ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
パーフェクトとの戦いの後、私と京極は無果落耀の古城骸ボス『ユザーパー・ドラゴン』を倒し、無事にフィフティシアに入場した。
着いてすぐに疲労がドッと来たせいで、これ以上のプレイはできず私達はフレンド登録だけしてログアウトし別れた。アイツは用が済んだらまた新大陸に戻ると言っていたし、そもそもPKは不用意に街中には居られないから、次ログインした頃にはもう会えなくなっているだろうけど。
──ま、どうせまたすぐに会えるさ。フレンド登録したからメールも飛ばせるようになったしね。
シャンフロのことは今は良い。何故なら今日はリアルの方での大事な用事──久遠君との待ち合わせの約束があるからだ。
一週間程前、クレーンゲームの景品を中々取れず苛立っていた彼に変わって、景品を取ってやったことから繋がった縁。景品のお礼をしたいということで今日がその予定の日──なのだが、待ち合わせ場所をセントラルにしたこと以外は何も決めてない。果たして、どんな1日になるのだろうか。
「服装は……こんなもので良いかな?まぁそんなに変えられる程、選択肢無いけどさ」
男の子との一対一での待ち合わせ、それはつまりデートということではないだろうか。
だとしたらファッションには気合を入れて臨むべきなのだろうが……私は義体を隠す都合上常に厚着しかできないし、その上で季節に合わせた調整をしようものなら着れるものは限られてしまう。
そのため、出かける時くらいオシャレしたいなとはいつも思っているのだが、毎回似たような格好をせざるを得なくなってしまうのである。
別に、義体を隠さなければ選択肢は常人同様に数多くあるのだけれど。特に初対面で義体であることを知られると、コミュニケーションがとても面倒なことになるので、ただでさえ眼帯で隻眼であることはすぐバレることもあり見せたくはないのだ。腫れ物扱いはする側にとっても、される側にとっても、気持ちの良いものではない。
「さて、と……行くか」
忘れ物が無いことを確認し、しっかりと戸締りをしてから家を出る。
足取りが軽い。少しだけ心が浮ついてるのが自分でもよく分かった。
……
…………
………………
「いたいた、随分と早いね。こんにちは」
「……こんにちは」
待ち合わせ場所に決めた地点に行くと、久遠君は既に到着して待ってくれていた。予定の時間にはまだ余裕があるはずだが、いったい何時から待っていたんだろうか?
私はほぼいつも通りの服装だが、久遠君の方は明らかに力が入っているといった感じだ。彼の普段がどんなものかは知らないけど、今日を楽しみにしてたのかな?可愛いところがあるじゃない。
「……直接会うのはこれで2回目か。改めて今日はよろしく頼む」
「こちらこそよろしくね。それで、今日はいったい何をするってんだい?」
「そうだな……俺なりに、何をすればアンタに礼ができるのか色々と考えたんだが……」
場所を移動し、辿り着いたのは私達が出会った場所であるゲームセンター。
久遠君は、私に対して何ができるかを考え続けた結果……自分の力でゲットした景品を私にプレゼントすることにしたらしい。自分の欲しかった物を私に取ってもらったのだから、今度は自分が私の欲しい物を取ってやる番だと……そうかな?
まぁ、奢ってくれるというのなら、ここは素直に取ってもらうことにしよう。下手に断っても面子を潰しちゃうだけだしね。
何か良い物無いかな……と、筐体の中身を確認しながら歩く。特段今欲しいなと思うような物は別に無いのだが、何にしようか……お菓子なんかは私は食べないし、ほぼ初対面の相手にプライズ特有の水着のフィギュアとか取ってもらうのは流石に恥ずかしいし、あまり取るまでに掛かりそうな物を取ってもらうのも申し訳無いし……どうしようか。
「……別に、何でも良いぞ。どんな景品だって絶対に取ってみせるからな」
「頼もしいねぇ。お……じゃあ、コレをお願いしようかな」
私が選んだのは、私が挿絵を担当しているあるライトノベルのキャラのフィギュアだ。まだアニメ化もされていない始まったばかりの作品だが、こうしてプライズが出るくらいの人気は保てているようで何よりである。
別に、自分のデザインしたキャラに対してそこまで愛着を持っている訳でも無いのだが。こうしてサンプルを貰う以外で自分の作品のグッズに出会う機会はあまり無いので、ちょっとだけ欲しいなと思ってしまったのだ……自分一人だったなら、恐らくスルーしていただろうが。
「コレだな?任せておけ、絶対に取ってみせる!」
「頑張れー」
──この配置なら……ワンコイン有れば十分いけそうな感じだけど、さぁどうかな?
