ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「……タコの、脚?」
最期の一撃のつもりで放った、【傭兵の鉄刀】による斬撃。それは忌々しき「青」に届くことなく謎のタコ脚によって阻まれる。
それだけではない、タコ脚は「青」の攻撃も……戦っていたNPC達や避難所までもを「青」の侵蝕を受けることなく守り通していたのだ。
──クリア条件を、満たせたのか?
こんなものが出てくる心当たりは一つしかない。
クリア条件を達成したことによる、この戦闘を終わらせる要素の出現。タコ脚が敵か味方かは今の時点では判断できないが、少なくとも「青」による死人はこれ以上は出ないはずだ。
「みんな、アレは……」
「タコ脚が、青いのを掬い上げてる……」
全てを取り込み喰らい付くし、セピア色の世界を己色に染め上げた「青」。タコ脚はその全てを掬い上げ世界から引き剥がすと、そのまま本体があるだろう脚の先へ呑み込んだ。
あれだけ猛威を振るった「青」が、掃除機でゴミを吸うかのように見る見る内に消えていく。そうして全ての「青」がタコ脚に呑まれ世界がセピア色に戻ったその時、シナリオクリアの通知と共に私の視界は再びブラックアウトした。
【狂える大群青は深淵に呑まれて消えた】
【『ロンミン』は小さな矜持を守り通した】
【ユニークシナリオ『小さな矜持』をクリアしました】
【クリアリザルト:S+】
「……戻ってきた?」
視界が晴れると、そこに広がるのは元通りに色付いた鮮やかな世界。夜闇の中なので薄暗く不明瞭な視界ではあるが、先程までのセピア色の世界と比べれば見やすさは段違いだ。目に悪い毒々しい「青」も消えた安心感は想像以上に大きい。
それに転移前はまだ崖下にいたはずだが、いつの間にか崖上に戻されている。クリアしてすぐに落下死とならないようにする配慮だろうか。だとしたら運営は気が利いている、あの激闘の後ではどうしても気が抜けてしまうから。
「クリアって出てたし、報酬あるよね。いったい何が貰えてるのかね」
放心するのもそこそこに、私はメニューを開きユニークシナリオのクリア報酬を確認する。クリアリザルトS+と出ていたし、どう考えても最高に近い評価だろう。報酬に期待が持てるというものだ。
「えーっと、内容はっと」
ユニークシナリオ『小さな矜持』クリア報酬
・スキルポイント+200
・特殊状態『小さな祝福』を付与
・
特殊状態『小さな祝福』効果内容
メリット
・NPCとのコミュニケーションに補正が掛かる
・攻撃全てに聖属性付与
・残りHPが最大HPの100%の時、食い縛りが確定発動する
・レベルアップ時の取得スキルポイント量+15
デメリット
・カルマ値が一定値を超えた時『小さな祝福』は効果を失う
・カルマ値が一定値を超えた時『小さな祝福』は消失する
・
・取得経験値量ー75%
「おーう、なんて都合の良い効果」
特殊状態が付与されたというので、その効果の程を確認してみたのだが……どうやら人生縛りでプレイする私にはありがた過ぎる効果のようだ。生存力を上げてくれる効果は、一度の死亡で全てが消える人生縛りにおいて何より高い価値を持つ。
と言うか、消耗しないきあいのタスキが弱い訳がないのだ。通常プレイだったとしてもこの効果だけで人権だろう、これが弱い環境は大スリップダメージ環境くらいだ。しかもあくまで「効果の一つ」であって他にもメリットがある。
経験値量は犠牲になったが、その分レベルアップ時の強化率が爆上がりしたし、聖属性は確かこの先出てくるようになる「アンデット」系のモンスターに対し特攻を取れる属性だったはず。アンデットの中には物理無効のモンスターもいるとwikiに書いてあったし、MPを切り捨てた私の
維持するにはカルマ値を上げない健全なプレイを強いられるが、総じてとても強力な特殊状態と結論付けた。NPCとのコミュ補正がどんな感じかは試してみないと分からないけど、『祝福』なんだから悪いようには働かないと信じよう。
「そしてこの、英雄武器とかいうやつ……」
断崖に刺さっていた剣、これも【朽ち果てたアモルパレント】として貰うことができた。朽ち果てたと書いている通り、今のままでは武器としてはポンコツもいいところなのだろうが……果たしてちゃんと使えるようになるまでどれだけ掛かるか。
