ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「あのクソ鳥、絶対に殺す……!」
第九層の攻略、一度目の突入は失敗に終わったが何をするべきかという情報は得られた。現在は第六層に戻ってから、戦術機のカスタムパーツの購入などリベンジの準備をしているところである。
私が使った『プレーンモデル』は、何の改造もされていない買ったままの状態の戦術機だ。そのままでもまあまあの出力は出せるとは言え、私の体格やステータスに合わせた改造をしていないので、その力の全てを引き出せた訳ではない。だからそれができるように改造を施しているところなのだ。ついでに武装の数も増やしている。
「ハンドガン、アサルトライフル、ショットガン、グレネードランチャー、レールガン。これだけあれば『手』は足りるだろ」
銃火器を使うにはMPが必要だが、私のMPは最低値の1しか無い。"
ブーケ・パズルの検索機能で見つけた、あの増殖し続ける雛鳥の情報……その名を『無尽蔵マザー・グース』は、身の危険を感じると周囲のマナを食い尽くして無限に単為生殖を行う。それは命を次世代に繋ぐという生殖行為の本来の目的であり、同時に己の安全を守る生贄を作り出す行為でもある。
しかし、驚異的な繁殖能力の代償に奴らの耐久力はとても低い。攻撃を当てることさえできれば倒すことは十分に可能であると言える。
無尽蔵マザー・グースの生態のモデルは、『無尽のゴルドゥニーネ』『夜襲のリュカオーン』という二種類のユニークモンスターを参考にして改良されたらしいが……ユニーク共のようなとてつもない力をたかが一般モンスター風情が得るには、それらしい代償が要るということなのだろう。
「たくさん居る上に、すぐ倒せる……それならこいつが役に立つはずだ」
呟く私の手に持つのは、
中・遠距離要員のボールメンとピラミッドメンに銃火器で後方支援を任せ、私はキューブメンを纏って惨鎌で奴の命を刈り獲る。準備は整え終えたし早速リベンジに行こう、あの軽自動車サイズのガチョウに地獄を見せてやろうぞ。
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「とは言ったものの……あのクソ鳥、探すところから始めないといけないんだよなぁ」
索敵は【
地道に走り回って探すこと10数分。時々ちょっかいを掛けてくる奴らを蹴散らしながら、ふと見つけた幹に大穴の空いた大木──そのウロの中にお目当てが居るのを発見した。
「やーっと見つけた……早速、殺す!」
標的を発見して、すぐに3機のタイプメンを展開しそのままキューブメンと合体……といきたいところだが、その前にもう一手間を加える。
"
「合体だ、プレーンモデル改め『
キューブメン『
私も
「ピイイィィイイィィ!!」
「うるせえ、黙ってくたばれ!」
マザー・グースの方もこちらに気付いたようで、大量の卵を産み落とし逃走の体勢に入った。産み落とされた卵から孵化した雛鳥が、積み重なるように集まって親鳥を守る壁を形成する。
だが何も問題は無い。元よりこの物量を攻略するために用意した戦力、想定内の数ならどれだけ出てこようとやることは変わらない。全部掃討して親鳥の命に刃を届けるのみだ。
「烏合がッ!」
「ピイィ!!」
「どれだけッ!」
「ビッ……!!」
「集まろうがッ!」
「ピ……!!」
「私のッ!敵じゃねえッ!」
「ピイイィィイイィィ!!」
戦闘が始まって、分かったことがいくつか。