筐体の設定が500円で6回になっているので、景品の配置的にもそれだけあれば十分に確保できるだろう。少なくとも私ならできる。
とは言え、プレイするのは私ではなくかなりの金を掛けても景品を取れず、苛ついて台パンしかけていた久遠君だ。あの時の彼の腕前を考えるにここで景品を取るにはもう少し、だいたい1000円くらいは最低でも掛かりそうなものだが……果たしてどうなるのか、お手並み拝見といこう。
「500円あれば……イケる!」
1回目。三つある箱の中から最も取り出し口に近いものを選びアームを運び、背面の穴を通せるように繊細な操作で止める。
もちろん、これだけでは運び切れない。弱っちいアームはすぐに根を上げて箱を下ろし、ガラス壁に隔てられて音も無く地面へ落ちた。
2回目。もちろんここで一旦落としてしまうことなど想定の範囲内。結局のところ最終的に取れさえすればそれで良いのだから、たった一回失敗したくらいで一々クヨクヨはしていられない。
少しずつ、しかし確実に、久遠君は取り出し口に向けて景品を近付けていく。3回目、4回目、5回目……次、上手くいけば景品を獲得できるというところまでしっかりと持ってきた。
「これで、決める……!」
「落ち着いて、しっかりとね……!」
1クレジットの最後、6回目……余程変な失敗をしなければ十分に景品を取れる状況。
アームをしっかりと引っ掛け、重みに逆らって持ち上げ移動させていく……弱っちいアームは相変わらずプルプルと震えているが、それでも景品を取り出し口まで移動させるほうが早い。
「おお、取れた!」
「っしゃあ!」
久遠君は無事、1クレジット内で景品を入手することに成功したのだった。プレイにかなり集中していたようで、彼の額には大粒の汗が張り付きポタリと垂れて頬を濡らしていた。
「……どうぞ」
「ありがとう。大事に飾らせてもらうよ」
──けど、飾る場所作らないと無いんだよなぁ。何処に置いとこうか……
大事なことではあるけれど、今それを考えるのは無粋なことか。帰ってからにしよう。
取った景品を入れておける無料のビニール袋に箱をしまい、また次の場所へ向かうのだった。
……
…………
………………
「歩き回った後は飯が美味いねぇ」
「……そう、だな」
その後の私達は、ゲーセンで他のゲームをいくつか一緒にプレイしたり、本屋や雑貨屋などを巡ってそれぞれのおススメを買ったり、シャンフロのプライズガチャを見つけたので一緒に回したりと、色んなことをやってから、夕飯時も近くなったのでフードコートで食事をしている。
ちなみにガチャの結果は、私が水晶群蠍のアクリルスタンドで久遠君がクアッドビートルであった。どうせなら金晶独蠍の方が良かったな……
「……少なくないか?その程度で足りるのか?」
「栄養の必要な部分が少なくてね。常人と同等でも食べ過ぎになるから気を付けないといけないんだ」
「そうなのか……すまん、不躾な質問だった」
「いいってことよ」
頼んだのはお互い同じ醤油ラーメンだが、私の方はミニサイズでその量は久遠君の頼んだ普通盛りと比べて半分しかない。ラーメンは美味しいし好きだけど、カロリーも塩分量も高いので並盛りですら私にはちょっと多過ぎるのだ。
失礼なことを言ったと、久遠君はチラリと眼帯に覆われた私の右眼を見つつ謝る。そもそも失礼とも思ってないし謝罪の必要は無いので、私は彼が気に病まずに済むよう軽く流した。隠してるから分からないだろうが、無いのは眼だけじゃないんだぜ。
「そういえばさ、あの時アルミラージのクッション欲しがってたってことは、久遠君もシャンフロやってるんだよね。今どの辺なの?」
「……一応、新大陸まで進んではいる。今はイベントのために旧大陸に戻っているけどな」
「へー、どっち側?」
「……新王側だ」
どうやら、味方になりそうだ。私は別に何処に着くか決めてる訳じゃ無いけど、配信者達は新王派だし黎桜もきっとそちらに着く、なら私もアイツに引き入れられて新王に着くだろう。
──姉の方にはいかないんだねぇ。もしかしてあんまり仲良くないのかな?
