ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「久しぶり……って程でもないか。あの時の仲間は居ないけど、もっかい遊びに来てやったぜ!」
「…………!!」
「…………!!」
"
火蓋を切ったのは、この水晶の地にただ1匹取り残されたアーマードカブトムシ"
「いきなりご挨拶だな!」
「…………!!」
"戦災孤児"の放った開戦の砲撃。それを私はフォーミュラ・ドリフトで横滑りして回避し、"皇金世代"は聖剣で正面から受け止める。
自慢の砲撃を簡単に凌がれた"戦災孤児"は、効果無しと判断するや肉弾戦に切り替えた。硬い甲殻を持つ奴の肉体は斬撃には高い耐性を持つだろう、有効な手段であることは間違い無い。剣鋏を普通に使っても効果は薄いと判断した"皇金世代"は手首を180度捻転させ峰での殴打に切り替え、私もハンマーの
「さて、どっちから狙っていくか……」
面倒なのは"皇金世代"の方、しかしコイツを先に倒すとコロシアムの外縁を囲う蠍達が仇討ちに走るのでなるべく後回しにしたい。しかし剣鋏と聖剣での柔軟な戦い方をする今の状態から、苛烈にはなるが動きが単調になり隙も大きくなる
"戦災孤児"の方は初見のモンスターだが、見た目もやることも今のところ"
「袋叩きにしてやるぜ!」
"戦災孤児"を"皇金世代"の正面に回すようにして立ち回り、挟み討ちの形を取る。ヘイトは目の前に居る"皇金世代"に受けてもらって、私は背後から悠々とハンマーを叩きつけるのだ。
とは言え、勿論だがそんな簡単にいけるような相手なら苦労は無い。戦闘に特化した肉体を持つ2匹によるガチンコ対決はとても激しく、そう簡単に割り込みには行けないのだ。機会を窺っていると後ろ脚で蹴りを仕掛けてくるし、避けられた剣鋏がこちらに飛んで来ることもあるから。
──狙うのは、"戦災孤児"が力負けした時……
割り込むタイミングは、"戦災孤児"が取っ組み合いをして負けた時や"皇金世代"の攻撃に直撃して怯んだ僅かな隙のみ。どちらが勝つかの確率は後ろから見ている限り半々くらいか、改めて考えると水晶巣崖の皇帝と真っ向勝負が成立するコイツの強さはおかしいな?
「うひー……迫力が凄えや」
"皇金世代"と"戦災孤児"が同時に突進し、互いの頭部を相手へぶちかます。頭突きの威力自体は互角のようだが、"皇金世代"は組み合う剣鋏を側部へ突き通し甲殻を貫き。"戦災孤児"はチャージした月光砲を撃ち放って黄金の水晶を砕き割る。
痛み分けとなった2匹が離れ、ダメージに怯む隙を突いて、ハンマースキル「クエイクスタンプ」を"戦災孤児"の背部へ叩き込む。この攻撃によるダメージはそれ程でもないだろうが、繰り返せば甲殻を破壊して、柔らかい内部の肉を露出させられるはずだ。継続は力なり、塵も積もれば山となる。
──1発入れたら、次は逃げるターン!
"皇金世代"の方に向いているヘイトも、この時だけは私が取ることになる。なので1発攻撃を入れたら次は反撃を凌ぐターン、"皇金世代"が復帰してくるまで最小限の傷で耐え抜く。
図体のデカさの分、攻撃も大振りになるので避け難いようなものはあまり無いが。それでも当たれば相応に痛いし、常にフルスイングされると掛かるプレッシャーも大きい。復帰した"皇金世代"のエントリーにも注意を払わないといけないし、考えることは結構多いのが難しい。
「…………!!」
「……ッ、器用な真似してくんなぁ!」
角での突き上げ、6本の脚から繰り出す蹴り、体格を活かした面積の広いタックル。恵まれたフィジカルで行う肉弾戦の合間にも、"戦災孤児"は月光を溜めて砲撃を放ってくる。
しかも、今回のは途中で拡散させることでより広範囲を攻撃する散弾タイプ。被弾した時に一瞬怯みモーションが入るせいで、アレを喰らうとより痛い"戦災孤児"の肉弾攻撃を避けられなくなってしまうという無視できない問題がある。
──アーサーの奴、ちゃんと避けられてるかな?
当たる訳にはいかないので、
"戦災孤児"と戯れながら、目線をチラリと"皇金世代"の方へと向ける。すると既にぶっ飛ばされてから復帰はしているようだが、こちらへ向かってくる様子は無く。剣鋏で聖剣を挟むように構えるその姿はまるで、達人が鞘に納まった刀の柄に手を当てて抜くべき時を待っているかのような……
「やっべ……!」
剣鋏と聖剣が擦れ、ギャリギャリという金属音が響き渡る。研ぎ澄まされし刃が狙うは当然"戦災孤児"、そしてそれと戦う私。
脱力の反動、解き放たれし聖剣は"皇金世代"本体を軸にしてコマのように回転し、辺り一帯の刃に触れるもの全てを薙ぎ払いながらこちらへ迫る。あんなものを受けてはひとたまりも無いし、封城の撃鉄のバリアも容易く斬られるだろう……それこそ障子紙でも刻むかのように。
──
オート回避するスキルはある、しかしアレはギリギリの挙動をするので"戦災孤児"も居て散弾が降り注ぎ瓦礫が舞い散る今の戦場では使えない。攻撃判定があるものが多過ぎて、肝心の今避けたい攻撃に対して効果を発揮しない可能性が高いからだ。
見切りができるスキルは、レベルアップで視覚強化の
──だったら……!
