ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「っぐう……あれ、普通に呼吸できてる?」
「ここはルルイアス。海の底にありてしかし陸と同じように活動できる、最強種のテリトリーだよ」
クターニッドの触手に海底へと引き摺り込まれた私達であったが、目を醒ますとそこには一面が真っ青に染まった街並みがあった。
ヒステリア曰く、この土地の名は『深淵盟都ルルイアス』というクターニッドの縄張りだそう。確かルールイアという名前ではなかったか?と思ったがまぁ時間が経てば変わることくらいあるか。今はあまり関係は無さそうなので気にしないことにする。
「………………!!」
「呆けてる暇は無いか……ババア、走るぞ!」
「あははは!やることが多くて楽しいねぇ!」
「誰のせいでこうなったと思ってやがる!」
「受けると決めたのはお前さんさぁ!」
──ちくしょう、それを言われたらその通りだから反論できねえ!
ルールイア……改めルルイアスに来てからも、大群青の攻勢が止むことはなく。寧ろルルイアス中の打ち棄てられた家屋などを取り込んで、更にその勢力を増していっている。
本当にキツい。エリチェンしたせいかクターニッドに引き摺り込まれてから子守火が消えてるし、封虹の撃鉄も効果切れで、リキャスト待ちになっているせいで空を飛んで逃げることもできない。大量の魚と青が支配する街並みを、私達はひたすらに走って逃げるしかできなかった。怨毒も一緒に消えてたおかげで、気を失ってる間に死ぬことは無かったのが不幸中の幸いである。
「ああ、もう……こうなったらもう、本格的に戦うしか無いか……!」
「……おや?ロンミン、上を見てごらん」
ヒステリアの示す先を見ると、空中に複数の巨大な魔法陣のようなものが浮かんでいるのが見えた。アレもクターニッドが出しているのだろうか?だとするといったい何があるのか……その答えは魔法陣が光を放つと共にすぐに分かった。
強烈な光と共に出てきたのは、リュウグウノツカイを巨大化させたような魚型モンスター……名前は『アルクトゥス・レガレクス』というようだ。それが6匹も現れ、そして大群青を視認すると同時に一斉に攻撃を仕掛けていく。魚にあるまじきレーザーのようなブレスを吐き、増殖する大群青を一気に焼き尽くしたのだ。
「うおっ……凄え衝撃……!」
「クターニッドの仕業だねぇ。大群青を弱らせるためにモンスターをけしかけているのさ。今は大群青に掛かり切りだけど、ちょっかい出したらこっちにも攻撃してくるから気をつけるんだよ!」
「上手く使えってか、簡単に言ってくれるよ!」
あの時のユニークシナリオの通り、クターニッドは大群青と敵対しているようだ。しかしあの時は普通に自らの手で戦っていたのに、どうして態々呼んだモンスターに任せるなんて面倒な真似を?
──あれ、これウチらのせいか?
クターニッドは再戦ができるタイプのユニークであり、その多くのトッププレイヤー達が週に一度の再戦の順番待ちをしているそうだ。掲示板を見るとよく見る話だから覚えている。
そして確か、前回の挑戦時から今日までではまだ一週間は経過していない。つまり今ルルイアスに私がいるこの状況は本来あり得ないこと……再戦には一週間のクールタイムが必要な理由が、クターニッドを休ませるためだとしたら。
「……今のクターニッドは、大群青に勝てない?」
「あり得る話だねぇ」
今のクターニッドは、プレイヤーとの戦いで少なからず消耗している状態にある。モンスターをけしかけているのはそれが理由……今の状態でも大群青を封印できるようになるまで弱らせるためだ。
ただの憶測だが、そうと分かったからにはこちらも協力しない訳にはいかない。何せこうなってしまった原因は10割こちらにあるのだから、何から何までクターニッドに任せるのは違うだろう。ちゃんとこちらも戦わなければあまりにも誠意が無い。
「よしババア、この辺の小屋の中に隠れてな。私は大群青を倒しに行く」
「もう少し待った方がいいよぉ。『ランダムエンカウンター』はまだ続いてるみたいだからねぇ」
クターニッドが先程から使用している、無作為にモンスターを呼び出す魔法……その名を『ランダムエンカウンター』はまだ途切れていない。今もまだ無作為にモンスターを呼び続けている。もう何体目を呼び出したかすら数え切れない程、大量の魚がこのルルイアスに集まってきていた。