思ったけど口には出さない。天音永遠との関係性はこちらが予想してるだけで、実際は違うかもしれないしそもそも当たってたとしてそこまで踏み込めるような仲でもないからだ。家族関係の話題って家族仲が良くないとセンシティブだよね。
「新王派かぁ。私もそっちにいくことになると思うから味方同士だね。お互い頑張ろう」
「……あ、ああ。そうだな」
「ていうかさ、私も旧大陸だしもしかしたら一緒に遊べるかもよ?私のPNは『ロンミン』でやってるんだけど、久遠君は?」
「俺、の、PNは………………」
──歯切れが悪いなぁ……
あんまり教えたくない感じのようだ。
予想はできる。恐らく彼はシャンフロではPKをやっていて、そのカルマ値を清算するために新王派に入ったとかそういう感じなのだろう。確か王認騎士だか何かのジョブに就くことで、それまでの罪が赦されるとか何とかあったはずだ。
別に、PK行為自体はマナー的にはよろしくないが禁じられている訳でもない。アレのような外道畜生行為までいくと流石にアレだが……彼にそこまでいけるような感じはしない。PKという行為そのものを楽しむ永遠さんや京極とかとは違って、被害者の持つレアアイテムなどを目的とした盗賊行為をメインにしていたクチか。
「まぁ、別に今じゃなくても」
「……『オルスロット』だ。シャンフロではその名前でプレイしてる」
──なーんか、聞き覚えがあるような……
既視感というか聞き覚えというか、とにかく何処かで知ったことのありそうな名前。それが久遠君のシャンフロでのPNであるという。
多分、wikiか掲示板あたりで検索すれば出てくるだろうが……ここまで渋ったなら、ヒットしたとてあまり良い内容は無いはずだ。知られては困る裏の側面……って程でもないか?勇気を出せたことを汲んで追求はしないでおこう。
「……結構、有名な名前なんだがな」
「始めたばかりでね、まだプレイ歴一月にも満たない若輩者さ。攻略に精一杯でプレイヤーの情報なんて全然なんだよね」
「……そう、か」
「きっと悪名高い名前なんだろうけどさ、私と遊ぶ時は普通に楽しめばいいよ。別に悪いことするだけが楽しみ方じゃないだろ」
私の言葉に、久遠君は「……そうか」と少しだけ表情が明るくなる。
他の人達のことは知らないけど、少なくとも私は彼に迷惑を掛けられたことは無い。そりゃあ永遠さんの時のように実害があるなら話は別だが、今のところそれは無いし二人でいる分には大丈夫。もしもの時は返り討ちにしてやるしな!
「……いつか、一緒に遊ぼう。約束する」
「オーケイ。約束だからね、忘れないでよ」
「……善処する」
「言ったね?」
こうして、私達はいつかシャンフロで一緒に遊ぶ約束を結んだ。具体的な日時や何をするかは決めていないがそれでも良いだろう、連絡先は交換してるし予定はまた後で詰めていけばいい。
ラーメンも食べ終わり、良い時間にもなっているのでこの辺りで今日はお開きということにする。別れの挨拶をして去る前に最後に見た彼の顔は、少しだけ頬が赤く染まっていた。
「……初めてのデート、か。まぁ、成功と言っても良いんじゃないかな?」
誰に話すでもなく、一人呟く。
きっと、私の頬も赤くなっているのだろう。
今は10月……秋も深まる頃とはいえ、まだまだ残暑の厳しい季節。
きっと気温のせいなのだ。そうに違いない。
久遠は恐らく八千代に惚れている。八千代の方も矢印を向ける余地はあるが……二人の縁が結ばれるかは作者が恋愛描写が苦手のため不明。