復元のやり方は、wikiを読めば何かしら方法なりヒントなりが載っているはず。しかしまだそこまで読んではいないので、wikiに頼るなら一旦ログアウトする必要がある。このままゲームを進めるのもいいけど疲れてきたし、ここで切り上げてまた明日から攻略を再開しよう。
──amorparent……親心、か。
親心という名を持つ剣、ユニークシナリオの小さな矜持という題名や特殊状態の効果も併せて、このシナリオがプレイヤーに求めているのは、弱き者を守り通す覚悟と決意なのだろう。強大で理不尽な敵にも立ち向かい守る覚悟を持て、と。
ロンミンとしてはともかく、リアルの龍洞八千代としてかなり刺さる内容だった。多くのものに守り支えられて今日まで生きてきた私としては、自分が守る側になれるというのは嬉しいことだ。あくまでゲームの中だけでとは言え。
「……絶対、復活させてやるからな」
取り敢えず、今日はもう寝よう。
ファスティアに戻ったらすぐにセーブ。ログアウトしてVRチェアを出て水分補給、歯磨きなど寝る準備を終えて眠りについた。私は布団を被れば数秒で熟睡できるタイプ、寝付きの良さならのび太君にだって負けない自信がある……なんてことを考える間に、意識は深く沈んでいくのだった。
「むにゃ……」
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次の日。
起床してからは午前の内に必要なタスクを全て済ませ、やるべきことを消化し切ったことを確認してからシャンフロにログインする。ログインしてからwikiの確認をしてないことに気付いたが、まぁこんな序盤で英雄武器の復活はできないだろうし、別に構わないか。
今回の最低目標は、第三の街『サードレマ』まで到達すること。何でも今のサードレマにはレイドモンスターなる強敵が襲来しており、しかも低レベルプレイヤー程有利に戦えるらしい。そんなの初心者なら首を突っ込む以外あり得ないだろう。
しかし、そのレイドモンスター……『彷徨う大疫青』も登場と開戦からかなりの時間が経ち、討伐はもう近いとされている。早めにサードレマまで行かないと間に合わない可能性が高い。道中をほぼスルーすることになるのは惜しいが、大規模で終了間近のイベントは逃したくない。
──ハイエナとか言われそうだけど……そんなのまだ倒せてない方が悪いよなぁ!?
「まずはポイント振りからやるか」
現在の私のレベルは14。レベルアップで貰ったポイントは全部STMに入れたが、ユニークシナリオ報酬の200ポイントが丸々残っている。これをどう振り分けていくか……
LUCを100以上にすると、どんな状況でも確定で一度だけ食い縛りが発動するようになる。私は小さな祝福があるけど、HPを常に満タンに保たなくてもいいというのは魅力的だ。どんなに気を付けていても事故はいきなり起こるし、それを防げるLUC100は優先的に届かせるべきだな。こういう機会でもないと振る機会無さそうだし。
LUC:10→100
残り110ポイント。これは50をHPに振り、AGIとVITに30ずつ振る。大事なのは硬さと速さという部分は崩さない、残りはレベルアップのポイントを貯めておいて、必要になったらその都度上げていくことで対応しよう。
HP:50→100
AGI:20→50
VIT:20→50
これで良し。
スキルポイント200は、レベルアップだけで貯めるなら40レベ分の経験値が必要になる量。つまり今の私の実質レベルは54ということ、序盤のエリアを攻略するには過剰とも言える戦闘力。これならサードレマまでは楽勝で辿りけるはずだ。
「まずは『貪食の大蛇』からだな、行くか!」
実際は火力面にノータッチなので、耐久力以外はカスのままなのだが。まぁ、耐久力の高さを活かしてゴリ押しなり持久戦なりすればいいのだ。火力で手早くより私の性にも合っているし。
最初のエリアボス『貪食の大蛇』は、推奨レベル10推奨人数3人とそこまで強くない。一面ボスなんぞ苦戦するような敵ではないだろうし、何よりユニークで化物と渡り合った後だ。あの『狂える大群青』とか言う化物の後では、所詮デカいだけの蛇など月を前にしたスッポン未満よ。
──んなこと言って、舐めた相手に返り討ちってのが良くあるパターンなんだよなぁ。
