ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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39:神象を攻略せよ:万物の霊長たれ

 心が重い。水をたっぷりと吸わせたスポンジのように疲労感が重く全身にのし掛かり、アバターの動きを鈍くさせている。見てみると他の3人も私と似たようなものだし、NPC故にそういったものとは無縁のはずのサイナもかなりお疲れのようだ。

 仕方のないことか。何せベヒーモス攻略の途中からぶっ通しでここまで来ているし、"皇金世代(ゴールデンエイジ)"との激闘を制するために、テンションを上げ続けていた反動が来ているのだから。

 

 ──けど、まだ終わってないんだよなぁ……!

 

「3人とも、私に乗って。あの水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン)達が動き出す前にさっさとここを離れるよ」

「お、おう、その前に散らばってる素材の回収だけさせてもらっても?」

「……手早くお願いね。あとサンラク、君が使ってた、あの手袋みたいなアクセサリーを貸してもらえないかな?」

「良いけど……あれの制御は大変だぜ?耐久も使ってる内に削れるし、いくらロンミン氏でもミスったらそのまま地面のシミになるぞ」

 

 そこは別に問題無い。サンラクの使っているところは戦闘中に見ているから、その時の動きを再現すればいいし……そもそも、戦闘ではなく逃走が目的なので動きもそう複雑にはならない。サンラクが心配する程制御難度は高くならないはずだ。

 素材の回収……戦闘中に散らばった"皇金世代"の欠片を余さず拾い上げて、蠍共が動き出す前に脱出の準備をする。サンラクがサイナをインベントリア内に収納し、私は借り受けたアクセサリー……その名を【封雷の撃鉄・災(レビントリガー・ハザード)】を起動。刻傷効果で破壊されてしまう前に外して、体格の大きい順に3人を背負い崖に向けて全力疾走を開始した。

 

 ──こんなところで、死んでたまるか!

 

 シュトーレンやサイガー0からは、『せっかく新しいスキルも覚えたことだし、それを使ってある程度数を減らしたらどうか』という提案もあったが。それは却下させてもらった。

 何せ新規習得した「皇金時代(ゴールデンエイジ)」の効果は、『発動時点でのパーティメンバーの数を参照し、発動者以外で「戦闘に貢献している者」が少ない程発動者のステータスを上昇させる』というもの。何なのだその使いにく過ぎる条件は、ここは俺に任せて先に行けRPでもしろってか?そんなのこの場では殺してくださいと言っているようなものではないか。

 

 全員生きて"皇金世代"に勝利したのだ、せっかくなら最後まで生きて帰ろうじゃないか。人生縛りをしてないからって、わざわざ命を粗末にする必要は何処にも無いのだ。

 走る、走る、ひたすらに走る。封雷の撃鉄・災の効果でHPがガリガリ削れていくが、致命の一撃を貰わなければ何も問題は無い。後ろから追ってくる蠍の津波を振り切り、擬態を解いて眼前に現れた蠍を踏み台に跳び、その後もひたすらに走り──

 

「あいつら水晶投げてきてるわよ!」

「左右からも、新手が……!」

「サンラク、投石の迎撃よろしく!」

「生きて帰るまでが遠足じゃーい!」

 

 ──最終的に、どうにか無犠牲で水晶巣崖からの帰還に成功するのだった。

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□□□□□□

 

 

「えー……皆さん突発的"皇金世代(ゴールデンエイジ)"討伐、お疲れ様でした。時間が時間だし、素材の分配だけやってお開きにしましょうか」

「通常素材は山分けで良いけど、問題は部位破壊報酬よね。特にあの『聖剣』はみんな喉から手が出る程欲しいものでしょう」

「普通は……破壊した人が貰いますけど、みんなで破壊しましたからね……」

「あとは数が少なくて分けられないのもだね。明らかにレア素材って感じだけど」

 

 水晶巣崖を脱出し、安全な街まで帰ってきた私達に待っていたのは、手に入れた"皇金世代"素材の分配をどうするかであった。

 普通なら山分け、貢献度によってより活躍した奴に多く渡すというのが普通だが。今回は貢献度は全員それ程変わらないと思うので、単純に数に限りがある部位破壊報酬・及びレア素材をどう分けるかが争点となる。

 

「剣鋏は私が一つは欲しいな。左腕は私が独力で破壊した訳だしその権利はあると思うんだ、サンラクから武器は借りてたけど……あぁ、そうだ借りてた物は返しておかないとね」

「オッケー、確かに受け取ったぜ。剣鋏に関しては俺もそれで良いと思うけど、もう一つはどうする?右腕の方は、レイ氏とシュトーレンの共同で破壊してたからどっちかが取ることに……」

「欲しいと言えば、欲しいですが……コレは、シュトーレン……さんに譲ります」

「あら、良いの?」

 

 サイガー0は基本的に、今も身に付けている自分のユニーク装備以外は使わない。アクセサリー以外は予備にしかならないので、武器への加工に向いていそうな素材はシュトーレンに譲るという訳だ。

