ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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64:完璧なものなど無いのだと

 パーフェクトの完全性を否定する……それが真竜攻略に於ける最も重要な立ち回り。

 そのためには、奴の私達への適応に綻びを作りダメージを与えられる状態にする必要がある。その方法はパーティメンバー以外からの横槍に対して適応させリソースを潰すこと。必要なのは外敵の撃退に掛かる野良モンスターだが……竜を相手にしようという気概のある奴は中々見つからなかった。

 

「モンスター、見つかんないねぇ!」

「いいから、黙って走って追いつかれるから!」

 

 最初のストーム・ワイバーンの群れが全滅させられてから10数分程走り回っているが、中々次の横槍に相応しいモンスターが見つからない。迂闊に攻撃しては進捗を戻されてしまうので、ただただ逃げ回るだけの時間が続いていた。

 これだけ走り回っていれば、ハードラッグ・ライノの1匹や2匹くらいは、普通に遭遇しても良さそうなものだが……どれだけの横槍を入れて私達への適応が解けるのか知りたいから、さっさと次のモンスターに出てきて欲しいのだけども。

 

 ──何か居ないの?めちゃくちゃプライドの高いエクゾーディナリーとかさぁ……

 

「京極、どっかに心当たり無い?」

「一応、あの古城に『輪郭の騎士(コントゥアル・ナイト)』っていう透明なモンスターが居るけど……それしか居ないしどうしても見つからなかった時のために、あそこは最後に取っとくべきだと思ってるよ」

「そっか……お?」

「見つかったの!?」

 

 走り回りながらも、夜駆ける幻狼の魔眼(ヴォルファント・ヴィル)を駆使してずっとモンスターを探していたが。ここまで中々見つからなかった中で、ようやくこちらへ向かってくるモンスターを見つけることができた。

 そいつは上空に居る。ストーム・ワイバーンと同様に空中をテリトリーとするモンスターであるが、その飛行速度はそれよりも更に速く、その速さを活かした急降下突進を得意とするその名は……

 

【モンスター不世出の発見(ディスカバー・エクゾーディナリー)!】

 

【討伐対象:轟襲鷲獅子(ジェット・グリフォン)順風満帆(フリーダムフォール)"】

 

【参加人数:2人】

 

【エクゾーディナリーモンスターとの戦闘が開始されました】

 

 ……"順風満帆(フリーダムフォール)"という二つ名の付いた、その名の通り鷲と獅子が融合したかのような、天然のキメラ的なエクゾーディナリーモンスター。それが今回の乱入者の正体であった。

 

「……コイツ、このエリアには生息してないはずのモンスターなんだけどなぁ」

「そうなの?まぁシャンフロだし、『はぐれ』くらい出てきても何らおかしくないでしょ。そんなことよりも、アイツができるだけ多くのダメージを与えてくれるように願っときな!」

「どこまでも他力本願……自信無くすね!」

「それは、本当にそう!」

 

 轟襲鷲獅子は本来、『気宇蒼大の天聖地』というエリアに生息するモンスターなのだそう。

 今は亡き7種のユニークモンスターの一角、『天覇のジークヴルム』の縄張りであった地に、家主の死後棲み着いた新たなモンスター。それがどうして此処に居るのかはまぁどうでも良い、パーフェクトに立ち向かえる奴が来てくれた、その事実こそが何よりも大事なことなのだから。

 

 ──頼むから、あんにゃろうに良い感じにダメージを与えてくれよ……あと矛先をこっちに向けて来ないでくれよお願いだから。

 

 あくまで敵の敵であり、味方ではないのでヘイトがこちらに向く可能性もまぁあり得る。AIの仕様上、より脅威となる方にヘイトが向きやすくなるので可能性は低いだろうが……一応、"順風満帆"がこっちに向かってきた時の警戒もしておこう。

 轟襲鷲獅子の攻撃方法は一つ、雲の上まで飛んでからの急降下突進。私もスキルを駆使すれば似たようなことはできるが、"順風満帆"のそれは高さも速さも段違いに高く、速い。まだその存在に気付いていないパーフェクトに狙いを定め、急速落下して無防備な背中を目掛けて飛び出していく──

