ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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54:再戦の毒蜂と

 高速の急襲という、前回を思い起こさせる先制攻撃から始まった"毒震貴族(ロンリービート)"戦。コイツ自身もエクゾーディナリーらしく強いのだが、今のステータスとスキルならそう苦戦はしないだろう。レアモンとは言え所詮はエンパイアビーだからね……

 私が気にしているのは、このデジャヴ的なシチュエーションが続きはしないかということだ。私がシャンフロで戦闘をしていると、だいたいの場合もっとヤバい奴による横槍が入る。"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"のような"毒震貴族"よりも強力なモンスターが現れる可能性を考えると、外への警戒は解けない。

 

「気を付けてよアーサー、私の戦闘だいたい何かしらの乱入があるからさ」

「配信見たよ、"彼岸の徒"とかいうウェザエモンもどきに乱入されてたねぇ」

 

 その通り、二度あることは三度ある……とは限らないが警戒するに越したことはない。目の前の相手に夢中になっている内に、不意打ちの横槍で死亡だなんて笑い話にもならないのだから。

 まぁそれはそれとして、今私達が戦うべきは"毒震貴族"なのでそっちに集中しなければ。乱入があるとしてもその時はその時である。

 

「来るよ、準備はオーケイ!?」

「オーケイ!どんな奴かできるだけ教えて!」

 

 先攻は"毒震貴族"、背中の薄翅を高速で羽ばたかせ放つソニックブームを飛ばす。速度はあるが眼で追えない程ではない、私は左に、アーサーは右に跳んでそれぞれ回避した。

 挟撃の形にはなったが、"毒震貴族"のソニックブームは全方位に飛ばせる厄介なもの。その上近付けば翅の放つ振動の影響をモロに受けるし、しかも当たると毒状態になるので毒対策は必須と隙の無い構成になっている。

 

「だけど何も問題は無い、何故なら私のこの装備は奴の行動のほぼ全てを無効化できるから!」

「何それ、特効じゃん!」

「コイツの素材から作ってるからね、毒も振動も無効だし何なら状態異常の扱いも上だよ!」

「最高!それじゃあメイン盾任せた!」

 

 右手には【蛇槍『金剛牙』】、左手には【怨蛇の大盾】を持ち防御メインの態勢を取る。私が盾となってアーサーを守り、防御力を無視して攻撃できるアーサーが火力役となるのだ。

 そのためにも、ヘイトをこちらに引き付け攻撃を誘導する必要があるが……残念ながらヘイト管理ができるスキルは今のところ無い。仕方無いのでこちらも攻勢に出ることでヘイトを稼ぐ。

 

 ──金剛牙には壊毒があるから、私は撃破よりも翅の破壊を優先する!

 

 "毒震貴族"の戦闘能力は、振動を引き起こす翅に大部分を依存している。そこを壊すことができれば弱体化は免れないし、部位破壊による報酬の増加にも期待ができる。アーサーに需要が有るかは知らないが、ソロ専の不世出の奥義よりかは素材の方が有意義だし多くを得るに越したことはない。

 最優先で狙うは翅、その後で毒針と余裕があれば大顎も破壊しておきたい。さっさと破壊してやるためにもスキルを駆使して攻勢を仕掛けよう、槍用のスキルはほぼ無いがそれでも0では無い。ソニックブームを大盾で受け止めてから、槍の穂先を向けて反撃の一発をお見舞いしてやる。

 

「食らいな、「グローイング・ピアス」!」

「ブブブブブブ……!!」

 

 ──まだ浅い……か!