 そして、最高レアであろう『皇金の光耀核』という素材はラストアタックを飾ったサンラクに。その他素材も話し合って、聖剣は誰の物にするか平等にじゃんけんで決めた結果──

 

「しゃあっ!」

「ちくしょう、負けたァ!」

「おめでとう」

「おめでとう……ございます……」

 

 ──私が勝利、聖剣を手に入れた。

 

「ふふ……まぁ、素材として使える日がいつになるかは分かんないんだけどね」

「それなら私が加工するわよ。元々あなたの装備を新調してあげるために呼んだんだもの」

「え、そうなの?」

「ええ、ベヒーモスはついでよ」

 

 なら、どうして本題を言わずついでの攻略を先にしようとしたのか……?喉の奥に引っ掛かった疑問を呑み込む。大方一番乗りになろうと躍起になっている内に忘れたとかそんなんだろう。いちいち追求する程の理由は無いはずだ。

 装備の強化・新調をしてくれるというのなら、こちらに断る理由は無い。漸く新しい装備を着けられると喜び勇んで、私は持っていた素材と装備を一部を残して全てシュトーレンに渡した。

 

「どんな風にするかはお任せするよ。いいものを期待してるね」

「任せなさい……でも、こんなにたくさん一度に渡して大丈夫なの?丸腰になるわよ」

「大丈夫、ベヒーモスで買ったコレがあるから」

「ああ、戦術機用の装備ね」

 

 さっきまで着けていた装備の代わりに、私が新たに身に着けたのは特殊強化装甲【カラーパレット】というベヒーモスで買った装備。戦術機タイプメンシリーズを操縦したり、奴らと合体するために使う一式装備である。

 使う機会は少なくともいつかはあると思ってはいたけれど、まさかこんなにも早く来るとは。新しい装備ができるまでの繋ぎではあるけど、それまではしっかりと頑張ってもらうとしよう。

 

「この後はみんなどうすんだ?俺はアンドリューとやらに会ってくるつもりだが」

「私は……流石にもう、遅い時間なので……ログアウトして休みます……」

「私ももう寝るわ。ベヒーモスの攻略もあともう少しのところだけど、ロンミンの装備製造の方が優先だからね」

「私は……もう少しのところだし、最後まで攻略してから戻ろうかな。みんなと違って、私はいつでも時間あるからね」

 

 ゲームばっかしてるとお思いだろうが、これでも普段から仕事はちゃんとやっているのだ。丸一日をゲームで潰しても、〆切まで普通に余裕を持って原稿を納められるくらいには。

 サイガー0とシュトーレンはログアウトし、サンラクと二人きりの状況になる。私達は今日が初対面ということもあって、互いの知り合いが居ない今は少し態度がぎこちない。行き先は同じなのだし喋ることはあるはずだが、気まずい沈黙が続くのに耐えかねたサンラクが口を開く。

 

「あー……俺は腕治したいし、一旦死に戻りしてからベヒーモスに行くけど……ロンミン氏はここからベヒーモスまでどうやって戻るつもりで?」

起晶転結(クリスタルメモリー)を使って戻るよ。『FM'sクリサリス"輝晶点穴(クリスタルメモリー)"』っていうエクゾーディナリーを倒して手に入れた、不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)……専用のアイテムを使うことでファストトラベルができるんだ」

「あいつか……あの配信に出てきてた」

「水晶巣崖に入り浸ってるサンラクなら、いつか掘り当てることもあるんじゃないかな」

 

 その時は多分、複数体と同時に戦うことになるだろうけど頑張ってくれ。個々のスペックは高いけどその分鈍重だから、それだけで出てくるならぶっちゃけそんなに脅威じゃないよ。

 という訳で、早速追憶結晶(メモリークリスタル)を使用してベヒーモス第八層へ戻る。現在時刻は午前5時頃、時間も時間なので残っているプレイヤーは殆ど居ない。居残りしている人達に話を聞いてみると、休みの人もしくはサボりの人ばかりのようだ。サボりは別にやってもいいけど、弊害に関しては自己責任だぜ……

 

「今日僕は突然の風邪で授業を欠席するし、大事を取って明日も休むだろう」

「そう……お大事にね」

 

 ──よくもまぁ、そんな清々しい笑顔でクソみたいなことを宣えるな……

 

「私は第九層に進むけど、着いてくる?」

「そうだね……そうしたいところだけど、もう少しだけ此処に居座ろうと思ってる。まだまだフラッシュメモリーで習得できるスキルを、一覧にして纏め切れてないしね」

 

 それならしょうがない。初見の場所は何が危険かも分からないし、危険を分かち合える仲間が居ると都合が良かったのだが。まだまだこの第八層まで来れてる奴すら少なく、しかもそろそろ早朝という時刻では流石に一緒に来れる奴は居ないか。

 仕方ないので、第九層には一人で向かう。あと二つだしそろそろ難易度も高くなってくる頃か、死なないようにだけ気を付けて進んでいこう。さーて、どんな試練が待っているのかな?

 

 ……

 

 …………

 

 ──何を……どうしろと……?

