ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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 総合評価が100ptを突破しました。いつも本当にありがとうございます。
 こうした反応がモチベーションに繋がりますので、これからも評価・感想などをよろしくお願い致します。


53:ペンシルゴンとの共闘

「……確か、黎桜ちゃんの配信で一緒に水晶巣崖攻略してたよね?その時にファストラできるスキル手に入れてたんじゃなかったっけ?」

「……起晶転結(クリスタルメモリー)だね。ベヒーモスでレベルキャップ解放した時に他のスキルと一緒に消えたよ」

 

「……その装備、何の素材から作ったの?」

「……エンパイアビー・セクスタ"毒震貴族(ロンリービート)"っていうエクゾーディナリーからだよ。一応今回も狙えるなら狙っていくつもりではある……クランに入ってるアーサーには無用の長物だけどね」

 

「……その槍って、何かのユニークなんだっけ」

「……勇者武器ってシリーズの一つ、【聖槍カレドヴルッフ】だよ。相手の防御力とか無視して攻撃したり、MP消費して自動で回復したりできるんだ」

 

「……序盤のエリアだし、あんまり強いモンスターも出てこないね」

「……まぁ、"毒震貴族(ロンリービート)"とか"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"が特別なんだよね。後は……ウェザエモンだったか」

 

 ──気不味い……!

 

 自分から誘った手前、何のコミュニケーションも無いのはマズいだろうと、頑張って話題を見つけては口を回していたが。

 お互いにまだまだおっかなびっくりにしか関われず一言二言で会話が終わってしまう。この共闘の中で関係修復ができればと思ったが、やはり一筋縄でいくような生易しいものではないか。

 

 時折やって来る、刻傷に引き寄せられた私よりもレベルの高いモンスターを倒すことで、そこそここの気不味い空気感も軽減できてはいるけども。この調子だと、樹海窟を出るまではずっとこのままなんてことも普通にあり得そうだな……

 "毒震貴族"を探しながら歩いているので、ボスエリアまでは真っ直ぐに向かってはおらず話す時間は十分にあるはずなのだが。どうしてもこれまでの関係を思い返してもう一歩踏み込めないでいる。そろそろ諦めて進むべきだろうか?

 

「ねぇ、八千……ロンミンちゃん。寄り道するなら行きたい所があるんだけど……良いかな?」

「もしかして、千紫万紅の樹海窟(ココ)の隠しエリア?」

 

 気不味い沈黙が漂う中、あま……アーサーが隠しエリアに行こうと提案をする。そういえば千紫万紅の樹海窟の隠しエリアを私は知らない、いったいどんな場所なのか確かに気になるな。

 跳梁跋扈の森ならベヒーモス、四駆八駆の沼荒野ならゴルドゥニーネと出逢った名無しの坑道、奥古来魂の渓谷なら水晶巣崖と、これまで行ったことのあるエリアには大抵隠しエリアがあった。ここの隠しエリアはどんな所か……恐らくだけど、『墓守のウェザエモン』関連のエリアなんだろう。

 

「……もしかして、ユニーク関連?」

「そうだよ。本当なら、満月じゃないとイベントが起きないから行く意味無いんだけど……もうクリア済みだから関係無いんだよね」

 

 墓守のウェザエモンに関連するユニークシナリオEX『此岸より彼岸へ愛を込めて』を受注できる隠しエリア「秘匿の花園」が目的地らしい。

 本人曰く、アイテムの収集過程で偶々見つけたというそのエリア。そこに行くこと自体は道順さえ覚えていれば難しくはないのだが、満月の夜でないとイベントが発生しないとのこと。とはいえ既にウェザエモンは討伐済み……役目を終えたエリアであるため行くタイミングはいつでも構わない。

 

 ──もうイベントが無いなら、いったい何のために行くってんだろ?

