ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「……レベル、変わってないな」
アトランティクス・レプノルカ"
どうやら、【英傑の試練】が終わるまではレベルアップはお預けらしい。ボス級を何体も倒したから楽しみにしていたのだが、まぁ仕方ない。さっさと終わらせて反映されるようにしよう。
「ふふふ……希少素材がいっぱいだぁ」
「戦利品が大漁だったねぇ」
大量に確保したドロップアイテム、その一覧を眺めて私はうっとりとした表情を浮かべる。まだまだ流通量の少ない希少な深海素材、しかも二度と同じものは現れないだろうレアモノまで、多くの素材がぎっしり詰まったインベントリはまさに宝の山。
私は色々とやってきたゲーマーだが、どんなゲームでもこういうのをしみじみと眺めるのが一番楽しかったりするものだ。それまでの苦労を偲び、明るい未来に想いを馳せる……私は行ったこと無いのでよく分からないけど、遠足や旅行は準備期間が一番楽しいと言われがちなのと同じだろう。
「冥王鯱の照鏡骨、隷王鮟鱇の幻惑灯、森海隠者の指揮鋏、"
「その前に、無事帰れるか取りだけどねぇ」
「そう、それな……流石に大ボス級モンスターとの連戦で疲労がヤバいから、私は一旦寝るよ。戻って来るまでにくたばってんじゃないよ」
「何、大人しくしておくさ。この歳になって、そんな無様な真似しないから安心しな」
こうして、私は一旦ログアウトした。開いたVRチェアから覗く光が眩しく視界を刺激する。
転ばないよう慎重に、眠気で重たい瞼を擦りながら這い出て水を飲む。長い間ゲームばかりしてると喉が渇いてしょうがない。数時間振りの水分はとても気持ち良く全身に染み渡っていく。
──はぁ、うめ……
「世の中には、ログアウトしたくなくて点滴しながらゲームしてる奴もいるらしいけど……そこまでしてプレイ時間伸ばしたいもんなのかねぇ」
この後はシャワーを浴びて、歯磨きしてから寝ようと思っていたのだが。ふと自分のスマホを見るといくつかのメッセージが届いていた。
身内からの定期的な生存確認ならともかく、仕事に関するものだったらマズいし、すぐに確認しておかなければならない。スマホを開いて内容を確認すると、それは黎桜からのものであった。どうやら、シャンフロのことで聞きたいことがあるらしい。
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黎桜:この前漸くフィフティシアに着いてね、頑張ってクターニッドへの挑戦権もぎ取って挑めるってところだったんだけど。肝心の前提になるユニークシナリオがいくら待っても発生しなかったの
八千代:ほうほう、それで?
黎桜:八千代ちゃんも確かフィフティシアに着いてるんでしょ?なら、何か知ってるんじゃないかなって思って連絡したの
八千代:……おめーの嗅覚どうなってんだ
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──コイツ、本当にもう……
他にもシャンフロやってる知り合いなら沢山居るだろうに、どうしてこうピンポイントで私が当事者な時に狙い撃ちにできるかな。配信者ならこういう勘が鍛えられるってことなのか?
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黎桜:あ、やっぱり?いったいどうしてユニークが発生しないのか知ってるんだね!白状しなさい!
八千代:そりゃあ、私が今ルルイアスに居るからだろうね
黎桜:え?
八千代:こっちのユニークやってたら、いきなり海中に引き摺り込まれてクターニッドのユニークシナリオEXが始まっちゃったんだよ。予測も回避も不可能な不可抗力ってやつだ
黎桜:うーん……それなら仕方無いと思うけど。他にも楽しみにしてた人達が沢山居るから、その人達がそれで許すかどうかだね。もし許されなかったら、フィフティシアに帰ってきた時はそりゃあもう盛大な『お迎え』が待ってるよ?
