ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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52:和解のために

 私と天音永遠の最初の出会いは、『言霊オンライン』というゲームであった。

 プレイヤーは舞台となる王国を助けるために天から遣わされた精霊という立場で、国民に助言を与えて行動を促し発展を助け信頼を得る。そうして自身を信頼する国民を増やし、国内でのテリトリーを増やしていくという内容なのだが……これが本当に面白くはないゲームだった。

 

 何を隠そうこのゲーム、プレイヤーにできることがNPCへの助言以外何も無いのだ。それ以外の方法では会話すらできないし、都合の悪い方向にNPCが進んだとしても、別のNPCに新しい助言を与えて修正されることを祈るしか無い。

 基本的に口だけ出して結果を見てるだけ……余りにも虚無過ぎる内容であるが故にか。オンラインゲームであるにも関わらず、サービス開始初日にして同接人数が100人を切るという、凄まじい過疎っぷりを見せたのだった。私は最初期からプレイしてたし覚えているが、3日も経たずに同接は一桁台まで落ちていたし……サービス終了が決まった2ヶ月後は同接0が当たり前になっていた。

 

「へー……結構栄えてるじゃん?」

 

 奴が来たのは、サービス開始からそろそろ一月が経とうかという頃。その頃はもうまともにプレイしていたのは私だけで、実質王国の全てが私のテリトリーという状態であった。

 全然こっちの言うことに従わないし、些細な失敗ですぐ信頼度を落とすクソNPC共をどうにかこうにか誘導して、少しずつ発展とテリトリーの拡大を続けていた時のこと。ようやっとだいたいのNPCが素直に助言に従うようになったその時、奴は全てをぶち壊しに現れたのだ。

 

「わ……私の、街が……ッ!?」

 

 最初は、ログインしていない間に崩壊した街並みを見せつけられたところからだった。3日掛けて発展させ自分的にも満足いく結果になった区画が、次の日ログインすると火の海になっていたのだ。

 その日はもう、新しい区画の発展なんて考えてられる場合じゃなかった。とにかく信頼値と土地の回復に精を出してその場はどうにか取り繕えたが、次の日も、そのまた次の日も……直したと思ったらまた壊され、それもまた直したと思ったらもっと手酷く破壊されての繰り返し。余りにも不毛過ぎるイタチごっこを10日近く続けていた。

 

 ログインする時間帯を変えたりして、荒らしを特定できないか頑張ってみたりもしたが。結局私にできたことは少なく……この不毛なイタチごっこを続けて傷を小さくすること、NPCの信頼値を極限まで引き上げて、これ以上荒らしの甘言に乗せられないようにさせるくらいしかできなかった。

 サービス終了のその日まで、私と天音永遠がゲーム内で直接カチ合うことは無く。私達が初めて直接対面したのは、雑誌の仕事で私が天音永遠のイラストを描くことになった時だった。

 

「やあやあ、初めましてだね八千代ちゃん!私が天音永遠です、今回はよろしくね!」

「……よろしくお願いします」

 

 勿論だが、この時はまだ『言霊オンライン』の荒らしと、天音永遠が同一人物であるということは私はまだ知らなかった。このことを私が知ったのはもう少し打ち解けてから……互いにゲームが趣味であることを知ってからだった。

 天音永遠のプレイスタイルは、例えるなら綺麗に並べたジェンガを盛大に崩すような、有終の美を飾ることを是とするようなもの。問題はそのための準備を自分でするのではなく、他人の積み上げた物であっても平気で崩せる所。そういうことを話しても良いと奴が思う間柄になったこともあってか、私はその後も会う度にこの手の相手が気の毒になる話を何度も聞かされることになる。

 

 ──何でこんな、『今日は何処で何人に迷惑を掛けました』なんてふざけたことを、そんな平気な面して宣えるんだろう……?

