ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「お待たせ、毒蛇は全部ぶっ殺してやったよ」
「おお……流石だな」
セカンディルに帰還して、私は早速鍛冶屋のおっさんに今回の成果を報告しに行った。ゴルドゥニーネが元凶だったということを伝えると、目ん玉ひん剥いて驚いていたな。ユニークモンスターの名は場末のNPCにまで知れ渡っているようだ。
まぁそんなことはさておき。本題は今回討伐した毒蛇共の素材でどんな装備を作ってもらうかだ。牙に皮に鱗に立髪、毒腺や毒袋など素材は多種多様に大量に手に入った。既に一つは何を作ってもらうかは決めてあるのだけど、それ以外をどう使うかとおっさんに使えるのかが問題だ。
「ま、これだけ素材があれば何回失敗したって作り直せるでしょ。良い物作ってくれよ」
「も、勿論だ……腕によりを掛けて最高の品を作らせてもらうぜ」
最序盤の街だけあって、おっさんの鍛冶屋としての腕前はそんなに高くない。それでも私が持ち帰ったこの莫大な量の素材があれば、失敗を繰り返しても腕を上げて良い装備を作れるようになるはず。
その時を期待して、蛇素材以外の素材も一緒に預けておこう。シュトーレンとアクアリエに渡した素材の余りや、今回の戦闘でどういう訳か変化を見せた
「数が随分と多いな……だがありがてえ。流石にこれ全部を試すとなると時間が掛かる、3日は時間をくれねぇか」
「大丈夫、楽しみに待ってるよ」
これで、後は3日後に出来上がった装備を取りに来ればユニークシナリオはクリアだ。今日もうだいぶ長くプレイしてたしこの辺で終わるか、さっさと寝てまた明日続きをやろうっと。
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「良し、今月の入稿も無事終わり……!」
次の日。本日分のタスクも滞りなく終了しシャンフロに臨めるようになったので、早速ログインといこうとしたのだが……その前に、黎桜から来ていたメールを読む。内容はこの前の水晶巣崖攻略の配信の収入が入ったから、そのお金で何かやろうというものであった。
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黎桜:この前の配信のお金入ったからさ、3人でどこか遊びに行かない?
八千代:別に良いけど、何処が良いの?
黎桜:うーん……八千代ちゃんの身体だとあんまり遠出するのも大変だもんね。それなりに近場で楽しめる所となると……
八千代:中々思い浮かばんもんだね。特に案が無いなら映画でも観に行く?
黎桜:取り敢えず、お兄様にも行きたい所が無いか聞いてみてから決めるよ。決まったらその時にまた連絡するね!
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予定を立てるのは簡単ではない。いきなり言われてもパッと思いついたりはしないものだ。
あの配信のアーカイブは、見てみると前後編合わせて視聴回数が2億回を超えていた。投げ銭やメンバーシップへの新規加入、動画に付いた広告収入を考えると……どれくらいになるんだ?とにかく動画素人の私には想像も付かない程稼げたはず。
──さて、どんな風に使わせようかな……?