 

 当たり前の疑問が浮かぶが、まぁ行けば分かるだろうしこの場で詮索するのは止めておく。もしも今の殊勝な態度がまやかしで、私に何らかの危害を加える目的があるなら、その時は返り討ちにして二度とシャンフロでも遭うことが無いようブロックリストに入れてやれば良い。もしもの話だが、その時は何の躊躇いもなくコイツを殺せるだろう。

 まだその真意は分からないので、取り敢えずアーサーに着いて秘匿の花園までの道のりを行く。かなり巧妙に隠された複雑な横道を進み、辿り着いたその場所は……一面が彼岸花で覆い尽くされ、中心に何かの残骸と花瓶が添えられただけの、何処となく寂寥感を抱く殺風景なエリアであった。

 

「今は風化しちゃったけどね……ここには、私の大事な人の墓が建てられてたんだ」

「大事な人……NPCでしょ?」

 

 遠き日のセツナ。この朽ち果てたオブジェクトの下に眠るNPCの名前であり、ユニークシナリオEXの起点となる重要人物。そういえばベヒーモスでも何度か聞いた名前だったな……

 意外なところで繋がったが、それ以上に意外だったのはセツナに対するアーサーの反応だ。あれだけ言霊オンラインで傍若無人に振る舞い、NPCの命を風に舞う木の葉のように散らした外道が、NPCに思い入れを抱いているようなことを宣うとは。

 

 こういう行為は、何も感情が乗らないからこそできるものだと思っていたのだけど。外道にも何かに入れ込むだけの感性は、キチンと備わっていたということか。いったいどんなやり取りがあってそうなったのかは知らないが。

 しかも供えられた花は、「セツナトワ」というセツナと永遠(アーサー)両者を含んだ、まさに二人のために在るかのような花。わざわざこんなものまで用意するだなんて、コイツ何処まで本気なんだ……?

 

「……セッちゃんに入れ込むようになってからさ、言霊オンラインの、八千代ちゃんのことをよく思い出すようになったんだ」

「……」

「NPC……プログラムによって決められた言葉を話し、決められたことをするだけの舞台装置でしかないはずなのに。気付けば私は彼女の願いを絶対に叶えてあげたいと思う程に親身になってた」

「……」

 

 名前から感じたシンパシーだったり、その背景を知る程に感情移入していき、アーサーはセツナの力になりたいと思うようになった。そしてそのためにウェザエモンを倒す準備を整え、実行し……初のユニークモンスター討伐者となり、願いが叶ったことでセツナとは永遠の別れをすることとなる。

 その時に感じた喪失感が、あの日の私の怒りを思い起こさせた。NPC如きにそこまでの怒りを募らせる程の、大事にしていた何かを失うという経験がアーサーに理解と共感を与えたのだ。

 

 だが、私とアーサーでは喪うに至るまでの状況が全く違う。NPCとしての存在理由を果たして円満に別れられたアーサーと違い、私の方は知らぬ内に奪われていた……それも、思わず目を覆いたくなるような惨い方法を使って。だとしたらその悲しみと怒りはどれ程のものだったのだろうと、アーサーは考えが及ぶようになった。

 それだけではない。知らぬことであったとはいえ眼の前に居るにも関わらず、相手の存在を否定するようなことまで言ってしまった。ゲームなら煽りの範疇としてまだ許されていたかもしれないが、現実で言ったならそれは余りにも酷い差別。芸能人としてそういうことには気を付けていたはずなのに、許されるラインを見誤ってしまった愚行。

 

「酷いもんだよね。今にして思えば八千代ちゃんは私のこういう話に良い思いをしてなかったって全然思い出せるのに……勝手に仲良くなったつもりで、超えちゃいけないラインを超えてしまった」

「……」

「最低……だ」

「そうだね」

 

 発言を肯定すると、アーサーはウッと腹を押さえて蹲るような姿勢になった。本音を言っただけだけど今のは余計な茶々だったな……

 

「ずっと……後悔してた。自己満足でしかないけどそれでも、言わせてほしい」

「……」

「大切なものを壊したこと、身体のことを馬鹿にしたこと……本当に、ごめんなさい」

「……永遠さん」

 

 呼び方を変える。アーサー・ペンシルゴンにではなく、その先の天音永遠と話すために。

 やってしまったことは取り消せない。どれだけ深く後悔しようと、反省しようと、他人の記憶から消え去ろうとも、本人の心中に深く楔を打ち込み一生罪悪感を育て続ける。こうして謝ったところで、私がそれを許したところで、彼女が余程の太い神経を持ってでもない限りはしこりは消えないだろう。

 

 そしてそれは私も同じだ。ここでこの謝罪を受け入れて彼女を許したとして、彼女との付き合いが復活したとして、今後も事あるごとにこれを引き合いに出してネチネチと言うかも知れない。

 それでも……そんなものは、来るかも分からない未来の話だ。起こってしまったことは受け入れて前に進まなければ何も変わらない。今のこの気不味い関係も、私が許すにしろ許さないにしろ決着を着けさせていたら無かったものだ。荒らしを是として好き放題していた女がそれを悔い変わったのなら、私もまた変わらなければならないだろう。

