ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「ほう、『銀色鉄鉱』と……どうやらこいつは当たり枠のようだね!」
「ふっ……甘いな。俺はさっき『金色鉄鉱』を引き当てたぜ」
「いやいや、一番の当たりは『沼棺の化石』以外あり得ないっしょ」
「……地中に埋まってるモンスター」
第二の街『セカンディル』の隣接エリア『四駆八駆の沼荒野』にて、私は目的を同じとするビギナー達と共に鉱石採掘に勤しんでいた。
ログインしたのが14時ぐらいで、セカンディルに着いたのが15時くらい、そして今の時刻はだいたい22時くらい。実に7時間近くもこのエリアに留まっているのである。レイド参加のためにサードレマに向かうのはどうした、私よ?
「あー……石掘りたのしい……」
──確実に何か忘れてるけど、ま、いいかぁ……
そう、採掘の楽しさにどっぷりハマった私は目的をすっかり忘れてしまっていたのだ。汗水垂らしてツルハシで鉱床をぶっ叩き、毎回のように出てくる石ころの中からレアな鉱石を見つけ出す。その瞬間が本当に嬉しくて楽しくて、気付けばこんなにも時間を費やすことになっていた。
STMが高いからいくらでも掘れるし、LUCが高いからレア鉱石も出てきやすい。己のステータスに完全に足を引っ張られてしまっているが、レアを引き当てる快感に溺れる私は気付かない。このまま今日一日カセキホリダーして終わろうか……そんな考えを現実に引き戻す事件が起きる。
「ん、何だこれ……蛹?」
「なになに、レア引き当てたん?」
「見せて……虫の蛹の化石か?」
「へぇ、こんな化石もあるんだなぁ……ん?なんかそれ動いてないか?」
あるプレイヤーが引き当てた虫の蛹。珍しい物を見ようと集まった周りのプレイヤー……その内の一人がそれが化石ではないことに気付く。化石なんかじゃない──そいつは生きている、と。
「な、何じゃあ!?」
「蛹が羽化しやがった!レアモンスターだぁ!」
「何だよあのカブトムシ!見たことねーぞ!?」
「全員、戦闘準備ー!」
【レアモンスター・エンカウント】
【『FM'sクリサリス』LV:88】
【参加人数:12人】
【戦闘を開始します】
蛹はぶるぶる震え出すと、その勢いを急激に強めながら外殻を破り中身を露わにする。蛹から解き放たれ羽化したのは巨大なカブトムシ……それこそ私達がいるこの洞窟を、着地した衝撃だけで崩壊させ夜空の下に晒す程に。
名前は『FM'sクリサリス』……フォッシルマイナーズってのはどっかのクランの名前か?余計なモン掘り当ててくれやがってちくしょうめ。こんな序盤からレベル90近いモンスターに遭うなんて、そんなの想定できる訳ないだろ。こちとら全員もれなくカセキホリダーだぞ。
「戦うぞ、みんな!あいつをぶっ倒せば希少素材と経験値がきっと旨いぞ、あんなにレベルが高いなら良いもの落としてくれるはずだ!」
「よ、よっしゃあ!」
「そんなの、やるしか無いじゃないのよ!」
「ぶっ殺してやる!」
──生きてる奴は全員乗せられたかな?
