ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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63:完璧な竜

「さて、どう来るか……」

 

 戦闘が始まったが、私も京極もパーフェクトもまだ動かず様子見をしている。パーフェクトに関しては様子見というか、明らかにこちらを舐め切って油断しているというような感じだが。余所見をするな欠伸をするなせめて目線くらいこっちに向けろ!

 だが、油断しているというのならその気の弛みに付け入らせて貰おう。ひとまず「月天讃歌」で自身にバフを与え、「ライジングアクセル」で速度を強化し「居合術『技』」で強化した「秘剣『竜巻』」をお見舞いしてやる。

 

 ──よし、直撃……ッ!?

 

「何も効いてないだと……!?」

「や……ロンミン、反撃が来るよ!」

 

 京極のその言葉に、私は何一つとして反応することもできなかった。

 殺されたのだ、京極がパーフェクトの動きに気付きそれを伝える──たったそれだけの短い時間で私のHPは全損させられた。

 

 胴が横薙ぎに分かたれ、腹から下がポリゴンの欠片となって消えていくのが眼に入る。己の死を認識するその前に、私の身体は消失した──

 

「──ッハア!何が起きた、今……!?」

 

 そして復活。不世出の奥義(エクゾーディナリースキル)綺憶像失(ロストメモリー)」の効果によってアバターが再構築され、またHP満タンの状態で復帰できたが……その代償に使用可能なスキルが削られてしまう。ついでにここから先はポーションなどによる回復も不可能になった。

 幸い、よく使うスキルの中には使用不能になったものは見当たらない。これ以上死ぬことさえなければ弊害は小さくできる……が、回復をしていなかったとは言え、それでも並のタンクくらいのHPはまだ残っていたのに一撃で即死させられた。ただただ攻撃力が高いのか、それとも即死攻撃を食らったのか……分からない以上は警戒するしかない。

 

「攻撃した感じ、どうだった?」

「何の手応えも無かった……そこそこの数のスキルも使ったし、クリティカルで当たったのに……弾かれたとか防がれたとかじゃなく、攻撃そのものが無かったことにされたような……そんな感じだった」

 

 不発になった訳じゃない。実際にクリティカルの表示はされていたし、スキルもしっかり発動してエフェクトが出ているのを確認もしている。それなのにも関わらず、パーフェクトに刃を当てた私の手に伝わった感触は──全くの無。

 攻撃が無効化された──どうして、を論じることに大した意味は無い。考えるべきは無効化できる部位は今攻撃した甲殻の他にもあるのかや、先程私を殺した翼での薙ぎ払いの他に、どんな技を使ってくるのかということの方である。攻撃を無効化できることについては、もう「そういうもの」として考えるのが手っ取り早い。

 

「そっちも攻撃してみて、ただし私が攻撃した部位以外にお願いね!」

「了解……『九尾朧火(ナインテール・シクス)』!」

 

 京極の尻尾に灯る紫炎が刀に移り、明らかに強化された剣撃が振り下ろされる。しかしパーフェクトはこれにも何ら効いた様子を見せず、それどころか瞬時に反撃を繰り出す余裕さえあった。

 私がやられた場面を見ていたこともあり、京極はその攻撃をしっかり回避して距離を取る。追撃に対して「反撃ノ構エ」で割って入り、カウンターを決めつつ攻撃を逸らすがこれも手応えが無い。やはり一筋縄では行かない相手だ。

 

「本当に何の手応えも無いね!今の攻撃、当たったならあの炎が相手に残るんだけど……そうなってないってことはつまり、失敗した、若しくは無効化されてるってことだ」

「無効化されない部位を探してみよう。他にも斬撃以外なら通らないかとかも確かめてみたいし、まずは色々と検証だ」

「それとコレ、生命の神薬預けとくね。私がやられたら使って欲しい」

「蘇生ね、オーケイ」

 

 刀と魔法での攻撃は京極に任せ、私は他の攻撃手段を検討する。まずは打撃から確かめるべく武器を無貌から透け合う鉄鎚(アサルトスタンプ)に変更。脳天目掛けて振り下ろすがこれも当たり前のように無効化される。

 京極の方も、首に胸に尻尾にと刀を振り色々な部位に攻撃を当てていってはいるが。刀によるダメージも魔法も一切効いた様子は無く、パーフェクトはどこまでもピンピンしていた。何をしても有効打にならぬまま、京極は無防備な左半身に尻尾薙ぎ払いを食らい即死。即座に生命の神薬で蘇生し事無きを得るも大した情報は得られなかった。

 

「打撃もダメ、ダメージが通る部位も現状無い……なら、状態異常や武器以外の攻撃はどうだ?」

 

 次の武器、様々な毒を付与する震天の孤毒剣(ロンリー・ウェーバー)と武器ではなくアイテム扱いの怨毒包丁(ゴルド・リッパー)を装備。状態異常や特殊状態、武器扱いではないアイテムでの攻撃が通じるのかをコレで確認する。

