ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「さーて、何すっかな……」
シャンフロにログインしたは良いものの、あまりやることが無い現状にそんな言葉を漏らす。
真なる竜を討ち倒し、最後の街フィフティシアまで辿り着いた……それはそれとしてここから先に進むことが現状難しいのだ。
ここから挑めるというユニークモンスター『深淵のクターニッド』は、一週間に一度15人までしか挑めない上に、その15人に入るには大規模クランが仕切る高倍率の抽選を潜り抜ける必要がある。
かと言って、次のステージである新大陸へ行こうにも新大陸行きの船を待つ必要があり、更にそれに乗れるかどうかも抽選という状況。長い待ち時間を過ごさなければならない上に、待ったところで実際に乗れるかは運が絡む。中々面倒臭くて嫌な状況であるというのが正直なところであった。
──まぁ、新大陸には行こうと思えば海底を渡って行けるんだけどね……
一応、私には環境由来のあらゆる悪影響を無効化できるアクセサリー『
深海の水圧も、無酸素状態も無視して海底を歩き回れるようになる……のだが。船でもリアル一週間は掛かる道を地図も無く歩くのは、文字通りの自殺行為に等しい。道中でのアイテムの補給も難しいしこの案はあまり現実的ではない。実行するとしても最終手段とするべきだ。
「だとしたら、何するかだよなぁ……」
「お暇かい?ならアタシとお茶でもしないかね?」
「うおお!?」
「あははは!良い反応するねぇ、アタシゃ元気な子は大好きだよ!」
まだレベル99まで戻れていないステータスを見ながら、「このままだと『覚醒の導師』ってのにも会えないんだよなぁ……なんて思っていると、急に背後から人の声が響く。
驚いて跳び上がった私が後ろを振り向くと、そこにいたのはケラケラと実に楽しそうに腹を抱えて笑う汚らしい格好の老婆が居た。PNが頭上に無いのを見るに、NPCのようだが……
──まさか、ユニークシナリオか?
「……で、アンタいったい誰なんだい」
「おっと、挨拶がまだだったねぇ。アタシの名前は『ヒステリア』……人呼んで『追憶の賢者』だよ」
「追憶の賢者……」
「本当は、別に開拓者に関わるつもりは無かったんだけどねぇ。アンタは良い記憶を持ってるみたいだから、つい話しかけちゃったよ。アタシにアンタの記憶を見せてくれないかい?」
──記憶を見せる……?
どういうことだろう。単に頭の中を覗かせてやるという訳ではなさそうだ、口振り的に物理的に持ってるって感じの言い方だし。
つまり、ここで見せるべきはアイテム……私の手持ちの中で記憶に関連する物と言えば、旅路を記録して一度行った場所にファストラできるようにする上に、戦闘の内容を記録し加工することで戦った相手の要素を持つアイテムを作れる「
──どっちも不正解、なんてことは無いだろ……
「これでどうだい?」
「ほう……素晴らしいねぇ。記憶を蓄える水晶に歴史を重ねた英傑の剣か。どうやら、アタシの直感には何の狂いも無かったようだ」
「満足した?」
「ありがとうよ。だが……この剣には何か未練のようなものが残っているね。アンタの剣として過去と決別する気概はあれど、かつての主人の元で成せなかった悔恨を引き摺っている……アンタ、この剣の未練を果たさせてやるかはあるかい?」
【ユニークシナリオ『英傑の試練』が発生しました】
【受注しますか?】
【はい いいえ】
──お、やっぱりユニークか!
「こんなの、受けるに決まってるよね!」
「そうかいそうかい。返事が早くて助かるよ」
このシナリオは、リペアした英傑武器を
過去の未練を晴らし、姿を変えないまま力を取り戻すのが『
今の持ち主の武器として、過去の持ち主と決別することで姿を変える『
再構築の方は、過去の持ち主を知る者から所有権を認められることで可能になる。しかし再生成はその仕様上武器によって難易度が大きく変わる。中にはこんなんできる訳ねぇだろと言いたくなるような鬼畜仕様もあるそうだ……このシナリオは、そんな再生成の救済シナリオとも言えるか。
──んん?そう言えば、アモルパレントを手に入れた時の状況的に……
「さぁ、行こうかねぇ。時間は有限、過去はすぐに追い付いてきちゃうから行動は素早くだよ!」
「ちょっ……私まだこの辺の地理知らないのに!」
嫌な予感が過ったが、婆さんが老体に見合わぬ速さで歩き始めたので思考を中断して追う。
その背中を見失わないよう、土地勘の無い中を必死に追いすがり……辿り着いたのは、多くの船が停泊するフィフティシアの港であった。
「一隻船を借りるよ。アンタはアタシが良いと言うまでそれをしっかりと漕ぐんだね!」
「へいへい……」
ヒステリアに言われるがまま、小舟……と言うよりボートを借りて大海原へと旅立つ。
試練の内容に嫌な予感しかしていないし、足場が頼りないボートという凄く不安な状況。こんなんで戦えるのだろうか……心配に思いながらひたすらに漕いでいると、やがて止まるように指示される。既にフィフティシアの港は見えない所まで来ていた。
「さて……ここまで来れば十分だろうよ。アンタに課す試練は、かつてアモルパレントが果たせなかったことを代わりに果たすことだ。ここまでは予想できているだろう?」
「そうだね」
「アモルパレントは恩愛の剣だ。その本懐は敵を斬るという剣としての基本ではなく、そのあらゆる脅威を弾く防御能力にこそある。だが、かつてはルールイアと呼ばれていたその場所で、アモルパレントは迫る脅威に対し何もできなかった」
「……」
試練の内容は、『この場所からヒステリアを無事にフィフティシアの港まで送り届ける』こと。
無事に、ということはつまり、無事には帰れなくなる可能性があるということ。そしてその相手はアモルパレントを手に入れたユニークシナリオの内容を鑑みるに、あの……
【現在の装備状況がロックされました】
【このシナリオ中は『アモルパレント・リペア』以外の武器を使用することはできません】
「うお……マジかよ」
「さぁ、試練の始まりだよ!」
私が思うよりも早く、答えはそちらの方からやって来る。
海よりも、空よりも青い、全てを貪り際限無く増えていく無情の狂気。『狂える大群青』からヒステリアを守り通す戦いが始まった。
【『狂える大群青』が出現しました】
……
…………
………………
「クソ……斬っても斬ってもキリがない!」
「あははは!頑張るねぇ!」
「うるせぇぞババア!黙って守られてろ!」
「威勢は良いが、それがいつまで続くかねぇ?」
──ええい、気が散る!
