ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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55:まだまだ続くよ攻略道中

 実質的な二対二の構図ではあるが、実際にはモンスター同士は結託していない。奴らも互いに互いの行動を阻害し合うので、今の状況は連携ができる私達が俄然有利と言えるだろう。

 "毒震貴族(ロンリービート)"に"纏化無相(メタモルフォーゼ)"、どちらも厄介な能力を持ってこそいるものの、あくまで序盤のモンスターなので戦闘能力はそこまで高くない。多分だがどちらも頑張ればソロで倒せると思う。

 

「ブブブブブブ……!!」

 

「ギギギギ……ッ!!」

 

「どっちから狙う?」

「"纏化無相(メタモルフォーゼ)"!ダメージはかなり負わせてるし、消えられた時が面倒臭いから!」

 

 "纏化無相"の方が、"毒震貴族"よりも動きが単純で読みやすいということもある。とにかく敵が複数居る時は、まず消せる奴から消していって数を減らしていくのが吉。

 狙いの優先度は、既に多くの手傷を負わせている奴や元のHPが低い奴、あとは持っている戦闘能力が厄介な奴が高くなる。"纏化無相"はだいたいの条件を満たしている。

 

「アイツの行動は変身と鎌での攻撃だけ……鎌を失くさせれば行動を大きく制限できる!」

「破壊手段は!?」

「私の攻撃は全て破壊属性を持つ!」

「じゃあ任せた、私が足止めするから!」

 

 アーサーがカレドヴルッフを地面に突き刺し詠唱を始める。すると槍から伸びた影が"纏化無相"に纏わりつきその動きを封じ込めた。

 槍の耐久値を急速に消費する代わりに、対象の動きを槍が保つ間封じ込める魔法【黒禊の槍(シャドウ・エッジ)】だ。本来なら壊れるまで槍を使う魔法だが、勇者武器にはMPを消費することで耐久値を回復する効果があるためMPの続く限りは封じ込めを続けられる。

 

「このサイズと今のMP残量なら……保って20秒ってところかな!?さっさと決めちゃって!」

「オーケイ、決めるよ……「秘剣【雷電】」!」

 

 "纏化無相"が身動き取れない内に、トドメを刺すべくスキルを振り切る──が、直撃の寸前で動かれてしまい直撃には至らず。残った左腕の鎌を捥ぐことはできたが、やはり傷は浅く奴の命を斬り捨てるまでには至らなかった。

 拘束が途切れた理由は、【黒禊の槍(シャドウ・エッジ)】を使っていたアーサーが"毒震貴族"に襲われて魔法が解けてしまっていたからだ。ただでさえ近付かれるだけでも振動により身動きが取り辛くなる相手、魔法を維持していてはやられると判断して途中ではあるが離脱して回避したのである。

 

「ごめん、殺し切れなかった!」

「こっちもごめん、ていうかアイツ、私が止まった途端にこっちのこと狙ってきたんだけど!?」

 

 そりゃあそうだろう。魔法を使ってるし身動きも取れないのだから、モンスターからすれば狙い目になるのは当然だ。補助系の技ってどのゲームでもヘイトを買いやすいってのもある。

 そうこうしている内に、両腕と戦闘能力を失った"纏化無相"が逃げようとするのを、無貌を投げ串刺しにして阻止する。そのまま武器をアモルパレントに切り替えて、"纏化無相"は放置して"毒震貴族"の方へ向かっていく。刀が刺さったままではHPを削られ続けるし、鎌を失くした今奴にはもう変身する手段もない。このまま放置していても問題無いだろうという判断であった。

 

「もう一回、よろしく!」

「はいよ!【黒禊の槍】!」

 

 今度は"毒震貴族"を拘束してもらい、固まった脳天に震天の孤毒剣を振り下ろす。大剣用のスキル「パワースラッシュ」も追加して威力は十分、クリティカルで当てれば倒せるだろう……というところでまたしても邪魔が入った。

 

 ──この、カマキリ野郎……ッ!

 

 串刺しから抜け出した"纏化無相"の突進、それをスキルの発動中で他の動きが取れない状態の私はモロに脇腹に食らってしまい、思いっきり吹っ飛ばされる。孤毒剣は手から離れるし追突と落下・衝突で大ダメージを貰う散々な結果となった。

 しかし、どうやって抜け出したのか……よく見ると奴の背から"毒震貴族"のそれと同じ6枚3対の翅が生えている。鎌に写ったものに変身する以外にも変身手段があったということか。

 

 ──成る程、食ったものにもなれるのか!