 

 第九層に突入してすぐに気付いた異変、これまでは初めにあった象牙からの試練内容の説明が無い。呼び掛けても出てこないし、どうやらこの階層では全くのノーヒント状態で、試練を突破しなくてはならないようだ。

 動かずには何も始まらないので、取り敢えず動いて検証をしてみようと思ったのだが……前の階層でも見覚えのある奴らが何種類か居ることは分かったけどそれ以上のことが分からない。相変わらず食物連鎖のピラミッドが整ってるなぁくらいの感想しか私の頭からは出てこなかった。

 

「ヒントが無い、ってことはゲーム的に考えれば無くても攻略はできるってことなんだろうけど……」

 

 初見のゲームだろうと攻略サイトでのカンニング上等の私としては、こういう1から自分で組み立てていくタイプの攻略は苦手な方だ。あくまで苦手なだけで嫌いな訳ではないが……眠気と疲労感にやられた脳で考えるのは少し辛そうだな。

 環境再現型のフィールドということは、今までの例に倣うなら何らかのモンスター討伐が試練としてはあり得そうか。流石に第三層のように何を倒してもクリアなんてことは無いだろうし、ボスに相当する奴が何処かに居るはず。そいつを探し出してぶっ倒せばクリア……って感じかな?

 

「取り敢えず、目に付く奴から倒してみるか」

 

 目の前のモンスター、背部全体に無数の棘が生えた巨大アルマジロ『ベクターボール』を標的に定めて戦闘を開始。

 さぁ初陣だぞ、戦術機キューブメン『プレーンモデル』よ。せめて何かしらのカスタムくらいはしてやれば良かったかな……

 

「合体」

 

 カラーパレットを一式で装備している時、プレイヤーは戦術機と合体ができる。この間はスキルや魔法が使えなくなるが、その代わりステータスが装備の分向上する。今はシュトーレンに手持ちの武器を全て渡して丸腰なので、無手+スキルよりはこっちの方が強いはずだ。

 キューブメンは前衛用の戦術機、その装備は近接戦に特化した物になっている。こいつの場合は『リキッドプレート』という、大型の柄が付いた鉄板を基点に特殊な液体が展開・ブレードやシールドを形成するというものだ。

 

「背中は硬そうだし、まずは正面から……」

「ギイィ……ッ!!」

 

 ──は?

 

 死んだ。呆気無さ過ぎて一瞬こっちが放心してしまう事態になったが、ベクターボールはまさかの腹への突き一発で倒せてしまったのだ。

 雑魚敵だった?それにしたって脆過ぎる、一応ボス級は個体数も少ないだろうし、単独で動いていた奴を狙ってみたのだが……もしかしてこれ、此処のモンスター全部こうなのか?

 

「……………!!」

 

 こいつも。

 

「ミッ……!!」

 

 こいつも。

 

「ギャアン!!」

 

 こいつも。

 

 ──どいつもこいつも、メチャクチャ脆いな!?

 

 タフだった"皇金世代(ゴールデンエイジ)"戦の後ということもあって殊更そう感じるのだろうが、何種類かのモンスターを襲ってみたところ全て最大でも3回以内の攻撃で漏れなく倒すことができた。第九層のモンスターは意図的に脆く造られている。

 あまりの弱さに、動きを見る前にどいつもこいつも死ぬせいで誰がどう強いのかすら分からない。コレもしかして虱潰しに行かないとダメか……?そんな疑念すら過ったが、こうも脆いことにも何かしら理由があるはずなのだ。他の能力を強くする代償に耐久力が激落ちしてるとか、何かしらの制限がベヒーモス側から掛かっているとか……

 

「だとして、どうして制限が掛かってるんだ?」

 

 世界観的に考えれば、弱体化しないと強過ぎて倒せない・試練用なので象牙がそうなるよう造っているとかだろうか。

 ゲーム的に考えるとどうだ?脆いということはそれだけ早く倒せるということ、そうしなければならない理由……

 

「……時間制限?」

 

 考えている内に、何処からかゴゴゴゴ……と大きな振動と音が近付いて来ることに気付いた。

 敵襲?でもその気配は何処にも無い……地上から見えないなら地下から来ているのか?辺りを警戒すること10数秒、その正体──『階層の天井までもを覆い尽くす程に増殖した雛鳥』が、津波のように私を呑み込まんと襲いかかって来た。

 

 ──退避、退避!退避──────ッ!

 

 鳥の津波に追われながら必死に走り、第八層と繋がるゲートまで逃げる。どうにか間に合って第八層まで転移した私が最後に見たのは、無数に増えていく雛鳥に成す術無く呑み込まれ、無慈悲にも潰されていくモンスター達の姿であった。

 なる程、時間制限……あの雛鳥の増殖が始まるまでに終わらせなければならないということか。雛鳥ということはそれを産み落とす親が居るはず、そいつが第九層の倒すべきボス。絶対に見つけ出してぶっ殺してやると心中で誓いながら、私の身体は第八層へ移送され消えていくのだった。

 

「次は、こうはいかないからな……ッ!」




 早くロンミンの新装備を出してやりたい
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