まずは雛鳥。こいつら単体はやはり雑魚、一撃で複数同時に刈り奪れる儚い命でしかないが。集まった時は嘴での突き殺し、重量による押し潰し、熱による蒸し焼き殺しなど、多種多様な必殺技を行使してくるようになる。その時の脅威度は水晶巣崖の蠍共にすら匹敵するだろう。
嘴が刺さると痛いし、物量によるゴリ押しが脅威であることは変わらない。しかし私は嘴が刺さる前に抵抗するし、雛鳥共にその抵抗に耐えられる程の耐久力は無い。よって余程数の多い場所へ自ら突っ込まない限りは、重量以外が私の脅威になることは基本的にあり得ないのだ。
そしてやはり、剥命の惨鎌と禍つ魂に安息あれはマザー・グースとメチャクチャに相性が良い。1匹1匹にしっかりキル判定が乗るのでスキルポイントを稼ぎ放題、その上装備はモンスター虐殺によって更に耐久力を増していく。制限時間が来るまでは時間が経てば経つ程こちらが有利になっていく。
そして親鳥の方。今も卵を無数に産み落としながらそそくさと逃げようとしているが、産卵にエネルギーを割いているからか歩みが凄く遅い。足の遅さを亀の歩みと表したりするが、こいつのそれは亀やカタツムリも比較されては心外と思う程。雛鳥の壁を抜けさえすれば確実に追いつける。
「大丈夫……こっちの進むペースの方が、早い!」
少しずつ壁を削りながら近付いていく。遅々とした進みは焦れったいが、それでも目的までは着実に進んでいるし、その歩みは雛鳥を倒せば倒す程加速していく。地道に一歩一歩を進むことこそが最も最短に近しいというのはよくあることよ。
だがここらで1発、溜めの終わった大きいのをぶちかましてみよう。地道な歩みこそが近道であるというのは真理だが、同時に物理的に近道を作り出すこともまた正解の一つ。1発撃つのに電力のチャージに40秒も掛けなければならない、レールガンの火力を是非見せてもらおうじゃあないか。
「仕事人、撃て!」
私が雛鳥を蹴散らし、壁が薄くなった部分に向けて撃つよう仕事人に指示を出す。命令を受け取り照準を合わせた仕事人の銃口が、壁の先にある目標に向けて突き付けられた。
バチバチと、溜め込まれた電力が行き場を求めて銃口の内部で弾けている。そして遂に引き金が引かれ──雷電の矢が放たれた。
──ハハッ、鎧袖一触だな!
"
チンタラはしていられない。風穴開けたとは言え無尽蔵に孵化する雛鳥で穴はすぐに補修される、その前に潜り抜けなければならない。合体を解除してスキルを使える状態にし、加速スキルをフル稼働して一気に駆け抜けていく。剥命の惨鎌で強化されたAGIにスキルのバフが乗算され、新幹線もかくやの速度を得た私がマザー・グースを再び捉える。
「その首、貰い受ける!」
──んん?
言ってから気付いて、急遽狙いを首から違う部位に変更する。先程から私を苦しめ糧にもなり、そして詰みの要因ともなる雛鳥を産み続ける尻……そう総排泄腔に向けて。
開拓者との合体を解除したので、今の私にはスキルが適用される。その中にはソロで動いている時に自身を強化する
かつて四駆八駆の沼荒野でリュカオーンの影を倒した時のように、モンスターの『体内』も部位破壊の対象にできることは分かっている。
それなら、体内への攻撃で卵巣を破壊して卵を産めなくさせる、総排泄腔を破壊して卵を排出できなくさせることも可能のはず。それができるとヌルゲーになりそうなので、ゲーム的に考えるとできなさそうだが。世界観的に考えれば普通にできると思うのだが……果たして結果は?