 

 辺りを見回してみると、私が"毒震貴族"をぶっ叩いた時に散らばった奴の甲殻の欠片が散乱している箇所があった。部位破壊によって素材が辺りに散らばるのはこのゲームではよくあること……しかしアレらは私が破壊した時よりも、更に細かく粉々に崩れてしまっている。

 そこで予測が付いた。"纏化無相"が散らばった素材を食べて"毒震貴族"の情報を取り込み、それを元に変身したのだろうと。これまでに食ってきた小さな虫などに変身して拘束を抜け、"毒震貴族"を食べて新しい武器を手に入れた……といったところか。一部しか変わっていないのは量が少なかったからかな?

 

「ブブブブブブ……!!」

 

「ギギギギ……ッ!!」

 

「"毒震貴族"の翅か……面倒なのが増えちゃったな……!」

「いや……」

 

 ──多分、そこまでの脅威にはならないよ。

 

 コイツの戦闘方法は、恐らくだが始めにやってきた草花に紛れての奇襲が主になる。やり方は上等でもやること自体は通常種とそこまで変わらない、姿を見せている時の攻撃手段が鎌以外に無いことからもそのことが分かる。

 そんな奴が、新しい攻撃手段を手に入れたとしてそれをいきなり使いこなせるか?いや、使いこなせる訳がない。そんなことができるなら人通りの多い序盤のこのエリア、コイツの目撃情報が多数あってもおかしくはない。それが無いということはコイツは普段は潜んでいる……変身で得た能力を戦闘に使用することはないということになるのだ。

 

 ──"毒震貴族"の翅は厄介だけど、私には毒も振動も全部無効……それに奴らはどちらも既に虫の息……なら……こうするか?

 

「役割を変えよう。私が奴らを一ヶ所に固めるからアーサーはそれを一網打尽にしてくれ」

「……分かった、じゃあ任せるよ!」

 

 "毒震貴族"の羽ばたきは、振動を周囲に伝播させ範囲内の対象をスタンさせる効果がある。私には効かないので普通に動けるが、アーサーにとっては行動を大きく阻害される空間が二つもあることは相当鬱陶しいことだろう。それを利用する。

 

封虹の撃鉄(オーロラトリガー)は効果終わっちゃったけど……発動するだけならできるんだよなぁ!」

 

 震天の孤毒剣を再び取り出し、超過機構(イクシードチャージ)を起動して全身に毒を行き渡らせる。あからさまな強化を見せて2匹の警戒を促し、ヘイトをこちらに向けるためだけの見せかけの超過機構だ。

 そのまま使えてればよかったのだが、生憎と今は古虹(オーロラ)・極の反動でMPが0で固定されている。超過機構の維持にはMPを使うので、MPの無い今は発動させても1秒も保たせられないのだ。起動するだけならできるのでそれで見せている。

 

「ブブブブブブ……!!」

 

「来たな、ノコノコと……!」

 

 私を先に潰す判断をした"毒震貴族"が、翅をはためかせながらこちらへ向けて突貫する。雄蜂である"毒震貴族"に毒針は無く、大顎も既に破壊してあるのでできることは突進と翅による斬撃、ソニックブーム射出だけ。

 振動による攻撃であるソニックブームは、私には効果無しなので選択肢は前の二つ。どちらにせよ奴は接近せねばならず……その瞬間を、私は「受ケ流シノ構エ」で迎え撃つ。

 

「おらよ、ふっ……飛べ!」

「あれは……まさか、大時化!?」

 

 刀スキル「秘剣『受ケ流シノ構エ』」は、物理攻撃に対し名前の通り受け流すことで被ダメを軽減する防御スキル。ちなみに刀カテゴリのスキルだけど刀を持ってなくても使えるぞ。

 発動すれば、だいたいの物理攻撃による死を免れることのできる優秀なスキルだが……その真価は防御性能ではなくその先、攻撃を受け流した後の自身に有利になれる位置調整だ。ただ被ダメを減らすだけでなく、その後の反撃しやすい好位置への移動までがこのスキルの使い道。敵の背後を取って思いっきり背負い投げることも簡単にできる。

 

 ──イメージは……アイツの、投げ!