八千代:うへ、めんどくせ……だったら少しでも早く終わらせて戻ったほうが良さそうだね。
黎桜:こっちの方で説明はしとくけど、抑えられなかったらごめんね?その時はどうにかして生き延びてね
八千代:分かった。連絡ありがとう
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「……地上は面倒臭いことになってるんだなぁ」
黎桜の話によると、どうやら地上に戻ったら暖かい『お迎え』が待ち受けているらしい。アイツも抑えようとはしてくれるみたいだが……貴重なユニークのために色々と調整してきたのを私のせいで無駄にされたとあれば、彼らもそう簡単に引き下がったりはしないだろう。戻ったら争いになることは必至と考えておいた方が良い。
できる限り穏便に済ませたいのは山々だが、私からしても自力で引き当てたユニークを攻略することにアレコレ言われる筋合いは無い。平和的に解決したら嬉しいが、どうせ争いになると思うしどうやって
──何はともあれ、まずはクターニッドか。
この先がどうあれらクターニッドをどうにかしてルルイアスから抜け出さないことには、私も黎桜達もどうにもならない。長引けば長引くだけ怒りに油を注ぐことになりそうだし、攻略の楽しみは減ってしまうが、先駆者から情報を貰ってさっさと終わらせてしまおう。そうしよう。
誰から聞くのが良いか……楽郎君なら確実にクリアしてるだろうが、彼の連絡先は知らない。身内や知り合いなら誰がクリアしてそうかな……シャンフロ廃人の玲とか、新大陸まで進んでる瑞樹姉さんとかならイケてるかな?玲や楽郎君と同じクランの永遠さんもイケてるかも知れない。
──うーん……取り敢えず明日にするか。寝よ。
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翌日。
改めて黎桜と連絡を取り、地上が今どうなっているかを教えて貰った。
曰く、「主張がお互い平行線なので平和的な解決は難しいだろう」とのこと。
確かにその通りだと私も思う。私からすれば自力で引き当てたユニークを攻略することにどうして文句を付けられなきゃいかんのだと思うし、相手方からしてもこの日のためにスケジュールを調整して準備を整えたのにそれが全部無駄骨になったのだから引き下がるなんてあり得ない。お互い、立場が逆でも同じことを言っているはずだ。
──うーん、やっぱり暴力に訴えるしか無いか。
私がルルイアスを脱出した後の段取りは、文句を付けてきた奴らをまず言葉で相手して、ちょうど良いところで黎桜に介入してもらう。そして『私と黎桜でフィフティシアの闘技場で決闘を行い、黎桜が勝てば、私がルルイアスで入手したアイテムを全て渡す』という流れを作るのだ。
勝負はその一戦きりで、勝っても負けても結果に文句は付けさせない。これなら血気に逸る奴らも抑えられるだろうという算段だ。仮にこの約束を守れない奴らが居たとして、黎桜は決闘の様子を配信するので全世界に一度した約束も守れないカスとしてPNが晒されることになる。流石にそんなリスクを負おうとまではしないだろう。
ちなみに、勝負自体はガチでやる。八百長は黎桜の信用に関わるから元よりできないし、イベント前の良い予行演習にもなるからね……イベントじゃあお互い味方だけども。
後のことを憂うのはこの辺にして、ここからは深淵のクターニッド攻略のための情報を集めよう。
攻略を終えていそうな人達の中から、誰に話を聞こうか考えたが。ここはやはり記憶力が良くて細かく覚えていそうな玲が良いだろう。この時間帯なら家に居るだろうし、話し掛けても邪魔にはならないはずだ……楽郎君との逢瀬の途中だったらスマン。
『はい、斎賀です……八千代ちゃん?』
「こんばんは。ちょっとシャンフロのことについて聞きたいことがあるんだけどさ、今は大丈夫かい?」
『構わないけど……何を聞きたいの?』
「えっと、前提から話すと長いんだけど……」
玲に電話を掛け、通話を始めても構わないことを確認してから本題に入る。かくかくしかじか……と全体の説明を終えると、「確かに、ユニーク絡みだと面倒事は増えるよね……」と納得して貰えた。
『そういうことなら、教えます。私が覚えている分しか教えられないけど……』
「十分だよ。よろしく頼むね」
『……まず、ルルイアスの四方に配置されている塔に居る『封将』を倒しておきます。これをしておくと本番で少し楽になれるので、無視しても構わないけど悪手だと考えた方が良いです。次に……』
纏めると、
①封将を倒そう!『物理無効』『魔法無効』『近距離攻撃無効』『遠距離攻撃無効』の4種類が居るから頑張れ!スルーするとクターニッドが封将達に対応した能力を使ってくるぞ!
