ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜   作:ナナシノ

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72:不倶戴天

 ──さて、どう戦っていこうか……?

 

 クターニッドと刃を打ち合いながら、この後の立ち回りについて思考を巡らせる。デカくて速いのでプレッシャーはかなりあるが、所詮は勝手知ったる私自身の立ち回り。対処しつつ別のことを考えられるだけの余裕はあるが、それも今だけだろう。

 何せ、8つある聖杯の効果はまだどれも発動していないのだから。どれか一つ発動しただけでも、こちらの立ち回りはかなり歪ませられる。何が起きたかをしっかりと把握して動かなければならない。

 

 ──それに、もう一つ……ッ!

 

「セルフで多対一を実現するか、やってくれる!」

 

 クターニッド本体だけを見ていれば、それを咎めるかのように天井から触手が降りてくる。タイミングも本数も速度も不規則で、パターン化するのはかなり厳しそうだ。

 天井の触手、クターニッドの刀、そして聖杯による法則の反転。それら全てに注意を払いながら戦わなければならない、面倒臭い相手。それが深淵のクターニッドというユニークモンスターであった。

 

『信ずる己を見出だせ』

「光った……これは、ステータス反転か!」

 

 光ったのは藍色の聖杯。アレの効果は確かステータスの反転と言っていたはず。ランダムで選ばれた二種類のステータスが入れ替わる……体感的には特に変わったようには感じないが、足下を掬われないためにも確認はしておかなければ。

 スキル「ストロングスラッシュ」でクターニッドの刀を弾き、触手の少ない方角へ避難。間髪入れずにメニューを開いてステータスを確認する。入れ替わったのは……STM(スタミナ)LUC(幸運)か。

 

 これは──外れの変化だ。LUCは100以上なら戦闘面ではあまり恩恵は無いし、クリティカルが出やすくなったことを加味しても、STMが減って動き難くなったマイナスの方が大きい。

 正直言って、私位素のステータスが高いと何が入れ替わっても誤差みたいなものだろうが。何にせよSTMが減ってしまったことは事実なので、スタミナ管理にはこれまで以上に気を配る必要がある。

 

「やっぱ聖杯は厄介だな……先に狙うか!」

 

 まずは聖杯の破壊を目指そう。最優先目標は物理攻撃を無効化する黄の聖杯と、近距離攻撃を無効化する赤の聖杯だ。その後に紫→藍→青→緑の優先度で狙っていこう。遠距離攻撃無効の橙と魔法攻撃無効の黄緑は無視して構わない。

 本体の動きは読めるし大した脅威にはならない、天井の触手も自機狙いの動きで一貫してるから動き出しを見ていれば避けるのは容易い。やはりそういう意味でもやはり聖杯から狙うべきだ。ただ一つ懸念点があるとすれば……

 

 ──アモルパレント、耐久保つかなぁ……

 

 ……ただ一つ、懸念点があるとすれば。それはアモルパレントの耐久力だ。

 この武器、ジャストガードによる攻撃完全無効化をメイン効果とするためなのか、武器自体の耐久力は然程高くないのだ。ジャスガ成功時は耐久減少を無効化できるのだが、失敗した時や普通に攻撃した時はしっかりと減る。

 

 シャンフロに於ける装備の耐久力は、複数の黒い四角を並べたメモリで表される。アモルパレントの場合はメモリが最大で6個あるが、現在のメモリは2個。既に半分を切ってしまっている。

 普段なら他の武器に乗り換えれば良いが、【英傑の試練】のせいで武器が固定されている今はそれが叶わない。武器を失えばそこからは素手での戦いを強いられることとなるのだ。試してないけど、多分怨毒包丁(ゴルド・リッパー)は効かないだろうし……

 

 ──ま、その時はその時だ!