 

 投げ技でイメージするのは、"彼岸の徒(ウェザリング・ジュニア)"の使っていた「オオシケ」の動き。もちろんそのスキルが発動するわけじゃないし、威力も速さも奴のものとは比べるべくも無いが……それでもイメージに沿って動かした身体は、頭の中の理想をしっかりとトレースしてくれた。

 背部を無造作に掴まれ、背負い投げられた"毒震貴族"が"纏化無相"と衝突する。衝突によるダメージと互いの翅が齎す振動のダメージ、そしてスタン効果が2匹の動きを封じた。ここから奴らが抜け出すまでの短時間が絶好の攻撃チャンス……この好機を見逃すようなプレイヤーではないだろ?

 

「これでお終い……「鋭結点睛」!」

 

 しっかり追撃の準備をしていたアーサーの槍が2匹を同時に貫き、その命を刈り取った。何度か仕留め損なったりもしたが、今度こそ息の根を止められたことを世界が報告する。

 

【モンスター不世出(エクゾーディナリー)解明(クリア)!】

 

【討伐対象:エンパイアビー・セクスタ".毒震貴族(ロンリービート)"】

 

【討伐対象:ミミクリー・マンティス"纏化無相(メタモルフォーゼ)"】

 

【エクゾーディナリーモンスターが撃破されました】

 

【称号『男一匹』を獲得しました】

 

【称号『世界に紛れる刃』を獲得しました】

 

【称号『真相解明』を獲得しました】

 

【不世出の奥義「独身貴族(ロンリービート)」を修得しました】

 

【不世出の奥義「転化無象(メタモルフォーゼ)」を修得しました】

 

「終わったかぁ……はぁ、疲れた!」

「お疲れ様、その分報酬が旨いでしょ?」

 

 2匹のエクゾーディナリーを撃破し、その報酬スキルを私達は修得した。独身貴族(ロンリービート)の方はアーサーには意味無いことを知ってるけど、転化無象(メタモルフォーゼ)の方まで無意味スキルだったら可哀想だな……はてさて気になる効果はどんなものかな?

 

 ────────────────────

不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)転化無象(メタモルフォーゼ)」】

 [修得条件]

 ・ミミクリー・マンティス"纏化無相(メタモルフォーゼ)"撃破

 [発動条件]

 ・対象に手で触れている

 [効果]

 ・1分間、対象の最も高いステータスの数値を自身の該当ステータスに加算する。効果中、対象の該当ステータスは1になる。

 ・効果終了後、対象のステータスは元に戻り戦闘終了まで自身の該当ステータスは1になる。

 [リキャストタイム]

 ・100時間

 ────────────────────

 

「バフとデバフの両立か……これは中々強いんじゃない?」

「そうだね。リスクは高いけどリターンもそれに見合うだけのものはある……効果時間の短さが気になるから短期決戦用だね」

 

 新たなスキル「転化無象」の効果は、中々強そうなものであった。1分間限定だが耐久の高い相手を紙切れ同然の耐久にできるし、筋力の高い相手はひ弱なもやし野郎になる。特に対人戦なら装備の条件を満たせなくなりペナルティを食らうなんてこともあり得るので、実際には数値以上の被害を出すこともできるだろう。

 しかし、効果時間の内に決め切れなければ今度は同じペナルティを自分が負うことになる。発動する側ならある程度対策はできるだろうが……総合すると「1分で決着を着けられるなら強い」といったところだろうか。

 

「新しいスキル、エリアボスで試してみようよ」

「そうだね……ロンミンちゃん、フォスフォシエに着いたらそのまま水晶巣崖まで行くの?」

「うーん、時間的に……行けなくはないかな?」

「じゃあさ……ついでだし、そのまま水晶巣崖まで攻略しておかない?私の方は明日はオフになってるし時間大丈夫だからさ」

 

 アーサーからの提案に、私は勿論構わないと二つ返事でオーケーを返した。せっかく和解して一緒に平和的に遊べているのだ、お互いまだまだ時間があるなら使わなきゃ勿体無い。今後も一緒に攻略する機会はあるだろうが、最初の一回というのは特別なものなのだから。

 

「よっしゃ、なら今日はオールでいこう!」

「そんなに長くは掛からないと嬉しいな……!」




 想定していたよりも呆気なく終わった。
 "纏化無相(メタモルフォーゼ)"は変身していない時に倒さないと固有の素材をドロップしないが、不世出の(エクゾーディナリー)スキルは変身している時に倒しても修得可能。

【世界に紛れる刃】
纏化無相(メタモルフォーゼ)"撃破で貰える称号。

【真相解明】
纏化無相(メタモルフォーゼ)"を他のものに変身していない時に倒すことで貰える称号。
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