ここはもう良い方に考えよう、ここにいるプレイヤー達はだいたいレベル20前後、対するクリサリスはレベル88。これだけ差があるなら多人数で分けても相当な経験値が入るはずだ。レアモンスターだから素材にも期待が持てるし、それならもう戦って勝つ以外の選択肢は無い。
洞窟の崩壊に巻き込まれながらも、生き残ったのは私を含めて12人。これだけの数が揃っていればきっとどうにかなる……する。せっかくの楽しい時間を邪魔してくれたのだ、その報いは奴の身体で余すこと無く支払ってもらおう。
「ヘイトは私が引き付ける、ハンマー組はその間に固まって一斉攻撃の準備!準備ができたらそっちに持っていくからひっくり返してやって!」
「おう!」
まずはこの場で最も軽い私が、避けタンクとしてヘイトを引き付けて時間を稼ぐ。カセキホリダー達は当然採掘目的でここにいるので、戦闘の用意なんて碌にしていない。だからまずは戦える状態を作ってもらう必要がある。
傭兵の鉄刀を抜き放ち、蟲野郎の鎧の如き甲殻の隙間──関節部に攻撃を入れる。予想通りそこは大した硬さじゃないようで、蟲野郎は豚のような悲鳴を上げてこちらへ視線を向けた。
──引き付け成功。さて、いったいどんな攻撃パターンなのやら。
見た目から予想するなら、ヘラクレスオオカブトみたいだし角による突き刺し攻撃とか、巨体を活かした突進や押し潰しなどはあるだろう。飛ぶことも姿が想像できないけど一応できると仮定して、モンスターらしい未知の攻撃手段も警戒する。
先制攻撃を食らわせてやったことで、蟲野郎のヘイトは私に向きこちらへ反撃を仕掛けてくる。巨体には見合わない細い脚に地面が凹む程力を込め、踏み込む反動で一気に加速。避けようなどと思う間もなく鋭利な鋒が眼前まで迫る。
「おーらァ……よっと!」
回避は間に合わない、なのでスキル「ジャストパリィ」で成功率に補正を掛けて突進を弾く。より正確に言うのなら、武器で突進の軌道を逸らすことで自分に当たらないようにする。
明後日の方向へ飛び出した蟲野郎は、速度を殺すことなく岩山に激突し大地を大きく揺らす。角を引っ掛けて行動不能になってくれれば良かったが、そんなこともなく奴はこちらへ振り返った。
「ピイイイイイィィィィ!!」
「スライドステップ!」
再びの突進、それを「スライドステップ」で躱しすれ違いざまに反撃を一挿し。武器も弱いしSTRも低い私の攻撃ではカスダメにしかならないが、それでも弱点部位へのクリティカルは怯みやすさに補正が掛かるのか蟲野郎は小さく怯む。
「スパイラル……エッジィ!」
「キィアアアアアァァ!!」
怯んで突進が中断される、その隙を逃さず頭部と胴体の隙間へスパイラルエッジ。ガキガキと生物とは思えない金属音が響き、蟲野郎の関節に少しずつ刃が刺し込まれていく。ダメージを表すエフェクトが少量傷口から飛び出るが、HP的には数%削れたかというところだろう。
繰り返せばいつかは倒せるだろうけど、そこまで集中力が保つ気がしない。早期に決着を着けるためにも協力はやはり不可欠……あいつらの準備はどうなっているだろうか、後ろを見やる。
「準備できたぞ、いつでももってこい!」
「オーケイ!そっち連れてくぞ!」
「キイィ!!」
「オーライ、オーライ……今!」
どうやら準備は終わったようだ。一塊になったハンマーを持つ集団の前に蟲野郎を誘導し、後衛の魔法職によるバフをあるだけ受けた大鎚の一撃で奴をひっくり返してやる。
背中や頭部は硬い甲殻に守られていても、腹部はそうじゃないだろう。恐らくは関節以上の弱点となっているだろうそこを、数の暴力で徹底的に叩いてHPを一気に削り切る作戦。
「息を合わせて……パワースマッシュ!」
「ピキィ……ッ!!?」
振り下ろしのパワースタンプ、ぶん回しのパワースイングに続く、カチ上げ攻撃の「パワースマッシュ」による同時攻撃で、蟲野郎の身体をひっくり返すことには成功。あとはちゃんと腹部にダメージが通るのかだが……
「……ビンゴ!一斉にかかれー!」
「うおおおぉぉ!」
「腐れ蟲野郎ぶっ殺したる!」
「潰せ潰せ潰せえー!」
目論見は大成功。やはり腹は柔らかくダメージがすんなり通る弱点部位となっていた。転倒し大きな隙を晒す蟲野郎に全員が一斉にかかる。
その間、私は近接組に巻き込まれないように角や翅など破壊できそうな部位を狙う。こういう硬かったり狙い辛かったりする部位を壊せば、追加報酬が手に入るのが相場。どちらも壊せればここで削り切れなくても弱体化させられるし、どこでも好きに殴れる今こそが絶好の好機。
「起き上がった!」