 

「…………………………!!?」

 

「当たった!」

「アレは痛いわ……プレイヤーなら確実に死んでただろうね」

 

 ──"順風満帆"の急降下突進が、パーフェクトの認識の外から無防備な背部を穿つ。ただ落下するだけでなく嘴を突き出した上でドリルのように回転して貫通力を高めた一撃は、パーフェクトに多大なダメージを与え一気にその色を変えさせた。

 体色に白色が追加されたパーフェクトは、更に体格と翼を巨大化させ、上空に逃げていった"順風満帆"に狙いを定める。翼をはためかせ飛び上がり、"順風満帆"を追いかけていくパーフェクト。

 

 ──あの巨体で……速い!

 

 あまりの速さに、驚くように表情を変えた"順風満帆"は逃走を諦め迎撃を選択する。ドリル突進でパーフェクトの胸を貫かんとするが、既に適応は完了しているパーフェクトにそれはもう通じない。

 片手でその突進を受け止め、握力で回転を力ずくで封じるパーフェクト。渾身の一撃が通じなかったことに驚く暇すら与えず、そのまま両腕で"順風満帆"を握り潰し即死させてしまうのであった。

 

「"順風満帆(フリーダムフォール)"がやられた!」

「マジで!?高過ぎてよく見えないんだけど……」

 

 私は魔眼のおかげで見えているが、それが無い京極には遠過ぎて見えないらしい。昔リンゴを素手で絞る怪力の動画を見たことがあるけど、年齢規制が無かったらあんな感じになっていただろう。見る人次第では、このままでもトラウマになること間違い無しのショッキングな絵面であった。

 そして、"順風満帆"の死骸が消滅してすぐに次のモンスターが現れる。星々が煌めく夜空を虹色に染め上げ、更にそこから放たれた無数の極光の砲撃がパーフェクトを襲った。空に浮かぶ虹色の光……どうやらあれこそがモンスターであるらしい。

 

「アレは僕に見えるね。空の遥か彼方に浮かぶモンスター……あれが『カムイ』か」

「虹色……アウロラカムイってヤツだね。私のこのアクセサリーの元になったやつ」

 

 封虹の撃鉄に封じられた虹の元となる生物、それが今天空でパーフェクトと戦っている『アウロラカムイ』というモンスター。普段は戦う訳でもないしベヒーモスによると透明化しているらしいので、実物を見たのは私もこれが初めてだ。

 攻撃方法はビーム砲……何か私が見てきたデカいモンスター、だいたい撃ててる気がするな?その威力は絶大なようで、パーフェクトの体色に一瞬にして虹色が追加される。あの手の砲撃は照射されている限りダメージが持続し続けるはずだが、適応された後ではもうどんなダメージも通じない。大量の極太レーザーの渦中にあっても、パーフェクトは何てことも無くピンピンしていた。

 

 ──成る程ね……適応に参照されてるのは、ヒット回数じゃなくてダメージ総量か。

 

 ストーム・ワイバーン、"順風満帆"、そして今のアウロラカムイときて、パーフェクトの適応条件が被ダメージの総量であると分かった。

 ストーム・ワイバーンの時は、何度も群れによる集中砲火を受けてから適応し。"順風満帆"は急降下突進一発で適応を済ませた。アウロラカムイには多段ヒットの攻撃を食らっているが、一度のダメージが多いようで明らかにストーム・ワイバーンの時より適応するのが明らかに早い。

 

『非適応状態で対象から一定以上の攻撃ダメージを受ける』

 

 パーフェクトの適応条件はこんなところだろう。

 必要以上のダメージを受けた時は、その分がカットされていないかが心配になるが……"順風満帆"の時の様子を見るに、それは無いと信じたい。

 

「……………!!」

 

「虹が斬り裂かれた……!」

「今のは僕にも見えたよ!」

 

 適応を済ませ、パーフェクトはまたしても姿を変化させていく。虹色に染まった翼を元の3倍以上に大きく拡げ、更には巨大な一枚刃のように細く鋭く研ぎ澄ませる。

 それだけでは終わらず、翼の1枚1枚が細くなる分数を増やして飛行能力を補う。最終的に4対8枚となった翼を乱雑に振るい、発生したソニックブームで己を囲むカムイ達を全滅させてみせた。適応を済ませた相手は即死させられる、復活手段が無い限りはどんな相手でも例外は無いらしい。