 

「あいつ飛んで逃げるよ!」

「大丈夫、叩き落とす!」

 

 グローイング・ピアスはヒットしたが、クリティカルにはならず翅の破壊はできなかった。だがその一撃を脅威と感じたのか、"毒震貴族"は槍の間合いから逃げるように上空へ飛び去ろうとする。今までなら成す術無しか、跳躍系スキルで無理やり追いつくくらいしか無かったが……今の私には空を飛べるアクセサリーがちゃんとあるのだ。

 封虹の撃鉄(オーロラトリガー)を起動し、虹の極光を纏いて空を飛び"毒震貴族"に追い付く。ついでに封翔の撃鉄(ソニックトリガー)の加速も加えてより速くより高くに陣取り、そこから武器を【透け合う大鎚(アサルトスタンプ)】に変更。急停止の反動を活かしてハンマーを振り切り、"毒震貴族"の頭部へクリティカルの一撃をお見舞いしてやった。顎を砕かれた"毒震貴族"がそのまま地に堕ちる。

 

「ナイス撃墜!私も……「茜光差す切先(スピアオブサンブレイク)」!」

「ギギギギ……ッ!!」

 

 地面に叩きつけられた"毒震貴族"へ、アーサーがすかさず追撃をかます。熱による追加ダメージが発生する茜光差す切先は、火属性を弱点とする"毒震貴族"には大きな有効打となる。その証拠に奴はダメージにのたうち回っていた。

 

 ──ん……何か変だな……?

 

 今の一連の流れを、空から見ていて感じた小さな違和感。何かがおかしいとは思ったが改めて見ても何もおかしな箇所は見当たらない……いったい私の勘は何をキャッチしたんだ?

 恐らくだが、まだ見えていない新手がこの辺りに潜んでいるのだと思う。私達の戦闘を傍観しているのか不意を打つ気を伺っているのか、それは分からないがきっと居る。混戦になっては面倒だし見えている"毒震貴族"を早急に倒す必要ができたな。

 

「にしても、乱入の多いことよ……刻傷のせいなのかコレ?」

 

 閑話休題(それはさておき)、アーサーの攻撃で"毒震貴族"が怯んだ今は追撃する大チャンスだ。距離が離れているのでカラーパレットを使いたいところだが、武器一つならともかく全身の装備変更をする時間は無い。奴の復帰に間に合いつつ、尚且つ最も大きなダメージを与えられる装備は……

 

「コレかな?『振動せよ(booming up)』!」

 

 追撃のために私が取り出したのは、古匠シュトーレン謹製の甦機装(リ・レガシーウェポン)震天の孤毒剣(ロンリー・ウェーバー)】だ。扱うにはかなりのステータスを要求されるが、ゴルドゥニーネ戦のレベルアップによって条件は満たしている。奴の同胞から造られたこの剣で奴を討つ!

 使用するのはその力の一つ、『振動せよ(booming up)』の音声命令で刀身を振るわせる振動機構。刃の震えによって斬れ味を向上させるのがメイン効果だが、その真価は"毒震貴族"同様に、この震えからソニックブームを生み出すことにある。

 

「急速接近……お邪魔します!」

「よっしゃ、やっちゃえロンミンちゃ……ッ!?」

 

 踏ん張りの効かない空中では、ソニックブームを撃ち出した反動をモロに受ける。その勢いを利用しての急降下突進──「パワースラッシュ」を同時に発動して威力も確保。

 スピードは十分、スキルの発動タイミングもバッチリ決まっている。何も恐れることは無いと振り下ろした大剣を、虚空から突如として現れた2本の大鎌が受け止めた。強い反発によって弾き返された私は"毒震貴族"とは離された方向で着地する。

 

【モンスター不世出の発見(ディスカバー・エクゾーディナリー)!】

 

【討伐対象:ミミクリー・マンティス"纏化無相(メタモルフォーゼ)"】

 

【エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されます】

 

 ──こんにゃろうめ……ッ!

 

「姿を消して隠れてやがったのか……ずっと!」

「"纏化無相(メタモルフォーゼ)"ね……多分、通常種みたいな簡単な擬態じゃ済まないんだろうね!」

 

 アーサーの言う通り、通常のミミクリー・マンティスは花に擬態して獲物を待つ習性がある。しかしこいつは擬態なんてレベルじゃなく、完全に風景と一体化していた。

 始めからそこに居たはずなのに……実際に姿を現すまで何も分からなかった。いや上から見てた私は些細な違和感を感じてはいたけども、その違和感の正体を見抜くことはできていない。

 

 ──コイツの擬態対象は、この風景そのもの!

