ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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4:迫るは青、抗うは人

「パワー……スイングゥ!」

「た、たす、かった……?」

「早く逃げな、街の中心に避難場所があるから!」

「あ、ありがとう……ッ!」

 

 逃げ惑う人々と襲う青の間に割って入り、パワースイングで青を蹴散らしてNPCが逃げられるだけの時間を稼ぐ。既に何度も繰り返している光景だがいかんせん広過ぎる、何回やっても何十回やっても一向に避難者が減る気配がしない。視界の端で見る限り戦闘NPCも頑張っちゃいるが、どうしてもどこかで取りこぼしはしているはずだ。

 この手のシナリオは、制限時間までにどれだけ救えるかでリザルトが変わるのが定番。高い評価を得るためにも多くを助けたいところだが、私一人の手では絶望的な程に手数が足りない。

 

「もう一丁……!パワースイング!」

 

 スキル「パワースイング」、『ハンマー』系統と『斧』系統で同じ名前・効果のスキルがあるので、交互に使うことで武器の切り替え→スキル使用→武器の切り替えの間にリキャストタイムを潰し、間髪入れずに再使用が可能となる。おかげで「青」を相手にどうにか救助活動を可能にできていた。

 スキルの連打はスタミナの消費が激しいが、それはスタートダッシュ・パスの初期支給アイテムにスタミナを回復する『携帯食料』があったので、どうにかなっている。ペース的にも携帯食料が尽きるよりシナリオが終わる方が早い、このままいけば集中力の続く限りは問題無い……が、流石にそう簡単には終わらないだろうことは察せられる。

 

「くっそ……時間が経つ程、攻撃がどんどん激しくなってきてやがるな……!」

 

 退ける程、NPCを守る程、「青」は辺りの建物などを取り込んで攻勢を強めていく。そしてその煽りを受けて戦闘NPCがやられていき、一人一人に降りかかる攻撃は更に増えていく悪循環。

 15分保たせるが早いか、救助活動を完遂し切るが早いか、はたまた全滅するが早いか。まだまだ結果は分からないけれど、均衡は時間が経つ度確実に「青」の方に傾いていく。このままでは保たないと仮定して、私はスタミナの限り声を張り上げてNPC達に指示を出した。

 

「お前ら、聞け!」

「何だ!?」

「あの青いのは非生物を呑み込んで力に変える!武器で攻撃しようとするな、直接は当てずに風圧や振動で後退させろ!そして魔法が使えるやつは、威力よりも攻撃範囲を優先しろ!押し返して少しでもみんなが避難する時間を稼ぐんだ!」

「……分かった!」

 

 シャンフロでの声量はSTMの数値で決まる、13レベル上昇分のポイントを全てSTMに振った私の声のボリュームはかなり大きく、戦闘中のNPCの意識をしっかり向けることができた。私の指示に従って、撃破ではなく撃退を見据えて立ち回りを変更したのが目に見えて分かる。

 

 ──しっかしこいつら、よく部外者であるはずの私の指示にこうも素直に従えるな……いや、助かるから良いんだけどさ。

 

 NPCが素直に指示に従うのは、非常時故にいちいち気にしていられないことと、『ロンミン』の信頼値が多くの依頼をこなしたことで高くなっていることが理由である……が、私がそれを知る機会は今後も含めて無い。

 そんなことより、NPCの立ち回りが変わったことで「青」の攻勢をかなり削ぐことができた。侵攻速度が遅くなったことで攻撃の対処はもちろん救助もしやすくなり、これで取りこぼしてしまう命はかなり減らせたはずだ。経過時間は8分……あと半分だが最後まで気を抜くことはできない。

 

「気合い入れてけ!お前達の家族を、街を!命に変えてでも守り抜け!」

「応!」

 

 私の言葉が効いたのか、NPC達に更なるやる気が満ちていく。自分達はきっとこの青に呑み込まれて消えてしまうだろうけど、それでも生きていてほしい人達がいるから、この命を懸けられる。

 特攻じゃない、無駄死にでもない。大事を守るために小事を切り捨てる、それだけのことだ。この命に変えてでも家族を、故郷を守り抜くという死にゆく者達の小さな矜持。煽り立てた者として私も彼らと生き様を共にしようではないか。共に死んでやる気はさらさら無いがな!