流石に脅威と感じ取ったか、空を飛んで避けようとする"戦災孤児"の脚を掴む。そして使えるだけのバフスキルを全て発動し、高まりに高まった膂力を以て飛びあがろうとするその巨体を、水晶の地面へ投げ叩きつけた。
すかさず地面を砕いて埋まる巨体の影に隠れ、その甲殻を盾として聖剣の一撃を防ぐ。互いの剣と盾が触れ合う瞬間の衝撃、メキメキ……という斬るというよりは圧し潰すかのような異音。"戦災孤児"の命に突き立つ黄金の刃は、その勢い留まることを知らず振り抜かれ──その右半分を消し飛ばした。
「危なかった……死ぬトコだったよ」
──"戦災孤児"もまだ生きてるか。両断されてんのに何てタフネス……
驚くべきことに、真っ二つにされているにも関わらず"戦災孤児"はまだ生きていた。風前の灯で放っておいても近い内に死ぬだろうが、それにしたって凄まじい生命力である。
しかも、ここまでされて尚もその目線は己を傷付けた私と"皇金世代"に向いている。死にかけの癖に戦意が全く衰えていないのだ。
「…………!!」
どこまでもその無機質な眼は、真っ直ぐな殺意を伴って敵対する者を見つめている。そして残った身体で最後の力を振り絞り反撃に出た。
月光砲をチャージしつつ、左脚3本をジタバタと動かして私の動きを牽制。下手に触れれば吹き飛ばされてしまうので、注意深く隙を探ってその合間を狙い攻撃を通していく。武器は一点への攻撃がしやすいように蛇槍『金剛牙』に変更済みだ。
息継ぎの間もなくジタバタと動いているが、その実まだ理性が残っているようで、それぞれの脚同士がフレンドリーファイアを起こさぬように注意を払いながら動かしているのが分かる。
激しい動きに惑わされそうになるが、冷静に見れば攻撃を通せる隙間はそれなりにある。魔眼の力で視覚を強化して動きを正確に捉え、適切なタイミングを見つければそこを逃さず突く。
「…………!!」
「その脚、貰ってくよ!」
脚の付け根に槍を突き立てると、その切先が持つ壊毒が傷口より浸透し本来なら破壊できなかった部位の破壊を実現する。根元から3本の左脚をそれぞれ腐らせ崩壊させ、ジタバタと動く足掻きすら封じた上で更にもう1発──以前の攻略でも世話になった突きスキル「バンカード・ピアス」を、もう守るものの何も無い横っ腹へ向けて撃ち放った。
壊毒によって侵された腹部は、水晶の甲殻程の硬さは無くずぶりと気持ち良く槍を通す。腹から頭と胴の付け根へと毒槍が貫通し、風前の灯である命を完全に消し去ろうとする。
もはや、おとなしく死ぬ以外の選択肢は残されていない状況──それでも"戦災孤児"は月光のチャージを一時たりとも止めることは無かった。
溜めて、溜めて、溜めて──全ての力を振り絞った1発を撃ち放つと、その肉体はポリゴンの欠片となって爆散。完全に消失する。
「…………!!」
「打ち返すつもりか」
"戦災孤児"の最期の砲撃が向かう先、"皇金世代"は聖剣を構え迎え撃つ態勢を取る。バッターボックスに立つ野球選手のように、頭上でプラプラと聖剣を構えながらタイミングを待ち、ドンピシャで反射させて私の方へぶつける心算りなのだろう。
果たしてその目論見は、まさに野球ならばホームランで決まっただろうという完璧なタイミングでのスイングを見せた。このまま砲撃を跳ね返して私を倒し戦闘を終わらせる──そんな青写真を描いているのだろうが、そんな皮算用を確実に失敗に終わらせる切札がまだこちらには潜んでいるのだ。
「アーサー、今だよ!」
「ようやっと……出番だねぇ!」
砲撃を跳ね返そうとするスイングの瞬間。虚空から突如として現れた黄金の槍が、"皇金世代"の聖剣を半ばから貫き地面に縫いつけた。突然の妨害に迎撃は失敗し、"皇金世代"は聖剣を振りかぶるべく身体を開いていたこともあり、無防備となった胴体に砲撃の直撃を受け大きく吹き飛ばされた。
同時にここまでの戦闘中ずっと、存在感を隠し潜んでいたアーサーが姿を現す。アーサーには私のアクセサリーの一つ、装備することで透明化と不意打ちのダメージに補正を掛ける【
"戦災孤児"をコロシアムに誘導する時、突入前にやっておいた仕込み。前回の対決で"皇金世代"が相当タフであることを知っていたので、さっさと
聖剣の耐久力もまた相当なものだが、アーサーの持つ勇者の槍は耐久力や防御を無視して攻撃できる装甲貫通能力がある。それにバフを乗せて威力を上げた上で攻撃すれば、一撃とは言わずともかなりの速さで聖剣を壊せると踏んでいた。一撃で成功したのは嬉しい誤算であったが。
「ロンミンちゃん、終わったら約束通りあの聖剣は私が貰ってくからね!」
「勿論、それは破壊者の権利だよ……ここからが本番だから気を引き締めて、アーサーも狙われるようになるんだからね」
"皇金世代"の剣鋏が弾け、両腕と尻尾の先から内に溜め込まれていた月光が光の刃となって激しく流れ出す。
ここからが正念場。激昂月状態は攻撃が単調になるがその分速さも手数も上がり、攻勢が激しくなるため掛かるプレッシャーが大きくなる。どこの攻撃を受けても即死というのは、対処しやすいと分かっていても多少の緊張感をもたらすものなのだ。
「…………………………!!」
「行くよ、アーサー!」
「勝って気持ち良く終わろうじゃないの!」
"