成る程確かに、この数は巻き込まれ事故のリスクがかなり高くなってしまうだろう。ヒステリアの言う通り様子を見て、供給が止まってから向かった方が良さそうだ……そう思いランダムエンカウンターが止まるまでを見ていると、これまでよりも一際大きな魔法陣が4つ生成される。
「デッ……か……!?」
「あははは!深海三強に加えて『雷輝の冥王』まで引っ張ってくるとはね!クターニッドの奴も相当慌ててるみたいだねぇ!」
【『アトランティクス・レプノルカ』に遭遇しました】
【『スレーギヴン・キャリアングラー』に遭遇しました】
【『アーコリウム・ハーミット』に遭遇しました】
【『アトランティクス・レプノルカ"
4つの魔法陣から解き放たれたのは、深海三強と呼ばれる特に強力な3種と、それらを合わせてさらに強化したような1種。それ1体だけでも大ボスとして扱えるような強大なモンスターが、一堂に会するその光景はまさに圧巻。
シャンフロを始めたばかりの頃に出逢った、あのリュカオーンの影……それに似たような刺激を全身で感じているのが分かった。威圧感に圧倒されて肌がビリビリと震えているのが感じられる。
「…………!!」
「…………!!」
「…………!!」
「…………!!」
「あははは!壮観だねえ!」
「言ってる場合かって……!クソ、これじゃ割って入ることもできそうにないな……!」
突然の招きに気分を害したのか、"三位一体"と名付けられた個体が唸り声を上げる。それは威嚇でありこれから虐殺を行うという意思表示であり……
「…………!!」
「やべぇぞコレ逃げるぞババアーッ!」
「おいこら年寄りを引っ張るんじゃないよ!仮にもアンタの護衛対象なんだよ!?」
「うっせ、命の方が優先じゃい!」
「それはそうだけどねえ!」
……攻撃へ繋がる予備動作でもある。
"
小さな分身も大口を開け、本体と同じく放電と充電を始め──そして、十全にチャージされた蒼き雷が一斉に四方八方へ放出された。
「オワーッ!」
「あははは!壮観だねぇ!」
放電は大群青を蹴散らしながら、周りのモンスターや廃屋も構わず薙ぎ倒していく。その余波は勿論私達にも降り注ぐが、アモルパレントでキッチリとジャスガを決めて凌ぐ。
しかし、あまりにも数が多過ぎる。ジャスガを決めるためにはしっかりと剣を振ってアモルパレントを使っている状態にしなければならず、ただ持っているだけではジャスガにはならない。こういう攻撃判定の多い攻撃とはそもそも相性が悪い上に、その威力も一撃必殺クラス……他の武器も使えたならまだしも、今の私には"三位一体"を倒すプランがほぼ存在しないのだ。
このシナリオのクリア条件は、あくまで『ヒステリアを無事にフィフティシアまで連れ帰る』ことであり、大群青やその他モンスターの撃破は必須事項ではない。
とは言え、この地獄絵図をどうにかして突破した上でクターニッドまで撃破しないことには、ルルイアスを抜け出せないのも事実。どうしたものかと考えていると、"三位一体"ではない方のアトランティクス・レプノルカが吠えた。
「コイツもレーザー撃てんのかよ……!」
通常種の方が放ったレーザーが"三位一体"に直撃し、奴の体表を巡る電気と絡み合った結果大爆発が引き起こされる。
爆発によって吹き飛ばされた"三位一体"のダメージはまだ軽微といったところだが、その余波に巻き込まれた者達はそうはいかない。私達はジャスガで無事に済んだが、スレーギヴン・キャリアングラーと大群青が大きく被害を受ける。特に大群青の方はルルイアスに来てからまた増えていた分体を一気に減らされる大被害を食らっていた。
巻き添えを食らったスレーギヴン・キャリアングラー……クソデカアンコウも怒り、その能力を発動する。周りの魚達を自身に隷属させ、従順な手足として使う恐るべき力を。
しかも、今回隷属させられたのはただの雑魚ではなく中ボスレベルの戦力はあるアルクトゥス・レガレクスだ。召喚された6匹全てを支配下に置き、その巨体とブレスで辺りを構わず攻撃する。これでまた大群青のストックが減っていくが、同時にアトランティクス・レプノルカやアーコリウム・ハーミットも攻撃に巻き込まれてしまう。つまり次は、アーコリウム・ハーミットのターンだ。
背負った巨大な巻き貝から射出される無数の小魚やイカ・タコ・甲殻類が、ミサイルのように飛来し盛大に爆ぜる。
こちらに飛んでくるそれらを丁寧に処理し、とにかくヒステリアが傷付かないよう凌ぐ。突っ込んでくるだけと動きが単純なおかげで、対処はさっきまでと比べたら楽な方ではある。ヘイトが大群青や他のモンスターに向かう方が大きく、こちらにあまり関心が向いていないのも大きい。
「ちょっとだけ、落ち着いてきたな」
──今なら、イケるか……?