後ろから茶々を入れ続けるヒステリアをひたすらに青の暴威から守り続ける。守られる立場の癖して何でこんなに偉そうなんだコイツは……
一応、対処ができない訳ではない。アモルパレントには始源の存在、即ちレイドモンスター相手への特効能力があるし、ジャストガードは使いこなせれば奴らに一切触れさせることを許さない。結構時間は経っているはずだが、その場からの身動きこそ取れていないもののかなり長い時間時間稼ぎを成立させることができていた。
レイドモンスターは元々複数人でやる想定。その上何でもこの大群青は本来、クリア後のフレーバー専用モンスターであって、コイツと戦うことはハナから想定されていないのだという。
しかし、これはあくまでユニークシナリオの真っ只中。シナリオがゲームである以上クリアの余地が完全に0などということは無いはず、ならば付け入る隙は必ず何処かにあるはずだ。
──ブレイクゲージはとっくに溜まってる、子守火を使いたいけどそうしたら魔眼の効果が消えるのが痛過ぎるんだよなぁ……
アモルパレントの切札『
しかし、子守火の発動と
「ババア、右に向かって漕げ!」
「何だい、守るべき相手に働かせるのかい?」
「守ってやってる間に逃げることこそ、守られてる側がするべきことだろうが!逃げる努力くらいは自分でやりやがれ!」
「あははは!その通り!」
子守火を使える状況を作る、そのためにもヒステリアにはしっかり協力してもらう。ボケっとしてんじゃねえぞキリキリ働け!
大群青は四方八方から襲って来る、そのため何度も何処を迎撃してもその間に後続が補充されて常に包囲網が敷かれる。これを突破するためには少しずつでも動いていかなければならないが、迎撃と船の操縦を同時にやるだけの余裕は無い。なのでヒステリアにも働いてもらう必要がある。
護衛対象ではあるが、だからと言ってただ守られて何もできないという訳でもあるまい。手前の命なのだから、生き残るためにもできることはやってもらわねば困るのだ。
突撃をジャストガードで弾き、止まった隙を斬り裂いて包囲を削る。できたスペースにヒステリアの操縦で船を移動させ、また同じことを繰り返して少しずつ進んでいく。そうして次第に風穴が開けるようになったあたりで、畳み掛けて包囲網を脱出するチャンスと見た私は
「ババア!こっから畳み掛けるぞ、遅れるなよ!」
「いいねぇ、いくらでもやりな!」
怨毒包丁を自身に突き刺し、怨毒状態を付与して刻傷の影響を一時的に打ち消す。施しの指輪を装備して自滅対策をするのも忘れずに。
すかさず子守火を発動。HP・MP以外の全ステータスを1.5倍に強化する黄金の炎がアモルパレントの刃と全身に着火し、その時に吹き上がった炎が近付いていた大群青の一部を焼き尽くした。
「今だ……!飛んで逃げるぞ、掴まれ!」
攻撃用スキルを惜しげもなく使い、黄金の炎で大群青を焼き尽くし包囲網から脱出。即座に封虹の撃鉄を起動して宙へ浮かび上がる。
無尽蔵に湧き出る大群青の殲滅は、子守火の力を持ってしても不可能だろう。しかし一度抜け出すことさえできたなら、後は加速スキルをフル活用して港まで逃げれば良い。問題は逃げた後の大群青がどうなるかだが、シナリオ上の出番が終わり消えていくのか、それともそのまま脅威として残り続けるのか……分からないが、今はクリアを優先しよう。
「金の次は虹色かい。最近の開拓者は色味が派手で目眩がしそうだよ!」
「言ってる場合か!早よ掴まれ……ッ!?」
ヒステリアの腕を掴み、抱えていざ飛び立とうとしたその時であった。
──身体が動かなかった……ラグ、か!?
地震のような大きな揺れが起きたかと思えば、何らかのスキルや魔法を受けた訳ではないにも関わらずアバターの動きが一瞬硬直したのだ。
これまでシャンフロをプレイしていて、一度も遭遇したことの無かったラグのような挙動。それが起きたことの意味を考える暇も与えられないまま、私とヒステリアは大群青ごと海の底から伸びて来た蛸のような触手によって、深い深い海中へと引き摺り込まれていくのであった。
──クターニッド!?
私はこの触手のことを知っている。
かつて、大群青の脅威からルールイアを救った7種のユニークモンスターの一角。その名は『深淵のクターニッド』。あの時命を救われた触手に、今度は命を奪われるのか……身体と一緒に意識が沈んでいく中で、私が見たのは新たなシナリオの開始を告げるメッセージウィンドウであった。
【ユニークシナリオEX『
──強制開始かい!
クターニッド「何してくれとんねん」
ユニークシナリオ【英傑の試練】は自身の手持ち
また、ヒステリアは人や土地・アイテムなどの記憶を触媒として強力な魔法を使えるが、戦闘能力には寄与しないため戦ってはくれない。