 

 自分に似たものに擬態する通常種とは違い、コイツは周りに合わせて自分を変えられる。あらゆる獲物を見逃さないはずの夜駆ける幻狼の魔眼(ヴォルファント・ヴィル)すら欺く変化能力……ただただ恐ろしい力だ。

 透明化してるとか、周りに合わせて色を変えてるとかそういうチャチなものではない。完全にそれそのものになっているような……記されていた名前から考えるに、それで正解だとは思うが。見極めておかなければひたすら面倒なことになりそうだ。

 

「消えてみろよ、できるのならな!」

「そっちはよろしく、私はこのまま"毒震貴族"を削り切るから!」

 

 ──擬態がただ身を隠すだけの手段なら、正体を現した今はもうやってこないはずだけど……

 

 そう考えてみたが、わざわざ通常種と違う変態能力を持たせておいてそんなことは無いだろう。コイツの擬態能力は戦闘にも使われるはず、どんな風に使うのか・どんな風に消えるのかを観察し、見極めて攻略の糸口を掴むのだ。

 武器を孤毒剣からディアナ&アルテミスに替え、手数で追い詰める作戦を取る。"纏化無相"の両腕にも立派な大鎌が付いているが、その大きさで私よりも小回りが効くことはあるまい。速さと手数で翻弄して手札をより多く晒させろ。

 

「キイイイイィィ!!」

「虹の光に潰されろ!」

 

 封虹の撃鉄の効果時間がまだ残っているので、それも活用して全方位から攻撃を仕掛ける。虹の極光による追加ダメージ、それだけでなく耐性を低下させる効果によってダメージは更に加速する。大振りの鎌が辺りの草花を薙ぎ払うのを避けつつ、時にカウンターを差し込んでやるのも忘れない。

 コイツの攻撃手段は、今のところ両腕の鎌を振り回す以外のものは見れていない。コレしかできないのか他にもあるがやってないだけなのかは今の時点ではまだ判断しかねるが、警戒は怠っていないし無いなら無いでそれに越したことはない。今のこの有利状況を保ったまま終わらせるだけだ。

 

「キキ……!!」

「消えた……ッ!」

 

 ──魔法か何か使ってやがるな!?

 

 今の状況を不利と悟ったか、"纏化無相"は両腕の鎌をクロスさせると途端にその場から消失した。そこに剣を振るってみてもヒット判定は出ず、完全に居なくなっていることが分かる。

 やはり、保護色や透明化などではあり得ない一瞬の消失マジック。どういう理屈でコレを実現させているのかを見極めなければ、さっきまでは分からなかったが、戦闘中の今なら夜駆ける幻狼の魔眼は反応してくれるか……?

 

 ──見えない……ユニークの眼すら誤魔化す、いや欺く程の擬態能力……?

 

 いや流石にそれは無いだろう。いくらエクゾーディナリーとは言え、所詮は序盤エリアに登場する雑魚モンスターの一角に過ぎない。そこまで大それた能力を持たせるだなんて、世界観的にもゲームバランス的にもナシだと私は思っている。見えていないことには何か……恐らくだが、そうと分かれば結構単純な理屈があるはずなのだ。

 考えられるのは何か。実は超スピードで動いているせいで、動体視力が追い付いていない……"月華美神"のレーザー砲や"禍刃剥命"の瞬間移動すら捉えられるのだからそれは多分無い。ならば実はめちゃくちゃ小さくなっている……どこまで視れるのかは知らんがそれならまだ近くに居るはず。小型化したとしたら奴のスピードで魔眼の効果範囲から逃れることは叶わない、それなら捉えられるはずなのでコレも無いだろう。複合要因は尚更あり得ない。

 

「だとしたら……」

 

 武器を今度は無貌に切り替え、スキルを発動して出方を伺う。この予想が正しければ、奴は私の正面から現れるはずだ。

 色変えじゃない、透明化でもない、速くなっている訳でも小さくなっている訳でもない……ならばどうやって奴は姿を消しているのか?"纏化無相"の名を冠するのなら、その理由は──

 

「反撃……一閃!」

「ギギ……ッ!!?」

 

 ──別オブジェクトへの変身!そうだろ!?

