ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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62:極み、そして完璧

「ここで会ったが100年目──君の剣と僕の剣のどちらが上か、白黒つけようじゃないの!」

「ふざけたこと言ってんじゃねーぞ、イかれた辻斬り女がよ……ッ!」

 

 ──ああもう、強いッ!

 

 私の無貌と打ち合ってもビクともしない業物を手にしている上、剣術でもアバターの操作精度もこっちよりも数段上。ステータスの高さのおかげで何とか食らいつけてはいるものの、どうしても苦戦を強いられている。

 まだ、お互いに碌にスキルも魔法も使っちゃいないが使ったところでそう簡単にこのパワーバランスを変えることはできないだろう。それ程までに私と京極では動きの精度が違っていた。あの龍宮院富嶽の実の孫娘であり、彼の才能を色濃く受け継いだと謳われる剣才はやはり伊達ではない。

 

「少しは反撃しなよ、張り合いが無い!お祖父様に敗北を刻み付けた剣の術理、それを修めた君への勝利は何よりも価値があるんだからね!」

「うるせえ!こちとら、戦うために武術を修めたんじゃねーんだぞ!勝手な都合に巻き込むな!」

 

 豪傑、龍宮院富嶽が喫した生涯六度の敗北。その内の一つが私が義体の訓練のために習った武術『百柄流剣術』の師範であったらしい……私はその当時のことなど産まれてないので知らないし、師事した人もその弟子であり当人ではないので、何ら関係は無いはずなのだが。

 それでも、流派が同じならオーケーとでも言わんばかりに、京極は私に会う度に勝負を仕掛けようとしてくる。尊敬する祖父が勝てなかった剣術を自分が倒すことで、亡き祖父の仇を討つとでも考えているのだろうが……私はそんなのの関わり合いになりたくなかったので、この身を理由に常に奴の試合の打診を断り続けていた。しかし──

 

 ──シャンフロ内じゃあ、断る理由が無くなっちまうんだよなぁ……ッ!

 

 ゲームの中でなら、私もリアルと違って五体満足で十全に習ったものを出すことができる。今まで身体を理由にしていたせいで、京極に「じゃあ身体が大丈夫なら良いんだな」と、そう言える余地を作らせてしまっていたのだ。出逢いさえしなければどうとでもできたが、出逢ってしまったからにはもう奴との戦いは避けられない。

 だからこうして、受けて立っている。しかし純粋に剣のみの戦いでは京極に分がある、実践経験と剣の才能──剣士として地力を培ってきた奴と剣士の生き方などしていない私では、どうしても技術や駆け引きの部分で遅れを取ってしまう。私のアバターは耐久力に優れているとは言え、果たして勝つまで持ち堪えられるかどうか……

 

「……なんて、腑抜けてられるか!」

「お、少しはやる気になったみたいだね!」

 

 耐える、持ち堪える、それは私の得意分野ではあるけれどこいつ相手にそれは無い。京極が私との戦いを望むと言うのなら、キッチリ戦って返り討ちにしてやろうではないか。

 正直言って、親戚の集まりなどで会う度に試合をせがまれるのは鬱陶しかった。ここで戦えるのは私にとっても良い機会だ、ハッキリと白黒着けて京極には満足して帰ってもらおう──ただし、勝つのは私の方だけどなぁ!

 

「動きが変わった……!」

「お望み通り、ちゃんと戦ってやるよ!」

「それでこそ、倒し甲斐があるってものだ!」

「抜かせ、勝つのは私だ!」

 

 互いに相手を殺す気の剣がぶつかり合い、激しく火花を散らす。防戦一方の状態から反撃に転じるようになったことが幸いし、今の方が戦いやすくなっているように感じる。

 反時計回りに、右手に刀を持つ京極が刀を振り辛くなる位置取りを保ちつつ、狙うは刀を持たない左腕の方。狙いは既に看破されているだろうが、富嶽流の剣術はそういうものなので気にしない。ただひたすらに狙いを通すことだけを求めて立ち回る。

 

「やり辛い……流石に動きは巧いね!」

「そりゃあ、剣の振り方なんかよりも、これだけはしっかり習ったからな……!」

 

 百柄流の肝は、剣の振り方そのものではなくそれを行うための位置取りの巧みさにある。

 足首や爪先の細かな動き、腕の位置や鋒の向き、頭部の向きなどの小さな動きで体幹を操り、自分の動きやすい位置に常に陣取る。一つ一つのモーションの小ささは動き出しの速さという有利を生み、位置取りの良さは自分の動きやすさという有利と相手には悪位置の不利を与える。そうした小さな優位を活かし勝ち切るのが百柄流の戦い方である……と、私の師匠(せんせい)はそう言っていた。

 

 ──これだけなら、結構自信あるんだよね!