 

「『振動せよ(booming up)』!」

 

 ソニックブームを飛ばし、猛毒の宿る振動波でパーフェクトの首を掻く……攻撃は案の定と言うか無効化されており、状態異常にも掛かった様子は見られない。直接斬りつけても結果は同じだった。

 怨毒包丁の方も、アイテムによる効果付与はできず刃を弾かれるだけの結果に終わる。この無敵振りが効果によるものなら、怨毒による状態変化の上書きで無効にできないかと少し期待していたのだが、そう甘い話は無いようだ。

 

 ──あれもダメ、これもダメ……じゃあ、物理でも魔法でもない攻撃ならどうだ!?

 

 斬撃はダメ、打撃もダメ、毒も通らず振動波も効かずアイテムも通じない、それでもまだ別の火力を出す方法は持っている。

 封虹の撃鉄を起動することで発動する、古虹・極の効果は飛行だけではない。全身を包む虹の極光はプレイヤーを空へ導くだけでなく、攻撃した相手への耐性弱化と無属性・無分類……即ち、どのカテゴリにも属さないタイプの追加ダメージを与えることができるのだ。

 

 物理でも魔法でもない、第三のダメージなら有効打となり得るかも知れない。もう一つの無分類ダメージである『子守火(こもれび)』も使いたいが、そっちはアモルパレントのゲージ溜めと、怨毒包丁による自傷が必要なので今は試せない。怨毒の自傷を回復できないから4秒で死ぬことになるからね。

 飛行能力でパーフェクトの上を取り、通常時は攻撃し辛い背部に無貌を振り下ろ……そうとしたところで、パーフェクトは大きく翼をはためかせ私より更に上空へ陣取った。そのまま大量の火球を雨のように撃ち下ろし広範囲を制圧に掛かる。

 

「こんにゃろ……ッ!」

「こっちの思い通りにはさせない、ってのがヒシヒシと伝わってくるね……うわっ!」

 

 大量の弾幕、あまりの攻撃面の広さに京極は避け切れず焼き尽くされて死亡。すぐさま蘇生するもあちらに気を取られてしまったことで、私も火球を喰らってしまう。HPが満タンだったので小さな祝福の食い縛りが発動し、死亡することは避けられたが頼れるものが無くなってしまった。ここからは次に死ぬまでHP1で戦わなければならない。

 しかし、悪いことばかりでもない。私に火球が当たったことでパーフェクトが少し油断したようで、さっきは避けられた背部に攻撃できるだけの隙がまた生まれた。わざわざ避けたのならここにはダメージが通るかも知れない……淡い期待と共に放たれた虹の一撃は、パーフェクトに何らダメージを与えることなくただ煌めくばかりであった。

 

「これもダメか……」

「何も通じないって嘘でしょ……こんなのどうやって倒せって言うのさ?」

「京極、君他の攻撃手段持ってないの?」

「僕は刀一筋だよ」

 

 色々と試してみて、分かったことは結局「打つ手なし」であるということくらい。

 こちらの攻撃は何も通らず、やろうとしたことをより高いレベルで被せ潰してくる。その上奴の攻撃には掠るだけで即死してしまうし、範囲が広く発生も早いせいで避け切れず被弾することも多い。

 

 ──まさに、『完璧』な対ロンミン・京極仕様って感じだな……

 

「ん……完璧な対策……?」

「何か思いついた?」

 

 そこまで考えた時、一つ策が思い浮かんだ。

 確かに、パーフェクトの私達に対する対策は完璧で一分の隙も存在しない。このまま戦い続けたところで無駄に時間とリソースを消費するだけ……だがしかし。私達以外が相手ならどうだろうか?

 

「全てにおいて完璧なんて、あり得ない」

 

 それこそが、恐らく打開策となるだろう。

 確かめるべく、私達は多くのモンスターが居るであろうスポットを目指して走り出した。竜との命懸けの追いかけっこの始まりである。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「ちょっとロンミン!この作戦ホントに上手くいくの!?ちゃんと自信ある!?」

「いいから走って!竜にも恐れず立ち向かえるモンスターかプレイヤーが出るまで!」

 

 パーフェクトの肉体は、私と京極を想起させるような黒とオレンジの二色。最初は無色透明であったことから考えるに、私達を解析するなり何なりして『適応』したことで、完璧に対策できるようになったのだと考える。

 恐らくだが……パーフェクトは会敵した時にそのパーティを解析・適応して、完璧な対策ができる状態に予めなっているのだろう。だから私達が何をしようが奴には通じないし、奴の攻撃はどんな弱攻撃のカス当たりでも即死させられる。

 

 ──私達だけではどうにもならない。なら……他所から異物を戦闘の中にぶち込む!