 

 話してていつも思っていたが、やっているゲームは似たようなものでも楽しみ方が全然違う。私は人生縛りの都合周りを敵にしたくはないので、あまり敵を作るような行動はしないようにしている。

 しかし、この女は違う……荒らし・嫌がらせ・混乱の元何にでもなり環境にカオスを齎す。PvPで山の中に拠点を構えた敵に対し、山崩れを引き起こして土砂に呑み込ませたり。あるゲームのレアアイテムを独占し需要と供給を支配して、通貨代わりとして流通させ、ゲーム内の本来の通貨の価値を亡き者にしたり。自分を倒しに来た相手を返り討ちにした後、馬に括り付けてから走らせ死ぬまで地面に命を削らせたり。

 

 とにかく色々やっていたようだが、そのどれも私には理解も共感もできないものであった。ここまで合わない相手って居るもんなんだなぁと、そんなことを思ったのを覚えている。

 巻き込まれるのは遠慮したいが、まぁプレイスタイルは人によって違うし……と、心中で自分を納得させて理解し難い気持ちを抑えていたが。既に被害を受けていたことを知ったことで、私の抑えていたものは完全に解き放たれてしまうのだ。

 

「セールで90%オフっての見つけてさぁ、あんまり安かったもんだから、つい怖いもの見たさくらいの気持ちで買っちゃったんだけどね。思ってたより楽しめてびっくりしちゃった」

「へぇ、何を買ったんだ?」

「言霊オンラインってやつだよ。NPCに話しかけるくらいしかできること無いんだけど、あいつらちょっとしたことですぐ暴走するから、あっという間に崩壊していく様が見てて面白かったんだ。もうサ終してできなくなったんだけどね」

「……ッ!?」

 

 ──マジかよ……!?

 

 衝撃の事実。百姉さんに誘われて3人での食事中に私はこのことを知ってしまった。約一月の間イタチごっこを続けた憎き荒らしの正体が、まさか目の前に居る相手だったなんて。世間というものは人が思うより狭いのだと思い知らされた。

 もしも見つけたなら、その時点でぶち殺してやりたいと思う程度には怒りを募らせていたが。その衝動をグッと堪えて、怒りを顔に出さなかった自制心は自賛できると思う。喋れば喋るだけ苛立ちも怒りもねずみ算式に増していくが、それでも()()()()が出るまでは私は耐えていたのだ。

 

 ──耐えろ……ここで喧嘩なんてしたら百姉さんに迷惑かけるんだから、ここは耐えるんだ……

 

「ログインする度にねぇ、ぶち壊しにした状況がリセットされてるから、いつでもいろんなシチュを楽しめるのも良かったんだよねぇ」

「……」

「相変わらずだな、お前は」

「……」

 

 多分だけど、この時の天音永遠は酔っ払っていたのだと思う。付き合いは短いが流石に素面でこんな自慢はしないということは知っている、お酒が入っていることと、心を開いたゲーム仲間だけの集まりということで気が緩んでいたのだろう。

 表では勿論プライベートでも、あまり付き合いが深くなければ出せないような負の一面。そんな面を見せられるくらいには、百姉さんにも私にも心を開いているということなのだろうが……それにしたって緩み過ぎじゃないか、酒は人の本性を暴くって言うけどこういうことなのか?

 

「でも不思議だったのがねー、孤児院みたいな所があったんだけどさぁ、そこだけ設備とかに妙に力が入ってたんだよね」

「……ッ!」

 

 動揺が顔にあからさまに出てしまったが、天音永遠はまだ気付いていない。何処までも楽しげに私の地雷を踏み抜いていく。

 奴の言っている孤児院のようなものとは、私がゲームを進めていく中で出逢った、老若男女関係無く放置していたら死んでしまいそうなNPCを集めて保護した施設だ。これを作らせることもここに人を集めることもめちゃくちゃ大変だった。

 

 所詮はNPC、感情移入したところで何にもならないことは分かっている……それでも、どうしても他人事と思うことができず、多大な労力と回り道をして彼らに居場所を与えた。そうすることで私も少しだけ救われるような気になれたから。

 でも、その救いは無惨にもぶち壊された。他の破壊箇所の修復に人手を誘導していて、施設への警戒が薄くなっていたところを狙われたのだ。察知してすぐに守りを向かわせるも既に遅く……私が見ることが出たのは、完全に崩壊した建物とそこに住まわせていた者達の死亡ログだけであった。

 

 ──それがキッカケとなり、私は本気を出してNPCの掌握に取り組むようになった。一時リアルに支障を来たす程にのめり込み、廃人と呼んで差し支えないペースでプレイし、2度と荒らしの良いようにはされない盤石の体制を作り上げた。全ては荒らしに好きにさせないために……