 

 剣の振り方は習っていないが、この動き方だけはみっちりと叩き込まれてきた。百柄流の稽古をしている弟子は他にも居るが……基本となる歩法や立ち回りの練度に関しては、健常な身体でなら誰にも負けないという自信がある。

 京極の上段からの振り下ろしを横に滑り込むように回避し、左の肩口に突きを入れる。浅く大したダメージにもならないが、ようやくこちらの方からまともに攻撃を加えることができた。

 

「チィ……やるね!」

「そりゃあどうも!」

 

 そしてもう一つ、百柄流の少ない動きで立ち回るやり方は、相手の仕草や表情などから動きを読み取り最適な反撃を行う富嶽流の戦い方とは、その反撃を差し込む隙を与え辛いという点で相性が良い。VR剣道教室の裏ボス(AI富嶽)にも勝てたことがそのことを証明していると言える。

 とは言え、もしも仮に相手が京極でもAIでもなく本物の富嶽の爺さんだった場合は、私の技など簡単に反撃されて負けていただろうが。まだ京極にそこまでの実力は無いので、私程度の実力でも十分戦いを成立させられている……あまり長引けば慣れられてこちらが不利になっていくだろうが。

 

 ──早い内に決着を着けたいところだけど……

 

「少しずつ……見えてきたよ!」

「チィ……」

 

 流石に適応が早い。体勢を崩させてから決めるはずだった左肩を斬り裂くはずの一撃を、片足を軸にコマのように回転して位置をずらすことで回避されてしまった。

 それだけではなく、その回転の勢いを利用して反撃の横薙ぎの一閃を入れられる。刀を振り切った後のせいで回避に移るのが遅れ、右腕から腹を通り抜けるように直撃を受けてしまった。2000もあったHPが一瞬にして残り500まで減少する。

 

「……まだ死なないんだ。随分とタフなビルドにしたんだね」

「……喋ってる余裕、有るの?」

「何……ッ!?」

「つ、か、ま、え……た!」

 

 斬り裂かれた右腕で、京極の左腕を掴みその場に拘束する。そのまま無貌を振り下ろし──当初からの狙い通り、京極の左腕を斬り落としてやることにようやく成功した。

 部位破壊、何故私にはできて京極にはできなかったのか──それは恐らく、私がベヒーモスで修得したスキル「超汎用解体技術(マスター・ハンド)」の影響だろう。このスキルは全ての攻撃に破壊属性を付与する、カルマ値の上がりやすさと引き換えに戦闘における自身の優位を作りやすくできるスキル。今のように直撃させられるなら、プレイヤー程度の耐久値の腕を斬り落とすなど造作も無いことなのだ。

 

 ──ここまでお互いスキル使ってないし、ちょっとズルいとは思わなくもないけど……

 

 思わなくもないが、生憎「超汎用解体技術」はオンオフの切り替えが効かない恒常スキル。ベヒーモスを攻略した分のアドバンテージとして、これに関しては勘弁してほしいものだ。新大陸とやらに入り浸っていて、旧大陸の新コンテンツに触れに来なかった方が悪いのだ。私は悪くない。

 

「破壊属性持ちか……やってくれるね……!」

「片腕じゃあ満足に動けないだろ。それでも決着が着くまでやるってかい?」

「確かにその通りだよ、隻腕になった時を想定した稽古なんてしてる訳が無い……でも!」

「……ッ!」

 

 隻腕となった京極の背後に狐火が灯り、更にアバターに生えた尻尾が紫炎に燃える。ケモ耳に尻尾なんて珍しいと思ってはいたが……どうやら、どちらも飾りという訳ではないようだ。

 

「やっぱり、そうくるか!」

「ここはシャンフロだ……!ここまでは剣で決着を着けるために縛ってきたけど、ここからはスキルも魔法も解放させてもらうよ!」

「第二ラウンドか、上等……?」

「何だ……これは、地響き……ッ!?」

 

 響き渡る轟音に、揺られる地面……そして一つの方角から一目散に走ってくる、レベル100越えすら当たり前のはずのモンスター達。

 モンスター達は、私達を襲うという訳でもなくがむしゃらに走る。まるで彼らの居た場所に在る何かから、命を懸けて逃げ出すように……

 

 ──来る……!エクゾーディナリーや、ユニークにすら匹敵するような強大な何かが……ッ!

 

 そしてソレは……私達の前に現れた。

 

真なる竜種(The Truth Dragon):No.XI】

 

Perfect(パーフェクト)

 

【参加人数:2人】

 

【竜狩りが開始されました】

 

 パーフェクト……『完璧』の名を持つ、無色透明の巨大なドラゴン。アナウンスが終わると共に天を衝くかのような雄叫びを上げて、その体色をオレンジと黒──私と京極の色に染めていく。

 

「真なる竜種……こんな所で出逢うなんて……!」

「どういう奴か知ってるの?」

「新大陸のNPCから聞いた話だけどね。あそこに存在する菌の繁殖で生まれた5色の竜や、人の手によって造られた黄金の龍王とも違う、生まれた時から『竜』として存在するモンスター。故に『真なる竜種』と……そうカテゴライズされる存在だよ」

「成る程……で、どうする?」

 

 まだ決闘の決着は着いていないが、こんなものが現れたのでは勝負どころではない。まずはこの竜から排除するべき……なのだろうが。

 私はHPを大きく削られているし、京極は利き腕ではないとは言え片腕を失っている状態。全快には時間が掛かるが回復すれば良い私はともかく、京極の隻腕状態は死ぬかログアウトしなければ治らず、どちらを選ぶにせよ離脱の必要がある。

 

 ──私は戦うけど。君はどうする、京極?

 

 だから、問う。傷を理由に逃げるというならそのための時間稼ぎくらいはしてやるし、戦うというのならお互い邪魔にならないようにしよう。そういう意味を込めての問い掛け。

 

「勿論……勝つ!一択に決まってるよね!」

「んじゃ、二人で頑張ろうぜ!」

 

 正直言って、言葉を端折り過ぎた感はあるが……京極にはちゃんと伝わったようだ。

 パーティ申請を送り、受諾してもらって正式に協力関係を築く。私達の第二ラウンドの前に、前座の竜を倒す戦いが始まった。




 パーフェクトははっきり言ってクソモンス。最大のクソ要素としては、「会敵した時のパーティ状況では『絶対に』勝てないようになっている」などがあります。
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