「ちくしょう、削りが足りなかったか!」
「飛んだぞ!?あの巨体で飛べんのか!?」
「任せて、私達で撃ち落とすわ!」
多くのダメージを与えられたが、レベルの差は大きく蟲野郎は復帰を果たす。そのまま大きく翅を広げて空へ飛び立ち、私達を押し潰さんとしているのか照準を合わせ始めた。
接地しなくなったことで転がすことはできなくなり近接攻撃も届かなくなったが、今度は空を飛んだことで腹を無防備に晒すことになる。その隙を見逃さなかった魔法職達の全力攻撃によって、腹に集中砲火を受けた蟲野郎は瞬く間に撃墜される。
「次こそ削り殺ーす!」
「ラストアタックはもらったあああ!」
「とおりゃあああああぁぁァ!」
「っし、角破壊完了!息の根止めるぞ!」
地に堕ちた蟲野郎へ、低レベルカセキホリダー達のラッシュが再び襲う。自慢の角はへし折れ甲殻もボロボロにされ……二度目の突撃でようやく奴のHPを0にすることに成功した。
命を維持できなくなった蟲野郎が、ポリゴンの塊となって霧散する。戦闘終了を伝える文字列がウィンドウに表示され、私達はジャイアントキリングの成功に喜び勝鬨を皆で上げた。
【『FM'sクリサリス』撃破!】
【経験値が加算されます】
「倒した……!」
「よっしゃあ、やったぜ!」
「ほらロンミン、あんたがパーティリーダーでしょ勝鬨上げちゃって!」
「あ、私!?よーし……」
急かされるままに拳を握り、掲げ──
「レアモンスター撃破、お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様でしたあっ」
──私に続き拳を上げた仲間達が、突然の大爆発に巻き込まれて死んだ。
「は……?」
「……呆けてるな、みんな!新手が来たぞッ!」
【ユニークモンスター・エンカウント】
【『夜襲のリュカオーン』LV:165】
【参加人数:4人】
【戦闘を開始します】
──うっそだろ、マジかよ!?
「ここで、ユニークモンスター……!?」
「ヒッ……こ、来ないでえッ!」
ユニークモンスター、シャンフロ世界においては『七つの最強種』と呼ばれる特別なモンスター。その内の1体がこの夜襲のリュカオーンだ。まさかこんなところで出逢えるとは、ゲームを始めた頃には想像もしていなかった僥倖だ。
早速挑む……つもりだったが、奴の目線は私ではなく後衛の魔法職プレイヤー達を向く。あの奇襲で私以外全員爆散──私自身小さな祝福の食い縛りが発動するなど壊滅した前衛よりも、離れた場所にいて被害を受けなかった後衛の方が奴にとっては関心のある相手だということだ。
──クソ、舐めやがって……ッ!
「ふぁ、【ファイアーボール】!」
「【マジックエッジ】……!なんで、なんで効かないんだよォ!?」
「あ……ああ、あ……!」
「たすけっ」
一人、二人とやられていくプレイヤー達。最後に残った一人がリュカオーンの牙に今まさに食い千切られんとするその瞬間に、回復を済ませた私による救助がどうにか間に合った。既にやられてしまった人らには申し訳ないが……
FM'sクリサリスを倒して得た経験値で、私のレベルは15→20までアップした。合計6レベル分のスキルポイント120は全てAGIに丸投げ、急上昇した速度でリュカオーンの喉元へ「辻斬り」を食らわせてやる。相手がこちらに気付いていない時・またはヘイトが向いていない時に、斬撃攻撃に威力補正を掛けるスキル。
「やってくれたな犬畜生、おめーの相手は私だ!」
「グルルルルゥ……!!」
「すいません、あいつはぶっ殺してやるんで魔法で援護よろし……いねえ!?」
「ゴアァ!!」
どうにか守れたプレイヤーに対し、再びの協力を求めるもその姿はどこにも見当たらず。逃げた形跡はどこにも無し……まさか恐怖で脳波が乱れて強制ログアウトさせられたか。
何にせよ、たくさんいた仲間は全滅し私一人だけで挑むことになってしまった。レベル165と表記されたところを見るに、ほぼ負けイベントに等しい出逢いなのだと察せられるが……生憎、ここで巻いて逃げるような尻尾は持ち合わせていない。
「こいよ犬畜生、返り討ちにしてやるよ!」
引っ掻きを回避し、啖呵を切る。
困難に立ち向かい、その上で乗り越え生き延びてこその人生縛りゲーマーだ。私には巻く尻尾などないので、代わりに奴の尻尾をクルクルに巻いて叩き返してやろう。その人様を舐め腐ったニヤけ面を恐怖で染め上げてやろうではないか。
ユニークモンスターとの初戦闘。武器を【傭兵の鉄槍『改二』】に持ち替え、私は改めてリュカオーンとの戦闘を開始した。
ロンミン
LV:15→20
AGI:50→170