黎桜の稼いだ金とはいえ、撮影に協力した私と力也兄さんにも利益を受ける権利はある。せっかくだしドンと高いものをふっかけてやりたいが、そんな急には思い付かない。別に金に困ってる訳でもないし何をするか決まるのを待つとしよう。
「……何か、面白そうな配信無いかな?」
動画サイトを開いていると、久しぶりに色々と動画を見てみようかなと思うようになった。シャンフロ内で頼んだ装備ができるまでまだ掛かるし、攻略を進めて取りに戻るのも面倒だ。しばらくはシャンフロから離れることにしよう。
登録チャンネル一覧を開く……黎桜のチャンネル以外消えている。久しく覗いてなかったから消えていることに気付かなかった。やらかしで消えた訳ではないと願いたい、ゲーム実況チャンネルなんて移り変わりが激しいものだし。
「へぇ……ラビッツ関連のユニークってそんな感じなんだ……」
「もうベヒーモス攻略してる……早っや」
ラビッツのユニークシナリオ『兎の国からの招待』に挑戦する動画や、ベヒーモスの浮上に気付いて大慌てで攻略しに行く動画。取り敢えず直近で投稿されていたこの2本を視聴してみた。ベヒーモスに関して、「何でこんな面白いもの呼び出すのにお姉様は何も言ってくれなかったんだよぅ!」と文句垂れてるのが面白かった。
兎の国からの招待の挑戦内容は、国内のコロシアムで自分よりレベルの高いモンスター10体を倒すというもの。これをクリアするとラビッツ名誉国民という称号と、ユニークシナリオEX 『
──これもまた、多くの人が集まるようになるのかねぇ……
配信をしている時点で、もうそのコンテンツの独占は不可能になると言っても良い。水晶巣崖の攻略もポツポツと成功報告が上がってるそうだし、兎の国からの招待も同様になるだろう。
配信者に秘匿情報をバラされるというのは、自力でそれを見つけた者にとっては面白くないことなのだろうが……画面の中の秋津茜は、そんな姿をおくびにも出さず黎桜と友好的に接していた。人間ができている相手で良かったよホントに、人によっては戦争になるからね。実際に別ゲーで似たような事件起こしてたし……
「あの時は確か、反発した相手をPvPで正面からぶちのめして黙らせたんだったか……炎上沙汰にならなくてホント良かったよ」
コロシアム10連戦のモンスターは、自分よりもレベルの高い奴が出てくるようで。ただでさえ紙耐久の黎桜……もといヘルパーT細胞は、自分よりも速く硬くて魔法も通じない相手を前に、何度もリスポーンさせられる苦戦を強いられていた。
それでもゲーマーの意地と腕前で、少しずつ攻略方法を見つけ綻びを突くことで前進する。少しずつやられる回数も減っていき、7体目を相手する頃にはノーデスが当たり前になっていた。最後のエクゾーディナリー3連戦はヤバかったな……
8体目
『ストーム・ワイバーン"
・通常種よりも大きな体格を持つ、ストーム・ワイバーンのエクゾーディナリー。こいつは特別大きいようでフィールドに出てくるのと比べても、更に2倍近くデカいらしい。しかも当然のように魔法耐性ありの魔法使いお断り仕様。
高速、高火力、高耐久と三拍子揃った高性能モンスターではあったが、そのスペックの全てを自ら活かすことはできなかったらしい。飛行中の方向転換の際に生じる僅かな隙を逃さず、翼に杖を叩きつけて飛膜を破り飛行能力を封じ。地上でのタイマンに持ち込んで頭をカチ割って勝利を収めた。
9体目
『FM'sクリサリス"
・生存競争の激戦区の中で、ただ一匹生き残り羽化するに至ったアーマードカブトムシ。こいつは海の底に埋まっていた蛹を拾ってきた個体とのこと、それ故に放水能力と水流を操る能力を持っていた。あと虫の癖に優雅に泳げる。
放たれた瞬間に放水を開始し、コロシアムを水で見たし自分の得意なフィールドに変えた……そのせいで雷鐘が全体攻撃と化し、リキャストの度に擦り続けるだけで終わってしまった。虫本体よりも息継ぎの仕方の方に苦戦してたな……コロシアムから出たら失格になるから、必ず上の方に行かないといけないのが窮屈そうであった。
10体目
『
・真紅色の甲殻を持つ金晶独蠍。真っ赤だけども金晶独蠍である。ラビッツの長ヴァイスアッシュが水晶巣崖から拉致してきた金晶独蠍の幼体に、
"赫下檄発"だけでも強いのに、更に配下として5体の
『これで終わり──「グランドクエイク」!』
最後は胴体の甲殻を砕き割り、"赫下檄発"の内部に溜まった熱が放出され大爆発……それも魔法の盾でしっかりと凌ぎ切り、この戦い及び10連戦の勝利を確定させてみせたのだった。
この時はまだ、レベル上限を解放していなかったようでレベルこそ99から変わっていないが。代わりに三種の不世出の奥義を手に入れ、ヘルパーT細胞の戦力は大幅に強化された。詳しい仕様は見てるだけのこちらには分からないが……はしゃぎ様を見るに相当強いスキルだったのだろう。羨ましい。
「面白かったな、やっぱり人気の配信者になれる奴は動画のクオリティも……ん?」
黎桜のアカウント、『リオちゃんネル』の登録者数は現在700万人を超えたところ。グループや企業所属などを除く、個人運営のチャンネルとしてはぶっちぎりの日本一位である。海外では個人で億単位の登録者を抱えるアカウントがあるし、すでに活動終了しているが30億もの登録者を抱えたウチのお爺ちゃんのような化物もいる。動画投稿100年選手を超えるにはまだまだ掛かるね。
そんなこんなで、動画を見ながら次の動画を探して画面をスクロールしていたところ。何やらシャンフロの配信を準備中のチャンネルが、あなたへのオススメとして飛び込んできた。名前は『Sun Luck Channel』……サンラク?