 

 ──次はこっちに来るな……

 

 モンスター達と戦うパーフェクトを観察しつつ、次のモンスターの居場所近くまで移動してきたが、倒されるペースが早くまだ辿り着けていない。この分では私達に狙いを定めたパーフェクトに追いつかれてしまうので迎撃の必要があるが、下手にやってはせっかく進ませた他所への適応が無駄になる。

 こちらからはダメージを与えず、且つ追って来るパーフェクトを凌ぐ……しくじれば即死させられる難しい注文だが、勝つためにもやる他ない。一応生命の神薬の残りは2つあるし、綺憶像失(ロストメモリー)による蘇生もまだ残っている。まだ後が残っていると思えば少しは気も楽になるものだ、落ち着いていこう。

 

「京極、私の後ろに居なよ」

「大丈夫なの!?また即死するよ!?」

 

 なに、心配はいらん。どれだけヤバい攻撃が来ようと単発なら防げる……ガードのタイミングが合えばだけど。

 両手剣アモルパレント・リペアは、攻撃を判定が発生するタイミングで防ぐことでジャストガードが発生し、どんな攻撃であろうと無効化できる。例え掠るだけで死ぬような即死攻撃であっても、タイミングさえ間違えなければきっちり防げるのだ。

 

 ──耐久があんま高くないし、『子守火』が無いと武器として強くないからよく使うの忘れるけど、ジャスガの性能だけは本当に強いんだよ、うん。

 

「………………!!」

 

「何だ、"順風満帆"の真似事か?」

「言ってる場合!?ちゃんと防いでよね僕まで巻き込まれるんだからさ!」

「大丈夫大丈夫……!」

 

「………………!!」

 

 ──あんな、直線的な攻撃……ッ!

 

 アモルパレントを構え、パーフェクトの錐揉み回転式急降下突進を迎え討つ。"順風満帆"のそれよりも断然速い突進、炎を纏い鋭利な翼を拡げて殺傷能力もだいぶ高くなっているのだろうが……そんな直線的な軌道を見逃す私ではない。

 夜駆ける幻狼の魔眼(ヴォルファント・ヴィル)の視覚強化。これにより私の視覚は常に、「瞬刻視界(モーメントサイト)」発動時のようなスローモーションな世界になっている。オンオフは完全に自由だし、普段からこうだと逆にやり辛いので必要な時以外はオフにしている……が、大事なのは私にはちゃんとパーフェクトの動きが視えているということなのでそこはどうでも良い。

 

 ──アモルパレントとの相性が良いようで良くないのが玉に瑕だよね……!

 

 視覚強化でジャストガードがやりやすくなるが、子守火を発動させるためには刻傷が邪魔なので怨毒包丁を使う必要があり、そうすると視覚強化は刻傷ありきの能力なので使えなくなってしまう。効果の相性は良いのに条件が噛み合っていない、中々難儀する組み合わせなのだ。今後の強化次第でその辺が解消されることを祈っておこう。

 そんなどうでも良いことを考えている間に、そろそろジャスガを決めるタイミングが来る。しっかりとパーフェクトを視界に捉えてタイミングを測り攻撃が発生する瞬間に防御を挟む。防御したと判定されればどうやっても良いのが緩くていい。恐ろしい速度で迫り来る巨体に対し、ドンピシャのタイミングでアモルパレントを振り下ろす──

 

「………………!!」

 

「うわっ……」

「こ、の……!視えてんだ、よ!」

 

 ──アモルパレントと衝突する、パーフェクトはその直前に無理やり突進の軌道を修正し、私の裏に隠れていた京極に狙いを定めた。

 空振りし肩透かしを食らったことで、体勢が崩れてしまったが……そんなことは関係無い。やると決めたからには確実にやる、私は残ったスキルから使えるものを片っ端から発動していく。

 

