ただ一つのシャングリラ〜縛りゲーマー、一度きりの人生に挑まんとす〜 作:ナナシノ
「スキルは……よし!」
封じられたのは「断撃『破城斬』」や「ライジングピアス」をはじめとする攻撃スキルに、「リミットオーバー・アクセル」や「遮那王憑き」などの機動スキル。便利な奴らが軒並み封じられて使えなくなってしまっていた。
──けど、良いのも残ってる……!
手痛い封印スキルは多いものの、「撃炸貫廻」や「フォーミュラ・ドリフト」などのよく使うスキルだったり、クターニッド相手に有効になる「三寸蟲魂」などは残ったのは大きい。
まだ勝機は十分に残っている。そう思えるようになるだけでも、モチベーションには違いが出てくるというものだ。大丈夫、まだクターニッドをぶちのめして地上に戻る目処は立っている。
『信ずる己を見出だせ』
「うおっ……気持ち悪ッ……!」
世界の色が変わる。今度は色彩反転の聖杯が発動したようだ。
いきなり見える景色が変わったせいで、まるで世界が歪んだかのように見え方が変わってしまう。私は
酔う。
遊園地のコーヒーカップとか、悪路を走る車とかに乗った時のような世界が揺れる感覚。吐きそうとまではいかないが……早いとこ慣れないと強制ログアウトを食らってしまいそうだ。本体にダイレクトアタックを仕掛けてくるのは止めろや……
「慎重に……ゆっくりと動け……!」
この状態で激しく動けば、本当にゲームを続けられない程体調を悪くしてしまう。
しばらく時間を稼ぎさえすれば、この感覚にもいずれは慣れて動けるようになる。それまでひたすら耐久を続けるのだ。クターニッド戦、何かしらの理由で逃げ回ってばっかな気がするなぁ……
──色が変わってるせいで、床が見辛い……!
元々、装飾のせいで所々隙間だったり、段差や傾斜ができている足場。それが色彩反転の影響で見え辛くなったことで、形状自体は変わっていないにも関わらず把握が困難になる。
足の踏み場が分からない。歩いているはずなのにまるで宙に浮いているかのような不思議な感覚、地に足着かないとはこういうことなのだろう。
『
「またかよ……」
──今度は……槍と盾、か。
またクターニッドの装備が変わる。今度は右手に持った槍と左手に持った大盾……アレは【蛇槍『金剛牙』】と【怨蛇の大盾】だろう。
金剛牙の方はどうでも良いとして、厄介なのは盾の方だ。怨蛇の大盾の効果『雷蛇の毒牙』は盾で攻撃を防いだ時、放電してカウンターダメージを与えるというもの。
左手の盾を使わせないよう、時計回りに立ち回りイケるタイミングを見計らって聖杯に攻撃を刺す。特定の物を狙える程余裕が無いのがネックだが、そこはもう仕方ない。満遍なく攻撃ができていると良い方に考えていこう。
今残っている中で一番壊しておきたいのは、色々と面倒なことになる性別反転の青の聖杯、ここまでの苦労を台無しにしかねないダメージ反転の紫の聖杯辺りだろうか。色調反転の緑の聖杯も慣れたら無問題だけだできれば壊しておきたい。
「ッグウ、盾が邪魔過ぎる……!」
壊しておきたいのだけれど。盾に少しでも触れたらガードした判定になるせいで、反撃ダメージが飛んでくるので迂闊に攻撃に移れない。カス当たり位なら微々たるダメージで済むけども、チリも積もれば何とやら。次やられたらもうスキルも完全に使えなくなるし、慎重に、慎重に……
『信ずる己を見出だせ』
「紫ィ……ッ!」
反転した視覚にも少しずつ慣れてきて、一つの聖杯だけを狙える余裕ができてきた……ところで、紫の聖杯が発動しダメージが反転。これで決めるつもりで放った「撃炸貫廻」が、コツコツ積み上げた聖杯へのダメージを完全に無にしてしまった。
──クソァ!やられた!
いつまでも憤るな、思考を切り替えろ。
紫の聖杯の効果はダメージを回復に、逆に回復をダメージに変換するもの。つまり本来ならHP回復に使うポーションが、触れるだけでダメージとなるお手軽武器と化しているのだ。
ここまでで
──それと、試して……お、できた!