 

「あと……2分!」

 

「【火炎の障壁】!」

「メテオインパクト!」

「【雷鳴一閃】!」

「ガイアスマッシュ!」

 

「ほれ、マナポーション!回復薬も使いな!」

「感謝する!」

 

 ジリジリと押されつつ、戦力も減ってきているが回復薬とマナポーションを大盤振る舞いすることでどうにか戦線の崩壊は免れている。本当にスタートダッシュ・パス様々だな……!

 あれから更に5分は稼ぎ、残り時間は2分を切り避難も完遂が見えてきた。まだまだ薬の在庫は十分にある、どちらのクリア条件もこのままいけば十分達成できるペースである。お願いだからこのまま何事も無く終わってくれ……と、そんな願い叶うはずもないということはよく分かっていたが、それでもそう願わずにはいられなかった。

 

「ま、そんな訳無いわな!」

「青が加速したぞ!呑まれるな、ありったけの力をぶつけるんだ!」

「撃ったらすぐに集まれ!孤立したところから一気に崩れるぞ、力を固めて対処しろ!」

「……了解!」

 

 やはり、そう都合良くはいかなかったか。特に落胆も無く私は勢いを強めた「青」を見やる。残り時間およそ1分……ラストスパート、同時にここからが本番であるということだ。

 一発パワースイングをぶち込んでみたが、ノックバックがさっきまでと比べてかなり小さい。移動速度も復帰もかなり速くなっており、今まで通りのやり方では「青」に呑まれてしまう。なので合流して力を集結させ、一点に集めることで「青」が強化された分をカバーする。押し込める範囲はどうしても狭くなってしまうが、広がって一気に呑まれるよりはこの方がずっとマシだ。

 

 あと1分。15分経過とNPCの救出完遂がクリア条件になっている以上、どちらかを達成することでこの状況を打開する何かが起きるはずだ。それが何かは分からないけど、それでもできることをやり切る以外に道は無い。

 

「しまった、剣が……!」

「俺の槍も呑まれちまった!」

「もういい、避難所まで退がれ!」

「すまん……ッ!」

 

 残り50秒。

 前衛が武器を失い撤退を余儀なくされる。残された前衛は私のみとなった。

 

「あっ、魔力が無く……あああぁぁ!!?」

「右翼が崩れたぞ、立て直せ!」

「無理だ、手が足りない!」

「パワースイング……ッ!今だ、今の内に早く立ち上がれ!」

 

 残り40秒。

 右翼の魔法使いがMP不足となり魔法に失敗、何人かが「青」の侵蝕の犠牲となる。パワースイングで時間を稼いだが、私のSTRでは大きくノックバックさせることは叶わず、「青」に触れてしまった【傭兵の断斧】を失う。立て直しはできたが代償にリキャスト埋めができなくなった。

 

「ループスラッシュ……ダメだな、流石に斧の代役は刀じゃできないか……!」

「こっちを頼む!火力が足りない!」

「すまんがマナポーションを貰えないか!?」

「ああもう、やることが多いなぁ!」

 

 残り30秒。

 失った斧の代役を【傭兵の鉄刀】によるスキルで試してみたが、全く以って見合わない。総合火力なら同等くらいだろうが、重量武器の斧ならスキルの余波で出る風圧で「青」を牽制できるが、刀ではそんな風圧は出せないため一工夫が要る。その手間によるロスはこの場ではどうしても看過できないが、他に方法が無い以上どうしようもないのだ。

 

「クソ……もう、終わりか……!」

「俺達の街が、こんな、こんな訳の分からない奴らに滅ぼされるだなんて……ッ!」

「まだだ……まだ、終わってない!最期まで絶対に膝を着くな!武器を下ろすな!弱音を吐くな!まだ私達は……お前達は、守るべき命に絶望した背中を見せちゃならないんだ!」

「うぅ……おおおお!」

 