──まさか……
動画のタイトルは『オル検証』、サムネには見覚えのある鳥頭……まさかと思い画面をタップして配信画面を開いて待機したが、実際に始まったのはやはりサンラクによる配信であった。
何やってんだこの男は……?配信者を目指しでもしたのだろうか、それにしては何だかやる気が無い感じがする。全然喋らないしカメラの動きが視聴者配慮全くしてないし、サムネもタイトルも見ようと思わせるようなものが全く無い……
「もしかして、ただの設定ミスか?」
そうかも知れない。タイトルに検証と付いていることを考えると、配信すること自体が目的ではなく動画を残すことが目的なのかも知れない。
多分だが、登録者だけに見せるプライベート設定をミスってそのまま出してしまったのだろう。ゲーム内からでは設定は変えられないし、これはもう気付いた身内にどうにかしてもらう他無いな。
──玲の奴、このこと知ってるのかな?
あいつもプレイ中かも知れないが、一応連絡はしておこう。楽郎君のこと好きみたいだし、想い人がやっていることを見守るにしろ止めるにしろ、知らせてはおいた方がいいだろう。
『はい、斎賀です』
「もしもし、玲?繋がって良かった、ゲームしてたら連絡取れなかったからね」
『いったいどうしたんですか?ただでさえあなたの方から電話なんて珍しいのに、こんな遅い時間からだなんて』
「いやね、楽郎君がシャンフロのプレイ配信してるんだけどね?何やら設定間違えて一般公開してるみたいだからさ、親密そうだった玲ならそのことを指摘できるんじゃないかなって……」
──切れた。
電話から約30分後、サンラクの配信はモードが変更され視聴者がこれ以上増えないようになった。
後から聞いたところ、玲が楽郎君の家まで突撃して設定を変更してあげたそうな。私が二人と会った日の夜、玲の方から告白して付き合うようになったからこそできた荒技。恋愛クソザコの玲がちゃんと告白できていたことの方に私は驚いたよ、にしても聞いてから動くまでの早いこと早いこと……
『報告してくれてありがとう。既にチャンネル登録された人まではどうにもなりませんが、傷口を抑えることはできました』
「おう……楽郎君に凄かったよって伝えといて」
恋が実った乙女の行動力は凄まじい。電話口から感じる圧に気圧された私には、二人の幸せを祈ることしかできなかった。
玲は八千代からの知らせを聞いた後、爆速で陽務邸に向かい楽郎の両親に挨拶と夜間の訪問への謝罪を済ませ、楽郎の部屋に入って配信のモードを切り替えこれ以上の部外者立ち入りを防いだ。
ログアウトした楽郎は、玲の存在にそれはもう驚いてひっくり返り、後頭部を強打し玲の膝枕を受けることとなった。配信の設定をミスったショックこそあるものの、傷が浅い内に対処してもらえたのでそこまで落ち込むようなことにはなっていない。