実験のためアモルパレントを自分に刺すと、約三割まで減っていたHPが半分辺りまで回復した。今は綺憶像失の影響で回復はできないはずだが、処理が違うのだろう。例えば、「本来受けるはずだったダメージを残りHPに置き換えている」とか。
これならイケる、自分にアモルパレントを刺しまくって全回復といきたかったが。クターニッドの奴が聖杯同士をぶつけ合わせて損傷を修復しようとしているのが見えてしまった。マズいマズい、自分の回復も大事だがアレも放置できない。自刃もそこそこに妨害に走る。
──ギミック破壊、優先!
子守火のためのポーションを、残り全て紫の聖杯に向けて投擲していく。これでもうこの戦闘中子守火を使える可能性は皆無となるが、今は回復自体不能だし問題無い。減ったHPも聖杯の作用のおかげで満タンまで戻ったしね。
ポーションをぶつけることに問題は無かった。あくまで紫の聖杯の主目的は傷付いた他の聖杯の修復やクターニッド自身の回復。奴もそれに気を取られて私の行動への警戒が疎かになるし、ポーションの回復量が多いおかげで手持ちでしっかり足りた。
「よし……ッ!」
紫の聖杯、破壊完了。効果が消える前に狙いを外して当たった他の聖杯にも、いくらかの傷を刻んでおくことができた。あと一・二押しくらいしてやれば壊せる範囲だろう。
破壊すべき聖杯はあと四つ。優先して狙うべきはどれかな……右手側にただ一つ残っている魔法攻撃無効の黄緑の聖杯か、ステータス反転の藍の聖杯、性別反転の青の聖杯、色調反転の緑の聖杯……この中でやられて一番辛いのは性別反転だ。
さっきは他の聖杯と相打ちになったことですぐに効果がリセットされたが、聖杯の効果で男になると女物の装備しか持っていない私には体格が変わって動き辛くなるだけでなく、装備のサイズが合わなくなるという不具合も生じる。
ただでさえ、回復ができず慎重さを求められる中でのそれはかなりキツい。考え事が増えると脳味噌のキャパシティを超えた時に致命的な綻びが起きてしまうし、そうなったら綺憶像失による蘇生も最後の一回を消費してしまう。
「やっぱり、次は青の聖杯だな……!」
『
行動に移ろうとすると、またしてもクターニッドの持つ武器が変わった。
あのシルエット、全身に纏わり付いた黄金の炎……間違い無くアモルパレントだ。今度はミラーマッチをご所望か。
──けど……
『
「やっぱり、そうくるかよ」
思っていた通り、刻傷の無いクターニッドは何ら制約無く子守火を扱うことができる。奴の体格に合わせて武器自体も相応に大きくなっているし、あちらの方が上位互換だと言えるだろう。
同じ武器に、より高いステータス。こちらのアドバンテージと言えば、封印されずに残った数少ないスキル群くらいしかない。私にできることはあの黄金の炎をどうにか掻い潜って、ひたすらに撃炸貫廻を差し込んでいくことくらいだ。
「速いな、クソ……ッ!」
しかし、撃炸貫廻を放つ隙が見つからない。
ただでさえクターニッドのステータスが高いのに、子守火のバフで更に上がっているせいでもう手の打ちようが無いレベルになっている。
私のと同じなら、子守火の効果時間は5分だ。せめてそれまでは耐えなければならないなら、バフスキルを出し惜しみしている場合ではない。
スキルによる強化は、残っているもの全ての効果時間を足しても5分なんて届かないが……それでもやらなければ死ぬだけだ。
袈裟斬りと触手を避け、「三寸蟲魂」発動。自分より体格の大きい相手と戦っている時、ステータスに大きくバフを掛けるスキルだ。
私とクターニッドの体格差は3倍近い、効果量はかなり多くなっているがそれでも子守火の1.5倍には遠く及ばない。何もしないより遥かにマシなのは確かだが、改めて考えると子守火のバフ効果ってめちゃくちゃ高いんだなぁ……
更に、「フォーミュラ・ドリフト」を合わせることで最低限の機動力を確保。素早さと小回りに関してはクターニッドを上回ることができる。
動き回って奴の空振りを誘い、できた隙に「撃炸貫廻」を刺すのが私の作戦だ。
クターニッドと触手の動きに注意を払い、聖杯が発動した時にすぐに合わせられるよう備える。奴の動きは余計なオプションが数多く付いているとは言えあくまで私のコピーだ、隙ができたらその時はすぐに察知できる……はず!