「尻を、裂く!」
「ピギイイィィイイイアアアァァ!!」
相手が人間だと思うと、こちらの尻まで縮こまるようなやり方。剥命の惨鎌の鋒を肛門に引っ掛けてそこから中を抉り引き裂く、そして卵の通り道とそれを産み出す卵巣を破壊する。
その結果は……部分的には成功とも言えるし、部分的には失敗とも言える。確かに卵巣の破壊には成功したのだが、どうやら複数あったようで産み出される卵の数は減ったものの、根絶してやるまではいかなかったみたいである。
「けど、圧倒的に戦いやすくなった……!」
体感だが1/4くらいにはなっただろうか、視界を埋め尽くす程の卵は目に見えて数が減り、格段に戦いやすくなった。あとは時間切れになる前に奴を倒してそれで終わりだ。
尻を引き裂かれた後も、マザー・グースは往生際悪く逃げることを諦めない。総排泄腔をやられてボトボトと落とすだけになった卵を足場に、上空まで逃げて私との距離を離そうとする。
「逃す訳無いだろ……こいつで終いだ!」
左手を大きく振りかぶり、持っていた剥命の惨鎌を投げつける。投擲の命中率と威力・射程に大きく補正をかけるスキル「
グルグルと、ブーメランのように回転し弧を描きながら大鎌がマザー・グースに迫る。そしてその幅広の刃で獲物の命をしっかりと刈り奪り、この場の戦いに決着を齎し、そして勢いを落とさぬまま私の手元まで帰ってくるのだった。
「無尽蔵マザー・グース……討ち取ったりィ!」
どうやら、徹夜で私もテンションがおかしくなっているようだ。他に誰も居ないのを良いことに大きな声で勝ち鬨を上げた私に、ようやく現れた象牙が語り掛ける。
『ああ、ロンミン。愛しき我が子よ。身一つで世界に投げ出されながらも、あなたは力を得て私の元へ戻ってきました……そして今、学び、培い、この箱庭の頂点に君臨しました』
今まで出てこなかった象牙が出たということは、私はクリア条件を満たせたということ。奴の口ぶりからもそれが理解できる。
『かつて霊長を名乗っていた人類は、この星で敗北し滅び……あなた達を遺して消えました』
『人類が再び「霊長」の名を掲げること……それが私の願い。どうかその姿を見せてくださいね』
「任せておきな」
そうして案内された最終第十層。そこはこれまでの環境再現エリア以外を合体させたような、どこか雑多な気分になるエリアであった。
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「象牙よ、ここではどんなことができるんだい?」
『これまでの階層でできたことは大体。情報の質も量もこの第十層が一番ですし、ショップの品揃えも第六層より上等な物が揃っています。それに、ブーケ・パズルの機能をベヒーモス船外でも行使可能になりますし……ここのR.C.Sでは、二号人類に掛けられた枷を外すこともできるのですよ』
「……レベルキャップの解放か!」
色々と気になることはあるけど、今の情報が私には一番恩恵がデカいはずだ。
何せ、ここまでたくさんの強力なモンスターと戦ってきたのだ。小さな祝福の効果で獲得経験値量は少ないとは言え、"
「それじゃあ象牙、早速キャップ解放をやるよ!」
『では、こちらはどうぞ』
R.C.Sの中に入り、機能の中からレベルキャップ解放を選択する。ついでにアバターの見た目も変えてみようかな、せっかく変えられる機能があるなら使わないと勿体無い。
最初にアバターを作った時、少し失敗したかなと思う部分を調整したり、見た目も別の人物をモデルにしたものに変更する。緋色から白へ、全く違う印象を受ける外見に変化した。
『ロンミン、あなたに一つ提案をします』
「何?」
『あなたのこれまでの経験を元手に、その肉体をより強靭なものに改造することができますが……肉体改造の代償として、それまでに積み上げてきたものは失われます。やってみますか?』
「経験を元手に……」
なる程、アバターを『真化』させられるのか。積み上げてきた物が失われるってのは、つまりレベルは1から上げ直しになるとかだろう。それくらいなら代償としては軽いし、強くなれるのならやらない理由なんて何処にも無い。私は象牙の提案に対し、二つ返事で了承を返した。
『では……あなたの開拓に、幸在らんことを』
改造は意外とすぐに終わった。R.C.Sを出てどういう風に変わったのかを確かめてみるが、私の眼に入ったのは──
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[ステータス]
PN:ロンミン
LV:1
JOB:歴戦兵
SUB:超人
1226800マーニ
HP:2000
MP:500
STM:10
STR:10
DEX:10
AGI:10
TEC:10
VIT:10(+480)
LUC:10
[スキル]
[装備]
右:無し
左:無し
頭:特殊強化装甲『カラーパレット』(+120)
胴:特殊強化装甲『カラーパレット』(+120)
腰:特殊強化装甲『カラーパレット』(+120)
足:特殊強化装甲『カラーパレット』(+120)
アクセサリー:格納鍵インベントリア
アクセサリー:
[特殊状態]
・小さな祝福
・リュカオーンの刻傷(付与部位:アクセサリースロット×5)
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──んん?
①Extend経験値が十分に貯まっている(キャップ解放でレベル130以上になれるくらい)
②ゲーム開始時から一度も転職していない
以上を満たしてベヒーモス第十層のR.C.Sを使用すると、象牙からサブ職業『超人』に転職する提案をされる。