、貰い受ける!
サイガーの大剣が。
シュトーレンの鉄鎚が。
サンラクの炎槍が。
私の太刀が、"皇金世代"の聖剣を破壊すべく殺到する。奴もまた破壊を阻止せんと聖剣を振り回し抵抗してくるが、もうその破壊寸前の刃にはそんな力は残っていない。
最期の一撃──聖剣とかち合った傭兵の鉄刀の刃が競り合いに打ち勝ち、尻尾との接続部その根本から聖剣をへし折った。ここまでの部位破壊のための行動全てが、漸く実を結んだのだ。
「やーっと、破壊できた……ッ!」
「こんなにも、時間が掛かるとは……」
「これで"皇金世代"も丸腰ね!」
「こんな所にレアアイテムが落ちてるーッ!」
──何を奇声上げとんのだあいつは……?
大技の反動でぶっ飛んでいったサンラク、ちょうど彼の着地点に破壊された聖剣の刀身も一緒に落ちていったようだ。ひゃっほーいとテンションが天元突破した声でアイテムを拾う声が聞こえる。
落とし物を拾ったところで、ゲーム内なので警察に届ける必要なんか無い訳だけども……サンラクそれ皆で破壊した成果だからな?おめーだけ独り占めなんて流石にさせんぞ?
「……様子が、おかしいです」
「聖剣を壊されてから動かなくなったわね……」
サンラクは置いておいて、"皇金世代"に眼を向けると奴は微動だにせず天を仰いでいた。
死を悟ってこれまでを省みている……?そういえばお爺ちゃんから借りた昔のゲームに、瀕死になると棒立ちするモンスターが出るのがあったな。アレとは似ても似つかないけど、行動はそっくりだ。
──けど、これで終わりじゃないよな。
こんなあからさまな隙、「まだ戦いは終わらないから準備しておけよ」と言われているのと同じようなものではないか。
だが本当に第二形態があるとして、ここからどう変化するというのだろう?既に奴の武器は全て破壊してある、体当たりしかできないのにいったいどうするつもり──
「…………………………!!」
──月が、煌めいた。
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天性の肉体は鉄を弾き、鋼を毀し、力を砕く。
前肢の『剣鋏』は時に熟達の剣士のように、時に恐るべき死神のように変幻自在に動く。
そして何よりも『聖剣』の存在だ。その神々しさはそう謳われる根拠となる、本家本元の聖剣エクスカリバーと比べても何ら遜色無い……だが!その程度のことは、この蠍達の皇を語る上では全くもって重要なことではない。
その本質は、"皇金世代"の種族が「金晶独蠍」であるというところにある。
金晶独蠍、それは水晶群蠍の亜種であり同族を捕食することでしか自身を存続させることのできない偏食個体の一種でもある。
最大の特徴として、夜行性に特化した生態及び月光を受けることで傷付いた肉体を再生する、脅威の回復能力がある……が、"皇金世代"が戦闘においてこの回復能力を使ってくることは無い。
ならば、"皇金世代"には回復能力は存在しないのかと問われると、その答えはイエスでありノーでもある。
何故なら、金晶独蠍の回復能力は「月光から摂取した魔力で自身の回復能力を促進させる」という理屈で行われているものであるからだ。本質は月の魔力そのものではなく、金晶独蠍という種が持つ月光の受信能力なのである。
"皇金世代"は、この受信能力を発展させたものを生まれながらに持っている。故にこの世に生を受けてから、揺り籠であり玉座でもある老成個体の肉体を食らって育ち、王として君臨し、そして朽ちていくまでの長い長い年月を……その間にやってくる幾千幾万もの夜を王は受け止め、月光をその身に貯蔵し続けるのだ。
そうして溜め込まれた魔力を、"皇金世代"が再生に使うことは無い。再生が必要な敵と相対している時、再生に魔力を使う余裕は無いからだ。
普段は、貯蓄した魔力を長い年月をかけて圧縮・浸透させていくことで、"皇金世代"は絶対的な力を増していく訳だが……もしも仮に。皇の命が危機に瀕した場合、それこそ己を"皇金世代"たらしめる聖剣が破壊されてしまった時。
「……やらかした、か」
風呂の栓を抜くように、あるいは固く閉ざされた門の閂を外すように。
皇は、生まれてから今に至るまでに溜め込んだ魔力を以て最期の戦いを挑むだろう。己の全てを賭けた決死の勝負──それは途中で中断できるような都合の良いものではなく、結果の如何に関わらず最後に待つのは『死』それだけである。
だが、それこそが"皇金世代"という特異な個体の持つ矜持なのだろう。
「ノウブレス・オブリージュ……」
高貴なる者には果たすべき義務がある。時に自らの命すら捧げる程に己に尽くす臣下に……民に報いるためにも、今──この瞬間こそ。
"皇金世代"は、命を懸けて臨むのだろう。
「警告:明らかな危険状態です」
「獣は、母と手負いが一番怖い……エクゾーディナリーでもそこは変わらないらしいね」
金晶独蠍"皇金世代"……その『
属性の都合上蠍にはあまり効かないが、二種類の絶世秘技はどちらも物凄い威力。軽減されずに通る相手ならだいたい二〜三発撃てば倒せるし、有効な相手ならだいたい一撃で沈められる。黒死の天霊とかだともう跡形も残らない。