 

 最悪、素手で戦う覚悟はしておこう。

 いつアモルパレントが壊れても覚悟できるよう、まだ大丈夫な内にできる限りダメージを与えておくのだ。

 

『信ずる己を見出だせ』

「そいつは……意味の無い聖杯だッ!」

 

 次に光ったのは橙の聖杯。遠距離攻撃のできない今の私には意味の無い反転なので、立ち回りに何ら不都合は生じない。

 この隙に攻勢を仕掛ける。聖杯を起動する瞬間は一瞬クターニッドが棒立ちするので、そのタイミングでスキルを使えば大ダメージを狙える。

 

 部位破壊をし易くする「ブロークン・シェル」と攻撃が確定クリティカルになり、レベルが高い程威力が上がる「女神は我が手の中にあり(コント・インシデンス・ファイト)」、更に突きの威力を単純に上げる「鋭結点睛」を発動。

 硬直の隙を突いた一撃を赤の聖杯に叩き込むが、大きくヒビが入ったものの破壊には至らなかった。クターニッドも動き出したが、ここで止まってはスキルを切った意味が無くなる。絶対に聖杯は破壊してみせる……そんな意気を込めて、距離を取ろうとするクターニッドに肉薄する。

 

「逃、が……さ、ん!」

 

 摺り足を駆使して地面を滑らかに移動するクターニッドを、その行き先を先読みして追う。私の動きのトレースなのだから、奴の動きを本家本元の私が追えないなんて道理は無い。寧ろ行き先を誘導して少しずつ袋小路へ追い詰めていく。

 

 ──こ、こ!

 

 壁際まで追い詰め、抜け出そうとする動きを足で咎める。そして阻まれたルートの逆を取ろうとする方向転換の瞬間に、「撃炸貫廻」を差し込んだ。

 強化された貫通力と、爆裂による追加ダメージが赤の聖杯を襲う。それでもタフなもので、中々砕けなかったが……スキルの効果終了間際、アモルパレントを振り切ると同時に赤の聖杯は砕け散った。破壊と同時に、クターニッドの身体がダメージエフェクトと共に大きくブルリと震える。

 

「まず、一つ……うおお、危なッ!」

 

 ──成る程、聖杯を失って空いた触手はそのまま武器として使えるのね!

 

 攻撃後の伸び切った背筋を戻す隙を襲う、壊れた赤の聖杯を手放した触手を紙一重で避ける。

 成る程、そういうギミック……聖杯を壊す程反転される事象が減り、天井の触手も少なくなるけど、代わりに空いた触手が自由になることで本体がどんどん厄介になっていくと。

 

 ここまでは、私のトレース相手だから本体の対処は他と比べてかなり楽な方だったのだが。触手がそれとはまた別に動いてくるのだとしたら話はかなり変わってくる。聖杯を壊す度に結構な速さと精度で動く触手が増えるのはかなり辛いぞ。

 つまり、クターニッドの攻略法は二つ。聖杯と天井からの攻撃をいなしつつ地道に本体にダメージを与えて倒すか、本体の強化というリスクを許容してでも聖杯を破壊してダメージボーナスを狙うか。勿論私が狙うのは後者だ。ちまちまやっていてはアモルパレントが保たないからね。

 

Reflexus(リフレクス)

「武器が変わった……!?」

 

 クターニッドが呪文を唱えると、奴の手に在る武器が変容し別の物に変わった。

 右手には短剣、左手には片手剣と言うには長く両手剣と言うには短い雑種の剣(バスタードソード)。今度は【輝晶剣ディアナ】と【輝晶剣アルテミス】のコピーか。

 

「ハァ……ッ!?」

 

 二刀流を警戒していると、クターニッドは後方へ大きくステップし私と距離を取る。そのまま二対の剣を合体させ、【輝晶弓ディア=ルミナス】へとその姿を変えさせる。

 

 ──おい!仕様どうなってんだ!?

 

 ディアナとアルテミスを合体させるには、それぞれでクリティカル攻撃と非クリティカル攻撃を積み重ねて合体ゲージを貯めなければならない……はずなのだが。クターニッドはそれを丸っ切り無視していきなり合体を実現させている。

 この分なら、奴のコピーは装備の細かい仕様はいくらか無視されると見た方が良さそうだ。そう言えば擊竜のコピーと撃ち合った時も、耐久減少を無効化した時の気持ち良いSEが鳴らなかったな……その時に気付くべきだったかちくしょうめ。

 

 ──ぐうう、退き撃ちが厄介過ぎる!

 

 追う私から一定の距離を保ちつつ、遠距離から矢をチクチクと刺してくるのが最高に鬱陶しい。

 ディア=ルミナスは『月女神の光矢(ルナティック・オーバーレイ)』を撃つ時位にしか使ったことないけど、順当に使えばこうも厄介になるんだなぁ……って!私はそんな使い方したこと無いのにやってくるのか!私のプレイスタイルのコピーという話は何処いったよ!?