 まず震天の孤毒剣(ロンリー・ウェーバー)を出して、地面に突き刺し、側面に足を着けて「グラビティゼロ」を発動。重力の方向を足の設置している面に変更する。

 

 次に空気抵抗を軽減する「竜追疾駆(ドラグーン・ダッシュ)」、HPが少ない程バフの補正を上げる「オーバードライブ」、AGIを上昇させる「フルスロットル」「リミットオーバー・アクセル」を発動。封翔の撃鉄(ソニックトリガー)も併せて速度を今出せる限界まで引き上げる。

 

 突き刺した震天の孤毒剣を蹴り出し、京極を狙うパーフェクトとの間にインターセプト。正に京極が轢き潰されるその瞬間を、完璧なタイミングで割り込み防いでやることに成功したのだった。

 

「ハハっ、ザマァみやがれ……ッ!」

 

 京極を守ることには成功したが、グラビティゼロが切れて重力が戻り体幹を元に戻す隙を刈り取られ二度目の死を迎えてしまう。

 そして復活。スキルが半分使用不可になり、今使っていたスキル達は禁じられてしまった。だがこの後使う予定のスキルが無事だったので問題無い、それよりも今はやるべきことをやろう。

 

「京極!」

「何これ……バフアイテム?」

「それ使え!あのデカブツぶん投げろ!」

「……成る程、ね!」

 

 どうやら、私の意図は無事に伝わったようだ。

 

 復活しながら瑠璃天の強化剤(ラピステラ・シリンジ)を京極に渡して使用させバフを与え、十分なステータスを確保させた上で指差した方向へパーフェクトを投げさせる。

 ステータスは十分、京極は体術系のスキルも投げ技のスキルもしっかり持っている……投げ技は地面に叩きつけたりするまではダメージが入らない、それなら投げそのものは成功するはずだ。

 

「スキル発動……「三日月投げ」「釣瓶落とし」「破天」、そして「地平縦断擲(ホライゾンシューター)」!」

 

 パーフェクトの巨体が持ち上げられ、私の指差した方角へ掛け声と共に投げ捨てられる。京極はそこに何かがあることを察し、特に異議も無く私に従いパーフェクトをぶん投げてくれた。

 投げられたパーフェクトは、そのまま地面と激突するもダメージは無く両の前脚でブレーキを掛けてそれ以上の後退を防ぐ。若干他への適応の色が薄くなりはしたが、少しで済んだし飛距離はこれで十分稼げている──さぁ来るぞ、いきなり現れた敵を排除しに来るモンスターが。

 

「………………!!?」

 

「おぉ、パーフェクトが轢き潰された」

「お返しだ、しっかり食らえよ」

 

 京極に指示した方角は、ハードラッグ・ライノの群れが近くに居た方角である。遠くの方でドンパチやっていた奴が、いきなり近くまで来たとあれば排除に掛かるのは必然……パーフェクトは群れの同時多発突進に轢かれ脇から突き飛ばされていった。

 そしてこれだけのダメージがあれば、ハードラッグ・ライノへの適応も完了する。パーフェクトの肉体が灰色に染まり、更に腹を大きく膨らませ風船のような体型に変化した。物理攻撃を受け流すための柔らかい身体なのだろうが……私は見逃してないぞ今の適応で、お前の体色から私と京極への適応を表す二色が上書きされて消えたのを!

 

「やーっと……私達のターンが回ってきたな!」

「またモンスターを探し回るのも面倒だ、ここで倒し切るよ!」

 

 それぞれの得物を取り出し、ようやくやって来た反撃のチャンスに迷わず飛び掛かる。

 ここで倒し切れなければ、また攻撃が通るようになるまでモンスター誘導の時間が来てしまう。そんなのはご免被る、絶対にこの場で奴の命を削り切り討伐まで持っていく。

 

「いくぜ──「百閃の剣(ヘカトン・スラッシュ)」!」




 パーフェクトの適応は相手から受けたダメージの総量が一定値を超えることで行われる。適応前に規定値を超えて受けたダメージは無効化されずそのまま通るが、超過ダメージが多い程適応の上書きに必要な横槍の数が増える。
 次回、パーフェクト戦決着。
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