人生縛りにおいて、最も死にやすいのはシステムや世界観への理解が浅い最序盤。今みたいな心持ちになっていると大抵やられるので、心を入れ替えて気を引き締め直す。
絶対に死んではやらない。パスも使ってユニークも引き当てて、今の私は同じ進捗のプレイヤーと比べてもかなり強くなれている。『ロンミン』をくだらない油断や慢心で失うなんて、いくら自分を罵っても足りない愚行だ。冷静にならねば。
跳梁跋扈の森エリアボス『貪食の大蛇』
推奨レベル10 推奨人数3人
「さて、と……やりますか!」
「シャアアアアアァァ!!」
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細長い大蛇の身体が、受けた傷に耐えかねてぐねぐねと捩られる。尻尾を地面に叩きつけ砂塵を撒き散らし鬣を揺らすかの蛇は、己に苦痛を与えた下手人をその眼で鋭く睨み付けていた。
許さない。絶対に殺してやる。揺るぎない殺意を抱いて放たれる攻撃の数々は、しかし遠く離れた場所から杖を振り続ける女には届かない。自分の命が少しずつしかし着実に削られていくのを、蛇は報復の機会すら与えられず甘受するしかなかった。
「ほっ、と……【マジックエッジ】!」
「ガアア……ッ!?」
新米開拓者の刃を容易く弾く蛇の鱗、それが女の放つ魔力の刃によって剥がされていく。ピーラーで野菜の皮を剥くように、そうするのが当たり前であるかのように簡単に剥がされる己の鱗を、蛇は鬣に隠れた眼で憎々しげに追う。
「【
そして、それが蛇の命取りとなる。
次に撃つ魔法の威力を高める【加算詠唱】、それは最序盤においては、「今からお前を殺す」という必殺の予告に他ならない。女の持つ杖に収束し球の形を成す炎がそれを物語っていた。
「
「ギャアアアアアァァ……ァッ……!!」
巨大な火の球が、鱗を失くし露わとなった蛇の肉を焼き尽くす。火の球は多大な威力で蛇の身をその命に至るまで燃やし、塵と化すまで止まらない。やがて蛇は倒れ、女の前にはエリアボスを倒したという通知が流れ──女はそこでようやく、今まで真剣故に結んでいた口元を綻ばせた。
「やったあ!『貪食の大蛇』、撃破ー!」
──────────
:匿名の視聴者さん
おめでとう!
:匿名の視聴者さん
おめ
:匿名の視聴者さん
おめ
:匿名の視聴者さん
おめでとー
:匿名の視聴者さん ¥10000
エリアボス突破報酬
:匿名の視聴者さん
おめでとう
──────────
「みんなありがとう!純魔のソロは大変って聞いてたけど、応援のおかげで何とかなったよ!」
流れてくるコメントに礼を返し、女は貪食の大蛇を倒したことで解放された吊り橋を渡る。
彼女──『ヘルパーT細胞』こと、緋刈黎桜は配信者である。シャンフロでは消耗品だったゲーム内撮影用のアイテム『別天津の隕鉄鏡』が永続使用可能になったことで、プレイ映像の配信が格段にやりやすくなったため、これを機に今までひっそりと楽しんでいたシャンフロを1から再出発したのだ。
かつて愛用していた剣士派生の近接型から一転、魔法特化の後衛職に鞍替えしてファステイアからの再出発。彼女の持つ300万人の登録者達は、その様子を微笑ましく見守っていた。
目指すは再びの最前線、未だに多くの未知が眠る新大陸とまだ見ぬユニークモンスター。神ゲーに相応しい最高の取れ高を求めて、ヘルパーT細胞はセカンディルへ新たな一歩を踏み出すのだった。
「いざ行かん、セカンディルー!」
現在の主人公のステータス
PN:ロンミン
LV:14
1088400マーニ
HP:100
MP:1
STM:75
STR:10
DEX:10
AGI:50
TEC:10
VIT:50(+10)
LUC:100
スキル
・スパイラルエッジ
・ループスラッシュ:LV8
・水斬り:LVMAX
・辻斬り:LVMAX
・パワースタンプ
・パワースイング
・パワースマッシュ
・ジャストパリィ
・スライドステップ
・クイックターン
・エスケープランナー:LV5
・アクセル:LV5
・隠密行動:LV4
・ハイジャンプ
・エッジクライム
・一艘跳び
装備
右:無し
左:傭兵の鉄刀『改二』
頭:赤いバンダナ(+2)
胴:旅人の服(+3)
腰:旅人のズボン(+3)
足:旅人の靴(+2)
アクセサリー:収納鍵チェストリア