 

「……許すよ。あなたにされたこと全部、憎たらしいし怨めしいけど。元々私が拒んでいたせいで拗れた話だし、決着は着けておかないとね」

「え……」

「勿論、今後も同じようなことがあったなら……その時は絶対に許さないし、三度目なんて無いように徹底的に潰すから。今回のことはここらで終わりってことにしてさ、また1からやり直そう……改めてよろしくね、永遠さん」

「ごめんね……本当に、ありがとう……!」

 

 長く続いた確執に、一応の決着が着いた。

 モヤモヤしたものは残ってるし、今後何かと引き合いに出されるかも知れないけど……そこはお互いに忘れる努力をするということで。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「しっかしウェザエモンか……もう倒されてるから二度と逢えないってのが残念だね」

「一応、チャンスはあるよ。本物って訳ではなさそうだけど旧大陸と新大陸に二体ずつ、ウェザエモンの色違いが出現してるから」

「ええ、何それ……?」

「私も実物を見たのはまだ一体だけだけど、この花飾りがあるから場所の特定はできるよ。良かったらロンミンちゃんにも教えようか?」

 

 謝罪と赦しから少し時間を置いて、お互いに気持ちを落ち着けてから秘匿の花園を発つ。戦闘とかアイテムとかは何も無い場所だったけど、こういう縁を追憶結晶(メモリークリスタル)は覚える。いつかはそれに助けられる時が来ると思うし、特に成果は何も無い寄り道だったけど無駄にはならないはずだ。

 しかも、ウェザエモンに関する再戦可能な可能性という情報も貰えた。シャンフロに於いて装備の背景は強化に影響を及ぼすことがある……英傑武器(グレイトフル)なんかがその良い例だが、私の『無貌』の素材に使われている"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"にも、「ウェザエモンを志しそして半ばで散った何者でも無い蟲」というストーリーがあった。

 

 覇憧傑刀『無貌』の強化には、今後ウェザエモンに関わる必要があると私は予想している。既に倒され死んでいるユニークモンスターをどうやって倒すんだとは思っていたが、再戦の余地があるのなら何とかなるのかも知れない。この情報をくれたことにはしっかり感謝しておこう。

 

「ありがとう、それならアーサーが挑む時に一緒にやらせてもらうよ……ッ!」

「あっぶな……!不意打ちとはやってくれるね!」

 

 ──また逢えたな、"毒震貴族(ロンリービート)"!

 

 会話しながら歩く私達の背を隙と受け取ったか、音の無い襲撃がやって来る。それを既所のところで回避してその姿を視界に収める……そこに居たのは今回の目標の一つ、かつては消化不良気味の決着を迎えた孤高の雄蜂その人……いや人ではないけど。ともかく"毒震貴族"との再会であった。

 

【モンスター不世出の発見(ディスカバー・エクソーディナリー)!】

 

【討伐対象:エンパイアビー・セクスタ"毒震貴族(ロンリービート)"】

 

【エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されます】

 

「いこうかアーサー、コイツの素材は上等だよ!」

「そりゃあ、倒すっきゃないね!」

 

 パーティを組んでから、初めて出逢ったボスクラスの強大な敵。既知ではあるが相手にとって不足は無い……エクゾーディナリーを前に、私達はそれぞれの得物を取り出し戦闘体勢に入るのだった。




【星天槍アステヴァル】
[カテゴリ]
・槍
輝槍仮説(ブリューナク):第六
[効果]
・『慈悲の槍』:この槍で味方を攻撃した時、本来与えられるダメージ分HPとMPを回復する。
・『闇祓う槍』:アンデット系モンスターや、カルマ値の高い相手への与ダメージが上昇する。
・『光宿す槍』:この槍は光を当てることでそれを内部に溜め込み、放出することで一時的に射程を上昇させることができる。
・『輝槍仮説第六(ブリューナク)夜光(アステル)』:槍を中心に一定時間の間星の灯りに包まれたフィールドを形成する。その内部に居る味方は全ステータスに補正が掛かり、更にマイナスの状態変化が全て無効となり、プラスの状態変化の効果量が上昇する。
[説明]
輝槍の光とは昏きに灯る慈しみの光、即ち夜空に浮かぶ星々の輝き。故にこそブリューナクとはその光を以て希望を灯す慈悲の槍に他ならない。
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