 

 草花に紛れ隠れていた"纏化無相"が姿を現し、振り下ろした鎌が当たる瞬間に「反撃ノ構エ」が効果を発揮しそれを無効化。そのまま返す刀で「草薙ノ太刀」を発動し、右腕の関節を破壊──宙に舞った大鎌を奪いインベントリアにしまった。武器の片割れを奪われた"纏化無相"が、虫の癖に動揺するかのように挙動不審になる。

 コイツの能力は別オブジェクトへの変身。表面が鏡のようになっている大鎌、それに映る物が変身の対象となるのだろう。奴が姿を現した時に変身を解いたことで消えた花は、周りにある同じ種類の花と比べて鏡のように形が反転していた。他にも条件や方法は持っているかもしれないが、一先ずはコレで種を暴けたということにしていいだろう。

 

「物になってるんじゃ、そりゃあ魔眼でも気付けない訳だ」

「ギギィ……!!」

「ロンミンちゃん、伏せて!」

「え、何……うおおッ!?」

 

 怒り心頭、といった様子で"纏化無相"は私を睨み付ける。虫の癖に随分と感情豊かだなと思うがリアルの虫とは違うのだろう。

 タイミングを測る睨み合いになっていると、その静寂をぶち壊すようにアーサーと彼女がぶっ飛ばした"毒震貴族"が飛んできた。鎌を失った右腕側に直撃を受けた"纏化無相"は、また吹っ飛び、分けて担当していた2匹の虫が同じ場所に固まる。

 

「別れてたけど、固まっちゃったか」

「ここからは纏めて倒すよ」




 ミミクリー・マンティス"纏化無相(メタモルフォーゼ)
 [概要]
 自分と似た色の草花に擬態する通常種と違い、こちらは全身の体色を周りに同化させ完全に同じ色になる強化個体……が、更に能力を発展させたことで色どころかその姿形・性質まで完全に同じになる魔法を習得するに至った個体。
 鏡面のようになっている鎌に映る物の姿を投影したり、捕食することで得た生物の情報を投影したりすることでその対象に変身する。生物への変身中はその対象と同じ扱いになり、変身した状態で倒されると"纏化無相"としてではなく、変身したその生物としてアイテムをドロップする。非生物への変身中は生物を対象としたスキルや魔法などの効果を受けず、倒されてもオブジェクトが壊れただけという判定になるため何もドロップしない。そのため"纏化無相"のドロップを手に入れるなら、変身していない時に倒す必要がある。

 [攻撃方法]
 変身による待ち伏せからの不意打ちを主な戦法としているため、"纏化無相"自身の攻撃方法は鎌による攻撃のみと乏しい。鎌を失うと捕食した生物への変身以外何もできなくなる。

 [不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)転化無象(メタモルフォーゼ)」]
 戦闘中の相手の最も高いステータスを1分間自身のステータスに加算するスキル。バフやデバフなどで数値が可変している場合はそれらを含めた上での最も高い数値を参照する。発動には対象とする相手に触れる必要があり、効果中相手は該当するステータスが強制的に1になる(ただし、バフ・デバフによってそこからの増減は可能)。
 効果終了後は相手の数値は元に戻り、戦闘終了まで自身の該当ステータスが1で固定される(効果中の対象同様にバフ・デバフによる増減は可能)。リキャストタイムは100時間。
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