ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「ツルハシそんなに要る?」
「前に"
樹海窟のボスを撃破し、フォスフォシエに着いた私達は水晶巣崖攻略のためにアイテムの補充や装備の修復を行っていた。
今回の目的は蠍や鉱石ではなく、水晶巣崖のどこかに埋まっているエクゾーディナリーモンスターFM'sクリサリス"
「そんなに入念に準備したら、ヌルゲーになってつまんなくなりそうだけどねぇ」
「私は人生縛りしてるからね。死ねないから死なないように準備をするのさ。それに水晶巣崖はそんな怠けたこと言ってられるような、ヌルい場所じゃないことはアーサーも知ってるでしょ」
水晶巣崖の鬼畜さには共感してもらえたが、人生縛りの話については首を傾げられた。そういえばアーサーは知らなかったか……
縛りの内容を説明するも、あまり理解や共感を得られた様子は見られなかった。まぁ死ぬ度にアカウントごと作り直しなんて、面倒臭い真似普通はやろうと思わないよねその気持ちは分かる。
「……行こっか」
「……そうだねぇ」
……
…………
………………
…………
……
「あれ、崖登らないの?」
「ちょっと先に人探しをね。
「あー、そういえば関連あるんだっけ……」
「そういうこと」
水晶巣崖に行く前に少しだけ寄り道。
以前にサンラクから聞いた、喪失骸将と黒死の天霊のそれぞれのドロップ武器を手に入れることで解放されるユニークシナリオと、そのクリア報酬である彼が持っていた大剣の話。エクゾーディナリーでそれを再現できないかを試したいのだ。
私は喪失骸将とはまだ出逢っていないし、黒死の天霊も"
「エクゾーディナリーでしょ、レアモンよりレアなのにそんな簡単に出逢えるかなぁ?」
「イケなくはないんじゃない?私はまだプレイ始めてから2週間程度だけど、エクゾーディナリーと出逢ったのはもう6種類目だよ」
「2週か……え、2週間、え?」
「結構出逢えるもんだよ」
自分で言ってて思ったが、まだシャンフロ始めてそんだけしか経ってないんだなぁ……時が経つのは早いようで意外と遅い。
「でも、今回は少し手こずってるね」
「まぁ、そもそもの喪失骸将自体がレアモンスターだからねぇ」
探し始めて結構経ったが、エクゾーディナリーどころか通称種の喪失骸将にすら出逢えない。というかそもそもアンデットの湧きが悪い……レベルも結構上がってきたし、刻傷とかその他色々とアンデット特攻の効果も持ってるし、そのせいでモンスターに避けられてるのだろうか?
とか思っていたが、アーサーによるとどうやら私達の他にもプレイヤーが居るらしい。戦闘の残骸と思しき物を見つけたそうだ。既に戦闘を始めているそっちの方に注目が集まるのは確かに自然、確かにこっちにモンスターが全然出てこない理由としては適当かもしれないな。
「探して近付いてみる?もしかしたらお目当てと戦ってるかもしれないよ」
「そんなマナーの悪い……まぁ、このまま闇雲に探すよりはまだマシだけどさ」
ただ歩き回るよりはマシかと、アーサーの案を採用することにした。他人の戦闘に勝手に割り込むのは流石にマナーが悪いが、近くにいるモンスターのご相伴に預かるくらいなら、まぁ……いいか?