 

「お前のせいか……」

「え?」

「ううん、大丈夫。何でもないよ?」

「そう?でもさぁ、なーんであんな大層な施設設定してあったんだろうね?あんなの残してたってリソース無駄に食うだけの害悪なのにさ、そんなことするくらいならいっそのこと処ぶ」

 

 そこで、私は完全にキレた。

 

「やっ……八千代、ちゃ?」

「……てみろよ」

「え?」

「その台詞……もう一度私の前で言ってみろよ!」

 

 掴みかかる私、突然の凶行に酔いも醒めて困惑する天音永遠、それを止める百姉さん。食事会はこのまま最悪の雰囲気で終わりを迎えた。

 天音永遠は知らなかったのだ、私が身体の半分以上を義体に置き換えた身障者であることを。当時の私は障がいを知られて要らぬ気遣いをされないよう健常者に見えるように生活していたし、百姉さんのような互いに近しい人達も、私が隠しているからとそれを打ち明けるようなことはしなかった。だからこそ天音永遠は気付かなかったし、私の前で障がい者を貶めるようなことを宣えたのだ。

 

 それ以来、私と天音永遠はエキスポで偶然遭遇した時を除いて一度も会っていない。連絡も周りの取りなしも完全にシャットアウトして、交流の一切をしないよう断ち切っている。

 それがこうして、またも偶然……いや同じゲームをプレイしている以上は、何処かでカチ合うことになることは分かっていた。その時がまさに今であるという、ただそれだけの話だ。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「……久しぶりだね、何年振りくらいかな」

「そんなには、経ってなかったんじゃない?」

 

 会話がぎこちない。長いこと対面すらしていなかったのだからそれはそうだろう、このシチュで流暢に話出せる方が異常だ。

 

「アーサー・ペンシルゴン……」

「……良い名前でしょ?結構気に入ってるんだ」

 

 未だに怒りはある。こいつのやったことも言ったことも許せないし、こいつが貶めた奴らと同じ目に遭わせてやりたいとも思っている……が、それと同時にもう許すべきなのではないかとも思っている。

 

 ──性格は悪いよ。それでも……

 

 天音永遠は知らなかっただけなのだ。確かに所業は最悪だし面以外に良いところなど何も無いが、やってはいけないことをしてしまったことを悔やみ謝ろうとする気持ちも持ち合わせていた……私にそれを受け取る気が無いだけで。

 意地を張っているのは私の方だ。相手の謝罪を拒み敵のままにして、いつまでも怨みと怒りを募らせるなどガキの癇癪と何ら変わりない。許す許さないはともかくとして、体裁としても謝罪は受け取っておくべきだったのにそれをしなかった。この空気感の原因は私の方にこそある。

 

「……逃げるな、ってことなんだろうね」

 

 偶然とはいえ、出逢ってしまったならばもう逃げるだけではいられない。敵意などいつまでも持っていたって邪魔なだけなのだから、それを捨てるためにも私がすべきは歩み寄りだ。

 何処かで聞いた話だが、嫌いなものがあることは人生において単純に『損』なのだという。確かに日本でも有数の実力と人気を誇るトップモデルと敵対しているのは、私のQOLに於いてめちゃくちゃ損な状態だろう。いちいち奴が出ているものを避けるというのは確かに面倒だし、そんな状態なら解消できるならしてしまった方が絶対に良い。

 

「……これから、千紫万紅の樹海窟を攻略しに行くんだけど。一緒に来るかい?」

 

 この先にどういう関係に着地するかなんて、まだ何も分からないけれど。出逢ってしまったのならせめて蟠りは解いておこうと、私はアーサー・ペンシルゴンに手を差し出したのだった。




 八千代→自己投影していたNPCが無惨に殺された上に愚弄されたことでキレた。時間が経って頭が冷えたことで「たかが一ゲームに熱くなり過ぎた」と反省したが、それでも許すことはできず意地を張って謝罪の意思を突っぱね続けていた。

 永遠→仲良くなれたと思っていた相手の地雷をめちゃくちゃ踏んでいたこと、リアルで超えてはいけないラインを超えてしまったことを深く後悔し、本気で反省している。リアル地雷を踏まないよう気を付けるようにはなったが、プレイスタイル自体はそれ程変わってはいない。
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