 

「こんの……調子に、乗んな!」

 

 平面的な動きでは中々追い付けない。ジリ貧を防ぐためにリキャストの空けた封虹の撃鉄(オーロラトリガー)・極を起動して、空中も含めた立体的な起動でクターニッドを追っていく。

 上から、下から、右から、左から、的を絞らせぬよう縦横無尽に動きながら近付いていく。クターニッドの奴もちょこまかと動き回る相手に対して無闇矢鱈に矢を射たない分別は付くようだが、ならば狙いやすいように()()()()()()()じゃないか。

 

『………………!!』

「釣られたな」

 

 矢を射る瞬間、狙いを固定するために一瞬だけその場で足を止める。その隙を待っていた。

 すかさず「アドレナリン・マックス」を発動。このスキルは全ステータスにバフを掛けるが、戦闘時間が長くなるほどその効果が高くなる。既に仮想態から数えれば結構な時間が経っているし、バフの量もそれなりに上がっているぞ。

 

「さぁ……もう逃さんぞ!」

 

 アドレナリン・マックスで上がった速度で一気に距離を詰めていく。逃げ切れないと悟るや合体を解除して二刀流で応戦してきたが、その戦法なら私のプレイスタイルの内、対応できる。

 

 ──黄色の聖杯、壊させてもらうぜ!

 

 何度も言っているが、クターニッドを動かすのは勝手知ったる私のスタイル。触手という厄介なオプションこそ付いているものの、ちゃんと動きを意識の中に捉えていれば問題は無い。今は一本だけだから良いけど流石に増えたらキツいけどな。

 ディアナを弾き、アルテミスの突きを潜り、触手の叩きつけをジャストガードで無効化。アドレナリン・マックスが効いている内に、リキャストの空けた「撃炸貫廻」を撃ち込む……が。

 

「……成る程。そういうのもあんのな」

 

 黄色の聖杯を狙って放った一撃、回避も防御もできないタイミングを狙ったはずだったが。

 クターニッドはこれを橙の聖杯で受けた。遠距離攻撃無効という私相手には意味の無い聖杯、これを手放すことで黄色の聖杯を守りつつ触手を更に一本自由にするという妙手。NPCの癖にダメージコントロールが随分と上手いじゃないか。

 

「……っと、上もちゃんと見てないとな」

 

 天井から降り注ぐ触手をアモルパレントで受け、追撃を位置取りで回避。引き続き黄色の聖杯を狙うも今度は黄緑の聖杯を盾にして受けてくる。

 

『信ずる己を見出だせ』

「またか……!」

Reflexus(リフレクス)

「そっちもかよ!」

 

 聖杯の発動とトレース先の変更が、今回は同時にやってきた。

 発動したのは、さっきから散々守られている物理攻撃無効の黄色の聖杯。変更された武器は、クターニッドの身の丈程もある大剣……実物よりもだいぶデカいけど、恐らくは【震天の孤毒剣(ロンリー・ウェーバー)】だろう。

 

 ──まさか、ソニックブームだけならともかく『超過機構(イクシードチャージ)』まで使えるんじゃなかろうな……?

 

 だとしたらめちゃくちゃ面倒だぞ。ソニックブームぶん回しだけならさっきのディア=ルテミス乱射とそんなな変わらないけど、『賦活性(リベレト)』でバフを掛けられるのは面倒どころの話じゃない。対刃剣の合体を普通にやってたのを見るに、そういうのもできそうだし有り得ない話じゃな……

 

『──超過機構(イクシードチャージ)賦活性(リベレト)]』

「思ったそばからこれだよ!」

 

 ──ほーらやってきた!予想通りだこんちくしょうめが!

 

 ただでさえ物理攻撃無効化されてるのに、ステータスでまで水を開けられるのは勘弁してくれ。

 こんな時は耐久だ。黄色の聖杯が再発動して効果が切れるまでひたすらジャスガで耐える。できるかどうかで言えばできないことは無いと思う、これでも耐久面のステータスはだいぶ高いしね。

 

 ただ……いつまで耐えないといけないんだろうか。ここまで発動した聖杯は三つ、まだ発動していないのは四つ。これらが一つずつ発動した後で二周目に入るのだとしたら、最低でもあと四回分は聖杯による反転に耐えなければならない。

 その間攻撃せず防御に徹するとしても、ジャスガに失敗すれば攻撃を受けたアモルパレントの耐久は削れてしまう。それに成功させられたとしても孤毒剣には──

 

