ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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60:帰るまでが遠足です

「ふう、終わったねぇ……」

「一息吐くにはまだ早いよアーサー。ここから弔い合戦をいなしつつ帰らないといけないんだからね」

 

 確かに"皇金世代(ゴールデンエイジ)"との戦いは終わった。だがこの後にはまだ、皇帝の弔い合戦に臨む水晶群蠍(クリスタル・スコーピオン)共を相手する必要がある。

 安全な街に生きて帰るまでが攻略だ。何としてでもこの場は切り抜けるぞ、幸いなことにまだ綺憶像失は無傷で残っているし、アーサーもあと一回は復活できる状態だ。

 

 綺憶像失(ロストメモリー)は復活の度に使えるスキル・魔法が減るデメリットがあるせいで、今のアーサーはほぼ素の状態と変わらない。聖槍の力である程度抗うことはできるだろうが、秩序だった動きのおかげで行動を読みやすかった儀仗個体戦や、2対1で戦えた"皇金世代"と違って、ここからは水晶群蠍本来の数と質に物を言わせる無秩序な蹂躙が行われる。

 ステータスに任せたゴリ押しは、タダでさえ厄介な上にアーサーにとっては何よりも不利を取られてしまうもの。物量に圧し潰されミンチにされるようでは一回の復活権など早々に消えてしまう……そうならぬように私が守らねばならない。色々とチャンスをくれた分はお返ししてやろうではないか。

 

 ──ん……?

 

「何か……揺れてない?」

「揺れてるね、確実に……」

 

 "皇金世代"と戦う前にも一度あった、この地面の激しい揺れ……あの時は"戦災孤児(ウォールフェン)"出現の前触れという形であったが、今回は何か。

 激闘の中で発生したいくつかの地割れは、深く深く水晶巣崖の地の底まで続いている。またしてもFM'sクリサリスが現れるのなら、そろそろ出てきても良い頃だが……果たして?

 

【モンスター不世出の発見(ディスカバー・エクゾーディナリー)!】

 

【討伐対象:FM'sクリサリス"輝晶点穴(クリスタルメモリー)"】

 

【参加人数:2人】

 

【エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されました】

 

 ──キターッ!

 

「お目当て、来たー!」

「これがそうなの?あんま、さっきの"戦災孤児(ウォールフェン)"と変わんなくない?」

「まぁ、それは私も思ってたよ。一番の違いは……あ、予想は当たってそうだね」

「な……何体出てくんの!?コレ!?」

 

 "輝晶点穴(クリスタルメモリー)"と"戦災孤児(ウォールフェン)"、見た目も戦法もそっくりであまり違いの無い2種であるが。この2種をそれぞれに分けるのは一つ……数の差だ。

 名前の通り孤児である"戦災孤児"は単独でしか出てこないのに対し、"輝晶点穴"は複数体が纏って出てくるようになっている。この出現数の差こそが2種の名前を分ける要素となっているのだろう。水増しと言われると言い返し難いが、ちゃんとその辺りの設定はあると思う。

 

「ようやく見つけられたんだ、コイツらも全員ぶっ倒してから帰るよアーサー!」

「はは……寝不足はお肌の大敵なんだけどなぁ!」

 

 そんなこと言ったって、もうリアルの時間は陽が昇り切ったくらいの時間になっているはずだ。完徹しておいてその発言はいまさらだぞ。

 "輝晶点穴"の砲撃と蠍、が飛び交う戦場の中で3種類目のエクゾーディナリーとの戦いが始まる。深夜テンションを超えて更に気分がハイになっていた私達は、それまでの疲労や消耗も何もかも無視してまた戦いに挑むのだった。

 

「オラーッ、スキル寄越せやーッ!」

「アハハッ、テンションがパフォーマンスに直結するってこんな感じなんだねぇ!」

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

「あー……楽しかった……」

「だねぇ……」

 

 ここはエイドルト。"輝晶点穴"をキッチリ全滅させた上で水晶群蠍の猛攻を退け、どうにか水晶巣崖より生還した私達は、その勢いのままにエリアボスに戦いを挑みそして討ち倒し、水晶で建築された建物が美しいこの街に入ったのである。

 奥古来魂の渓谷エリアボス『歌う瘴骨魔(ハミング・リッチ)』は、分身したり物理は無効だったりと普通に戦えば中々厄介そうなボスであったが……生憎のこと、私がアンデットに対してめちゃくちゃ強い能力や装備持ちであったため瞬殺できてしまった。可哀想に。

 

「前は戦わなかったの?エリアボスだし戦闘は必ずあったはずだけど……」

「前は、ボスが"月下美神(コードムーン)"に潰されて死んだせいでスルーできたからねぇ……あのボスと戦ったのは実は初めてだったんだよね」

 

 言葉の通り、前回の水晶巣崖挑戦時はエリアボスを"月下美神"撃破の余波で倒せてしまった。奴の背から落下する私達が偶々ボスのポップする地点に来てしまっていたこと、"月下美神"があまりにも大き過ぎたこと、そして月の魔力がアンデットに対して強い特効を持っていたことなどが噛み合った結果起きた事故のようなものである。

 あの時は、おかげでまた面倒なボス戦をやらずに済むぞラッキー……くらいにしか思っていなかったのだが。こんなにも簡単に倒せる相手と分かっていたなら別に問題は無かったな。今程ステータス高くないしスキルも弱いとは言え、あの時はまだ「月下美人」があったんだし。

 

「この後はどうするの?」

「流石にもう休むよ。時間に融通は効かせられるとは言え、お仕事はちゃんとしないとだからね……」

 