クターニッドの思惑通りというべきか、召喚されたモンスター達は自分以外の全てを鏖殺する勢いで攻撃を繰り出し、大群青を削ってくれている。特に"三位一体"の攻撃は凄まじく、ルルイアスの家屋を取り込んで増えたはずの大群青は瞬く間にその勢力を減らしていた。そしてそれは続いている。
恐らく、今くらいまで減らせているなら子守火で大群青を一掃できるはずだ。限界まで弱らせてから後はクターニッドに任せる、これで大群青を始末すれば脅威を一つ減らせる。そうと決まれば封虹の撃鉄はどうなっているか……お、どうやら丁度リキャストタイムも終わったようだ。
「焼き尽くす……!」
「頑張りんしゃい」
放電、レーザー、奴隷魚、etc……全方位を埋め尽くす死の中へ飛び込み、大群青の息の根を止めるべく黄金の炎を振るった。
「チィ……小賢しい真似を」
しかし、攻撃は当たらず。既にかなりの数を減らされたことで焦りが出たのか、大群青は始源への特効を持つ炎を回避する選択をしたのだ。
リーチの都合上、かなり深くまで踏み入らないといけないのに避けられたとあれば、最早完全に接するくらいまで近付く必要があるか。大群青に触るなど自殺行為に等しいが、ここはリスクを負ってでもこの戦いを終わらせにいくべき……
「いや、使えそうなのがあったな?」
大群青との戦闘はそこそこ長い時間が経った。十分にアレを使える下地は整っているはずだ。
使用感はユザーパー・ドラゴン戦で確かめてあるしイケると思う。後は奴の攻撃が軽減でどうにかなるようなものであることを祈るだけ。一瞬胸の内でそれを願いながら、私は大きく声を出した。
「竜魂解禁──『パーフェクト』!」
私の背後に竜の幻影が映る。以前に撃破した真なる竜種パーフェクトの幻影だ。
今回は
──やってやる!
問題無し。そう判断した私はアモルパレントを握り締め躊躇い無く大群青の中へ飛び込んだ。そのまま振っただけでは避けられてしまう、ならば分かっていても避けられない攻撃をする他無い。
しかしそう簡単にはいかない。大群青は特効を恐れて逃げようとするし、追いかければ魚共の放つ電撃やらミサイルやらが邪魔をする。いつもならどうということはないが、
「いや……違うな」
守りに入る思考を打ち切り、瞬刻視界を発動していつも通りの視界を確保する。魔眼が使えないのならさっさと使えるようにしてやればいい、そもそも長引かせればジリ貧になるのはこちらなのだ。短時間で終わらせるためにも出し惜しみはしない、全部出し切っていけ。
──子守火を使うためのポーションも、大量にあるとは言え有限だしね……!
更にアドレナリン・マックスを発動。いつもならバフ系スキルは最終盤まで出し惜しみしがちだが、ここは惜しまず使う。瞬刻視界の短い効果時間の間に確実な成果を得なければならないからだ。
強化された腕力でアモルパレントを振り、より長射程になった炎で壁を作り大群青の位置取りを誘導。更に魚共に炎を当てることでヘイトを向け、ある程度奴らの攻撃もこちらに誘導し管理しやすくする。
上へ、上へと押し上げる……そうして辿り着いたのは"三位一体"の眼前。超至近距離まで近付いたことで"三位一体"はこちらを排除すべく分身と電撃を包囲するように差し向ける。
これで大群青の逃げ場は無くなった。己を取り囲む放電に身動き取れなくなった大群青、その中に飛び込み内部からスキルを発動する。撃炸貫廻、ストロングスラッシュ、断撃『破城斬』、パワースイング、そしてそれらのヒット数を上げる
削る、削る、削る。実際子守火の持続時間も5分しか無い、誘導にかなりの時間を使った以上は速攻で畳み掛けなければ効果切れになってしまう。電撃を受けてHPがどんどん減っていくが、今は自動回復できる状態だから気にするな。麻痺やスタンは装備で無効化されるし本当に気にしなくて良い。
まだか。まだか。まだか。もう何度目になるかも分からないが、数えはせずひたすらにアモルパレントを振る。やがて時間が来て子守火は消え、それと同時に4体の新手のモンスターが現れた。
「アレは……」
その正体を考える前に、4体のモンスターは魔法陣を作り出し私ごと大群青を包囲する。大群青を包み込んだ魔法陣は強い光を放ち消失……光の消えたその場にはもう、青は消え去っていた。
【狂える大群青は再び深き淵に沈んだ】
通知が大群青の撃破を知らせる。どうやらあの4体……もう居なくなってる、早っ。アイツらはクターニッドの部下か何かであったようだ。大群青が十分に弱ったのを察知して、再封印のために現れてそしてまた消えたというところだろう。
何はともあれ、これで驚異の一つは消えた。だがまだこれで終わりではない、呼び出された魚共の後始末まで終えておかなければ。一応ヒステリアには身を隠させているが、あの飽和攻撃にいつまで逃げ隠れできるかは分からない。安全を確保するためにも奴らは必ず始末する必要がある。
「まったく、平和の尊さが身に染みて分かるよ」
まだまだ戦いは終わらない。私は間髪入れずに怪獣大戦争の中へ身を投じた。
大群青弱くない?と思われるかも知れませんが。その通り、あくまでクリアされることが前提のユニークシナリオの敵として出ているので、相応の弱体化がされています。普通に出ていたらまず勝てない相手であることには変わりありません。