振動せよ(booming up)

「危っ……ぶないな、もう!」

 

 ──そう、これがある。

 

 振動せよ(booming up)の音声コードで起動する、孤毒剣の振動機構。

 振動による追加ダメージと部位破壊への補正を得るというものだが。理屈としては刃を細かに振動させることで、より深く刃を食い込ませ易くしているという感じだ。刃が常に細かく動いているから、『斬っている』という判定が継続してダメージが増える……そんな感じの機構である。

 

 何が最悪かって、『攻撃判定が振動機構が発動している間発生し続ける』ことだ。

 無限に発動する攻撃判定にジャスガを合わせる?できる訳ねぇだろんなもん。おかげで最初の一回をガードしたらすぐに離れないと、アモルパレントの耐久をガリガリ削られてしまうのだ。

 

『信ずる己を見出だせ』

「今度は……うおお!?」

 

 ひたすら耐えていると、次の聖杯が発動したかと思えば急激に視点と重心が変わり、支え切れずに体勢を崩してしまった。触って確認してみた訳ではないし、自分で自分の姿は鏡でも見てみないと分からないものだが断言できる。今回は青の聖杯……性別が変更されたのだ。

 こちらにできた大きな隙を見逃してくれるクターニッドではなく、孤毒剣は防ぐも触手を防げず殴り飛ばされてしまう。

 

 ──追撃ッ、封虹の撃鉄……ダメださっき解除したから今はリキャスト中……!

 

 そうだ「フリットフロート」を、そう思い至るには少々遅く、天井から降ってきた追撃の触手に叩き潰されHPが全損。すかさず「綺憶像失(ロストメモリー)」が発動して蘇生されるが、これでHPの回復が不可能になってしまった。

 回復ができなくなった、即ち『子守火(こもれび)』を実質使えなくなったということ。正確には死を前提にすれば使えないことはないが……蘇生時はHP最大で復活だったはずが、いつの間にか半分での復活になっているせいで発動しても2秒しか保たない。

 

 ──賦活性(リベレト)が解けてる……?

 

「言ってる場合じゃない、か……!」

 

 一度退がってスキルを確認、「鋭結点睛」や「ブロークン・シェル」が使えなくなっているのは痛いが概ね普段使いするやつは残っていた。これならまだ何とかなりそうだ。

 怨毒包丁を取り出し自身に突き刺す。そして子守火を点火してクターニッドに突撃する。物理攻撃は効かなくとも、エンチャント……魔法の効果である子守火の黄金の炎は通るはず。

 

 信じて突き進め。失敗しても残機はあと二つ残っているのだ、次に活かせば良い。大事なのは本当に死なないこと、ただそれだけ。

 AGIを倍加する封翔の撃鉄(ソニックトリガー)(ピュア)と.空気抵抗を軽減する竜追疾駆(ドラグーン・ダッシュ)を起動し走り抜く。狙いは勿論黄色の聖杯……クターニッドの方もその狙いは分かり切っているので当然迎撃に出る。

 

 だが。

 

「アクセサリーはコピーしない……なら、どんな効果があるかも知らないよなぁ!?」

 

 振り下ろされる孤毒剣、その両脇を埋めるように振るわれる触手、上から退路を断つように降り注ぐ天井の触手。一瞬にして袋小路の完成だが、その一瞬が成立する前に、私は一っ飛びでその包囲を抜け出していった。

 封翔の撃鉄の効果、『飛神翔来(ソニックムーブ)・純』はAGIの倍加だけでなく、スキル「フリットフロート」のような空中ジャンプを二度可能にする。一度目で包囲をすり抜け、二度目で再接近。「百閃の剣(ヘカトン・スラッシュ)」をしたいところだがそんな時間は無い、やはりここは安心と信頼の「撃炸貫廻」だ。

 

「ブッ……壊、れろォ!」

 

 スキルによるダメージ補正は無効化されるし、物理ダメージは一切入っていない。それでも貫通と爆裂の判定が出る度に子守火が弾け、魔法ダメージが入る。

 黄金の炎は黄色の聖杯を時間の限り溶かし、壊し……そして怨毒による二度目の死亡。その瞬間が来ると同時に、黄色の聖杯を粉々に砕いてみせたのであった。

 

「邪魔は排除できた……まだまだこっからだぜ!」




 クターニッドがヒステリアを狙わない(戦わないから)ので空気になっている
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