 時間的な余裕は常に持てるようなスケジューリングはしているが、だからと言っていつまでも好きなことばかりしている訳にもいかない。流石に完徹はやり過ぎだしもうログアウトして休むつもりだ。

 

 ──それに、このまま強行軍したってゲームの方から強制的にログアウトさせられるだろうしね。

 

 正直なところ、まだまだ遊びたいし取り戻したスキルを使って攻略を進めたい気持ちはある。だが第一に優先すべきは身体の健康、心よりも先に身体を労わらなければならない。私にとっては身体の不調は常人よりも更に重くなるものなのだから。

 それに、既にログインしてから10時間以上も経っているのでそろそろ警告が来る頃合いだ。こうなるとゲームの方から強制ログアウトさせられるのでそういう意味でももう落ちた方が良い。無視してやり続けるとペナルティか知らないが暫くログインできなくなることがあるらしいしね。

 

「最後に一つ、良いかな?」

「何?」

「ロンミンちゃんはさ、どこかのクランに入ったりしてる……のかな?違うっていうのなら……ウチの旅狼(ヴォルフガング)に入らない?歓迎するよ」

「クラン……かぁ」

 

 アーサーからのお誘い。確か前にも同じクランへの勧誘を受けた気がするが……あの時はサンラクから誘われたんだったかな?アーサーに会いたくなかったから断ったけど、断る理由になった当人から改めて勧誘を受けることになるとは思わなかったな。

 

 ──特に断る理由も無い、んだけど……

 

 こういったクランなどには付き物のノルマだったりは無いし、メンバーのほぼ全てが多くのユニークに関わり独占した情報を抱えているので、それらの恩恵をメンバーになれば受けられるという。

 少数精鋭でやっているクランだが、私なら実力的にも抱えてるユニーク的にも是非欲しい……そういう打算も込みでの勧誘。ただ彼女の思惑としては、また私と遊びたいというのもあるのだろう。同じクランのメンバーなら、一緒の攻略とかにも誘いやすいしイベントとかでもほぼ確実に味方になれるからね。

 

「誘いは有り難いんだけどね。やっぱり入るのは止めておくよ、仲間の利益とか義理立てとか結構気にするタイプなもんでね。そういう柵の無い気ままなソロプレイの方が私には合ってるや」

「その割には、結構な頻度でパーティプレイもたくさんやってるみたいだけど?」

「そりゃあ誘われたならやるでしょ」

「それはそう」

 

 クランに入るのと、一緒にプレイをするのはまた別の話なのである。単発でそれが終わったら一度切れる縁と、その後も脱退したりしない限りはずっと続く縁はそりゃあ話が違う。

 残念そうなアーサーであったが、最終的には納得して手を引いてくれた。またこれから一緒にやる機会があったらその時はまた、ということで今回はこれで解散とする。ログアウト前に一つ捨て台詞を残してアーサーは世界から消えていくのだった。

 

「次、会うとしたら……特に用が無かったら双王戦争の時になるのかな?」

「確か、旧王側に付くんだっけ?」

「そうだね。ロンミンちゃんは……黎桜ちゃんの居るところに付くよね」

「そうだね。そうなるだろうね」

「じゃあ、その時は敵として……戦おうね」

「正々堂々を期待してるよ」

 

 その言葉を最後に、アーサーがログアウトし。私も続くようにログアウトして現実世界に帰還する。

 完全に昇り切った朝日に迎えられ、寝惚けた瞼を擦りながら水分補給とトイレを済ませ、VRチェアの中で動かなかったことで汗が滲む服を取り替えるついでにシャワーも浴びる。義体を濡らさないように風呂に入るのは難しい、徹夜後の働かない脳みそでは尚更である。転倒に気を付けつつ時間を掛けてゆっくりと風呂を済ませた。

 

「ふぁ……眠い……」

 

 大きな欠伸が出る。人に見られてたらだいぶ恥ずかしいが一人暮らしなので問題は無い。いや何人か合鍵渡してる奴居るから、そいつらがいつの間にか居る可能性はあるんだけどね?もしもの時すぐに救助に来れるようにとか、定期的に生存確認に来てもらわないといけないから……

 まぁ、そこは今はどうでも良い。大事なのは私はとても眠たいということ、普段なら陽が出てる内は二度寝や昼寝をしても、1〜2時間くらいで自然に目が醒めてしまうのだけども。今なら8時間だって10時間だって眠れる気がする。

 

 ──あぁ……生活リズムが崩れていく……

 

 我ながら、若さにかまけた酷い生活をしていると思うような生活リズムであるが。もうそんなことも考えられないほど眠い……あぁ、意識が深い闇の底へと沈んでいく……

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「ヤバいヤバい寝過ぎた……ッ!」

 

 そうして眠りについた私が目を醒したのは、すっかり陽も沈んだ20時のことであった。今日の予定は完全に崩壊してしまったが、最低限終わらせておくべきタスクだけは何とか終わらせた。ご飯作って洗濯して原稿作業を進めて……超突貫工事で進めたことで疲労はヤバいことになったが、どうにか日付が変わって少ししたくらいで本日のタスクを終わらせることに成功したのだった。

 

「……眠れん」

 

 疲労は溜まっているのに、つい数時間前までぐっすり寝ていたせいで目が冴えてしまっている。目を閉じても意識が落ちず、いつまでも羊を数えなければならない事態になってしまった。

 やっぱり、夜更かしはしちゃダメだね。徹夜はたまにやるけど、だいたいいつもこうなる……布団の中の左腕を強く握り、瞼を抑えながら何度目か分からない反省をする私なのであった。




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