そこまで距離は無かったようで、戦闘の余波を探しながら歩いていくとアンデットとのエンカウントが少しずつ増えてくる。まだお目当ては見つからないがこの数ならいつかは……そんなことを考えているとプレイヤーが一人、私達の方向へ吹き飛んでいくのを発見する。
「大丈夫かい、何かあった?」
「た、助かった……ありがとう」
予測はできるから別に構わないのだけど。口を噤んだことや早々に戻っていったことから、レアで強力なモンスターとの戦闘中かな?確かにそんなのなら他人に渡したくはないよね。
「ロンミンちゃん、ここは後を着けるべきだよ」
「その心は?」
「今のプレイヤー、結構上等そうな装備を着けてた割には大きくぶっ飛ばされてたし……このエリアには、そんな強力な吹っ飛ばし攻撃ができるようなモンスターは私が知る限り居ない。だけどそれが実際やられてるってことは……だよ?」
「それができるモンスターがいる。ただのレアモンスターかエクゾーディナリーかは知らんけど」
加勢が要るかもしれないし、既にやられていて私達に順番が回ってくるかも知れない。実際どうなるかはともかく行ってみるべきだと、アーサーの言う言葉に従って動く。
いったい誰が、何と戦っているのか……その様子を捉えるのにそう時間は掛からなかった。
【モンスター
【討伐対象:
【参加人数:7人】
【エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されます】
「まさかのお目当てそのもの!」
「これはラッキーだねぇ!」
「だ、誰だ!?」
「どっかで見たことあるような気が……」
喪失骸将"綺憶喪失"……戦っていたのは何の偶然か探していたモンスターであった。
首から上に黒炎が吹き出して失くした首の代わりに頭部を形成し、脚部は騎馬と完全に一体化してまるでケンタウロスのようになっている。利き腕であろう右腕には重厚な大剣を持ち、左腕には首を掴まれ踠き苦しむアンデットが握られていた。元を知らないから大したことは言えないが、結構な変質をしているのであろうことはよく分かる。
「あんた、確か黎桜ちゃんの配信に出てた……」
「分かる?あいつ私達が探してたモンスターなんだよね、一枚噛ませて貰っても良いかな?」
「……ガル之瀬、どうする?」
「……俺達の目当てはスキルだ、全員修得なんだから何人増えようが別に構わん。足手纏いにさえならなければそれでいい」
元パーティからの了承も貰えたし、彼らのパーティにそのまま加入して共に戦う。既に結構な時間戦っているようだが、まだ"綺憶喪失"が瀕死となるような様子は見られない。流石にこの辺まで来ると相当タフに設定されているようだ。
にしても、こいつらも黎桜の配信のこと知ってるんだなぁ……今や日本一勢いのある配信者になってるとはいえアイツも……それに付随して私も有名になってしまったものだ。そのおかげか色々と話が早くて助かったのだけども。
「良いのかよ?あのロンミンはともかくとしてもう一人の方は悪名高いアーサー・ペンシルゴンだぜ?大戦じゃ敵になる相手だ、下手に戦力を与えたら碌なことにならな……」
「今は善意の協力者だ。それに……敵は強大な方が面白いだろ?ロンミンの方は黎桜ちゃんの一味なら俺達の側だしそっちも問題は無い」
「まぁ、お前が良いなら良いけどよ……」
「突撃来ますよ、対応用意!」
リーダーらしきプレイヤー「ガル之瀬」と、その取り巻き達がコソコソ話をしているのを待たず"綺憶喪失"の突進が襲い来る。
私とアーサーが跳んで避けると、元々のパーティの一人……「もやパン」が両手に持った二つの大盾でその攻撃を正面から受け止める。そうして動きが止まった一瞬を見逃さず、ガル之瀬とその他3人が一斉に追撃を仕掛け手痛いダメージを与えた。
──あんな連携できるなら、私達が加勢する必要は無かったんだろうけど……
思ったが、せっかくおこぼれに預かれるのなら寄生するのではなく活躍もしてやらねば。彼らは不世出の奥義を目当てにしているようだが、私の目的はコイツの落とすアイテム。交渉の余地を作るためにも彼らには「私達がいてくれて良かった」と、そう思わせる必要がある。
そのためにはどうするか……街一つを経由してリキャストの終わったアイテム達を駆使して、速攻でこの戦闘を終わらせる。再び
「アンデット特攻の浮遊剣……試し斬りにはもってこいの良い的だ!」
アルテミスで回復空間を作り、ディアナを射程強化で"綺憶喪失"の股座を潜らせるように刃を通し目一杯高くぶん投げる。
ケンタウロスに空中で移動ができる能力があるなら見てみたいものだ、そんなことを思いながら自由落下する"綺憶喪失"に追撃を加える。着地なんてヌルい真似はさせない、奴が再び地面に着く前にその命を根こそぎ削り取ってやろう。
「いくぜ、
"
「……!!」
「おっと、その攻撃は見え見えだぜ!」
こちらの攻撃の間にも、"綺憶喪失"は馬の脚での蹴りや大剣のぶん回しなど、できる範囲での反撃を仕掛けてこようとする。それを的確なタイミングで邪魔をしてキャンセルするのが、金冥の浮遊剣に私が課した役割の一つ。アンデットに対し特攻を持つこの剣は"綺憶喪失"の行動をより高い優先度で塗り潰し防ぐことができる。
そしてもう一つの役割は……よし、ディアナもアルテミスも合体ゲージが溜まり切った!
