ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「やっぱ、前見た時よりボロボロだな……」
「何だい、前にも来たことがあるってのかい?」
「記憶の中でね。足を運んだのは初めてさ」
「ほうほう?」
ルルイアスの中心たる城までは、特に波乱も無く無事に辿り着くことができた。刻傷効果のおかげで格下は寄ってこないし、格上も昨日がヤバかっただけで普通はそう簡単に出逢うもんじゃない。とは言えランダムエンカも無かったのは幸運だったな。
それにしても、城は【小さな矜持】で見た時よりも随分とボロボロになってしまっている。ルールイアからルルイアスに……支配する者が人の王からクターニッドになって、それから今までの間にかなりの時間が経っているということなのだろう。
──あの時は記憶の中だったからか、モノクロの光景でしか見えなかったけど……本来のルールイア城ってどんな色や形をしていたんだろうね?
前回は記憶による再現、今回は時間が経って風化した上に青に侵された状態。この巨大な城の本来の姿を知れる者がいったい何人居るのだろうか。そんな割とどうでも良いことを考えながら、私達は城の内部を探索していった。
中にも特にモンスターは居らず、特に目ぼしい物も無い無駄に広いだけの幾つもの部屋を、何度も空回りさせられるばかり。何かしらお宝とか新情報があると嬉しかったけど……これなら、さっさと地下を目指してクターニッドに会いに行くべきか。
玲の話の通りだと、今の段階で地下に居るクターニッドは『妄想態』という攻撃してはいけない状態になっているそうだ。フェーズを進めるには城を探し回ってギミックを解く必要があるが、肝心の謎解き要素には今のところ出会えていない。
これは、封将と戦えなかったことと同様にシナリオの違いによる変化と見ても良さそうかな?もしかしたらそもそも地下に居ません……なんてこともあり得なくはないから困る。取り敢えず地下に降りて確認だけしてこようかな……?
「さて……情報通りなら、この先にクターニッドが鎮座しているはずだけど」
「いつも思うけどね、アンタ達開拓者はどうやって情報収集してるんだい?ここまで、ルルイアスについて知る機会なんて無かったはずだろうに」
「開拓者は寝てる間にも情報を集められるのさ」
「そういうものかい?」
そういうものなのだ。ゲームの世界観上「寝てる」ということになってるだけで、メタ的に見れば現実世界の方で色々と情報収集をして、それを反映させられるからね。
まぁ、そういうことをバカ正直に言ってもNPC相手だと「なんか変なこと言ってんなぁコイツ」と流されるだけなので言わなくて良い。ロールプレイという訳じゃないけど、世界観にちゃんと合わせてやるのもプレイヤーのマナーだと思う。
「この扉を開ければ……」
「遂に、ご対面だねぇ」
城の地下、上層の部屋と比べても一際大きな扉を開けて内部へ突入する。
事前の情報通りなら、ここは『妄想態』の鎖に繋がれたタコが出て来るとの事だが。実際に起きた現象は「足を踏み入れた瞬間に天地がひっくり返り上に向かって落ちていく」という、物理法則を丸っ切り無視した超常現象であった。
「うおお……!ヒステリア、私に掴まれ!」
「いきなりご挨拶だねぇ、深淵の!」
すかさずヒステリアを右手で捕まえ、左手で
また使い時があるはずなので、リキャストタイムを短く済ませるために直ぐに
「これは……ランダムエンカウンターか!そんな直ぐに来るもんじゃなかったはずだけど……!?」
天井に開いた黒い大きな穴が、触手を伸ばし魔法陣から湧いたモンスター達を喰らっていく。
確かこれは、最後から2番目のフェーズでのことだったはず……モンスターが食われるのを阻止して最終形態をできる限り弱らせるのが、このフェーズでのやるべきこと。
「ヒステリア、私のそばから離れるなよ!」
「おお、怖い怖い……言われなくとも!」
このフェーズだと、クターニッド自体は襲ってこないが呼び出されたモンスター達は構わずこちらは襲いかかってくる。ソイツらを倒し、クターニッドが狙っている奴を奪い、次のフェーズに移行するまで耐えなければならない……考えている内にかなり出遅れてしまっている、さっさと動いてクターニッドの食事タイムを阻止しなければ。
「勝手で悪いが、全部キャンセルさせて貰うよ!」
アモルパレントで斬っていく……が、
──ヒステリアの防御で手一杯!クターニッドの食事をまるで妨害できてない!
怨毒包丁込みでも、どうにかヒステリアに迫る魔の手を払えているという位でクターニッドの妨害はまるで上手くいっていない。このままでは本番がかなり厳しいものになってしまう……さて、どうしたものかと考えていると。
「……深海三強!またお前らか!」
「アレも食うつもりなのかい!?悪食だこと!」
一際大きな魔法陣から現れたのは、アトランティクス・レプノルカとアーコリウム・ハーミットの二体であった。まさかとは思うがアイツらを食われる前に倒せってのか?自爆まで含めればかなり長い間死に際にも肉体を残し続けるアイツらを?
──ソロプレイには無茶だって、それ!
「ヒステリア、私の背中に乗れ!」
「それで戦えるのかい?」
「やれるかじゃない、やるんだよ!」
「カッコいいことを言うねぇ!」
無茶でも何でも、やるしかないのだ。
変にウロチョロされては困るので、ヒステリアを背負って戦うことにする。体表が燃えているレプノルカに近付くことはできなくなるが仕方無い、全力を以てハーミットの方を倒そう。
──なるべく、早い時間で終わらせる!