 

 とは言え、異物をぶち込むというのは口で言う程簡単なことではない。何せ最初会敵前にパーフェクトを恐れたモンスター達は、己の生命を守るべくこぞって逃げ出していたのだから。自分よりも数段強大なモンスターを相手に戦うなど自殺行為、普通のモンスターなら近付くことさえ選ばないだろう。

 しかし、今回はシチュエーションが違う。最初はパーフェクトはモンスター達を狙って襲っていたが今回は私達を追っている内にテリトリーに侵入してしまったという形になる。自分が狙われているのなら逃げの一択だろうが……狙いが自分ではないと分かっていて且つ、己の領域を侵されたとあらば?

 

「ギイイイイィィ!!」

 

「あれは……ストーム・ワイバーンか!?」

「居たな、骨のある奴!」

 

 侵入者を撃退するという選択肢を取る、勇敢なモンスターもその内現れる。

 今回は、ストーム・ワイバーンの群れがその勇敢さを発揮して乱入に来てくれた。縄張りを侵された彼らは外敵を排除するべく、パーフェクトへ一斉に攻撃を仕掛けていく。これでも奴へダメージが通らなかったらもうお手上げ、追憶結晶で逃げるしかなかったが……無事と言うべきか何というか、ストーム・ワイバーン達の攻撃は、パーフェクトにダメージを与えることに成功していたのだった。

 

「…………!!?」

「ギャアアアアアァァ!!」

 

「初めてダメージが通った……!」

「成功だ、やったぜ!」

 

 ──横槍必須とか、ふざけてんじゃねえぞ!

 

 目論見が成功したことには喜びつつも、内心ではそう毒吐く。自分達の力だけではどうにもならないというのは、世界観的にはあり得るのかも知れないがゲーム的には最悪の体験だ。これがシャンフロでなかったら大不評で炎上待った無しだっただろう、そのくらいのクソモンスだコイツは。

 運が悪くても実力があればどうにかできる、逆に実力が低くても運が良ければどうとでもできるというのは良いことだ。しかし、運でも実力でもどうにもならない、プレイヤーではどうにもならないようなものをイベントではなくコンテンツとして持ってくるのは如何なものか。

 

 愚痴や文句はこの辺にしておいて、パーフェクトがどうなったかを確認する。ストーム・ワイバーン達の攻撃でダメージを受けたことで、どのように戦況が変化していくのか……

 変わったのはパーフェクトの体色だ。黒とオレンジの2色で構成されていた奴の体表は、ワイバーン達の攻撃を受けたことで少しずつ彼らと同じような色合いを新たに浮かび上がらせていく。色が鮮明になる程に、徐々にパーフェクトのダメージエフェクトは減少していき……やがてその茶色が黒・オレンジと同等の鮮やかさになる頃には、ワイバーンからのダメージを受け付けなくなっていた。

 

 ──あと、何かデカくなってるな……

 

「……………!!」

 

「ギャアア!!」

「ギャッ……!!」

 

「ワイバーン達がやられた……!」

「適応されたみたいだね。また新しい横槍を持ってこないとだけど……今なら私達の攻撃もワンチャン通るようになってないかな!?」

 

 結論から言うと、なってはいなかった。

 無貌で攻撃してみたが、当たり前のように無効化された上にストーム・ワイバーン達の攻撃で浮かんだ茶色が少し薄くなったのだ。無闇矢鱈に攻撃するのはどうやら良くないらしい。

 

 だが、これでパーフェクトの攻略方法に当たりをつけることができた。

 大量の横槍を入れて、そいつらに適応させて体色を変化させ、私達への対応色が無くなるまで繰り返しダメージを通せる状態にすること。ただしこちらからの攻撃でも奴は体色を変化させるので、一発が重い攻撃で少ない手数で決める必要がある。

 

 何事にも、何者にも、できることには限度がありそれを超えてしまえばどこかに綻びが生まれる。全てに適応し対応できる『完璧』なものなど何処にもありはしないのだと、パーフェクトの完全性を否定してやることこそが奴の攻略方法なのだろう。

 やるべきことは決まった。あとは見つけた攻略法に従いパーフェクトを討ち滅ぼす、そして素材なり何なりの戦利品を持ち帰ってやろうではないか。そのための新しい横槍をまた見つけるべく、私達は月夜の中を走り回るのであった。

 

「京極、追いつかれないでよ!?」

「そっちこそ、ちゃんとモンスター探してよね!」




 パーフェクトは「完璧な(あり得ない)もの」への恐れから生まれた竜。その本質は辿り着くことのない理想への道程であり、その道を行く者の終わりの無い不安。
 果てなき理想の具現となった竜、ならばそれを討ち倒した時に見える真実の名は……『■■■■■(パーフェクト)

 綺憶像失(ロストメモリー)の効果が原作と変わっていますが、(原作ではHP半分で蘇生)この戦いの後でナーフされたということにしておいてください。
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