「合体、【輝晶弓ディア=ルミナス】!」
金冥の浮遊剣のもう一つの役割、それは発射までに少し時間の掛かる必殺技『
人部分の脇腹を蹴り飛ばしぐるりと体勢を90度変えさせ、馬部分の脇腹に浮遊剣を貫通させてそのまま地面まで降下──横向きに磔にして一切の身動きを禁じる。踠き続ければどこかのタイミングでいずれは脱出されるだろうが、それよりも私の準備が終わる方が断然早い。最強の一矢を放つべく堅い弦を力一杯に引き絞っていく……
「こりゃー、私の出る幕なさそうだねぇ」
「スゲぇな、"綺憶喪失"がお手玉だったぜ」
「……」
「おいガル之瀬、巻き込まれる……ッ!」
月女神の光矢を発射する直前、ガル之瀬が急加速して"綺憶喪失"に近付きその手に持った大ぶりな刃の片手剣で頭を斬り潰した。衝撃で地面が砕け磔にしていた身体が飛び起きる。
巻き添えになるので弦を解いた私や、他の見守る面々を尻目に、ガル之瀬は勢いそのままに刺していた浮遊剣を抜き取ると、それを先の一撃で黒炎の消えた頭部目掛けて振り下ろす。妨害や足止めのためではなく、完全に殺す気で振られた刃……アンデットに対する絶対的な強さを誇る金冥の刃が、下の馬部分ごと"綺憶喪失"を両断した。
「手柄を独り占めしちゃあ……ダメだろ」
「ごもっとも」
【
【討伐対象:
【エクゾーディナリーモンスターが討伐されました】
【称号『決して届かぬ手』を獲得しました】
【称号『消エタ想イ』を獲得しました】
【
──終わった、か……
途中参加だったということもあり、思っていたよりもあっさりと決着は着いてしまった。これアイツの武器ちゃんとドロップしたかな……してたとして手に入れるための交渉できるかな……
取り敢えず、古虹を解除して着地し元のパーティの人達にお礼と労いを述べる。彼らとしてもまだまだ今後の大戦のためにエクゾーディナリー狩りを継続したかったそうで、1匹1匹に掛ける時間を削減できて良かったとお礼を返された。突然の飛び入り参加ではあったが役に立ったなら何よりだ。
「ありがとう。おかげでもう一匹くらいはエクゾーディナリーを探しに行けそうだ」
「こっちこそ、まさか偶然目当てのエクゾーディナリーと出逢えるだなんて思ってなかったし」
「私は何もしないでもスキル修得できたから、完全に得しただけだったねぇ」
「……アイツの持ってた剣、アレが目当てで私達は喪失骸将のエクゾーディナリーを探してたんだ。ドロップしてたならそれが欲しいんだけど……そのために出せるものはあるかな?」
話を持ち掛けてみる。ガル之瀬がインベントリを開いて調べてみると、確かにそれはあった。名前は『"
「……朽ち果ててるな」
「修理すればまた使えそうじゃね?」
「きっと強い剣になるぜ」
「……だが、そのために必要な素材もまだ分からんし修理にも時間を掛けるだろう。本番に間に合わないなら今は無用の長物、か」
そこまで言うと、ガル之瀬は大剣を私に向けて無造作に投げ渡した。所有権がそのまま移動する。
「良いの?」
「時短の礼だ、問題無い。対価を渡したいと思うのなら……次のイベントで活躍してくれ」
──次のイベント、か……
ガル之瀬達は去っていったが、彼らの言うイベントとはつまり今後行われるとされるPvPイベントのことなのだろう。ガル之瀬は確か配信者だったから奴らの連合軍、新王派として戦えと。
「……黎桜もあっち側だろうし、そうなるか」
「じゃあ、王国騒乱イベでは敵同士だねぇ」
「アーサーは旧王派か。嫌だなぁ……絶対碌でもないことばっかりやらかすでしょ」
「一応、今回は私にも負けられない理由がそれなりにあるからねぇ。真剣に勝たせてもらうよ」
──下らない内輪揉めなんかより、さっさと攻略進めたいんだけどなぁ……
思っても口には出さない。今回借りを作ってしまったし、逃げようとしたところで黎桜に否応無く巻き込まれることが分かり切っているからだ。今からもう観念して心の準備をしておくのが吉だろう。
「目的は達したし……改めて、行きますか」
「そうだね、根こそぎ掘り起こしてやろう!」
【"
・首部の切断時に補正の乗る通常種のドロップと違い、こちらは頭部への攻撃時に補正が乗る。頭部にならどう攻撃しても補正を受けられるが、その数値自体は通常種のドロップより低い。
・レア度の高い鉱石類を素材として、名匠以上の鍛冶師が修理することで、本来の姿である【炎斬『溶命』】の名を取り戻す。
【炎斬『溶命』】
・"綺憶喪失"の断命剣が本来の姿を取り戻したことで変化した新たな名前。強化前の頭部への攻撃補正はそのままに、更に攻撃した対象に黒炎による追加ダメージを与える効果を得た。
【???】
・炎斬『溶命』、