アーコリウム・ハーミット相手に時間を掛け過ぎれば、大量の取り巻きを出されてジリ貧になってしまう上に、ソイツらまでもをクターニッドの糧にされ更に強化させてしまう。
なので求められるのは短期決戦、ハーミットがマトモに動き始める前に終わらせる。そのためにもスキルに出し惜しみをしてはならない。ゾンビの攻撃をジャスガで受け止め、ブレイクゲージも満タンまで貯められた……さぁ、始めよう。
怨毒包丁を己に突き刺し、怨毒を付与。一時的に刻傷を打ち消しエンチャントを可能にする。
ブレイクゲージを消費し、『子守火』を発動。黄金の炎を纏いステータスが強化される。
封虹の撃鉄・極を再起動。古き虹を纏って飛行能力と無分類の追加ダメージを得る。
加速スキル各種「ライオットアクセル」「リミットオーバー・アクセル」「ライジングアクセル」「フルスロットル」発動。使い捨てアクセサリー『
月の出ている夜にステータスを上昇させる「
「跳ぶよ、しっかり捕まってな!」
上方への機動力を強化する「遮那王憑き」「ハイアーザントップ」で跳躍。レプノルカを踏みつけて封翔の撃鉄の効果で二段ジャンプし更に上へ。魚共を捕食するべく伸ばされたクターニッドの触手をぶち抜きながら天井付近まで到達した。
「………………!!」
「ちゃんとこっち見とけよ、レプノルカ!」
更に、レプノルカを踏んだことで炎上ダメージを受け、スキル「血戦主義」が発動。現状のバフはこれが最大効率……ここから攻撃に転じる。
天井に着地、着地点に重力方向を変換する「グラビティゼロ」でハーミットに向け位置を微調整。そして天井を蹴り──思いっ切り飛び降りる!
「アッハッハ!こりゃ凄い速さだね……ッ!」
「喋んな、舌噛むぞ!」
発動するスキルは三つ……貫通力を強化する「一点突破」、摩擦熱による火属性の追加ダメージを発生させる「
「吹っ飛べ──「
本来は体術スキルのようだが、武器による攻撃でも補正はしっかりと得られる。
武器、スキル、アクセサリー、環境……利用できる全てを利用して放った特大の一撃は、アーコリウム・ハーミットの硬いヤドを穿ち抜き、その奥に隠された弱点までもを貫いた。
そのまま地面に激突……するのを、「
だが、まだ終わりではない。ハーミットは今の攻撃で命の終わりを感じ、自爆シークエンスに入るがそれも阻止する。そのために態々レプノルカを踏み台に使ってヘイトをこちらに向けたのだ。
「………………!!」
「そうだ、それでいい……さぁ、撃って来な!」
既にチャージを終え発射寸前になっている、レプノルカ必殺の二属性レーザー。それをハーミットを盾にして受ける。
「…………!!」
「っ……と。撃破完了」
無防備な状態で更なる大火力を受け、自爆する暇も無くアーコリウム・ハーミットは散った。奴の消滅後もまだレーザーの照射は続いているので、ジャストガードで防いで退避。
少なくとも、両方を食われてしまうということはこれで防げた。流石にここからレプノルカまで倒すだけの火力の確保は厳しいし、コイツは潔く喰わせてやるとしよう。
「………………!!」
「あの化物ですら、おやつにしかならんか……これがユニークモンスター、イカれた強さしてやがる」
レーザーを防がれた後も、レプノルカはもう一度照射を試みていたが。それを実行に移す前にクターニッドの触手に捕まり、抵抗も虚しく黒いヘドロのようなものに変換され取り込まれていった。
そしてここで、魔法陣が全て消えた。取り残されたモンスターをできる限り掃討し、なるべく喰われる数を減らして残数がゼロになり……天井の黒い穴が降り、地面に着くと共に形を造り出す。
──これが、クターニッド『想像態』……
身長5mはあろうかという巨体。長い首からは8本の触手が生え、その先端は8つの色違いの聖杯をそれぞれ握っている。
その腰に下げられたのは、色こそ青黒と違うものの見知った竜の彫られた刀。玲から事前に聞いていたクターニッドの能力を考えると、アレは恐らく私の【覇憧傑刀『擊竜』】のコピーなのだろう。いったいいつの間にコピーしたんだ、アレ?
『私は倶なる天を戴く者、私は深き淵より世界を見遣る者』
「喋った……」
『偉大なる奇跡の残照を知る者』
喋るんだ、コイツ……
『彼らの、彼女の願いは果たして叶ったのか』
「……」
『闘争こそが、命の本質故に』
「……ヒステリア、端の方まで離れてな」
クターニッドが刀を抜き、構える。それを見て私もヒステリアを降ろし、戦闘の余波を受けないよう遠くまで下げさせた。
『然れば、汝ら』
「いくぜ、クターニッド!」
『証明せよ』
「お前を倒して、私達は地上へ帰る!」
ヒステリアが十分に離れたのを確認してから、お互いが同時に斬り掛かる。
クターニッド『想像態』戦……ルルイアスに於ける最後の戦いが幕を開けた。
【
そのため、このシナリオでは『妄想態』は無し。
クリア報酬も、本来の物とは別物になる。