「……次!」
特に成果の出ないまま三寸蟲魂が時間切れ。すぐさま「アドレナリン・マックス」に切り替えて作戦を続行する。
こちらは発動時の戦闘経過時間が長い程、効果量が上がるバフスキル。今くらいの時間経過だと三寸蟲魂よりも効果量は小さいけど、僅かな差なのであまり気にする必要は無い。どうせクターニッド相手にゃあ数値では勝てないしね。
「……こ、こ、だあ!」
しかし、アドレナリン・マックスの効果時間も特に成果の出ないまま終わろうとしていた間際。
漸く動き回っていたことが功を奏し、私を追って刃を振るっていたクターニッドが体勢を崩した。これなら「撃炸貫廻」を放つのには十分──私はすかさずアモルパレントを突き立てた、のだが……
──マジかよ……!
体勢が崩れても、クターニッドの触手はそれとは関係無く自由に動き続ける。残っている中でも保持しておく意味の無い魔法無効の聖杯を盾として、奴は撃炸貫廻を受け切ったのだ。
「回避……ッ!」
間に合わない。
フォーミュラ・ドリフトはリキャスト待ち。撃炸貫廻を撃つために踏み込んでいた私に反撃を回避する術は無く……無慈悲にも綺憶像失による三度目の蘇生が始まった。
それだけでない。今の一連の流れで耐久値が限界を迎えたようで、遂にアモルパレントの刃が根元の方からへし折れてしまった。
幸いなのは、ユニークシナリオの影響かまだロストすることなく柄と僅かな刃が残っていること。スキルは全て消えてしまったし、回復アイテムも一切無い。それでもまだ戦う力は残っている。
命は続いている。
ならば、私はまだ戦える。
──最後まで諦めんぞ、私はなぁ!
「まだ終わってないぞ、こっからでもお前は──」
「ロンミンよ、まだ諦めていないようだねぇ」
殆ど虚勢のようなものだが、心を奮い立たせなければ萎えてやってられなくなる。その姿勢に何か感じ入るものでもあったのか、ここまでほぼ沈黙を貫いていたヒステリアが久し振りに喋り出した。
「どうした、いきなり──」
「凌ぎながら聴きなぁ。いくら虚勢を張っても殆ど素手だけの状態じゃあキツいだろう、本当はそんなつもり無かったんだけどねぇ……アンタのこれまでの奮戦に敬意を表して、少し手助けをしてやろうという気持ちになったのさあ」
「はぁ、手助け……!?」
「アタシは追憶の賢者・ヒステリア。その力は人や物の失われし記憶を呼び覚ます──さぁ味わいな、『
クターニッドの猛攻を凌ぎながらの会話、そして発動したヒステリアの魔法。
その瞬間、私のアバターが発する力が急激に増大し一歩の幅が想定していた以上に大きくなる。そのせいで体勢を崩しかけたが、どうにか踏み留まって距離を取りステータスを確認……すると、何とレベルが現在の最高値である150まで上がっていた。ステータスも本来のものを150まで均等に上げた時と同等のものにまで上がっている。
「これが『
「経験値……
「更にもう一つ……『
「……ッ!これは!」
どうやら、私が戦った中で最も取得経験値量の多かった相手……今回は"月下美神"戦の経験値がこの戦闘時限定でまた入ってきたようだ。
あの時よりも更に私のレベルは上がり難くなっているのにまたカンストまで上がるとは……アイツの経験値量ホントにヤバかったんだな。これが『追体験』の効果か。
そしてもう一つの魔法、『彼方への呼び掛け』の効果は私が失くしたスキルを一つこの戦闘時限定で再取得できるというもののようだ。
ベヒーモスでのリセットや、スキル剪定による切り捨てなどで手放したスキルは色々とあるが。今回再取得できたのは、その中でも現状に対して最も都合の良いスキル──「
──これなら……!
しかし、楽観視はできない。月光の届かないルルイアスでは「月下美人」があっても、ムーンゲージの使用後のリチャージができないからだ。
ならば、どう使うべきか。そんなのはこのスキルが復活した時点でもう決めてある。レベルとステータスが上がったことで、『
「切札を切る時が遂に来た……ってことだな!」
躊躇い無く月華爛漫を発動。今は武器の変更はできないけど防具は問題無く変えられる、素早く画面を操作して
それは、装備条件に『LV:130』『HP:6000』『MP:1500』『STM:1000』『STR:500』『DEX:500』『TEC:500』『LUC:800』というバカみたいに高いステータスを要求するが、それだけのぶっ壊れた力を持つ一式装備。
私の初期装備である旅人一式をベースに、"月華美神"や"
「『
「おお、格好良くなったじゃないかい!」
反撃開始と、いこうじゃないか。
「