 残り20秒。

 敗色が濃厚になり、NPC達の顔に絶望が浮かんでくる。多くの仲間が犠牲となり、避難所にも目と鼻の先まで来て尚止まらない「青」に心が折れ始めたのは分かる……分かるが、命を懸けた者は守るべき者より先に絶望してはならない。

 

 あともう少しなのだ。あともう少しでこの状況を打開できる何かがあるはずなのだ。だからそれまでは粘ってもらわないと困る。私一人だけでは絶対にどうにもならない、時間を稼ぐには彼らの協力が絶対不可欠なのだ。

 都合の良い言葉だと自覚しつつも、激励の言葉を掛けて窄む尻を蹴り上げる。あと数十秒のために彼らに何度目かの命を懸けさせ──私はそこで、私達を無視して避難所に迫る「青」の波を見た。

 

 ──ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!

 

「マズい、青いのが避難所に行ってる!このままだと避難所が「青」に呑み込まれちまうぞ!」

「何っ」

「なっ……何だぁっ」

「──避難所の方には私が行く!お前らはお前らで全力で生き延びろよ、絶対、死ぬな!」

 

 残り10秒。

 加速スキル「アクセル」を発動し、今の私に出せる全速力で避難所の前に向かう。しかしレベルアップ時のポイントをSTMに割いたことで、AGIはレベル1の時から変わっていない。「青」の侵攻速度からすれば鈍足もいいところであり、どう足掻いても間に合わない、そんな位置関係となっていた。

 

「もっと……もっと、速く!」

 

 更にスキル「スライドステップ」を発動。動きをオートにすることで、移動に割く思考のリソースを全て「青」の対処に回す。発動時間はごく短いのですぐに決めなければならない。

 速くしたのは決断速度。これ以上最高速は上げられないなら、動き出しを速くする。慎重さは今は要らない──生きるために、守るために。できることの全てを全て出し尽くせ。

 

「パワースタンプ!」

 

 武器を【傭兵の鉄鎚】に持ち替え、すかさずスキル「パワースタンプ」を発動。地面をぶん殴ってインパクトの瞬間に武器をしまい、最軽量状態で反動を受けて一気に跳ぶ。

 もう使える武器は無い。斧は壊れた、ハンマーは重くて持っていると移動が間に合わない、それ以外の武器は威力不足で「青」を押し返せない。だけどまだ使える()を、私はちゃんと持っている。ギリギリのところで割り込みを間に合わせ、インベントリアからそれを取り出し使用。光が「青」を包み込みその一部を切り離した。

 

使い捨て魔術媒体(マジックスクロール)瞬間転移(アポート)】!一か八かだったけど、成功して本当に良かった……ッ!」

 

 スタートダッシュ・パス特典の一つ、一度だけ対象の魔法が使える『使い捨て魔術媒体(マジックスクロール)』……その内【瞬間転移(アポート)】の魔法が刻まれたものを、「青」に対して行使したのだ。

 効果はあった。転移させられたのは「青」の一部だけだったが、それでも奴の侵攻には数秒の遅れを強いることができる。あとは残りの数秒をパワースイングで稼いでクリア……

 

「は……?」

 

 ──嘘、でしょ?復帰が早過ぎる……ッ!

 

 想定外の事態。【瞬間転移(アポート)】を食らった「青」はそれまでを遥かに上回る速度を発揮、増殖と侵攻を再開し私の眼前まで迫っていた。

 そのあまりの速さに、【傭兵の鉄鎚】を呼び出すメニュー操作さえ間に合わない。これはもう装備ができたとしてスキルの発動は不可能、私は「青」に呑まれて消えることになるだろう──

 

「諦めて、たまるものかあああぁァ!」

 

 ──それが、どうした。

 

 NPC達に諦めるなと宣っておきながら、何故私が真っ先に絶望できるというのか。言葉だけでなく行動でも示せ、命に変えても守り抜くとはいったいどういうことなのかを。

 スキルが無くても、レベルが低くても武器を振ることはそれでもできる。視界全方位を埋め尽くした「青」に向けて、私は『ロンミン』としての最後の一撃を【傭兵の鉄刀】で振りかぶる。

 

「次は、絶対に負けんからな!」

 

 最期の一撃は、不発に終わった。

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