②クターニッドに挑もう!ルルイアス中央の城地下に居るけどソイツは触っちゃダメだぞ!城の中に配置されている宝石と王冠を集めて合体させると真のクターニッド戦が始まる、ここからが本番だ!
③触手を攻撃して全部引っ込ませよう!NPCはクターニッドの能力で役立たずになるからソロなら自分の力だけでどうにかしないといけないぞ!
④聖杯を全て壊そう!全部で8種類あるけど封将を倒していると、対応した聖杯が最初から出てこなくなるので少しだけ楽になる!聖杯は30秒周期で効果を発揮し、同じ物が2回発動すると効果が切れて元の状態に戻る!一覧はコチラ!
赤:『近距離攻撃無効』・読んで字の如く
橙:『遠距離攻撃無効』・同上
黄:『物理攻撃無効』・同上
黄緑:『魔法攻撃無効』・同上
緑:『色彩反転』・色調が反転する
青:『性別反転』・アバターの性別が反転する
藍:『ステータス反転』・ステータスが反転する
紫:『ダメージ反転』・攻撃と回復が反転する
全部壊せば次のステップ!あともう少しだぞ!
⑤クターニッドが最終形態に備え、大量の魚を呼び出して吸収を始める!吸収される前に魚を倒して強化を阻止しよう!
⑥最終段階!プレイヤーの戦闘スタイルをコピーして戦ってくる上に、コピーの元になっている宝石を破壊すると、コピーを止める代わりに自分がその武器を封印されてしまう!武器の使用状況がロックされている今のロンミンには最悪のギミックだけど頑張れ!ここを越えたら晴れてクターニッド撃破、ユニークシナリオEX攻略完了だ!
「……と、こんな感じか」
『うん、合ってる合ってる。ただ、聞いた限りだとシナリオの名前や入りからして、私達がやった時とかなり違うから……何かしらの差異があるかも知れないことは頭に入れておいてね』
「気を付けるよ。情報ありがとう……あぁ、最後にもう一つだけお願いしても良いかな?」
『どうしたの?』
「えっとねえ……」
……
…………
………………
さて、ログイン前にやっておきたかったことは全部終わらせられたしプレイを再開しよう。
トイレを済ませ、水分補給をしてからVRチェアに座りゲームを起動。シャンフロ世界に舞い戻る。眼が痛くなるような一面の青が、意識の写った私を出迎えてくれた。
「おや、起きたかい」
「ただいま、ヒステリア。今日でクターニッドを倒してフィフティシアに戻るよ、覚悟しときな」
「アッハッハ、頼もしいねえ!」
「さぁ、行こうか!」
早速、貰った情報を確かめに行こう。
玲を疑う訳じゃないが、私が発生させたユニークシナリオEXの名前が【
わざわざ名前を変えている以上、中身の方も何処かしら変わっていることがあるはず。それを確かめておかなければならないのだ……玲本人からもちゃんと確かめておけと釘を刺されてるしね。
変に変わってなければ嬉しいけども……果たしてどうなっているか。取り敢えず挑める場合一番面倒になりそうな、『物理攻撃無効』持ちの封将から試していきたいところだ。
「ここが、例の塔か……」
「大っきいねぇ」
昨日の大怪獣バトルの反動か、強力な魚モンスターに襲われることもなく、私達は無事に封将が居るという塔まで辿り着いた。
早速入ってみよう……と、伸ばした手がバチリという音と共に阻まれ弾かれる。電磁バリアのようなものが塔の入り口を塞いでいるのだ。
「直接挑みに来い、ってことか……」
「何だい、無駄足だったのかい」
どうやら、私はフルパワーのクターニッドと戦わなければならないらしい。封将を倒して楽をするなんてことはさせてくれないそうだ。
できないものは仕方無いので、このまま踵を返して城へ向かう。封将と戦えないのなら塔を目指す意味は無いし、直接城へ行くべきだ。
──これは……肝心のクターニッド戦も、ギミックが変わってたりするのかなぁ?
歩きながら、そんなことを考える。アモルパレントの耐久がそろそろキツいし、あまり不確定要素に増えて欲しくはないのだが……初めてのユニークモンスター攻略は、前途多難なものになりそうだ。
「それでも、私達は生きて帰る。そうだろ?」
「そうそう、その意気だねぇ。アタシは期待して守られてるよ」